チェビシェフの多項式

作成日 : 2013-09-07
最終更新日 :

なんとなくそそられるチェビシェフの多項式

パフヌーティー・リヴォーヴィッチ・チェビシェフ (Пафну́тий Льво́вич Чебышёв) はロシアの数学者である。 彼の名前は主に確率論の分野で知られていて、特にチェビシェフの不等式は有名である。 チェビシェフは確率の性質を研究する過程で、大きな副産物を残した (リンク8参照の「さらなる性質」参照)。 これがチェビシェフの多項式である。以下、「の」を省いてチェビシェフ多項式と呼ぶ。 チェビシェフ多項式には興味深い性質が多くあるので、少しずつ探っていこう。

余弦関数とチェビシェフ多項式

チェビシェフ多項式はさまざまな定義がある。 高校数学の範囲でもっとも多いのは、余弦関数 `cos theta` を使う定義であろう。

`cos theta` の倍角公式や3倍角公式と呼ばれている等式がある。 この等式は、`cos 2 theta` が `cos theta` の 2 次式に、 `cos 3 theta` が `cos theta` の3 次式になっている特徴がある。 この特徴は `n` 倍角にもあてはまるだろうか、というのが発端である。

答からいえば、一般に`cos n theta` は、`cos theta` の `n` 次の多項式として表されることが証明できる。 このときの多項式 `T_n(x) (n >= 0) `を `n` 次の(第1種)チェビシェフ多項式と呼ぶ。 (第1種)とカッコでくくっているのは、チェビシェフ多項式には同じ多項式でも複数の種類があるからで、 この`T_n(x)`を他の種類と区別するときは第1種のチェビシェフ多項式と呼ぶ。 単にチェビシェフ多項式と呼ぶときは、通常第1種を指す。 他の種類、たとえば第2種のチェビシェフ多項式については後述する。

なお、第1種のチェビシェフ多項式は通常 `T` を使う。チェビシェフのラテン文字表記は、 Chebyshev のほか TchebycheffTschebyscheff などもあるので、 こちらの頭文字の T を使った、 と思えばいいだろう。

漸化式

`n` が 0 を含む自然数のとき、 `cos n theta` を `cos theta` による多項式でどのように表現できるか、 計算しよう。

`cos 0 theta`
`= 1`
`cos 1 theta`
`= cos theta`
`cos 2 theta`
`=cos (theta + theta )`
`= cos^2 theta - sin^2 theta`
`=2 cos^2 theta - 1`

なるほど、`cos 2 theta` が `cos theta` の 2 次式で書けることは、 加法定理の応用でわかる。`cos 3 theta` 以降はどうだろうか。

`cos 3 theta`
`= cos (2theta + theta)`
` = cos 2theta cos theta - sin 2theta sin theta`
` = (cos theta) {(2 cos^2 theta - 1) - 2 sin^2 theta}`
` = (cos theta) {(2 cos^2 theta - 1) - 2 (1 - cos^2 theta)}`
` = (cos theta) (4 cos^2 theta - 3)`
`cos 4 theta`
`= cos (2theta + 2theta ) `
`= 2 cos^2 2 theta - 1`
` = 2 ( 2 cos^2 theta - 1)^2 -1`
` = 8 cos^4 theta - 8 cos^2 theta + 1`
`cos 5 theta`
`=cos (4theta + theta )`
`= cos 4 theta cos theta - sin 4 theta sin theta`
`= (8 cos^4 theta - 8 cos^2 theta + 1)cos theta - 2 sin 2 theta cos 2 theta sin theta`
`= cos theta {(8 cos^4 theta - 8 cos^2 theta + 1) - 4 (1-cos^2 theta) (2 cos^2 theta - 1)}`
`= cos theta (16 cos^4 theta - 20 cos^2 theta + 5)`

`cos 3 theta` 以上でも、加法定理と `sin^2 theta + cos^2 theta = 1` の関係を何度も使えば、`cos 5 theta` まではすべて `cos theta` の多項式で表現できた。 こうなると一般の `cos n theta` も`cos theta` の `n` 次多項式で表せることが証明できそうな気がする。

命題1

`cos n theta` は `cos theta` の `n` 次多項式であらわされる`( n = 1, 2, ..., )`。 なお、この多項式を以下 `T_n(x)` と書く。また、`T_n(x)` はただ一つ存在する。

命題1の証明

数学的帰納法で証明する。
`cos 1 theta` は当然 `cos theta` であるから`T_1(x) = x`、また上記で見たように `cos 2 theta = 2cos^2 theta - 1 ` だから `T_2(x) = 2x^2 - 1` 。 よって、`n = 1 と n = 2` のときは上記の命題1は正しい。
`n = k` と `n = k - 1` (`k = 2, 3, ... `) のとき正しいと仮定する。
三角関数の加法定理から、次の式が成り立つ :

`cos (k + 1) theta `
`= cos k theta cos theta - sin k theta sin theta`。
同様に、次の式も成り立つ :
`cos (k - 1) theta `
`= cos k theta cos theta + sin k theta sin theta`。
辺々加えて移項すると次の式が得られる :
`cos (k + 1) theta `
`= 2 cos k theta cos theta - cos (k - 1) theta`。
この式の右辺は `cos theta` の多項式の和であるから左辺も `cos theta` の多項式である。 よって、`cos ntheta` は `cos theta` の多項式として表せる方法が少なくとも1通りはあることが証明された。

一意性は次のように言える。仮に `cos ntheta`を `cos theta` の多項式で表す方法が2通りあるとする。 それらを`T_n(x),hat T_n(x)`とおく。 `P(x)=T_n(x)- hat T_n(x)`とすると, `P(cos theta)= 0` だから `-1 <= x <= 1` となるすべての `x` に対して `P(x) =0` 。
ここで `P(x)`は`n`次以下の多項式だから, 恒等的に `P(x)=0`となり,すなわち`T_n(x)=hat T_n(x)`が成り立つ。

なお, ここで次の事実を用いている。

`n` 次以下の整式 `P(x)` が異なる `n+1` 個の値 `t` に対して `P(t)=0` ならば恒等的に `P(x)=0`

この事実を説明するには,`P(x)` が恒等的に `0` ではないとすると 多項式 `P(x)` の根は `n` 個以下の解しかもたないことを用いればよい。

ひとりごと1

`cos (k + 1) theta`
`=cos k theta cos theta - sin k theta sin theta`
という式の右辺を見て、右辺に `sin k theta` が出てきてしまった、どうしようか、と悩んだ。 少し考えて、`cos (k - 1) theta` にも加法定理を適用した式も出して、 二つの式を加えれば `sin k theta` の項が消える、 ということに気づき、感動してしまった。

なお、`T_n(x)` は、`x in [-1, 1]` のとき次のように書ける。

`T_n(x)=cos(n cos^(-1) x)`

なぜなら、`T_n(cos theta) = cos n theta` であり、 `x = cos theta` であるから `theta = cos^-1 x` である。これを前の式に代入して、 `T_n(x) = cos (n cos^-1 x)` が得られる。

このチェビシェフ多項式のページを書き始めたのは、2013年9月である。 2013 年 7 月から 9 月まで、大人気を博した「半沢直樹」というドラマがあった。 このドラマでは、タイトルロールの主人公が理不尽な仕打ちをうけたとき、主人公が 「やられたらやりかえす、倍返しだ!」と言い返す場面が有名になり、 この「倍返し」ということばが流行していた。全然関係ないが、 チェビシェフの多項式なら `n` 倍返しができる。

命題2

命題1の `n` 次多項式 `T_n(x)` は次の漸化式を満たす。

`T_(n+2) (x)`
`=2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)`

命題2の証明

命題1の証明の通り。

なお、`T_n(x)` を `n` の小さい順から具体的に示す。`T_0(x)`から `T_4(x)` までは最初の漸化式の `cos theta` による式を書き換えただけである。

`T_0 (x)`
`=1`
`T_1 (x)`
`=x`
`T_2 (x)`
`=2x^2-1`
`T_3 (x)`
`=4x^3-3x`
`T_4 (x)`
`=8x^4-8x^2+1`
`T_5 (x)`
`=16x^5-20x^3+5x`

チェビシェフ多項式の係数

上記チェビシェフ多項式の係数を JavaScript を使ってもとめてみた。 チェビシェフ多項式のページにある。

チェビシェフ多項式のグラフ

上記のグラフを色分けした。 橙 : `T_1(x)`、赤 : `T_2(x)`、紫 : `T_3(x)`、緑 : `T_4(x)`、青 : `T_5(x)` である。 すべてが `x in [-1,1]` で `f_n(x) in [-1,1]` となっているようすがわかる。

ひとりごと2

この漸化式は、関数 `T_n(x)` の定義域 `x` については何も言っていない。 当初の定義は `cos theta` で表される多項式だったから、`x in [-1,1]` となる実数である。 では、これ以外の実数ではどうなのか、ということが気になる人がいるだろう。 その場合も含めた式の表現は、次のようになる。

`T_n(x) = {(cos(n cos^(-1)x), if abs(x) <= 1), (cosh(n cosh^(-1)x),if x >= 1), ((-1)^n cosh(n cosh^(-1) (-x)),if x <= -1):}`

一般には、定数 `T_0(x)` と 1次式`T_1(x)` を定めたうえで、 `T_n(x)` を上記の漸化式で定める。`x` の範囲は実数である。 第1種のチェビシェフ関数では、`T_0(x)` = 1, `T_1(x) = x`である。

命題3

`T_n(x)` は次の式を満たす。

`T_n (-x) = (-1) ^ n T_n(x)`

命題3の証明

命題3を言い換えると、命題3’ 「`n` が偶数なら `T_n(x)` が偶関数であり、 `n` が奇数なら `T_n(x)` が奇関数である」ことをいっている。この言い換えを証明する。 `T_1(x)` は奇関数であり、`T_2(x)` が偶関数であることは定義より明らか。
以下一般の `n` のとき数学的帰納法で証明する。
`n + 2` が偶数のとき、`T_(n+1)(x)` は奇関数であり、`T_n(x)` は偶関数だから

`T_(n+2) (-x)`
`=2(-x) T_(n+1)(-x) - T_n(-x)`
`=2x T_(n+1) x - T_n(x)`
`=T_(n+2)(x)`
となり、 `T_(n+2) (-x) = T_(n+2)(x)` であるから偶関数である。

`n` が奇数のとき、`T_(n+1)(x)` は偶関数、`T_n(x)` は奇関数だから

`T_(n+2) (-x)`
`=2(-x) T_(n+1)(-x) - T_n(-x)`
`=-2x T_(n+1) (x) + T_n(x)`
`= - T_(n+2)(x)`
よって `T_(n+2) (-x) = - T_(n+2)(x)` となり、奇関数である。

ひとりごと3

わざわざ数学的帰納法を使わなくても、また偶奇数で場合分けしなくてもよさそうだが、 これが一番確実だろう。

命題4

`T_n(x)` の係数については次が成り立つ。

  1. 定数項は、 `n` が偶数なら `(-1)^(n/2)` 、`n` が奇数なら 0  
  2. 1 次の係数は、`n` が偶数なら 0、`n` が奇数なら `(-1)^((n-1)/2) n`
  3. 2 次の係数は、`n` が偶数なら `(-1)^(n/2 - 1) n^2/2` 、`n` が奇数なら 0  
  4. `n` 次の係数は `2^(n-1)`

命題4の証明

数学的帰納法を使う。なお、` T_0(x)=1,T_1(x)=x` は既知とする。

定数項

`n` が奇数のとき `T_n(x)` は奇関数だから定数項はゼロ。 `n` が偶数のとき `T_(n+2) (x) = 2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)` だから、`T_(n+2) (x)` の定数項は絶対値が1で、符号は`T_n(x)`の定数項の反対となる。 `n = 2` のとき定数項は -1 だから、一般の `n` の定数項は `(-1)^(n/2)` となる。

1次の係数

省略

2次の係数

省略

`n`次の係数

`T_(n+2) (x) = 2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)` から、`k + 1` 次の係数は `k` 次の係数の 2 倍である。 `T_1(x) = x` だから 1 次の係数は 1 である。以上から、 `n` 次の係数は `2^(n-1)`となる。

ひとりごと4

奇数と偶数を分けるのが面倒になってしまった。


第1種と第2種

チェビシェフの多項式は `cos ntheta ` を `cos theta` の多項式として表すことから生まれた。 では、`sin theta` に関してはどうだろうか。同じことができるだろうか。 たとえば、`sin n theta` を `sin theta` だけの多項式とか、`cos theta` だけの多項式とかで表せるかどうか、 ということだ。結論としてはできないが、それに似たことはできる。

命題5

`n` を1以上の自然数とする。 `sin(n theta) ` は `cos theta` の`n-1`次の多項式と `sin theta` の積であらわせる。

命題5の証明

以下、命題5の `cos theta` の `k-1` 次多項式を `U_k(x)` と記す(`k ge 1`)。 この `U_k(x)` は第2種のチェビシェフ多項式と呼ばれる。

`n = 1` のとき、`U_1(x) = 1` とすればよい。

`n = 2` のとき、

`sin 2 theta = 2 sin theta cos theta`

つまり、`2 cos theta` と `sin theta` の積であらわせる。`U_2(x) = 2x`

`n = k-1 と n = k` のとき、題意がなり立っていると仮定する。 `sin (k+1) theta` が `cos theta` の `n` 次多項式と `cos theta` の積で表せることを示す。 加法定理より次の2式が得られる :

` sin (k+1) theta = sin k theta cos theta + cos k theta sin theta `
` sin (k-1) theta = sin k theta cos theta - cos k theta sin theta `

辺々加えて

` sin (k+1) theta + sin (k-1) theta = 2 sin k theta cos theta`

移項して

`sin (k+1) theta`
` = 2 sin k theta cos theta - sin (k - 1) theta`
` = 2 U_k(cos theta) * sin theta * cos theta - U_(k-1)(cos theta) * sin theta`
`= {2 U_k(cos theta) * cos theta - U_(k - 1)(cos theta) } sin theta`

{} 内は `cos theta` の `n` 次多項式だから、証明された。
なお、 `U_k(x) = 2x U_(k-1) (x) - U_(k-2) (x)`
となり、`U_k(x)` も `T_k(x)` と同じ漸化式を満たす。

ひとりごと5

第2種のチェビシェフ多項式 `U_n(x)` の漸化式は、第1種のそれ `T_n(x)` と全く同じなのは面白い。 両者は `n = 0` と `n = 1` の初期値が違うだけである。 なお、第2種の多項式に `U` の字を用いられることが多いのは、`T` の次が `U` だったからだろう。

命題6

第1種のチェビシェフ多項式`T_n(x)`と第2種のチェビシェフ多項式`U_n(x)` の間には、 次の関係が成り立つ。

`T_n^′(x) = n U_n(x)`

命題6の証明

`T_n(cos theta) = cos n theta` を `theta` で微分すると、

`- sin theta T_n^′(cos theta) = - n sin n theta`

ここで `sin n theta = sin theta S_n (cos theta) ` であるから、

`sin theta T_n^′(cos theta) = n sin theta S_n (cos theta)`

`sin theta != 0` のとき、両辺を `sin theta` で割れば与えられた式が得られる。 `sin theta = 0` であっても与えられた式は成り立っている。

ひとりごと6

`U_n(x)` を具体的に書き出してみよう。

`U_1(x)`
` = 1`
`U_2(x)`
` = 2x`
`U_3(x)`
`= 4x^2 - 1`
`U_4(x)`
`= 8x^3 - 4x`
`U_5(x)`
`= 16x^4 - 12x^2 + 1`
`U_6(x)`
`= 32x^5 - 32x^3 + 6x`

なお、`U_n(x)` の定義にはゆれがある。`U_0(x) = 1, U_1(x)=2x, ...` で始める流儀もある。 これは、`n` 次の多項式の最高次数を `n` にするためである。 また、`sqrt(1-x^2) U_n(x)` を 第2種のチェビシェフ多項式とする流儀もある (リンク[3]参照)。

厳密な定義が特徴の数学でも、このように揺れがある。 ましてほかの学問では、同じことばでも複数の定義があることは多いだろう。


直交性

`T_n(x)` と `T_m(x)` の直交性を調べよう。

命題7

`T_n(x)` は次の関係を満たす :

`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) = int_0^pi cos m theta cos n theta d theta = {(0, m != n),(pi, m = n = 0),(pi/2, m = n >=1):}`

命題7の証明

まず次の関係式を証明する :

`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) = int_0^pi cos m theta cos n theta d theta `

`x = cos theta` と置換する。定義1より、

`T_n(x) = T_n(cos theta) = cos n theta`
`T_m(x) = T_m(cos theta) = cos m theta `

である。 また、`x` の置換式から、`x` が -1 から 1 まで変化すると `theta` は `pi` から 0 まで変化する。そして

`dx/(d theta) = -sin theta -> dx = -sin theta d theta`

が成り立つ。以上から、

`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) = int_pi^0 cos (m theta) cos (n theta) (- sin theta)/ (sin theta) d theta `
= `int_0^pi cos m theta cos n theta d theta `

`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) `
`=int_pi^0 cos (m theta) cos (n theta) (- sin theta)/ (sin theta) d theta`
`=int_0^pi cos m theta cos n theta d theta `

`m` と `n` の値によって場合分けする。
`m = n = 0` のとき、被積分関数は定数 1 となるので、値 `pi` を取ることは自明。
`m = n >= 1 ` のとき、

`int_0^pi cos^2 m theta d theta`
`= 1/2 int_0^pi (cos 2m theta + 1) d theta`
`= 1/2 [1/(2m) sin 2m theta + theta]_0^pi`
`= pi/2`

`m != n` のとき、

`int_0^pi cos (m theta) cos (n theta) d theta`
`= 1 / 2 int_0^pi {cos (m + n) theta + cos (m - n) theta} d theta`
`= 1/(2(m+n))[sin(m+n)theta]_0^pi + 1/(2(m-n))[sin(m-n)theta]_0^pi`
`= 0`

(証明終わり)

以上をまとめて、`T_n(x)` は区間 [-1,1] 上の重み `1 / (sqrt(1-x^2))`の直交関数系を成している、という。

ひとりごと7

これから、正規直交性や関数空間についての話が広がる。正規直交性を満たすためには、 あらかじめ係数を正規性を満たすように、 すなわち適当な係数 `alpha` を掛けたチェビシェフ多項式 `tilde(T)_n(x) = alpha T_n(x)` に対して、

`int_-1^1 1 / (sqrt(1-x^2)) tilde(T)_m(x) tilde(T)_n(x) dx = delta_(mn)`

となるような `alpha` を定め規格化しなければならない。しかし、チェビシェフ多項式に関してはあまり規格化は行わないようだ。 `m = n` となる場合でも `m, n` が 0 となる場合と 1 以上となる場合で係数が違うからだろうか。

係数の不定性を解消するもう一つの方法は、モニック多項式、すなわち最高次の係数が 1 の多項式を選ぶ、というものである。 チェビシェフ多項式の場合はむしろこちらがふつうであろう。


母関数

母関数(generating fucntion)あるいは生成関数とは、 数列などの有用な情報を内部に持つ、形式的ベキ級数をいう。

命題8

チェビシェフ多項式`T_n(x)`の母関数を与える式は次の通り :

`sum_(n=0)^oo T_n (x) t^n = (1-tx) / (1 - 2tx + t^2)`

命題8の証明

複素数 `z` の実部を `Re(z)` で表す。

`sum_(t=0)^oo t^n cos(n theta)`
`= Re(sum_(n=0)^oo t^n e^(i n theta))`
`= Re (1 / (1 - t e^(i theta))) `
`= 1/2(1/(1 - t e^(-i theta)) + 1/(1 - t e^(i theta)))`
`= 1/2 (1 - t e^(-i theta) + 1 - t e^(i theta)) / abs(1 - t e^(i theta))^2`
`= (1 - t cos theta) / (1 - 2 t cos theta + t^2)`

よって母関数の式が証明された。

ひとりごと8

まず、母関数の取り扱い方を学ばないといけない。

(この項つづく)


ミニマックス原理

チェビシェフ多項式がもつ性質として有名なミニマックス原理を調べる。

命題9

`T_n(x)` = 0 の解 `alpha` は全部で `n` 個あり、次の式で表される :

`alpha = cos (2k + 1)/(2n) pi quad (k = 0, ..., n - 1` )。

命題9の証明

`alpha in [-1, 1]` で考える。すると `alpha = cos theta` とおけるので、 `T_n(alpha) = 0 ` と `cos n theta = 0` は同値である。よって、`k` を整数とすると、

`n theta = (2k + 1)/2 pi `

`:.theta = (2k + 1)/(2n) pi`

ここで、`k = 0, ..., n - 1` とすると、

`alpha = cos {:(2k + 1)/(2n):} pi`

となる `alpha` に対してはすべて `T_n(alpha)` となる。 一方、`T_n(x)` は `n` 次の多項式であるから、`T_n(x) = 0` には高々 `n` 個の解しかないので、 `T_n(x) = 0 ` の解は上記の式ですべて尽くされている。よって証明された。

ひとりごと9

`T_n(x) = 0` の解は、区間(-1,1)に規則的に分布していることがわかる。 `n` が特別な値であれば、四則と根号で解を表すことができる。
`n = 1` のとき、`x = 0 `
`n = 2` のとき、`x = +-sqrt(2)/2`
`n = 3` のとき、`x = +-sqrt(3)/2 , 0`
`n = 4` のとき、`x = +- sqrt(2 +- sqrt(2))/2 ` (複号任意)
`n = 5` のとき、`x = +- sqrt(10 +- 2 sqrt(5)) / 4, 0` (複号任意)


命題10

`T_n′(x) = 0` の解は全部で `n - 1` 個あり、 それらは `cos{:k/n pi:} (k = 1, 2, ..., n - 1) ` で表される。

命題10の証明

`x in [-1,1]` では `T_n(x) = T_n(cos theta) ` とおける。

`T_n(cos theta) = cos n theta`

の両辺を `theta` で微分すると、

`sin theta T_n′(cos theta) = n sin n theta`

`T_n′(x) = 0` であるから、右辺も 0 。右辺 = 0 になるためには、 `sin n theta` が0であることが必要。よって、`k` を整数として、


`n theta = k pi`

`:. theta = k/n pi`

ここで、もとの式に以上の結果を代入して、

`sin {:k/n pi:} T_n′(cos {:k/n pi:} ) = 0`

ここで `k = 1, ..., n-1` に対して、`sin {:k/n pi:}` はすべて非ゼロであり、 したがって、`cos {:k/n pi:} = 0` である。このとき、`k/n pi (k = 1, ..., n - 1)` はすべて異なる値を取る。 `T_n′(x)` は `n - 1` 次式であるから、 したがって `cos {:k/n pi:} (k = 1, ..., n - 1)` は、 方程式 `T_n′(x) = 0` のすべての解である。(証明終わり)

ひとりごと10

`x in [-1,1]` では、`T_n(x)` のグラフは三角関数のようにみえる。 さて、これからどうなるか。


命題11

`n` 次のモニック多項式`f_n(x) = x^n + p_1x^(n-1) + ... + p_n` の `-1 <= x <=1` における最大偏位を `d` とすると `d >= 1 / (2^(n - 1))` である。 等号は、`f_n(x) = 1/ 2^(n-1)T_n(x) ` のときに成立し、かつそのときに限る。 ここで、ある区間において、関数 `f(x)` から作られる絶対値関数 `abs(f(x))` の最大値を、 この区間における関数`f(x)` の最大偏位という。 また、`n`次多項式で、最高次、すなわち`x^n` の項の係数が 1 である多項式をモニック多項式という。

命題11の証明

まず、命題9と命題10から言えることを確認する。 `T_n´(x) = 0` の解を大きい順に `x_1 gt x_2 gt ... gt x_(n-1)` と並べると、 隣同士の `x_i` については `T_n(x_i) ` の符号が交代する。 すなわち、`T_n(x_i) * T_n(x_(i+1)) lt 0` 。また、`T_n(1) = 1`、 `T_n(-1) = (-1)^n` であることを改めて確認する。

さて、命題11を背理法で証明する。 `-1 le x le 1` において、`d = abs(f(x)) < 1 / 2^(n-1)` と仮定すると矛盾が起きることを示す。
`F(x) = f(x) - 1/2^(n-1) T_n(x)`
とおくと、さきほどの確認と `d` に関する仮定から次の不等式が成り立つ :

`F(1) < 0, F(x_1) > 0, F(x_2) < 0, ... F(-1) ≶ 0`


`F(x)` は 1 から -1 までの区間に `n+1` 個の点で符号が入れ替わる。 ただし、`F(-1)`は`n`が偶数のときに 0 より小さく、`n` が奇数のときに 0 より大きい。
これは、方程式 `F(x)=0` が 区間 [-1, 1] で n 個以上の解をもつことを意味する。 ところが、`F(x)` は`n-1`次の多項式であるから、`F(x)-=0` でなければならない。つまり、

`f_n(x) = 1/2^(n-1) T_n(x)`

である。一方、この `f_n(x)` の最大偏位は `1/2^(n-1)` である。 ところがこれは先の仮定 `abs(f_n(x)) < 1 / 2^(n-1)` と矛盾する。よって、 `-1 <= x <=1` において、`d = abs(f(x)) >= 1 / 2^(n-1)` であり、最大偏位 `d` は `1 / 2^(n-1)` 以上となる。

次に、`f(x)`の `1 <= x <=1` における最大偏位が`1/2^(n-1)` であれば、 `f(x) = 1 / 2^(n-1) T_n(x)` に限られることを示す。これは、 リンク[8]の<さらなる性質>を参照してほしい。


命題12

区間[-1,1]上で、`f(x) = x^(n+1)` に対する `n` 次の最良近似モニック多項式は `1 / 2^n T_(n+1)(x) ` であり、 最大偏位は `2^(-n)` である。ここで `f(x)` に関して `g(x)` が `n` 次の最良近似モニック多項式とは、 区間 `[-1, 1]` 内の `abs(f(x) - g(x))` の最大値が最小になるような `g(x)` のことをいう。

命題12の証明

文献3の pp.12-13 を参照。

ひとりごと12

大学生のとき、この問題を特殊化した問題が出された。`f(x) = x^3` を [-1,1] の範囲で、 `x` の 2 次式以下の多項式で最良近似せよ、という問題だったと思う。 しかし、手も足も出なかった覚えがある。 今これだけチェビシェフ多項式のことを書いているのは、このときのトラウマなのだろう。


微分方程式

命題13

`abs(x) <=1` における `T_n(x)`、すなわち `y = T_n(x) = cos(n cos^(-1) x)` は次の微分方程式を満たす。

`(1-x^2)y''-xy'+n^2y=0`

命題13の証明

`y = cos(n cos^(-1) x)` の両辺を `x` で2回微分する。

`dy/(dx) = -n (d/(dx) cos^(-1) x) sin (n cos^(-1) x) = n / sqrt(1 - x^2) sin (n cos^(-1) x)`

`(d^2y)/(dx^2) = ( n / sqrt(1 - x^2))^' sin (n cos^(-1) x) + ( n / sqrt(1 - x^2)) (sin (n cos^(-1) x))' = (nx)/((1-x^2)sqrt(1-x^2)) sin(n cos^(-1) x) - n^2/(1-x^2) cos (n cos^(-1) x)`

与えられた微分方程式の左辺を計算する。
`cos(n cos^(-1) x)` の項は次の通り。

`-n^2 cos(n cos^(-1) x) + n^2 cos(n cos^(-1) x)`

これは明らかにゼロである。 `sin(n cos^(-1) x)` の項は次の通り。

`(nx) / sqrt(1-x^2) sin(n cos^(-1) x) - (nx) / sqrt(1 - x^2) sin (n cos^(-1) x)`

これも明らかにゼロである。よって、与えられた微分方程式が成り立つ。

命題13の別証明

`y = T_n(x) = cos n theta` の辺々を2回微分することにより、次の式が得られる。
`y'' = (-n sin( n theta)) ' = -n^2 cos(n theta)`

よって、`T_n(x)` は次の微分方程式
`y'' + n^2 y = 0`
の解の一つである。
一方、`x = cos theta` とおくと、次の式が成り立つ。
`d / (d theta) = (dx) / (d theta) (d) / (dx) = -sin theta (d) / (dx)`
よって、

`d^2 / (d theta^2)`` = (dx) / (d theta) (d) / (dx) ((dx)/(d theta) (d) / (dx))`
` = - sin theta (d) / (dx) ( -sin theta (d)/(dx))`
` = sin^2 theta (d^2) / (dx^2) - sin theta ((d)/(dx) sin theta) d / (dx) `

ここで、右辺の第1項に `sin^2 theta = 1 - cos^2 theta = 1 - x^2` を用い、 右辺の第2項には、`sin theta = sqrt(1 - x^2)` より得られる `(d)/(dx) sin theta = (d)/(dx) sqrt (1 - x^2) = x / sqrt(1 - x^2)` を用いて、
`d^2 / (d theta^2) = (1 - x^2) (d^2) / (dx^2) - x (d)/(dx)`
が得られる。よって、
`(1 - x^n) T_n(x)'' - x T_n(x) + n^2 T_n(x) = 0`
(証明了)

ひとりごと13

最初は漸化式から証明しようとしたが途中であきらめた。 そこで、`T_n(x)` を表した `cos x` の式から証明することにした。


超幾何級数

ガウスの超幾何級数(英 : Gaussian hypergeometric series)、 あるいは単に超幾何級数(エスペラント : hipergeometria serio、英 : hypergeometric series)、 超幾何関数 (エスペラント : hipergeometria funkcio、英 : hypergeometric function)とは、 次の形であらわされる関数をいう。

`F(a, b, c; z) = sum_(k=0)^oo ((a)_k(b)_k)/((c)_k k!) z^k`
ただし `(x)_n = (Gamma(x + n)) / (Gamma(x))`

次のようにも書ける。

`F(a, b, c; z) = 1 + sum_(k=1)^oo (a (a+1) ... (a+k-1) b (b+1) ... (b+k-1))/(c (c+1) ... (c+k-1) k!) z^k`

命題14

`T_n(x)` は次の超幾何級数であらわされる。

`T_n(x) = F(-n, n, 1/2; (1-x)/2)`

命題14の証明

`F` の式を書き下ろしていこう。

`F(a, b, c; z) = 1 + (ab)/(1c) z + (a(a+1)b(b+1))/(2c(c+1)) z^2+ (a(a+1)(a+2)b(b+1)(b+2))/(6c(c+1)(c+2)) z^3 + (a(a+1)(a+2)(a+3)b(b+1)(b+2)(b+3))/(24c(c+1)(c+2)(c+3)) z^4 + ... `

`n = 0, 1, 2` としてあたりをつけてみよう。

`T_0(x)`
`= F(0, 0, 1/2, (1-x)/2) `
`= 1`
`T_1(x)`
`= F(-1, 1, 1/2, (1-x)/2) `
`= 1 + ((-1)1)/(1/2) ((1-x)/2)`
`= x`
`T_2(x)`
`= F(-2, 2, 1/2, (1-x)/2) `
`= 1 + ((-2)2)/(1/2) ((1-x)/2) + (2*6)/(2*(1/2)*(3/2))((1-x)/2)^2`
`= 1 -4 (1-x) + 2 * (1-x)^2 `
`= 2x^2 - 1`

以上、これらの値を代入してみると従来の多項式と同じであることがわかる。

`n = m` のとき、`a` は `-m` から始まり + 1 ずつ加えられるので、`z^(m+1)` の項以降は係数が 0 になる。 よって、n が有限の整数である限り、超幾何関数も有限項の和としてあらわせる。

さて、チェビシェフ多項式での超幾何級数の表現を調べよう。係数の分母にある、 `1/2, 3/2, 5/2, ... (2k-1) / 2`の 分母 2 のベキ乗と、項の係数である `((1-x)/2)^k` の 分母の 2 のべき乗は打ち消し合う。その他、必要な計算をして次の式が得られる

`F(-n, n, 1/2, (1-x)/2) = 1 + sum_(k=1)^n ((-n)_k * (n)_k )/(k! (2k-1)!!) (1-x)^k`

(以下続く)

ひとりごと14

なぜ、上記の関数を超幾何級数というのか、わからない。 では、超がつかない、幾何級数ならわかるだろうか。 幾何級数とは等比級数の別名で、等比数列の総和のことをいう。 たとえば、`2^0 + 2^1 + 2^2 + ... + 2^n` のような級数だ。 もっともなぜこの級数が「幾何」なのかがわからない。 私の仮説は、幾何の証明は比例をもとにしているから、 比例として扱えるものを幾何というようになったのだろう、というものだ。

そうすると、項の係数にいっぱい`a, b, c`の式がついているのが「超」である所以なのだろう、 とむりやり自分を納得させている。


ゲーゲンバウアー多項式

ゲーゲンバウアー多項式 `C_n^((alpha)) (x)` とは、区間 [-1,1] 上で定義される重み関数 `(1-x^2)^{alpha-1/2}` の直交多項式をいう。 ここで `alpha` は適当な実数である。 この多項式は、チェビシェフ多項式をはじめ、区間 [-1,1] 上の直交多項式として知られるルジャンドル多項式などを一般化した多項式として知られている。 漸化式を用いた定義は次の通りである。

`C_0^((alpha)) (x) = 1`
`C_1^((alpha)) (x) = 2 alpha x`
`C_n^((alpha)) (x) = 1/n [2x ( n + alpha - 1) C_(n-1)^((alpha)) (x) - (n + 2 alpha - 2) C_(n-2)^((alpha)) (x)]`

ここで、`alpha = 1` とした漸化式 `C_n^((1))` は、 第 2 種のチェビシェフ多項式を表す。代入してみると、実際に満たしていることがわかる。

`C_0^((1)) (x) = 1`
`C_1^((1)) (x) = 2x`
`C_n^((1)) (x) = 1/n [2x n C_(n-1)^((0)) (x) - n C_(n-2)^((0)) (x)] = 2x C_(n-1)^((0)) - C_(n-2)^((0)) (x)`


ヤコビ多項式

ゲーゲンバウアー多項式をさらに一般化した多項式はヤコビ多項式として知られる。 ヤコビ多項式 `P_n^((alpha","beta)) (x)` とは、区間 [-1,1] 上で定義される重み関数 `(1-x)^alpha (1+x)^beta` の直交多項式をいう。 漸化式を用いた`(n+1)`次のヤコビ多項式 `P_n^((alpha","beta))(x)` の定義は、`alpha, beta` を適当な実数とすると次の通りである。

`2(n + 1)(n + alpha + beta + 1)(2n + alpha + beta) P_(n+1)^((alpha","beta))(x)`
`=(2n + alpha + beta + 1){(2n + alpha + beta)(2n + alpha + beta + 2)x + (alpha^2 − beta^2)}P_n^((alpha","beta))(x)`
`− 2(n + alpha)(n + beta)(2n + alpha + beta + 2)P_(n−1)^((alpha","beta))(x)`

ただし、

`P_0^((alpha","beta))(x)`
`= 1 `
`P_1^((alpha","beta))(x) = `
`1/2{(alpha + beta + 2)x + (alpha − beta)}`

明示式

今までは `T_n(x)` を主に漸化式の形で表してきたが、 `T_n(x)` を `x`や `n` を使った四則演算やベキ乗の形で明示的に書けるだろうか。

命題15

`T_n(x)` は次の式であらわされる。ただし `i` は虚数単位である。

`T_n(x) = 1/2 ((x + i sqrt(1 - x^2) )^n + (x - i sqrt(1 - x^2))^n) = 1/2 ((x + sqrt(x^2 - 1) )^n + (x - sqrt(x^2 - 1))^n)`

命題15の証明

`x in [-1,1]` のとき、`x = cos theta` とおくと次の式が成り立つ。

`T_n(cos theta) = cos n theta = 1/2 (e^(i n theta) + e^( -i n theta))`

また、`sin theta = +- sqrt(1 - x^2)` であるから、

`T_n(cos theta)`
`= 1/2 (e^(i n theta) + e^( -i n theta))`
`= 1/2 ((e^(i theta))^n + (e^(-i theta))^n )`
`= 1/2 ((x +- i sqrt(1 - x^2))^n + (x -+ i sqrt(1 - x^2))^n )`

(複号同順)

`x in [1, oo)` のとき、`x = cosh (t)` とおくと次の式が成り立つ。

`T_n(cosh t) = cosh nt = 1/2 (e^(nt) + e^( -nt))`

また、`cosh^2 t - sinh^2 t = 1` より `sinh t = +- sqrt(x^2 - 1)` であるから、

`T_n(cos theta)`
`= 1/2 (e^(nt) + e^(-nt))`
`= 1/2 ((e^t)^n + (e^(-t))^n )`
`= 1/2 ((x +- sqrt(x^2 - 1))^n + (x -+ sqrt(x^2 - 1))^n )`

(複号同順)

`x in (-oo, -1]` のときは、`x = -cosh (t)` とおけばよい。あとは符号に注意して、 `x in [1, oo) ` のときとほぼ同様に証明できる。 (証明終わり)

ひとりごと15

`T_n(x)` は整数係数の多項式なのに、式で書くと平方根はおろか、虚数も出てくる。 3次方程式の解のようだ。そういえば、フィボナッチ数列も、一般項では平方根が出てくる。 漸化式で与えられている数列や関数列は、生で一般項を扱うのを避けるのがいいかもしれない。

命題16

`T_n(x)` は次の式であらわされる。ただし `|__x__|` は `x` を超えない最大の整数である。

`T_n(x) = sum_(k=0)^(|__n/2__|)(-1)^k ((n),(2k)) x^(n-2k)(1-x^2)^k `

命題16の証明

命題15の式の両辺を2倍した次の式

`2T_n(x) = (x + i sqrt(1 - x^2) )^n + (x - i sqrt(1 - x^2))^n`

の右辺を展開する。
第1項の展開結果は次のようになる :

`((n),(0))x^n + ((n),(1)) i x^(n-1) (1-x^2)^(1/2 ) + ((n),(2))i^(2) x^(n-2)(1-x^2)^(2/2) + ... + ((n),(n-1))i^(n-1)x (1-x^2)^((n-1)/2) + ((n),(n))i^(n) (1-x^2)^(n/2)`

第2項の展開結果は次のようになる。

`((n),(0))x^n - ((n),(1)) i x^(n-1) (1-x^2)^(1/2) + ((n),(2)) i^2 x^(n-2)(1-x^2)^(2/2) + ... + (-1)^(n-1) ((n),(n-1))i^(n-1)x (1-x^2)^((n-1)/2) + (-1)^n ((n),(n))i^n(1-x^2)^(n/2)`

第1項と第2項の和をつくると、 2項係数`((n),(k))`の `k` が奇数である項はプラスマイナスが打ち消し合う。 また、`i^2 = -1` に注意すると、`n` が偶数のときは次の式となる。

`2 ((n),(0))x^n - 2 ((n),(2)) x^(n-2)(1-x^2) + cdots + 2 ((n),(n))(-1)^(n/2)(1-x^2)^(n/2)`

また、`n` が奇数のときは次のようになる。

`2 ((n),(0))x^n - 2 ((n),(2)) x^(n-2)(1-x^2) + cdots + 2 ((n),(n-1))(-1)^((n-1)/2)(1-x^2)^((n-1)/2)`

これらをまとめれば命題16の式が得られる。(証明終わり)

ひとりごと16

2項係数 `((n),(k))` は `{::}_(\n)C_k` ともつづる。 この `n` と `k` のことをそれぞれどのような用語でいうのかわからなかった。 というのは、式 `a/ b` があるとき、a は被除数、b は除数という用語があるのに、 式 `((n),(k)) = (k!(n-k)!)/(n!) ` についてはそのような用語がなさそうなのだ。 わからないことはいろいろある。


昇降演算子

昇降演算子とはききなれない名前だが、定義はこうだ。一般に階数 `n` が定義された関数 `f_n(x)` に対し `n` が増加/減少するような演算子が存在するとき、その作用をする演算子を昇降演算子と呼ぶ。 チェビシェフ多項式にも昇降演算子がある。 以下、リンク [12] に従い昇降演算子を見ていく。

命題17

関数 `T_n(x)` に対して下記が成り立つ。

`[(1 - x^2) d/(dx) - nx] T_n(x) = -nT_(n+1)(x)`
`[(1 - x^2) d/(dx) + nx] T_n(x) = nT_(n-1)(x)`

この `[ * ]` 内が昇降演算子である。

命題17の証明

`y = T_n(x)` は次の微分方程式を満たす

`(1-x^2)y″-xy′+n^2y=0`

両辺に`(1-x^2)` を乗じて `y′ = (dT_n(x)) / (dx)` に注意すると次の式が得られる。

`(1-x^2)^2 (d^2T_n(x)) / (dx^2) -(1-x^2) (dT_n(x)) / (dx) +n^2(1-x^2) T_n(x) =0`

左辺は次のように分解できる(リンク [12] 参照)

`[(1-x^2) d / (dx) - (n-1)x ]*[(1-x^2)d/(dx) + nx] T_n(x) +n(n-1) T_n(x) =0`

このことから、

`[(1 - x^2) d/(dx) - nx] T_n(x) = lambda_n T_(n+1)(x)`
`[(1 - x^2) d/(dx) + nx] T_n(x) = tilde lambda_n T_(n-1)(x)`

となる昇降演算子が存在することがわかる。 次に,`lambda_n,tilde lambda_n` を決めるために、 チェビシェフ多項式を次数の高い方から数項を書き下す。

`T_n(x) = n/2 sum_(m=0)^(|__n/2__|) ((-1)^m (n-m-1)!)/(m!(n-2m)!) (2x)^(n-2m)`

であることを用いて同じ次数の項を比較すれば、`lambda_n = -n, tilde lambda_n = n`が得られる。


大学入試問題から

チェビシェフ多項式は、出題者からみれば大学入試問題として絶好の題材といえる。たとえば、次の観点が挙げられる。

  1. 三角関数の加法定理を理解しているか。
  2. 漸化式を理解しているか。
  3. 絶対値に関するセンスがあるか。
  4. (直交関数系を確認するための)積分を理解しているか。
  5. 解と係数の関係を理解しているか。

問題1

次の漸化式を考える。

`T_(n+2) (x) = 2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)`

ただし `T_0(x) = 1, T_1(x) = x` とする。`T_5(x)` の式を具体的に求め、`T_5(x) = 0` を解け。

解答1

`T_5(x) = 16x^5 - 20x^3 + 5x`

`T_5(x)` = 0 を解くと、
`x ( 16 x^4 - 20x^2 + 5) = 0`

`:. x = 0` または `x = +- sqrt(10 +- 2sqrt(5)) / 4` (複号任意)

追記1

のちに見る通り、`f_n(x) = 0` の `n` 個の解 `alpha_i` はすべて実数、単根で `-1 < alpha_i < 1` を満たすという不思議な性質をもっている。

問題2

問題1の漸化式および初期値で定まる`T_n(x)` に対して 、n が 1 以上の整数であるとき、

`T_n(cos theta) = cos n theta`

を満たすことを示せ。

解答2

数学的帰納法で証明する。

`T_1(cos theta) = cos theta `
`T_2(cos theta) = 2 cos^2 theta -1 = cos 2 theta`

となり、2倍角の公式により `n = 1` と `n = 2` で成り立つ。

`T_(k - 1) (cos theta) = cos (k - 1) theta`
`T_k (cos theta) = cos k theta`

が成り立つとする。 三角関数の加法定理から

`cos (k + 1) theta + cos (k - 1) theta = cos k theta cos theta`

が成り立つ。よって、

`cos (k + 1) theta = 2 T_k(cos theta) cos theta - T_(k-1) (cos theta) = T_(k + 1) (cos theta)`

以上から、`T_n(cos theta) = cos n theta ` が `n = 1, 2, ...` で成立することが示された。

追記2

受験界で有名な「おととい帰納法」の例である。

問題3

`T_3(x)` を 3 次のチェビシェフ多項式とする。 `x^3` の係数が 4 である 3 次関数 `f(x)` が区間 `[-1, 1]` で `abs(f(x)) le 1` をみたすとき、 `f(x) - T_3(x)` は恒等的に 0 であることを示せ。

解答3

区間 `[-1, 1]` 内の任意の `x` に対し `abs(f(x)) <= 1` であるから、

`f(x) + 1 ge 0,`
` f(x) - 1 le 0`。

`F(x) = f(x) - T_3(x)` とおくと、下記の4式が成り立つ。

`F(-1)`
`= f(-1) - T_3(-1) = f(-1) + 1 ge 0`
`F(-1/2)`
`= f(-1/2) - T_3(-1/2) = f(-1/2) - 1 le 0`
`F(1/2)`
`= f(1/2) - T_3(1/2) = f(1/2) + 1 ge 0`
`F(-1/2)`
`= f(1) - T_3(1) = f(1) - 1 le 0`

ところで、`f(x) = 4x^3 + ax^2 + bx + c` の形であるから

`F(x)`
`= f(x) - H_3(x)`
`= 4x^3 + ax^2 + bx + c - (4x^3 - 3x) `
`= ax^2 + (b + 3) + c`

となる。右辺は高々2 次の関数だから、`x` の増加に伴って`F(x)` が 0 以上、0 以下、0 以上、0 以下と 0 を基準に変動する場合は、上記すべての不等式で等号がなりたつ場合しかない。 この結果異なる4点で3次関数の値が一致するので、`F(x) -= 0` つまり `f(x) -= T_3(x)` である。 (証明おわり)

追記3

最高次の係数 4 である 3 次関数 `f(x)` が、区間 `[-1, 1]` という壁と `abs(f(x)) <= 1` という天井と床に囲まれて暴れる姿を思い浮かべる。 `T_n(x)`のグラフも参照してほしい。 このような条件では、自動的にチェビシェフ多項式になってしまうというのが証明できてしまう。 なんとも恐ろしいことだ。では`(-oo, -1)` と `(1, oo)` ではどうなってしまうのだろうか。 それが問題4である。

なお、ある区間において、関数 `f(x)` から作られる絶対値関数 `abs(f(x))` の最大値を、 この区間における関数`f(x)` の最大偏位という。このことばを使って問題1を言い換えれば、 `x^3` の係数が 4 である 3 次関数 `f(x)` の区間 `[-1, 1]` における最大偏位が 1 であるとき、…… となる。

問題4

3 次関数 `f(x)` が区間 `(-1, 1)` で `abs(f(x)) < 1` をみたすとき、 `abs(x) > 1 ` なる任意の実数 `x` に対して `abs(f(x)) < abs(T_3(x))` を示せ。

解答4

`F(x) = f(x) + T_3(x)` とおくと、下記の4式が成り立つ。

`F(-1) = f(-1) - 1 <=0`
`F(-1/2)= f(-1/2) + 1 > 0`
`F(1/2) = f(1/2) - 1 < 0`
`F(1) = f(1) + 1 >= 0`

よって、3 次方程式 `F(x) = 0` は、`[-1, -1/2), (-1/2, 1/2), (1/2, 1]` の3区間で解をもつ。 これまでの値に関する考察と `f(x)` と `T_3(x)` のグラフから、 `x < -1` で `F(x) < 0`、 `x > 1` で `F(x) > 0` がいえる。 よって、`x < -1` で `f(x) < -T_3(x)` かつ `x > 1` で `f(x) > -T_3(x)` である。

同様に `F~(x) = - f(x) + H_3(x) ` を考えることによって、 `x < -1` で `T_3(x) < f(x)` かつ `x > 1` で `f(x) < T_3(x)` であることがわかる。
これらの結果をまとめると `x < -1` で `T_3(x) < f(x) < -T_3(x)` かつ `x > 1` で `-T_3(x) < f(x) < T_3(x)` すなわち、
`abs(x) > 1` で `abs(f(x)) < abs(T_3(x))` である。(証明おわり)

追記4

檻[-1, 1]×[-1,1]を暴れまくっていた `T_3(x)` は、 `x` が檻から出ると当然暴発する。他の3次関数より絶対値が大きくなるほどだ。 2013年9月、時の総理大臣である安倍晋三は、オリンピック招致の場で「状況はコントロールされている」、 「汚染水は港湾内で完全にブロックされている」という意味のことを英語で演説した。 [-1,1]の範囲は、チェビシェフ多項式のように値が-1と1の壁でブロックされていればよいのだが、 当然のことながら、汚染水はチェビシェフ多項式ではない。 そして上記の範囲を超えると、同じ次数の多項式ではチェビシェフ多項式の暴れ具合にはかなわないのだ。

問題5

  1. `cos 5 theta = f(theta) ` を満たす多項式 `f(x)` を求めよ。
  2. `cos (pi / 10) cos ((3pi) / 10) cos ((7pi) / 10) cos ((9pi) / 10) = 5/16 ` を示せ。

解答5

1. は加法定理を繰り返し使えばよい。結果だけ示すと、
`f(x) = T_5(x) = 16x^5 - 20x^3 + 5x`

2. の解答
`theta = pi/10, (3pi)/10, (7pi)/10, (9pi)/ 10` はすべて `cos 5 theta = 0` を満たし、 かつ `cos theta` は非ゼロで相異なる。したがって、これら `x = cos theta` は次の方程式

`16 x^4 - 20 x^2 + 5 = 0`
の相異なる 4 解である。解と係数の関係から、
`cos (pi / 10) cos ((3pi) / 10) cos ((7pi) / 10) cos ((9pi) / 10) = 5/16 ` (証明終わり)

追記5

解と係数の関係から、4つの解を `alpha, beta, gamma, delta` とおくと、 次の関係がなりたつ。

`alpha + beta + gamma + delta = 0, `
`alpha beta + alpha gamma + alpha delta + beta gamma + beta delta + gamma delta= -5 / 4, `
`alpha beta gamma + alpha beta delta + alpha gamma delta + beta gamma delta = 0`

なお、本問の結果は `n` が一般の整数の場合に拡張されて、次の結果が得られる。 上記問題は、下記の一般化式で `m = 2` の場合にあたる。

`prod_(k=0)^(2m) cos {:((2k + 1) pi) / (2 (2m + 1)):} = (2m + 1)((-1)^m/(2^(2m)))`


問題6

`n in NN` とする。

  1. すべての実数 `theta` に対し、
    `cos n theta = f_n(cos theta), sin n theta = g_n(cos theta) sin theta`
    をみたし、係数がともにすべて整数である `n` 次式 `f_n(x)` と `n-1`次式 `g_n(x)` が存在することを示せ。
  2. `f_(n)^'(x) = n g_n(x) `を示せ。
  3. `p` を 3 以上の素数とするとき、`f_(p)(x)` の `p - 1`次以下の係数はすべて `p` で割り切れることを示せ。

解答6

  1. 第1種と第2種の項参照。
  2. 第1種と第2種の項参照。
  3. 1. 2. より明らか。

問題7

`n in NN` とする。

1. `n` に対してある多項式 `p_n(x), q_n(x)` が存在して、

`sin n theta = p_n(tan theta)cos^n theta, cos n theta = q_n(tan theta) cos^n theta`
と書けることを示せ。

2. このとき、`n > 1`ならば次の等式が成立することを証明せよ。

`p_n^'(x) = n q_(n-1)(x) , q_n^'(x) = -n p_(n-1) (x)`

解答7

  1. `n = 1` のとき、`sin n theta = sin theta` であるから、 `tan theta = sin theta / cos theta` より `p_1(x) = x` は存在する。 また、`cos n theta = cos theta` であるから、`q_1(x) = 1` (定数)とすれば式は満たされる。
    `n = 2` のとき、 `sin^2 theta = 2 sin theta cos theta` であるから、 `p_2(x) = 2x` とおけば等式が成り立つ。また、 `cos 2 theta = cos^2 theta - sin^2 theta = ( 1 - tan^2 theta) cos ^2 theta ` であるから、 `q_2(x) = 1 - x^2` とおけば成り立つ。
    `n = k - 1 ` および `n = k` のとき、与えられた等式が成り立つと仮定する。 (あとは数学的帰納法で)
  2. `i` を虚数単位 `sqrt(-1)` とすれば、`sin n theta` の両辺に `i` を乗じて辺々足すと。
    `cos n theta + i sin n theta = cos^n theta {q_n(tan theta) + i p_n(tan theta) }`
    ド・モアブルの公式から `(cos theta + i sin theta)^n = cos^n theta {q_n(tan theta) + i p_n(tan theta) }`
    両辺を `cos^n theta` で割ると
    `(1 + ix)^n = q_n(tan theta) + i p_n(tan theta )`
    すべての実数 `theta` に対して上の式が成立する。したがって、`tan theta = x` とおいて、
    `(1 + ix)^n = q_n(x) + ip_n(x)`
    上の式を `x` で微分して、
    `i n(1 + ix)^(n-1) = q_n^'(x) + i p_n^'(x)`
    ここで、 `(1+ix)^(n-1) = q_(n-1)(x) + p_(n-1)(x)` であるから、
    `i n(q_(n-1) (x) + i p_(n-1) (x) ) = q_n^'(x) + i p_n^' (x)`
    両辺の実部と虚部を比較して、証明すべき式が得られる。

追記7

`tan theta` も出てくるとは思わなかった。なかなかこれはこれで対称性が美しい。

問題8

`cos ((2 pi) / 7) + cos ((4 pi)/7) + cos ((6 pi)/7) =a,`
`cos ((2 pi) /7) cos ((4 pi)/7) cos ((6 pi)/7) = b`
とする.`a` と `b` の値を求めたい。以下の設問(1),(2),(3)に答えよ.

  1. 角 `theta` (ラジアン)が
     `cos 3 theta = cos 4 theta` …①
     を満たすとき,解のひとつが `cos theta` であるような4次の方程式を求めよ。
  2. `theta = (2 pi) / 7 ` のとき, `cos theta` が解のひとつであるような3次の方程式を求めよ.
  3. 設問 2 の結果を用いて, `a` および `b` の値を求めよ。

解答8

  1. `cos 2 theta = 2 cos^2 theta - 1` より、
    `cos 3 theta = (2 cos^2 theta - 1) cos theta - sin 2 theta sin theta = (2 cos^2 theta - 1) cos theta - 2 (sin^2 theta) cos theta = 4 cos^3 theta - 3 cos theta`
    `cos 4 theta = cos 3 theta cos theta - sin 3 theta sin theta = (4 cos^3 theta - 3 cos theta) cos theta - (sin theta ) (sin 2 theta cos theta + cos 2 theta sin theta) = (4 cos^3 theta - 3 cos theta) cos theta - (sin^2 theta ) (2 cos^2 theta + 2cos^ theta - 1) = 8 cos^4 theta - 8 cos^2 theta + 1`
    よって、①から `4 x^3 - 3 x = 8 x^4 - 8 x^2 + 1` 。移項して、
    `8 x^4 - 4 x^3 -8 x^2 + 3x + 1 = 0 `
  2. `cos theta = cos (2 pi -theta)` だから、` theta = (2 pi) / 7` のとき、
    `cos 3 theta = cos ((6 pi)/7) = cos (2 pi - (6 pi) / 7 ) = cos ((8pi) /7) = cos 4 theta`
    よって、①が成り立つ。一方、1. の式の左辺は因数分解できて、
    `(x - 1) (8 x^3 + 4 x^2 -4 x - 1) = 0 `
    となる。与えられた `theta` に対して、`cos theta != 1` であることは明らか。よって、 `8 x^3 + 4 x^2 -4 x - 1 = 0 `
  3. `(2 pi)/ 7` と同様、 `(4 pi)/ 7` 、 `(6 pi)/ 7` も 2. の式の解であることが同様にしていえる。 したがって解と係数の関係から、`a = -1/2, b = 1/8`

追記8

`cos {:(2 pi)/7:}` の値は具体的には表せないのに、`cos{:(2 pi)/7:} + cos{:(4 pi)/7:} + cos{:(6 pi)/7:}` の値がわかるというのは実に不思議だ。

問題9

3 次の整式 `f(x) = x^3 + x^2 + px + q` (ただし,`p != q, q != 0`), および `g(x) = (-1) / (x + 1)` が次の条件 (*) を満たすとする。
(*) `f(x) = 0` の任意の解 `alpha` に対して `g(alpha)` も `f(x) = 0` の解である.
次の問に答えよ。

  1. `p, q` の値を求めよ.
  2. `f(x) = 0` は `-2 < x < 2` の範囲に 3 つの実数解をもつことを示せ.
  3. `f(x) = 0` の任意の解を `2cos theta` とするとき,`2cos 2theta, 2 cos 3theta` も解であることを示せ.
  4. `2cos theta (0 < theta < pi)` が,`f(x) = 0` の解であるとき,`theta` の値を求めよ.

解答9

この問題の解答は、`p, q` が実数としてよいか、それとも複素数とすべきかによって、書き方が変わる。 もちろん、最初から複素数と仮定すれば実数の場合も含まれるので理想的だが、 それでは解答が大変になる。そこで、`p, q` ともに実数として考える。 なお、`p, q` ともに実数という仮定をしても、`x` や `alpha` は複素数を想定しなければならない。 なぜかというと、設問 2 で `f(x) = 0` は(中略) 3 つの実数解をもつことを示せとあるからだ。それまでは複素数解も考えに入れておかないといけない、ということだ。

1. `p, q` ともに実数とする。このとき `f(x) = 0` は少なくともの一つの実数解をもつ。この実数解を `alpha` とする。 残りの2解を `beta, gamma` とする。 (*) から、`beta = g(alpha) = -1 / (alpha + 1), gamma = g(beta) = -1 / (beta + 1) = - (alpha + 1) / alpha` となる (なお、`g(gamma) = alpha` であることが計算するとわかるので、以上で 3 つの解は尽くされている)。 さて、`alpha, beta, gamma` は互いに異なる。なぜなら、このうちのどれか 2 つが等しいと仮定すると `alpha^2 + alpha + 1 = 0` となり、 このような実数 `alpha` は存在しないので矛盾する。したがって、`alpha, beta, gamma` は互いに異なる実数である。

解と係数の関係から、次が成り立つ。

`alpha + beta + gamma = alpha - 1/(alpha + 1) - (alpha + 1)/ alpha = -1` …… ①
`alpha beta + beta gamma + gamma beta = -alpha/(alpha + 1) + (-1 / (alpha +1))(-(alpha + 1)/alpha) - alpha(alpha + 1)/ alpha = p` …… ②
`alpha beta gamma =alpha (-1/(alpha + 1)) (-(alpha+1)/alpha) = -q ` ……③

③を計算して、 `-q = 1,` すなわち `q = -1` が得られる。

②から、`p = -alpha/(alpha + 1) + 1/alpha - (alpha + 1) = -1 + {1/(alpha + 1) + 1/alpha - alpha} -1 = -2 `
({} 内は ①からゼロであることがわかる).

2. `(p, q)` = `(-2, -1)` が 1. で得られたので改めて`f(x)` を表す。
`f(x) = x^3 + x^2 -2x -1`
`f(-2) = -1, f(-1) = 1, f(0) = -1, f(2) = 7` より、区間 (-2, -1), (-1, 0), (0, 2) にそれぞれ実数解が1 つ存在する。 また、`f(x)` は 3 次方程式であるので、`f(x) = 0` は多くとも 3 個の実数解をもつ。よって題意は証明された。

3. `alpha = 2cos theta` とおく。このとき、`2cos 2theta` を `alpha` で表すと、
`2cos 2theta = 2(2cos^2 theta - 1) = alpha^2 - 2`

ここで、(*) の結果から、`alpha^2 - 2` が `-1/(alpha + 1)` と等しいことが言えればよい。 ` alpha^2 - 2 + 1/(alpha + 1)`
`= ((alpha^2 - 2)(alpha+1) + 1) / (alpha + 1)`
`= (alpha^3 - alpha^2 - 2alpha - 1) / (alpha + 1)`

ここで分子は `f(alpha)` であるから 0 に等しい。よって、`2cos theta` が`f(x)`の解であれば `2cos 2theta` も `f(x)` の解である。

次に、`2cos 3theta` を `alpha` で表すと、
`2cos 3theta = 2(4cos^3 theta - 3cos theta) = alpha^3 - 3alpha`

一方、`-1/(alpha +1)` が `f(x)` の解であるから、
`g(-1/(alpha +1)) = -1 / (-1/(alpha + 1) + 1) = -1 / (alpha / (alpha + 1)) = -(alpha + 1) / alpha`
である。これから、`alpha^3 - 3alpha` と `-(alpha + 1) / alpha` が等しいことをいえばよい。

`alpha^3 - 3alpha + (alpha +1 )/alpha = (alpha^4 - 3 alpha^2 + alpha + 1)/alpha`
` = (alpha - 1)(alpha^3 + alpha^2 - 2alpha - 1)/alpha`

この値もゼロである。よって証明は完了した。

4. `2costheta` が `f(x) = 0` の解であるから、3 より `2cos2theta` も `f(x)=0` の解であり、 `2cos4theta` も `f(x)=0` の解である。($)
一方、`2cos 2theta = g(2costheta)`, `2cos3theta = g(g(2costheta))` であるから、
`2cos3theta = g(2cos2theta)`
となるので、($)の結果とあわせて
`2cos4theta = 2cos3theta`
`cos4theta = cos3theta`
`4 theta = +- 3 theta + 2n pi` (ただし、n は整数)
よって、` theta = 2npi` または `theta = (2n)/7 pi `
`0 < theta < pi` より
`theta = 2/7 pi, 4/7 pi, 6/7 pi`

なお、下記を参考にした。
本問全体は、
http://suseum.jp/gq/question/2721
を参照。
本問とチェビシェフ多項式との関連については、
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10128745995
を参照。
`f(x)=0` の解 `alpha, beta, gamma` が 関数 `g(x)` によって `beta = g(alpha), gamma = g(beta), alpha = g(gamma)` と循環する式の特徴については、上記 suseum ほか、
安田 亨 : 入試数学 伝説の良問 100
http://ameblo.jp/kazuaha63/entry-11465828741.html
を参照。
求めるべき数が実数か複素数かが明示されていない問題の他の例は、 安田 亨 : 入試数学 伝説の良問 100参照。

その他問題

後は問題のみ掲げる。ちょっとみたところチェビシェフ多項式の匂いがしないものもある。

問題A (京都大学 1997 年数学 (理系)後期 4⃣)

次の連立方程式 (*) を考える。

(*) ` {(y=2x^2 - 1),(z = 2y^2 - 1),(x = 2z^2 - 1):}`

(1) `(x, y, z) = (a, b, c)` が (*) の実数解であるとき、`abs(a) le 1, abs(b) le 1, abs(c) le 1` であることを示せ。
(2) (*) は全部で 8 組の相違なる実数解をもつことを示せ。

問題B

関数 `f_n(x) (n = 1, 2, 3, ..., )` を次のように定める。

`f_1(x) = x^3 - 3x, f_2(x) = {f_1(x)}^3 - 3{f_1(x)}, f_3(x) = {f_2(x)}^3 - 3{f_2(x)}, f_(n+1)(x) = {f_n(x)}^3 - 3{f_(n-1)(x)}`

  1. `a` を実数とする。`f_1(x) = a` を満たす実数 `x` の個数を求めよ。
  2. `a` を実数とする。`f_2(x) = a` を満たす実数 `x` の個数を求めよ。
  3. `n` を 3 以上の自然数とする。`f_n(x) = 0` を満たす実数 `x` の個数は `3^n` であることを示せ。

問題C

`T_n(x)` を第1種のチェビシェフ多項式とする。`sum_(n=1)^oo (1/3)^n T_n(1/2)` の値を求めよ。

問題D

`n` を 2 以上の整数とする。

(1) `(n - 1)`次多項式 `P_n(x)` と n 次多項式 `Q_n(x)` ですべての実数 `theta` に対して
`{(sin(2n theta) = n sin (2 theta) P_n(sin^2 theta)),(cos(2 n theta) = Q_n(sin^2 theta)):}`
を満たすものが存在することを数学的帰納法を用いて示せ。

(2) ` k = 1, 2, ..., n - 1` に対して
` alpha_k = (sin ((k pi) / (2n)))^-2 `
とおくと
`P_n(x) = (1 - alpha_1 x)(1 - alpha_2 x)...(1 - alpha_(n-1) x)`
となることを示せ。

(3) `sum_(k=1)^(n-1)alpha_k = (2n^2 - 2) / 3 ` を示せ。

問題E

`x` の 5 次式 `f(x)` のグラフ `C:y=f(x)` が平行な 2 直線 `L, M` のそれぞれ 2 点で接しているような `C, L, M` の実例を 1 つみつけよ。またその例について、`C` と`L` の交点と 2 つの接点との 3 点により `L`から切り取られる 2 つの線分の長さの比を求めよ。

問題F

`xy` 平面の `n` 個の点 `(cos {:(2 pi k)/n:}, sin {:(2 pi k)/n:}) (k = 1, 2, ..., n) ` を頂点とする正 `n` 角形の周および内部を `D_n` とする。 このとき、`D_3, D_4, D_5, D_6, ..., ` の共通部分の面積を求めよ。

問題G

チェビシェフ多項式`T_(n+1)(x)` と `T_n(x)`について、
`T_(n+1)(x) = 0, T_n(x) = 0`
は共通解を持たないことを示せ。

問題H

`cos{:pi/7:} - cos{:(2 pi)/7:} + cos{:(3 pi)/7:} = 1/2 ` を示せ。

問題I

`t` を実数として,数列 `a_1, a_2, ...` を `a_1 = 1, a_2 = t, a_(n+1) = 2t a_n - a_(n-1) (n >= 2) ` で定める。このとき,以下の問に答えよ。

(1) `t >= 1` ならば,`0 < a_1 < a_2 < a_3 < ... ` となることを示せ。

(2) `t <= -1` ならば,`0 < abs(a_1) < abs(a_2) < abs(a_3) < ... ` となることを示せ。

(3) `-1 < t < 1` ならば,`t = cos theta` となる `theta` を用いて, `a_n = sin {:n theta:} / (sin theta) (n >=1 ) ` となることを示せ。

問題 J

平面上の運動
`ddot x = -x `
`ddot y = -omega^2 y `

を考える。`omega` が正の整数 `n` のとき、チェビシェフ多項式で書かれる軌道が存在することを示せ。

問題 K

` int_0^pi log (a + b cos x) dx ` の値を求めよ。

問題 L

閉区間 [-1, 1] 上において、最高次の係数が 1 である `n` 次の多項式 `P_n(x)` を考える。 ` int_-1^1 abs(P_n(x)) dx ` が最小となるのは、`P_n(x)` が第2種のチェビシェフ多項式
`U_n(x) = 1/2^n sin((n + 1) cos^-1 x) / (sqrt (1 - x^2))` のときであることを示せ。

解答は文献5の p.153 を参照のこと。 なお、問題 L の系として、次の入試問題がある。

2 次関数 `f(x) = x^2 + ax + b` に対して,`int_-1^1 abs(f(x)) dx = 1/2 ` が成立するとき、 曲線 `y = f(x)` は `x` 軸と異なる 2 点で交わり,それらの交点はともに 2 点 (-1, 0), (1, 0) の間にあることを証明せよ。 これは、文献 1 の p.302 (問題 94) である。

問題 M (東京医科歯科大学 2015 年前期)

実数 `a, b` に対し、`f(x) = x^3 - 3ax + b` とおく。`-1 <= x <= 1` における `abs(f(x))` の最大値を `M` とする。 このとき以下の各問いに答えよ。

  1. `a > 0` のとき、`f(x)` の極値を `a, b` を用いて表せ。
  2. `b >= 0` のとき、`M` を `a, b` を用いて表せ。
  3. `a, b` が実数全体を動くとき、`M` のとりうる値の範囲を求めよ。

円周上の格子点

文献6は、グラフィクスに関する知見の宝庫である。その中に、 "Circles of Integral Radius on Integer Lattices" (by Alan W. Paeth) という解説がある。 概略を紹介しよう。以下、円周のことを単に円と呼ぶ。

ディジタル画像で正しい円を表すには、円が通る格子点がわかると便利だ。 そのような格子点を見つける規則的な方法は、単位円での `x` 座標を `abs(T_n(0.6))` にとることである。実際の格子点にするには、 単位円を `5^n` 倍に拡大する。

以下、実際の数値をあてはめて確かめよう。以下、`c_n = abs(T_n(0.6)), s_n= sqrt(1-c_n^2)` とし、`c_n, s_n, 5^n` の表を作る。

n`c_n``s_n``5^n``5^n c_n``5^n s_n`
10.60.8534
20.280.9625724
30.3520.93612543117
40.53760.8432625336527
50.075840.997123,1252373,116
60.6589440.75219215,62510,29611,753

以上から、次の問題を作ることができる。n は自然数とする。

  1. `n > 1` のとき `c_n < 1` であることを証明せよ。
  2. `s_n < 1` であることを証明せよ。
  3. `5^n c_n` は整数であることを証明せよ。
  4. `5^n s_n` は整数であることを証明せよ。
  5. `5^n c_n` は 5 で割り切れないことを証明せよ。
  6. `5^n s_n` は 5 で割り切れないことを証明せよ。

自分でもどのように証明してよいかわからない。まず 1. ならば、漸化式

`c_(n+2) = 1.2 c_(n+1) - c_n`

から `c_n` の一般項を求め、この一般項が 1 以上または -1 以下を取り得ないことをいう方針が考えられる。

あるいは、チェビシェフ多項式 `abs(T_n(x))` の極値を調べて、どんな `n` に対しても `x=0.6` では極値とはならないことを示す、 などの方針が考えられる。

2.も1と同様で、`c_n` の一般項から、この一般項が 0 を取り得ないことをいうか、 あるいはチェビシェフ多項式 `T_n(x)` の根はどんな `n` に対しても `x = 0.6` とはなりえないことをいう。

3. 以降は、一般項を出せばなんとかなるような気がする。 ちなみに、上記 `c_n` に関する漸化式から一般項を求めると次のようになる。

`c_n = 1/2 ((3+4i)/5)^n + 1/2 ((3-4i)/5)^n`

今後の予定

下記について取り上げる予定である。


数式とグラフの表現

数式の表現にはMathJaxを使っている。

グラフは 関数グラフ描画スクリプト・SVGGraph.js (defghi1977.html.xdomain.jp) を使っている。

文献

  1. 安田 亨 : 入試問題 伝説の良問 100(講談社ブルーバックス)
  2. 藤田 毅彦 : 難問克服 解いてわかるガロア理論(東京図書)
  3. 森 正武、室田 一雄、杉原 正顕 : 数値計算の基礎(岩波書店)
  4. D. E. Knuth : The Art of Computer Programming Vol.3 Sorting and Searching
  5. 西白保 敏彦 : 最良近似理論と関数解析、横浜図書
  6. Andrew S. Glassner (ed.) : Graphics Gems 、Academic Press

リンク

  1. チェビシェフ多項式 (ja.wikipedia.org)
  2. Chebyshev polynomials - Wikipedia, the free encyclopedia(en.wikipedia.org)
  3. 鉄緑会数学講師のひとりごと : チェビシェフ多項式(blog.livedoor.jp)
  4. (現在リンク切れ)チェビシェフの多項式(www004.upp.so-net.ne.jp)
  5. チェビシェフ多項式(shadowacademy.web.fc2.com)
  6. Chebyshev多項式(kk62526.server-shared.com)
  7. (現在リンク切れ)Cauchy's Cafe(www3.ocn.ne.jp)の「…チェビシェフ多項式を知ろう」
  8. チェビシェフの多項式(青空学園)(aozoragakuen.sakura.ne.jp)
  9. (現在リンク切れ)コサインの n 倍角問題の背景を探る(21.xmbs.jp)
  10. 普通の数学 5. n 倍角の公式(www10.plala.or.jp)
  11. (現在リンク切れ)米村明芳氏のWebsite (dl.dropboxusercontent.com/)からテーマ別入試問題研究
  12. 講義―田中宏志研究室(www.phys.shimane-u.ac.jp)から物理数学 I 令和2年度版テキスト
  13. 数研通信(51号〜最新号)(www.chart.co.jp))
  14. 数研通信(1号〜50号)(www.chart.co.jp)
  15. チェビシェフ多項式(sshmathgeom.private.coocan.jp)
  16. チェビシェフ多項式(ja.wikipedia.org)
  17. チェビシェフ多項式(manabitimes.jp)
  18. チェビシェフ多項式の計算法(www.allisone.co.jp)

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