パフヌーティー・リヴォーヴィッチ・チェビシェフ (Пафну́тий Льво́вич Чебышёв) はロシアの数学者である。 彼の名前は主に確率論の分野で知られていて、特にチェビシェフの不等式は有名である。 チェビシェフは確率の性質を研究する過程で、大きな副産物を残した (リンク8参照の「さらなる性質」参照)。 これがチェビシェフの多項式である。以下、「の」を省いてチェビシェフ多項式と呼ぶ。 チェビシェフ多項式には興味深い性質が多くあるので、少しずつ探っていこう。
チェビシェフ多項式はさまざまな定義がある。 高校数学の範囲でもっとも多いのは、余弦関数 `cos theta` を使う定義であろう。
`cos theta` の倍角公式や3倍角公式と呼ばれている等式がある。 この等式は、`cos 2 theta` が `cos theta` の 2 次式に、 `cos 3 theta` が `cos theta` の3 次式になっている特徴がある。 この特徴は `n` 倍角にもあてはまるだろうか、というのが発端である。
答からいえば、一般に`cos n theta` は、`cos theta` の `n` 次の多項式として表されることが証明できる。 このときの多項式 `T_n(x) (n >= 0) `を `n` 次の(第1種)チェビシェフ多項式と呼ぶ。 (第1種)とカッコでくくっているのは、チェビシェフ多項式には同じ多項式でも複数の種類があるからで、 この`T_n(x)`を他の種類と区別するときは第1種のチェビシェフ多項式と呼ぶ。 単にチェビシェフ多項式と呼ぶときは、通常第1種を指す。 他の種類、たとえば第2種のチェビシェフ多項式については後述する。
なお、第1種のチェビシェフ多項式は通常 `T` を使う。チェビシェフのラテン文字表記は、 Chebyshev のほか Tchebycheff、Tschebyscheff などもあるので、 こちらの頭文字の T を使った、 と思えばいいだろう。
`n` が 0 を含む自然数のとき、 `cos n theta` を `cos theta` による多項式でどのように表現できるか、 計算しよう。
なるほど、`cos 2 theta` が `cos theta` の 2 次式で書けることは、 加法定理の応用でわかる。`cos 3 theta` 以降はどうだろうか。
`cos 3 theta` 以上でも、加法定理と `sin^2 theta + cos^2 theta = 1` の関係を何度も使えば、`cos 5 theta` まではすべて `cos theta` の多項式で表現できた。 こうなると一般の `cos n theta` も`cos theta` の `n` 次多項式で表せることが証明できそうな気がする。
`cos n theta` は `cos theta` の `n` 次多項式であらわされる`( n = 1, 2, ..., )`。 なお、この多項式を以下 `T_n(x)` と書く。また、`T_n(x)` はただ一つ存在する。
数学的帰納法で証明する。
`cos 1 theta` は当然 `cos theta` であるから`T_1(x) = x`、また上記で見たように
`cos 2 theta = 2cos^2 theta - 1 ` だから `T_2(x) = 2x^2 - 1` 。
よって、`n = 1 と n = 2` のときは上記の命題1は正しい。
`n = k` と `n = k - 1` (`k = 2, 3, ... `) のとき正しいと仮定する。
三角関数の加法定理から、次の式が成り立つ :
一意性は次のように言える。仮に `cos ntheta`を `cos theta` の多項式で表す方法が2通りあるとする。
それらを`T_n(x),hat T_n(x)`とおく。
`P(x)=T_n(x)- hat T_n(x)`とすると, `P(cos theta)= 0`
だから `-1 <= x <= 1` となるすべての `x` に対して
`P(x) =0` 。
ここで `P(x)`は`n`次以下の多項式だから,
恒等的に `P(x)=0`となり,すなわち`T_n(x)=hat T_n(x)`が成り立つ。
なお, ここで次の事実を用いている。
`n` 次以下の整式 `P(x)` が異なる `n+1` 個の値 `t` に対して `P(t)=0` ならば恒等的に `P(x)=0`
この事実を説明するには,`P(x)` が恒等的に `0` ではないとすると 多項式 `P(x)` の根は `n` 個以下の解しかもたないことを用いればよい。
なお、`T_n(x)` は、`x in [-1, 1]` のとき次のように書ける。
`T_n(x)=cos(n cos^(-1) x)`
なぜなら、`T_n(cos theta) = cos n theta` であり、 `x = cos theta` であるから `theta = cos^-1 x` である。これを前の式に代入して、 `T_n(x) = cos (n cos^-1 x)` が得られる。
このチェビシェフ多項式のページを書き始めたのは、2013年9月である。 2013 年 7 月から 9 月まで、大人気を博した「半沢直樹」というドラマがあった。 このドラマでは、タイトルロールの主人公が理不尽な仕打ちをうけたとき、主人公が 「やられたらやりかえす、倍返しだ!」と言い返す場面が有名になり、 この「倍返し」ということばが流行していた。全然関係ないが、 チェビシェフの多項式なら `n` 倍返しができる。
命題1の `n` 次多項式 `T_n(x)` は次の漸化式を満たす。
命題1の証明の通り。
なお、`T_n(x)` を `n` の小さい順から具体的に示す。`T_0(x)`から `T_4(x)` までは最初の漸化式の `cos theta` による式を書き換えただけである。
上記チェビシェフ多項式の係数を JavaScript を使ってもとめてみた。 チェビシェフ多項式のページにある。
上記のグラフを色分けした。 橙 : `T_1(x)`、赤 : `T_2(x)`、紫 : `T_3(x)`、緑 : `T_4(x)`、青 : `T_5(x)` である。 すべてが `x in [-1,1]` で `f_n(x) in [-1,1]` となっているようすがわかる。
この漸化式は、関数 `T_n(x)` の定義域 `x` については何も言っていない。 当初の定義は `cos theta` で表される多項式だったから、`x in [-1,1]` となる実数である。 では、これ以外の実数ではどうなのか、ということが気になる人がいるだろう。 その場合も含めた式の表現は、次のようになる。
`T_n(x) = {(cos(n cos^(-1)x), if abs(x) <= 1), (cosh(n cosh^(-1)x),if x >= 1), ((-1)^n cosh(n cosh^(-1) (-x)),if x <= -1):}`
一般には、定数 `T_0(x)` と 1次式`T_1(x)` を定めたうえで、 `T_n(x)` を上記の漸化式で定める。`x` の範囲は実数である。 第1種のチェビシェフ関数では、`T_0(x)` = 1, `T_1(x) = x`である。
`T_n(x)` は次の式を満たす。
`T_n (-x) = (-1) ^ n T_n(x)`
命題3を言い換えると、命題3’ 「`n` が偶数なら `T_n(x)` が偶関数であり、
`n` が奇数なら `T_n(x)` が奇関数である」ことをいっている。この言い換えを証明する。
`T_1(x)` は奇関数であり、`T_2(x)` が偶関数であることは定義より明らか。
以下一般の `n` のとき数学的帰納法で証明する。
`n + 2` が偶数のとき、`T_(n+1)(x)` は奇関数であり、`T_n(x)` は偶関数だから
`n` が奇数のとき、`T_(n+1)(x)` は偶関数、`T_n(x)` は奇関数だから
わざわざ数学的帰納法を使わなくても、また偶奇数で場合分けしなくてもよさそうだが、 これが一番確実だろう。
`T_n(x)` の係数については次が成り立つ。
数学的帰納法を使う。なお、` T_0(x)=1,T_1(x)=x` は既知とする。
`n` が奇数のとき `T_n(x)` は奇関数だから定数項はゼロ。 `n` が偶数のとき `T_(n+2) (x) = 2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)` だから、`T_(n+2) (x)` の定数項は絶対値が1で、符号は`T_n(x)`の定数項の反対となる。 `n = 2` のとき定数項は -1 だから、一般の `n` の定数項は `(-1)^(n/2)` となる。
省略
省略
`T_(n+2) (x) = 2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)` から、`k + 1` 次の係数は `k` 次の係数の 2 倍である。 `T_1(x) = x` だから 1 次の係数は 1 である。以上から、 `n` 次の係数は `2^(n-1)`となる。
奇数と偶数を分けるのが面倒になってしまった。
チェビシェフの多項式は `cos ntheta ` を `cos theta` の多項式として表すことから生まれた。 では、`sin theta` に関してはどうだろうか。同じことができるだろうか。 たとえば、`sin n theta` を `sin theta` だけの多項式とか、`cos theta` だけの多項式とかで表せるかどうか、 ということだ。結論としてはできないが、それに似たことはできる。
`n` を1以上の自然数とする。 `sin(n theta) ` は `cos theta` の`n-1`次の多項式と `sin theta` の積であらわせる。
以下、命題5の `cos theta` の `k-1` 次多項式を `U_k(x)` と記す(`k ge 1`)。 この `U_k(x)` は第2種のチェビシェフ多項式と呼ばれる。
`n = 1` のとき、`U_1(x) = 1` とすればよい。
`n = 2` のとき、
`sin 2 theta = 2 sin theta cos theta`
つまり、`2 cos theta` と `sin theta` の積であらわせる。`U_2(x) = 2x`
`n = k-1 と n = k` のとき、題意がなり立っていると仮定する。
`sin (k+1) theta` が `cos theta` の `n` 次多項式と `cos theta` の積で表せることを示す。
加法定理より次の2式が得られる :
` sin (k+1) theta = sin k theta cos theta + cos k theta sin theta `
` sin (k-1) theta = sin k theta cos theta - cos k theta sin theta `
辺々加えて
` sin (k+1) theta + sin (k-1) theta = 2 sin k theta cos theta`
移項して
{} 内は `cos theta` の `n` 次多項式だから、証明された。
なお、
`U_k(x) = 2x U_(k-1) (x) - U_(k-2) (x)`
となり、`U_k(x)` も `T_k(x)` と同じ漸化式を満たす。
第2種のチェビシェフ多項式 `U_n(x)` の漸化式は、第1種のそれ `T_n(x)` と全く同じなのは面白い。 両者は `n = 0` と `n = 1` の初期値が違うだけである。 なお、第2種の多項式に `U` の字を用いられることが多いのは、`T` の次が `U` だったからだろう。
第1種のチェビシェフ多項式`T_n(x)`と第2種のチェビシェフ多項式`U_n(x)` の間には、 次の関係が成り立つ。
`T_n^′(x) = n U_n(x)`
`T_n(cos theta) = cos n theta` を `theta` で微分すると、
`- sin theta T_n^′(cos theta) = - n sin n theta`
ここで `sin n theta = sin theta S_n (cos theta) ` であるから、
`sin theta T_n^′(cos theta) = n sin theta S_n (cos theta)`
`sin theta != 0` のとき、両辺を `sin theta` で割れば与えられた式が得られる。 `sin theta = 0` であっても与えられた式は成り立っている。
`U_n(x)` を具体的に書き出してみよう。
なお、`U_n(x)` の定義にはゆれがある。`U_0(x) = 1, U_1(x)=2x, ...` で始める流儀もある。 これは、`n` 次の多項式の最高次数を `n` にするためである。 また、`sqrt(1-x^2) U_n(x)` を 第2種のチェビシェフ多項式とする流儀もある (リンク[3]参照)。
厳密な定義が特徴の数学でも、このように揺れがある。 ましてほかの学問では、同じことばでも複数の定義があることは多いだろう。
`T_n(x)` と `T_m(x)` の直交性を調べよう。
`T_n(x)` は次の関係を満たす :
`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) = int_0^pi cos m theta cos n theta d theta = {(0, m != n),(pi, m = n = 0),(pi/2, m = n >=1):}`
まず次の関係式を証明する :
`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) = int_0^pi cos m theta cos n theta d theta `
`x = cos theta` と置換する。定義1より、
`T_n(x) = T_n(cos theta) = cos n theta`
`T_m(x) = T_m(cos theta) = cos m theta `
である。
また、`x` の置換式から、`x` が -1 から 1 まで変化すると `theta` は `pi` から 0 まで変化する。そして
`dx/(d theta) = -sin theta -> dx = -sin theta d theta`
が成り立つ。以上から、
`int_-1^1 T_n(x) T_m(x) (dx) / (sqrt(1 - x^2)) =
int_pi^0 cos (m theta) cos (n theta) (- sin theta)/ (sin theta) d theta `
= `int_0^pi cos m theta cos n theta d theta `
`m` と `n` の値によって場合分けする。
`m = n = 0` のとき、被積分関数は定数 1 となるので、値 `pi` を取ることは自明。
`m = n >= 1 ` のとき、
`m != n` のとき、
(証明終わり)
以上をまとめて、`T_n(x)` は区間 [-1,1] 上の重み `1 / (sqrt(1-x^2))`の直交関数系を成している、という。
これから、正規直交性や関数空間についての話が広がる。正規直交性を満たすためには、 あらかじめ係数を正規性を満たすように、 すなわち適当な係数 `alpha` を掛けたチェビシェフ多項式 `tilde(T)_n(x) = alpha T_n(x)` に対して、
`int_-1^1 1 / (sqrt(1-x^2)) tilde(T)_m(x) tilde(T)_n(x) dx = delta_(mn)`
となるような `alpha` を定め規格化しなければならない。しかし、チェビシェフ多項式に関してはあまり規格化は行わないようだ。 `m = n` となる場合でも `m, n` が 0 となる場合と 1 以上となる場合で係数が違うからだろうか。
係数の不定性を解消するもう一つの方法は、モニック多項式、すなわち最高次の係数が 1 の多項式を選ぶ、というものである。 チェビシェフ多項式の場合はむしろこちらがふつうであろう。
母関数(generating fucntion)あるいは生成関数とは、 数列などの有用な情報を内部に持つ、形式的ベキ級数をいう。
チェビシェフ多項式`T_n(x)`の母関数を与える式は次の通り :
`sum_(n=0)^oo T_n (x) t^n = (1-tx) / (1 - 2tx + t^2)`
複素数 `z` の実部を `Re(z)` で表す。
よって母関数の式が証明された。
まず、母関数の取り扱い方を学ばないといけない。
(この項つづく)
チェビシェフ多項式がもつ性質として有名なミニマックス原理を調べる。
`T_n(x)` = 0 の解 `alpha` は全部で `n` 個あり、次の式で表される :
`alpha = cos (2k + 1)/(2n) pi quad (k = 0, ..., n - 1` )。
`alpha in [-1, 1]` で考える。すると `alpha = cos theta` とおけるので、 `T_n(alpha) = 0 ` と `cos n theta = 0` は同値である。よって、`k` を整数とすると、
`n theta = (2k + 1)/2 pi `
`:.theta = (2k + 1)/(2n) pi`
ここで、`k = 0, ..., n - 1` とすると、
`alpha = cos {:(2k + 1)/(2n):} pi`
となる `alpha` に対してはすべて `T_n(alpha)` となる。 一方、`T_n(x)` は `n` 次の多項式であるから、`T_n(x) = 0` には高々 `n` 個の解しかないので、 `T_n(x) = 0 ` の解は上記の式ですべて尽くされている。よって証明された。
`T_n(x) = 0` の解は、区間(-1,1)に規則的に分布していることがわかる。
`n` が特別な値であれば、四則と根号で解を表すことができる。
`n = 1` のとき、`x = 0 `
`n = 2` のとき、`x = +-sqrt(2)/2`
`n = 3` のとき、`x = +-sqrt(3)/2 , 0`
`n = 4` のとき、`x = +- sqrt(2 +- sqrt(2))/2 ` (複号任意)
`n = 5` のとき、`x = +- sqrt(10 +- 2 sqrt(5)) / 4, 0` (複号任意)
`T_n′(x) = 0` の解は全部で `n - 1` 個あり、 それらは `cos{:k/n pi:} (k = 1, 2, ..., n - 1) ` で表される。
`x in [-1,1]` では `T_n(x) = T_n(cos theta) ` とおける。
`T_n(cos theta) = cos n theta`
の両辺を `theta` で微分すると、
`sin theta T_n′(cos theta) = n sin n theta`
`T_n′(x) = 0` であるから、右辺も 0 。右辺 = 0 になるためには、 `sin n theta` が0であることが必要。よって、`k` を整数として、
`n theta = k pi`
`:. theta = k/n pi`
ここで、もとの式に以上の結果を代入して、
`sin {:k/n pi:} T_n′(cos {:k/n pi:} ) = 0`
ここで `k = 1, ..., n-1` に対して、`sin {:k/n pi:}` はすべて非ゼロであり、 したがって、`cos {:k/n pi:} = 0` である。このとき、`k/n pi (k = 1, ..., n - 1)` はすべて異なる値を取る。 `T_n′(x)` は `n - 1` 次式であるから、 したがって `cos {:k/n pi:} (k = 1, ..., n - 1)` は、 方程式 `T_n′(x) = 0` のすべての解である。(証明終わり)
`x in [-1,1]` では、`T_n(x)` のグラフは三角関数のようにみえる。 さて、これからどうなるか。
`n` 次のモニック多項式`f_n(x) = x^n + p_1x^(n-1) + ... + p_n` の `-1 <= x <=1` における最大偏位を `d` とすると `d >= 1 / (2^(n - 1))` である。 等号は、`f_n(x) = 1/ 2^(n-1)T_n(x) ` のときに成立し、かつそのときに限る。 ここで、ある区間において、関数 `f(x)` から作られる絶対値関数 `abs(f(x))` の最大値を、 この区間における関数`f(x)` の最大偏位という。 また、`n`次多項式で、最高次、すなわち`x^n` の項の係数が 1 である多項式をモニック多項式という。
まず、命題9と命題10から言えることを確認する。 `T_n´(x) = 0` の解を大きい順に `x_1 gt x_2 gt ... gt x_(n-1)` と並べると、 隣同士の `x_i` については `T_n(x_i) ` の符号が交代する。 すなわち、`T_n(x_i) * T_n(x_(i+1)) lt 0` 。また、`T_n(1) = 1`、 `T_n(-1) = (-1)^n` であることを改めて確認する。
さて、命題11を背理法で証明する。
`-1 le x le 1` において、`d = abs(f(x)) < 1 / 2^(n-1)` と仮定すると矛盾が起きることを示す。
`F(x) = f(x) - 1/2^(n-1) T_n(x)`
とおくと、さきほどの確認と `d` に関する仮定から次の不等式が成り立つ :
`F(1) < 0, F(x_1) > 0, F(x_2) < 0, ... F(-1) ≶ 0`
`F(x)` は 1 から -1 までの区間に `n+1` 個の点で符号が入れ替わる。
ただし、`F(-1)`は`n`が偶数のときに 0 より小さく、`n` が奇数のときに 0 より大きい。
これは、方程式 `F(x)=0` が 区間 [-1, 1] で n 個以上の解をもつことを意味する。
ところが、`F(x)` は`n-1`次の多項式であるから、`F(x)-=0` でなければならない。つまり、
`f_n(x) = 1/2^(n-1) T_n(x)`
である。一方、この `f_n(x)` の最大偏位は `1/2^(n-1)` である。 ところがこれは先の仮定 `abs(f_n(x)) < 1 / 2^(n-1)` と矛盾する。よって、 `-1 <= x <=1` において、`d = abs(f(x)) >= 1 / 2^(n-1)` であり、最大偏位 `d` は `1 / 2^(n-1)` 以上となる。
次に、`f(x)`の `1 <= x <=1` における最大偏位が`1/2^(n-1)` であれば、 `f(x) = 1 / 2^(n-1) T_n(x)` に限られることを示す。これは、 リンク[8]の<さらなる性質>を参照してほしい。
区間[-1,1]上で、`f(x) = x^(n+1)` に対する `n` 次の最良近似モニック多項式は `1 / 2^n T_(n+1)(x) ` であり、 最大偏位は `2^(-n)` である。ここで `f(x)` に関して `g(x)` が `n` 次の最良近似モニック多項式とは、 区間 `[-1, 1]` 内の `abs(f(x) - g(x))` の最大値が最小になるような `g(x)` のことをいう。
文献3の pp.12-13 を参照。
大学生のとき、この問題を特殊化した問題が出された。`f(x) = x^3` を [-1,1] の範囲で、 `x` の 2 次式以下の多項式で最良近似せよ、という問題だったと思う。 しかし、手も足も出なかった覚えがある。 今これだけチェビシェフ多項式のことを書いているのは、このときのトラウマなのだろう。
`abs(x) <=1` における `T_n(x)`、すなわち `y = T_n(x) = cos(n cos^(-1) x)` は次の微分方程式を満たす。
`(1-x^2)y''-xy'+n^2y=0`
`y = cos(n cos^(-1) x)` の両辺を `x` で2回微分する。
`dy/(dx) = -n (d/(dx) cos^(-1) x) sin (n cos^(-1) x) = n / sqrt(1 - x^2) sin (n cos^(-1) x)`
`(d^2y)/(dx^2) = ( n / sqrt(1 - x^2))^' sin (n cos^(-1) x) + ( n / sqrt(1 - x^2)) (sin (n cos^(-1) x))' = (nx)/((1-x^2)sqrt(1-x^2)) sin(n cos^(-1) x) - n^2/(1-x^2) cos (n cos^(-1) x)`
与えられた微分方程式の左辺を計算する。
`cos(n cos^(-1) x)` の項は次の通り。
`-n^2 cos(n cos^(-1) x) + n^2 cos(n cos^(-1) x)`
これは明らかにゼロである。 `sin(n cos^(-1) x)` の項は次の通り。
`(nx) / sqrt(1-x^2) sin(n cos^(-1) x) - (nx) / sqrt(1 - x^2) sin (n cos^(-1) x)`
これも明らかにゼロである。よって、与えられた微分方程式が成り立つ。
`y = T_n(x) = cos n theta` の辺々を2回微分することにより、次の式が得られる。
`y'' = (-n sin( n theta)) ' = -n^2 cos(n theta)`
よって、`T_n(x)` は次の微分方程式
`y'' + n^2 y = 0`
の解の一つである。
一方、`x = cos theta` とおくと、次の式が成り立つ。
`d / (d theta) = (dx) / (d theta) (d) / (dx) = -sin theta (d) / (dx)`
よって、
`d^2 / (d theta^2)` | ` = (dx) / (d theta) (d) / (dx) ((dx)/(d theta) (d) / (dx))` |
` = - sin theta (d) / (dx) ( -sin theta (d)/(dx))` | |
` = sin^2 theta (d^2) / (dx^2) - sin theta ((d)/(dx) sin theta) d / (dx) ` |
ここで、右辺の第1項に `sin^2 theta = 1 - cos^2 theta = 1 - x^2` を用い、 右辺の第2項には、`sin theta = sqrt(1 - x^2)` より得られる
`(d)/(dx) sin theta = (d)/(dx) sqrt (1 - x^2) = x / sqrt(1 - x^2)` を用いて、
`d^2 / (d theta^2) = (1 - x^2) (d^2) / (dx^2) - x (d)/(dx)`
が得られる。よって、
`(1 - x^n) T_n(x)'' - x T_n(x) + n^2 T_n(x) = 0`
(証明了)
最初は漸化式から証明しようとしたが途中であきらめた。 そこで、`T_n(x)` を表した `cos x` の式から証明することにした。
ガウスの超幾何級数(英 : Gaussian hypergeometric series)、 あるいは単に超幾何級数(エスペラント : hipergeometria serio、英 : hypergeometric series)、 超幾何関数 (エスペラント : hipergeometria funkcio、英 : hypergeometric function)とは、 次の形であらわされる関数をいう。
`F(a, b, c; z) = sum_(k=0)^oo ((a)_k(b)_k)/((c)_k k!) z^k`
ただし `(x)_n = (Gamma(x + n)) / (Gamma(x))`
次のようにも書ける。
`F(a, b, c; z) = 1 + sum_(k=1)^oo (a (a+1) ... (a+k-1) b (b+1) ... (b+k-1))/(c (c+1) ... (c+k-1) k!) z^k`
`T_n(x)` は次の超幾何級数であらわされる。
`T_n(x) = F(-n, n, 1/2; (1-x)/2)`
`F` の式を書き下ろしていこう。
`F(a, b, c; z) = 1 + (ab)/(1c) z + (a(a+1)b(b+1))/(2c(c+1)) z^2+ (a(a+1)(a+2)b(b+1)(b+2))/(6c(c+1)(c+2)) z^3 + (a(a+1)(a+2)(a+3)b(b+1)(b+2)(b+3))/(24c(c+1)(c+2)(c+3)) z^4 + ... `
`n = 0, 1, 2` としてあたりをつけてみよう。
以上、これらの値を代入してみると従来の多項式と同じであることがわかる。
`n = m` のとき、`a` は `-m` から始まり + 1 ずつ加えられるので、`z^(m+1)` の項以降は係数が 0 になる。 よって、n が有限の整数である限り、超幾何関数も有限項の和としてあらわせる。
さて、チェビシェフ多項式での超幾何級数の表現を調べよう。係数の分母にある、
`1/2, 3/2, 5/2, ... (2k-1) / 2`の 分母 2 のベキ乗と、項の係数である
`((1-x)/2)^k` の 分母の 2 のべき乗は打ち消し合う。その他、必要な計算をして次の式が得られる
`F(-n, n, 1/2, (1-x)/2) = 1 + sum_(k=1)^n ((-n)_k * (n)_k )/(k! (2k-1)!!) (1-x)^k`
(以下続く)
なぜ、上記の関数を超幾何級数というのか、わからない。 では、超がつかない、幾何級数ならわかるだろうか。 幾何級数とは等比級数の別名で、等比数列の総和のことをいう。 たとえば、`2^0 + 2^1 + 2^2 + ... + 2^n` のような級数だ。 もっともなぜこの級数が「幾何」なのかがわからない。 私の仮説は、幾何の証明は比例をもとにしているから、 比例として扱えるものを幾何というようになったのだろう、というものだ。
そうすると、項の係数にいっぱい`a, b, c`の式がついているのが「超」である所以なのだろう、 とむりやり自分を納得させている。
ゲーゲンバウアー多項式 `C_n^((alpha)) (x)` とは、区間 [-1,1] 上で定義される重み関数 `(1-x^2)^{alpha-1/2}` の直交多項式をいう。 ここで `alpha` は適当な実数である。 この多項式は、チェビシェフ多項式をはじめ、区間 [-1,1] 上の直交多項式として知られるルジャンドル多項式などを一般化した多項式として知られている。 漸化式を用いた定義は次の通りである。
`C_0^((alpha)) (x) = 1`
`C_1^((alpha)) (x) = 2 alpha x`
`C_n^((alpha)) (x) = 1/n [2x ( n + alpha - 1) C_(n-1)^((alpha)) (x) - (n + 2 alpha - 2) C_(n-2)^((alpha)) (x)]`
ここで、`alpha = 1` とした漸化式 `C_n^((1))` は、 第 2 種のチェビシェフ多項式を表す。代入してみると、実際に満たしていることがわかる。
`C_0^((1)) (x) = 1`
`C_1^((1)) (x) = 2x`
`C_n^((1)) (x) = 1/n [2x n C_(n-1)^((0)) (x) - n C_(n-2)^((0)) (x)] = 2x C_(n-1)^((0)) - C_(n-2)^((0)) (x)`
ゲーゲンバウアー多項式をさらに一般化した多項式はヤコビ多項式として知られる。 ヤコビ多項式 `P_n^((alpha","beta)) (x)` とは、区間 [-1,1] 上で定義される重み関数 `(1-x)^alpha (1+x)^beta` の直交多項式をいう。 漸化式を用いた`(n+1)`次のヤコビ多項式 `P_n^((alpha","beta))(x)` の定義は、`alpha, beta` を適当な実数とすると次の通りである。
`2(n + 1)(n + alpha + beta + 1)(2n + alpha + beta)
P_(n+1)^((alpha","beta))(x)`
`=(2n + alpha + beta + 1){(2n + alpha + beta)(2n + alpha + beta + 2)x
+ (alpha^2 − beta^2)}P_n^((alpha","beta))(x)`
`− 2(n + alpha)(n + beta)(2n + alpha + beta + 2)P_(n−1)^((alpha","beta))(x)`
ただし、
今までは `T_n(x)` を主に漸化式の形で表してきたが、 `T_n(x)` を `x`や `n` を使った四則演算やベキ乗の形で明示的に書けるだろうか。
`T_n(x)` は次の式であらわされる。ただし `i` は虚数単位である。
`T_n(x) = 1/2 ((x + i sqrt(1 - x^2) )^n + (x - i sqrt(1 - x^2))^n) = 1/2 ((x + sqrt(x^2 - 1) )^n + (x - sqrt(x^2 - 1))^n)`
`x in [-1,1]` のとき、`x = cos theta` とおくと次の式が成り立つ。
`T_n(cos theta) = cos n theta = 1/2 (e^(i n theta) + e^( -i n theta))`
また、`sin theta = +- sqrt(1 - x^2)` であるから、
(複号同順)
`x in [1, oo)` のとき、`x = cosh (t)` とおくと次の式が成り立つ。
`T_n(cosh t) = cosh nt = 1/2 (e^(nt) + e^( -nt))`
また、`cosh^2 t - sinh^2 t = 1` より `sinh t = +- sqrt(x^2 - 1)` であるから、
(複号同順)
`x in (-oo, -1]` のときは、`x = -cosh (t)` とおけばよい。あとは符号に注意して、 `x in [1, oo) ` のときとほぼ同様に証明できる。 (証明終わり)
`T_n(x)` は整数係数の多項式なのに、式で書くと平方根はおろか、虚数も出てくる。 3次方程式の解のようだ。そういえば、フィボナッチ数列も、一般項では平方根が出てくる。 漸化式で与えられている数列や関数列は、生で一般項を扱うのを避けるのがいいかもしれない。
`T_n(x)` は次の式であらわされる。ただし `|__x__|` は `x` を超えない最大の整数である。
`T_n(x) = sum_(k=0)^(|__n/2__|)(-1)^k ((n),(2k)) x^(n-2k)(1-x^2)^k `
命題15の式の両辺を2倍した次の式
`2T_n(x) = (x + i sqrt(1 - x^2) )^n + (x - i sqrt(1 - x^2))^n`
の右辺を展開する。
第1項の展開結果は次のようになる :
`((n),(0))x^n + ((n),(1)) i x^(n-1) (1-x^2)^(1/2 ) + ((n),(2))i^(2) x^(n-2)(1-x^2)^(2/2) + ... + ((n),(n-1))i^(n-1)x (1-x^2)^((n-1)/2) + ((n),(n))i^(n) (1-x^2)^(n/2)`
第2項の展開結果は次のようになる。
`((n),(0))x^n - ((n),(1)) i x^(n-1) (1-x^2)^(1/2) + ((n),(2)) i^2 x^(n-2)(1-x^2)^(2/2) + ... + (-1)^(n-1) ((n),(n-1))i^(n-1)x (1-x^2)^((n-1)/2) + (-1)^n ((n),(n))i^n(1-x^2)^(n/2)`
第1項と第2項の和をつくると、 2項係数`((n),(k))`の `k` が奇数である項はプラスマイナスが打ち消し合う。 また、`i^2 = -1` に注意すると、`n` が偶数のときは次の式となる。
`2 ((n),(0))x^n - 2 ((n),(2)) x^(n-2)(1-x^2) + cdots + 2 ((n),(n))(-1)^(n/2)(1-x^2)^(n/2)`
また、`n` が奇数のときは次のようになる。
`2 ((n),(0))x^n - 2 ((n),(2)) x^(n-2)(1-x^2) + cdots + 2 ((n),(n-1))(-1)^((n-1)/2)(1-x^2)^((n-1)/2)`
これらをまとめれば命題16の式が得られる。(証明終わり)
2項係数 `((n),(k))` は `{::}_(\n)C_k` ともつづる。 この `n` と `k` のことをそれぞれどのような用語でいうのかわからなかった。 というのは、式 `a/ b` があるとき、a は被除数、b は除数という用語があるのに、 式 `((n),(k)) = (k!(n-k)!)/(n!) ` についてはそのような用語がなさそうなのだ。 わからないことはいろいろある。
昇降演算子とはききなれない名前だが、定義はこうだ。一般に階数 `n` が定義された関数 `f_n(x)` に対し `n` が増加/減少するような演算子が存在するとき、その作用をする演算子を昇降演算子と呼ぶ。 チェビシェフ多項式にも昇降演算子がある。 以下、リンク [12] に従い昇降演算子を見ていく。
関数 `T_n(x)` に対して下記が成り立つ。
`[(1 - x^2) d/(dx) - nx] T_n(x) = -nT_(n+1)(x)`
`[(1 - x^2) d/(dx) + nx] T_n(x) = nT_(n-1)(x)`
この `[ * ]` 内が昇降演算子である。
`y = T_n(x)` は次の微分方程式を満たす
`(1-x^2)y″-xy′+n^2y=0`
両辺に`(1-x^2)` を乗じて `y′ = (dT_n(x)) / (dx)` に注意すると次の式が得られる。
`(1-x^2)^2 (d^2T_n(x)) / (dx^2) -(1-x^2) (dT_n(x)) / (dx) +n^2(1-x^2) T_n(x) =0`
左辺は次のように分解できる(リンク [12] 参照)
`[(1-x^2) d / (dx) - (n-1)x ]*[(1-x^2)d/(dx) + nx] T_n(x) +n(n-1) T_n(x) =0`
このことから、
`[(1 - x^2) d/(dx) - nx] T_n(x) = lambda_n T_(n+1)(x)`
`[(1 - x^2) d/(dx) + nx] T_n(x) = tilde lambda_n T_(n-1)(x)`
となる昇降演算子が存在することがわかる。 次に,`lambda_n,tilde lambda_n` を決めるために、 チェビシェフ多項式を次数の高い方から数項を書き下す。
`T_n(x) = n/2 sum_(m=0)^(|__n/2__|) ((-1)^m (n-m-1)!)/(m!(n-2m)!) (2x)^(n-2m)`
であることを用いて同じ次数の項を比較すれば、`lambda_n = -n, tilde lambda_n = n`が得られる。
チェビシェフ多項式は、出題者からみれば大学入試問題として絶好の題材といえる。たとえば、次の観点が挙げられる。
次の漸化式を考える。
`T_(n+2) (x) = 2 x T_(n+1)(x) - T_n(x)`
ただし `T_0(x) = 1, T_1(x) = x` とする。`T_5(x)` の式を具体的に求め、`T_5(x) = 0` を解け。
`T_5(x) = 16x^5 - 20x^3 + 5x`
`T_5(x)` = 0 を解くと、
`x ( 16 x^4 - 20x^2 + 5) = 0`
`:. x = 0` または `x = +- sqrt(10 +- 2sqrt(5)) / 4` (複号任意)
のちに見る通り、`f_n(x) = 0` の `n` 個の解 `alpha_i` はすべて実数、単根で `-1 < alpha_i < 1` を満たすという不思議な性質をもっている。
問題1の漸化式および初期値で定まる`T_n(x)` に対して 、n が 1 以上の整数であるとき、
`T_n(cos theta) = cos n theta`
を満たすことを示せ。
数学的帰納法で証明する。
`T_1(cos theta) = cos theta `
`T_2(cos theta) = 2 cos^2 theta -1 = cos 2 theta`
となり、2倍角の公式により `n = 1` と `n = 2` で成り立つ。
`T_(k - 1) (cos theta) = cos (k - 1) theta`
`T_k (cos theta) = cos k theta`
が成り立つとする。 三角関数の加法定理から
`cos (k + 1) theta + cos (k - 1) theta = cos k theta cos theta`
が成り立つ。よって、
`cos (k + 1) theta = 2 T_k(cos theta) cos theta - T_(k-1) (cos theta) = T_(k + 1) (cos theta)`
以上から、`T_n(cos theta) = cos n theta ` が `n = 1, 2, ...` で成立することが示された。
受験界で有名な「おととい帰納法」の例である。
`T_3(x)` を 3 次のチェビシェフ多項式とする。 `x^3` の係数が 4 である 3 次関数 `f(x)` が区間 `[-1, 1]` で `abs(f(x)) le 1` をみたすとき、 `f(x) - T_3(x)` は恒等的に 0 であることを示せ。
区間 `[-1, 1]` 内の任意の `x` に対し `abs(f(x)) <= 1` であるから、
`f(x) + 1 ge 0,`
` f(x) - 1 le 0`。
`F(x) = f(x) - T_3(x)` とおくと、下記の4式が成り立つ。
ところで、`f(x) = 4x^3 + ax^2 + bx + c` の形であるから
となる。右辺は高々2 次の関数だから、`x` の増加に伴って`F(x)` が 0 以上、0 以下、0 以上、0 以下と 0 を基準に変動する場合は、上記すべての不等式で等号がなりたつ場合しかない。 この結果異なる4点で3次関数の値が一致するので、`F(x) -= 0` つまり `f(x) -= T_3(x)` である。 (証明おわり)
最高次の係数 4 である 3 次関数 `f(x)` が、区間 `[-1, 1]` という壁と `abs(f(x)) <= 1` という天井と床に囲まれて暴れる姿を思い浮かべる。 `T_n(x)`のグラフも参照してほしい。 このような条件では、自動的にチェビシェフ多項式になってしまうというのが証明できてしまう。 なんとも恐ろしいことだ。では`(-oo, -1)` と `(1, oo)` ではどうなってしまうのだろうか。 それが問題4である。
なお、ある区間において、関数 `f(x)` から作られる絶対値関数 `abs(f(x))` の最大値を、 この区間における関数`f(x)` の最大偏位という。このことばを使って問題1を言い換えれば、 `x^3` の係数が 4 である 3 次関数 `f(x)` の区間 `[-1, 1]` における最大偏位が 1 であるとき、…… となる。
3 次関数 `f(x)` が区間 `(-1, 1)` で `abs(f(x)) < 1` をみたすとき、 `abs(x) > 1 ` なる任意の実数 `x` に対して `abs(f(x)) < abs(T_3(x))` を示せ。
`F(x) = f(x) + T_3(x)` とおくと、下記の4式が成り立つ。
よって、3 次方程式 `F(x) = 0` は、`[-1, -1/2), (-1/2, 1/2), (1/2, 1]` の3区間で解をもつ。 これまでの値に関する考察と `f(x)` と `T_3(x)` のグラフから、 `x < -1` で `F(x) < 0`、 `x > 1` で `F(x) > 0` がいえる。 よって、`x < -1` で `f(x) < -T_3(x)` かつ `x > 1` で `f(x) > -T_3(x)` である。
同様に `F~(x) = - f(x) + H_3(x) ` を考えることによって、
`x < -1` で `T_3(x) < f(x)` かつ `x > 1` で `f(x) < T_3(x)` であることがわかる。
これらの結果をまとめると
`x < -1` で `T_3(x) < f(x) < -T_3(x)` かつ `x > 1` で `-T_3(x) < f(x) < T_3(x)` すなわち、
`abs(x) > 1` で `abs(f(x)) < abs(T_3(x))` である。(証明おわり)
檻[-1, 1]×[-1,1]を暴れまくっていた `T_3(x)` は、 `x` が檻から出ると当然暴発する。他の3次関数より絶対値が大きくなるほどだ。 2013年9月、時の総理大臣である安倍晋三は、オリンピック招致の場で「状況はコントロールされている」、 「汚染水は港湾内で完全にブロックされている」という意味のことを英語で演説した。 [-1,1]の範囲は、チェビシェフ多項式のように値が-1と1の壁でブロックされていればよいのだが、 当然のことながら、汚染水はチェビシェフ多項式ではない。 そして上記の範囲を超えると、同じ次数の多項式ではチェビシェフ多項式の暴れ具合にはかなわないのだ。
1. は加法定理を繰り返し使えばよい。結果だけ示すと、
`f(x) = T_5(x) = 16x^5 - 20x^3 + 5x`
2. の解答
`theta = pi/10, (3pi)/10, (7pi)/10, (9pi)/ 10` はすべて `cos 5 theta = 0` を満たし、
かつ `cos theta` は非ゼロで相異なる。したがって、これら `x = cos theta` は次の方程式
解と係数の関係から、4つの解を `alpha, beta, gamma, delta` とおくと、 次の関係がなりたつ。
なお、本問の結果は `n` が一般の整数の場合に拡張されて、次の結果が得られる。 上記問題は、下記の一般化式で `m = 2` の場合にあたる。
`n in NN` とする。
`n in NN` とする。
1. `n` に対してある多項式 `p_n(x), q_n(x)` が存在して、
2. このとき、`n > 1`ならば次の等式が成立することを証明せよ。
`tan theta` も出てくるとは思わなかった。なかなかこれはこれで対称性が美しい。
`cos ((2 pi) / 7) + cos ((4 pi)/7) + cos ((6 pi)/7) =a,`
`cos ((2 pi) /7) cos ((4 pi)/7) cos ((6 pi)/7) = b`
とする.`a` と `b` の値を求めたい。以下の設問(1),(2),(3)に答えよ.
`cos {:(2 pi)/7:}` の値は具体的には表せないのに、`cos{:(2 pi)/7:} + cos{:(4 pi)/7:} + cos{:(6 pi)/7:}` の値がわかるというのは実に不思議だ。
3 次の整式 `f(x) = x^3 + x^2 + px + q` (ただし,`p != q, q != 0`),
および `g(x) = (-1) / (x + 1)` が次の条件 (*) を満たすとする。
(*) `f(x) = 0` の任意の解 `alpha` に対して `g(alpha)` も `f(x) = 0` の解である.
次の問に答えよ。
この問題の解答は、`p, q` が実数としてよいか、それとも複素数とすべきかによって、書き方が変わる。 もちろん、最初から複素数と仮定すれば実数の場合も含まれるので理想的だが、 それでは解答が大変になる。そこで、`p, q` ともに実数として考える。 なお、`p, q` ともに実数という仮定をしても、`x` や `alpha` は複素数を想定しなければならない。 なぜかというと、設問 2 で `f(x) = 0` は(中略) 3 つの実数解をもつことを示せとあるからだ。それまでは複素数解も考えに入れておかないといけない、ということだ。
1. `p, q` ともに実数とする。このとき `f(x) = 0` は少なくともの一つの実数解をもつ。この実数解を `alpha` とする。 残りの2解を `beta, gamma` とする。 (*) から、`beta = g(alpha) = -1 / (alpha + 1), gamma = g(beta) = -1 / (beta + 1) = - (alpha + 1) / alpha` となる (なお、`g(gamma) = alpha` であることが計算するとわかるので、以上で 3 つの解は尽くされている)。 さて、`alpha, beta, gamma` は互いに異なる。なぜなら、このうちのどれか 2 つが等しいと仮定すると `alpha^2 + alpha + 1 = 0` となり、 このような実数 `alpha` は存在しないので矛盾する。したがって、`alpha, beta, gamma` は互いに異なる実数である。
解と係数の関係から、次が成り立つ。
`alpha + beta + gamma = alpha - 1/(alpha + 1) - (alpha + 1)/ alpha = -1` …… ①
`alpha beta + beta gamma + gamma beta = -alpha/(alpha + 1) + (-1 / (alpha +1))(-(alpha + 1)/alpha) - alpha(alpha + 1)/ alpha = p` …… ②
`alpha beta gamma =alpha (-1/(alpha + 1)) (-(alpha+1)/alpha) = -q ` ……③
③を計算して、 `-q = 1,` すなわち `q = -1` が得られる。
②から、`p = -alpha/(alpha + 1) + 1/alpha - (alpha + 1) = -1 + {1/(alpha + 1) + 1/alpha - alpha} -1 = -2 `
({} 内は ①からゼロであることがわかる).
2. `(p, q)` = `(-2, -1)` が 1. で得られたので改めて`f(x)` を表す。
`f(x) = x^3 + x^2 -2x -1`
`f(-2) = -1, f(-1) = 1, f(0) = -1, f(2) = 7` より、区間 (-2, -1), (-1, 0), (0, 2) にそれぞれ実数解が1 つ存在する。
また、`f(x)` は 3 次方程式であるので、`f(x) = 0` は多くとも 3 個の実数解をもつ。よって題意は証明された。
3. `alpha = 2cos theta` とおく。このとき、`2cos 2theta` を `alpha` で表すと、
`2cos 2theta = 2(2cos^2 theta - 1) = alpha^2 - 2`
ここで分子は `f(alpha)` であるから 0 に等しい。よって、`2cos theta` が`f(x)`の解であれば `2cos 2theta` も `f(x)` の解である。
次に、`2cos 3theta` を `alpha` で表すと、
`2cos 3theta = 2(4cos^3 theta - 3cos theta) = alpha^3 - 3alpha`
一方、`-1/(alpha +1)` が `f(x)` の解であるから、
`g(-1/(alpha +1)) = -1 / (-1/(alpha + 1) + 1) = -1 / (alpha / (alpha + 1)) = -(alpha + 1) / alpha`
である。これから、`alpha^3 - 3alpha` と `-(alpha + 1) / alpha` が等しいことをいえばよい。
`alpha^3 - 3alpha + (alpha +1 )/alpha = (alpha^4 - 3 alpha^2 + alpha + 1)/alpha`
` = (alpha - 1)(alpha^3 + alpha^2 - 2alpha - 1)/alpha`
この値もゼロである。よって証明は完了した。
4. `2costheta` が `f(x) = 0` の解であるから、3 より `2cos2theta` も `f(x)=0` の解であり、
`2cos4theta` も `f(x)=0` の解である。($)
一方、`2cos 2theta = g(2costheta)`, `2cos3theta = g(g(2costheta))` であるから、
`2cos3theta = g(2cos2theta)`
となるので、($)の結果とあわせて
`2cos4theta = 2cos3theta`
`cos4theta = cos3theta`
`4 theta = +- 3 theta + 2n pi` (ただし、n は整数)
よって、` theta = 2npi` または `theta = (2n)/7 pi `
`0 < theta < pi` より
`theta = 2/7 pi, 4/7 pi, 6/7 pi`
なお、下記を参考にした。
本問全体は、
http://suseum.jp/gq/question/2721
を参照。
本問とチェビシェフ多項式との関連については、
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10128745995
を参照。
`f(x)=0` の解 `alpha, beta, gamma` が 関数 `g(x)` によって
`beta = g(alpha), gamma = g(beta), alpha = g(gamma)` と循環する式の特徴については、上記 suseum ほか、
安田 亨 : 入試数学 伝説の良問 100
http://ameblo.jp/kazuaha63/entry-11465828741.html
を参照。
求めるべき数が実数か複素数かが明示されていない問題の他の例は、
安田 亨 : 入試数学 伝説の良問 100参照。
後は問題のみ掲げる。ちょっとみたところチェビシェフ多項式の匂いがしないものもある。
次の連立方程式 (*) を考える。
(*) ` {(y=2x^2 - 1),(z = 2y^2 - 1),(x = 2z^2 - 1):}`
(1) `(x, y, z) = (a, b, c)` が (*) の実数解であるとき、`abs(a) le 1, abs(b) le 1, abs(c) le 1` であることを示せ。
(2) (*) は全部で 8 組の相違なる実数解をもつことを示せ。
関数 `f_n(x) (n = 1, 2, 3, ..., )` を次のように定める。
`f_1(x) = x^3 - 3x, f_2(x) = {f_1(x)}^3 - 3{f_1(x)}, f_3(x) = {f_2(x)}^3 - 3{f_2(x)}, f_(n+1)(x) = {f_n(x)}^3 - 3{f_(n-1)(x)}`
`T_n(x)` を第1種のチェビシェフ多項式とする。`sum_(n=1)^oo (1/3)^n T_n(1/2)` の値を求めよ。
`n` を 2 以上の整数とする。
(1) `(n - 1)`次多項式 `P_n(x)` と n 次多項式 `Q_n(x)` ですべての実数 `theta` に対して
`{(sin(2n theta) = n sin (2 theta) P_n(sin^2 theta)),(cos(2 n theta) = Q_n(sin^2 theta)):}`
を満たすものが存在することを数学的帰納法を用いて示せ。
(2) ` k = 1, 2, ..., n - 1` に対して
` alpha_k = (sin ((k pi) / (2n)))^-2 `
とおくと
`P_n(x) = (1 - alpha_1 x)(1 - alpha_2 x)...(1 - alpha_(n-1) x)`
となることを示せ。
(3) `sum_(k=1)^(n-1)alpha_k = (2n^2 - 2) / 3 ` を示せ。
`x` の 5 次式 `f(x)` のグラフ `C:y=f(x)` が平行な 2 直線 `L, M` のそれぞれ 2 点で接しているような `C, L, M` の実例を 1 つみつけよ。またその例について、`C` と`L` の交点と 2 つの接点との 3 点により `L`から切り取られる 2 つの線分の長さの比を求めよ。
`xy` 平面の `n` 個の点 `(cos {:(2 pi k)/n:}, sin {:(2 pi k)/n:}) (k = 1, 2, ..., n) ` を頂点とする正 `n` 角形の周および内部を `D_n` とする。 このとき、`D_3, D_4, D_5, D_6, ..., ` の共通部分の面積を求めよ。
チェビシェフ多項式`T_(n+1)(x)` と `T_n(x)`について、
`T_(n+1)(x) = 0, T_n(x) = 0`
は共通解を持たないことを示せ。
`cos{:pi/7:} - cos{:(2 pi)/7:} + cos{:(3 pi)/7:} = 1/2 ` を示せ。
`t` を実数として,数列 `a_1, a_2, ...` を `a_1 = 1, a_2 = t, a_(n+1) = 2t a_n - a_(n-1) (n >= 2) ` で定める。このとき,以下の問に答えよ。
(1) `t >= 1` ならば,`0 < a_1 < a_2 < a_3 < ... ` となることを示せ。
(2) `t <= -1` ならば,`0 < abs(a_1) < abs(a_2) < abs(a_3) < ... ` となることを示せ。
(3) `-1 < t < 1` ならば,`t = cos theta` となる `theta` を用いて, `a_n = sin {:n theta:} / (sin theta) (n >=1 ) ` となることを示せ。
平面上の運動
`ddot x = -x `
`ddot y = -omega^2 y `
を考える。`omega` が正の整数 `n` のとき、チェビシェフ多項式で書かれる軌道が存在することを示せ。
` int_0^pi log (a + b cos x) dx ` の値を求めよ。
閉区間 [-1, 1] 上において、最高次の係数が 1 である `n` 次の多項式 `P_n(x)` を考える。
` int_-1^1 abs(P_n(x)) dx ` が最小となるのは、`P_n(x)` が第2種のチェビシェフ多項式
`U_n(x) = 1/2^n sin((n + 1) cos^-1 x) / (sqrt (1 - x^2))`
のときであることを示せ。
解答は文献5の p.153 を参照のこと。 なお、問題 L の系として、次の入試問題がある。
2 次関数 `f(x) = x^2 + ax + b` に対して,`int_-1^1 abs(f(x)) dx = 1/2 ` が成立するとき、 曲線 `y = f(x)` は `x` 軸と異なる 2 点で交わり,それらの交点はともに 2 点 (-1, 0), (1, 0) の間にあることを証明せよ。 これは、文献 1 の p.302 (問題 94) である。
実数 `a, b` に対し、`f(x) = x^3 - 3ax + b` とおく。`-1 <= x <= 1` における `abs(f(x))` の最大値を `M` とする。 このとき以下の各問いに答えよ。
`p` を 3 以上の素数とする。また、`theta` を実数とする。
文献6は、グラフィクスに関する知見の宝庫である。その中に、 "Circles of Integral Radius on Integer Lattices" (by Alan W. Paeth) という解説がある。 概略を紹介しよう。以下、円周のことを単に円と呼ぶ。
ディジタル画像で正しい円を表すには、円が通る格子点がわかると便利だ。 そのような格子点を見つける規則的な方法は、単位円での `x` 座標を `abs(T_n(0.6))` にとることである。実際の格子点にするには、 単位円を `5^n` 倍に拡大する。
以下、実際の数値をあてはめて確かめよう。以下、`c_n = abs(T_n(0.6)), s_n= sqrt(1-c_n^2)` とし、`c_n, s_n, 5^n` の表を作る。
n | `c_n` | `s_n` | `5^n` | `5^n c_n` | `5^n s_n` |
---|---|---|---|---|---|
1 | 0.6 | 0.8 | 5 | 3 | 4 |
2 | 0.28 | 0.96 | 25 | 7 | 24 |
3 | 0.352 | 0.936 | 125 | 43 | 117 |
4 | 0.5376 | 0.8432 | 625 | 336 | 527 |
5 | 0.07584 | 0.99712 | 3,125 | 237 | 3,116 |
6 | 0.658944 | 0.752192 | 15,625 | 10,296 | 11,753 |
以上から、次の問題を作ることができる。n は自然数とする。
自分でもどのように証明してよいかわからない。まず 1. ならば、漸化式
`c_(n+2) = 1.2 c_(n+1) - c_n`
から `c_n` の一般項を求め、この一般項が 1 以上または -1 以下を取り得ないことをいう方針が考えられる。
あるいは、チェビシェフ多項式 `abs(T_n(x))` の極値を調べて、どんな `n` に対しても `x=0.6` では極値とはならないことを示す、 などの方針が考えられる。
2.も1と同様で、`c_n` の一般項から、この一般項が 0 を取り得ないことをいうか、 あるいはチェビシェフ多項式 `T_n(x)` の根はどんな `n` に対しても `x = 0.6` とはなりえないことをいう。
3. 以降は、一般項を出せばなんとかなるような気がする。 ちなみに、上記 `c_n` に関する漸化式から一般項を求めると次のようになる。
`c_n = 1/2 ((3+4i)/5)^n + 1/2 ((3-4i)/5)^n`
下記について取り上げる予定である。
数式の表現にはMathJaxを使っている。
グラフは SVGGraph を使っている。