応用できる数学の典型である複素関数論を説く。
絶対値に関する不等式が挙げられている。
ここで (1), (2) は絶対値の定義から自明である。(3) 以下の証明をどうするかである。 同書では次のように書かれている。
`|z|^2=x^2+y^2=(x+i y) (x-i y) = z bar(z)`
これは、左辺を複素数の範囲で因数分解して右辺を導いているが、因数分解は大変だ。 右辺から展開して左辺を導いた、とみるのがやさしい。
(4)の証明はどうするか。左側を第1の等式、右側を第2の等式と呼ぶ。 第1の等式の証明であるが、実部と虚部に分解するとややこしい。 両辺が正であるから二乗した式を証明する、とするのがよい。同じことだが、 同書では第1の等式は次のように証明されている。
(3)を用いると`|zw|^2=zwbar(z)bar(w)=zbar(z)wbar(w)=|z|^2 |w|^2` .この等式の平方根を取る。
「用いると」の意味はこうである。同じことだが、(3)で使われている文字を変え、` |alpha|^2=alpha bar(alpha)` と書き直す。この式の`alpha`に`zw`を代入すると、左側の最初の等式が得られる。 その等式の右側の順序を変更すれば最右辺が得られる。最左辺と最右辺の平方根をとって証明された、 とするのである。第2の等式の証明には第1の等式の証明を使えばいいだろう。同書ではこうだ。
`|z|=|(z/w)w|=|z/w||w|` .(第1の等式を用いた)
これには驚いた。わざわざ z を (z/w) * w の形に変形するのだ。そしてこの両辺の絶対値を取って、 右辺を分解して終わりとする。読者は(少なくとも私は)、この等式を辺々 `|w|` で割って証明すべき式を得る、 と付けたさないといけない。数学を勉強する、というのはそういうことなのだろう。 特に、この本のような薄い本であればなおさらだ。
(5)の証明は`|z+w|^2 le (|z|+|w|)^2`を示せばよい、で始まる。これはよい。左辺 - 右辺を作るのだが、 その計算で、`zbar(w)+bar(z)w-2|z||w|=2(Re(z bar(w))-|z||w|)` という式になる。ここで、 `Re(z)`という、z の実数部を表す式が得られるかがポイントだろう。私なんか、成分を持ち出したくなるのだが、 それはいけないよね。プログラミング言語のいいかたをすれば、 せっかく複素数をオブジェクトとして扱っているのだから、 プライベート変数をアクセスするための公開メソッドを用いなさい、ということだろう。もちろん、 ここで Re() 関数が公開メソッドである。 ここまでくれば見通しが立って、一般に`Re (alpha)-|(alpha)| le 0`がなりたつ(等号成立は `alpha` が 0 または正の実数の場合に限る)こと、`|z||w|=|z||barw|=|zbar(w)|`と合わせて、 先の計算式が`le 0`になることがわかる。
(6)の証明も(5)を使うのだが、私のようは凡夫の徒は文字を書き換えて、 `|alpha + beta |<=|alpha|+|beta|`を用意するのが見やすい。 ここから`alpha =w, beta =z-w`を代入する、として これから、`|z|<=|w|+|z-w|` すなわち、`|z|-|w|<=|z-w|` がわかった。 ここからはあと一息で、 `alpha=z, beta=w-z`を代入すれば、、 `|w|<=|z|+|w-z|` つまり `|w|-|z|<=|w-z|=|z-w|` である。 `|z-w|`に関してまとめて、`|z-w|>=max(|z|-|w|,|w|-|z|)=||z|-|w||`。
ここで max を介在させる発想は思いもしなかったが、言われてみればなるほどと納得できる。 数学はこのような個々の発見の積み重ねなのだろう。
私がかつて応用物理の生徒だったころ、複素関数論はまずCauthyの積分定理が重要と教わった覚えがある。 そして、いくつかの計算をした覚えもある。演習の時間には黒板の前で式を連ねて書いた覚えもある。 おまけに、私の書いた解答は冗長で、「積分路をこう取れば留数が一つだけで済みますね」と教師に注意され、 恥ずかしくなったこと、そして教師の解答も私の解答も結局答えが同じだったことに妙に感動したことまで思い出した。 そこで、私の覚えている複素関数論は途切れている。
§5.2(117ページ)で、
実数の定積分に複素積分を利用すると(中略)多くの場合不定積分を経由せずにその値を求めることができる.
私は学生時代この事実を知って感動した気がする。「気がする」としか書けないのが残念だ。
pp.41-42 に Riemann 球面の話がある。これを要約する。
複素平面上で、原点に中心をもつ半径 1 の球面を考え、この球面上の点 (0, 0, 1) を北極と呼び、`N` で表す。 `N` を除く球面上の点と複素平面上の点は 1 対 1 対応がつく。 そして、`N` は複素平面の無限遠点 `oo` と決めておく。`oo` を加えた複素平面を拡張された複素平面とよび、 拡張された複素平面を表すと考えた球面を、複素球面または Riemann 面と呼ぶ。
同じシリーズの代数幾何の本では、Riemann 球面を Riemann 球と呼んでいる。内部は問題にしていないから、球 = 球面なのだろう。
数式表現には、MathJax を用いている。
書 名 | 複素関数論I |
著 者 | 森 正武、杉原 正顕 |
発行日 | 1993年 7 月 8 日 |
発行元 | 岩波書店 |
定 価 | 円(本体、3冊合体時) |
サイズ | A6 判 ***ページ |
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