概要
「はしがき」から引用する。
(前略)本書は,複素数とその幾何学への応用を初学者向きに解説したものである.(後略)
本文中には問があり、章末には練習問題がある。巻末にはこれらの問や練習問題の解答がある。
本書はその後「新装版 数学入門シリーズ」として再発売されている。
感想
著者について
著者の片山孝次先生の名前はどこかで目にした覚えがある。ひょっとしたら、大学受験ラジオ講座(ラ講)だったかもしれない。 当時ラ講の数学といえば、寺田文行、勝浦捨三、佐藤恒雄らの諸氏がいたような覚えがある。あの頃はまじめに勉強をしていた。 今から振り返ると、あれほど真剣に勉強した時期は大学受験のときしかなかったような気がする。
玲瓏
「はしがき」から引用する。
複素数が数学の中に姿を現したのは,かなり昔のことである.それが 150 年程前,ガウスの整数論が出現するにおよんで,数の世界に完全なる市民権を獲得した. その間の事情を,高木貞治先生は次のように書いておられる.
一旦天啓に由て彼が虚数を招来するや,雲霧忽ち消散して八面玲瓏の世界が現出したのである.(数学雑談1928,共立)虚数は何故に導入されたか,これが本書の(かくれた)主題であって,それを,複素数と幾何学との交錯に見ようとしたのである. それもまた‘玲瓏’とはいわないまでも,まことに美しい世界である.
玲瓏
といえば、将棋の羽生善治九段が色紙によく揮毫することばである。そのことばが数学の本に出てくると、なぜかうれしい。
虚数単位
「はしがき」から引用する。
虚数単位 `i = sqrt(-1)` は,残念ながら現在の高校数学の課程では,2 次方程式の解を記述するためのものとしてしか導入されていない. それでは,`i` が何故に幾何学に関係するのか,あるいはさらにいえば,何故に“`i`(愛)はすべてを包むのか”,少しもわからない.
ちなみに本書は 1982 年の刊行である。確かに当時の高校数学の課程では複素数と幾何学は履修されていなかったが、現在(2026)年は履修対象である。 その代わりに、1982 年当時は行列が履修対象だった。それにしても、`i`(愛)というのが、こそばゆい。
複素平面での直線の方程式
「第4章 幾何学への応用」から、p.146 の問5を見てみよう。
問5 (4) を (1) の形に直す計算を実行せよ.
ここで、p.114 にある (1) と p.116 にある (4) をここで掲げる。なお、いわずもがなであるが、(1) では `alpha != beta` である。
(4) を (1) にするには、p.146 にある次の等式を使う。
`x_1 = (alpha + bar alpha)/2, x_2 = (beta + bar beta) / 2, x = (z + bar z) / 2`,
`y_1 = (alpha - bar alpha)/(2i), y_2 = (beta - bar beta) / (2i), y = (z - bar z) / (2i) `
ではやってみよう。(4) の分母を払って、次の式にしておく。
`(x_2 - x_1)(y - y_1) = (y_2 - y_1) (x- x_1)`
これを(4')としよう。そして馬鹿正直に、6つの式を (4') に代入する。
`((beta + bar beta) / 2 - (alpha + bar alpha)/2) ((z - bar z) / (2i)- (alpha - bar alpha)/(2i)) = ((beta - bar beta) / (2i) - (alpha - bar alpha)/(2i)) ((z + bar z) / 2- (alpha + bar alpha)/2)`
分母を払うと次のようになる。
`((beta + bar beta) - (alpha + bar alpha)) ((z - bar z) - (alpha - bar alpha)) = ((beta - bar beta) - (alpha - bar alpha)) ((z + bar z) - (alpha + bar alpha))`
`z` を変数とみなして、`z` の項と `bar z` の項、そして定数項の3つに分けて左辺と右辺を見てみる。
`((beta + bar beta) - (alpha + bar alpha)) z - ((beta + bar beta) - (alpha + bar alpha))bar z - ((beta + bar beta) - (alpha + bar alpha))(alpha - bar alpha)`
` = ((beta - bar beta) - (alpha - bar alpha)) z + ((beta - bar beta) - (alpha - bar alpha)) bar z - ((beta - bar beta) - (alpha - bar alpha))(alpha + bar alpha)`
`z` の項は `alpha` と `beta` は相殺されるが `bar alpha` と `bar beta` は残る。
`bar z` の項は `bar alpha` と `bar beta` は相殺されるが `alpha` と `beta`は残る。
定数項は `(alpha + bar alpha)(alpha - bar alpha)` の項は相殺されるが `(beta + bar beta)(alpha - bar alpha)` の項と `(beta - bar beta)(alpha + bar alpha)` の項は残る。これらを考慮して右辺を左辺に移項すると
`2(bar beta - bar alpha)z + 2(alpha - beta)bar z - (beta + bar beta)(alpha - bar alpha) + (beta - bar beta)(alpha + bar alpha) = 0`
第3項と第4項を展開して計算すると `alpha beta` と `bar alpha bar beta` は消えるが、`bar alpha beta ` と `alpha bar beta` は残る。これらから、最終的に次がいえる。
`(bar beta - bar alpha)z + (alpha - beta)bar z - alpha bar beta + bar alpha beta = 0`
この両辺に -1 を乗じると (1) が出てくる。
疲れた。
クーリッジ・大上の問題
おなじく「第4章 幾何学への応用」から、p.182 にある次の名前が気になった。
さて,複素数の効用を述べた際に,‘一般化’を挙げた.その比較的簡単な例として,クーリッジ・大上の問題を考えよう.
(後略)
このクーリッジ・大上の問題
とはなんだろう。Google AI では次のように説明している。
「Coolidge-Ogami」は、初等幾何学において円に内接する四角形(共円四角形)に関連する重要な定理を指しています。アメリカの数学者ジュリアン・クーリッジ(Julian Lowell Coolidge)と日本の数学者(主に幾何学のオリンピック問題等で知られる大上修:Osamu Ogami)にちなんで名付けられたもので、特定の9点が1つの円周上にあることを証明する幾何学の定理です。
この幾何学のオリンピック問題等で知られる大上修:Osamu Ogami
についても Google AI で調べてみたが、その結果は割愛する。それにしても、
日本の数学者が出てくるとなんだかうれしい。
ここで、クーリッジ・大上の名前は、本書の p.184 でクーリッジ・大上の定理
として出てくる。この定理の内容は省略する(一般にはクーリッジ単独の名前で、
クーリッジの定理として紹介されるのが一般的だ。)
ついでにいうと、このクーリッジ・大上の定理の名前はないものの、森毅「線形代数」でこの内容が紹介されている。
書誌情報
| 書名 | 複素数の幾何学 |
| 著者 | 片山孝次 |
| 発行日 | 1982 年 11 月 17 日 第 2 刷 |
| 発行元 | 岩波書店 |
| 定価 | 1800 円(税別) |
| サイズ | B6 版 |
| ISBN | なし |
| NDC | |
| その他 | 川口市立図書館にて借りて読む |