原著の表題は「En cheminant avec Kakeya, Voyage au coeur des mathématiques」 掛谷の問題に関して、微積分の話題を集める。掛谷の問題とは、本書 p.3 によれば次のとおりである。
1本の針を平面上、完全に1回転させることのできる図形の中で、その面積が最小となるものは何か?
私がこの本を借りてきたのは「微積分のこころに触れる旅」という書名に惹かれたからだ。
p.18 の 11)訳注では、《Le Palice en aurait dit autant!》という表現が、 「明らかな事実」を示すことについて述べられている。本書では上記引用は Le Palice となっているが、本書の他の箇所では La Palice となっているので、正しいのは、 《La Palice en aurait dit autant!》だろう。
それはそれとして、「ラパリサード」を集めてみた。
この本で掛谷の問題に対して、いくつかの候補が出されるが、それらの候補はすべて否定される。 結論は驚くべきものである。本書ではp.105に登場し、それはベシコヴィッチの定理と呼ばれる:
面積がどれほど小さくても、その領域の中で、針を1回転させることができる!
ただし、面積は0にはなっていない。どのような正の数 `epsilon gt 0` であろうと、 その面積を `epsilon` 以下にできる図形が構成できるということを言っている。
では面積を0にすることはできるのか。これはできない。しかし、p.127 で提起された新たな掛谷の問題
面積の最も小さな図形で、ありとあらゆる方向の針を含むものは存在するか?
に対しては、p.128 の次のベシコヴィッチの新定理が答となっている:
ありとあらゆる方向の針を含む面積が0の図形が存在する。
なお、本文には明記されていないが、最初に証明されたのは新定理のほうである。 訳注にはそれぞれの定理の論文情報が記されている。
掛谷の問題の定式化に関連して、掛谷の問題を満たすある図形に関して、 その図形が作る閉曲線の面積を求める問題がpp.60-79で述べられている。 日本では「2次元のグリーンの定理」にあたるものを本書では「ストークスの公式」 といっている。
本書でも《この章で紹介した「ストークスの公式」 はあらゆる次元におけるストークスの公式の特別な場合にすぎない。 この特別な場合、つまり2次元の場合のストークスの公式は通常、 グリーン-リーマン(Green-Riemann)の公式と呼ばれている。
このあたりのことはよくわからない。 この種の定理の名前に、ガウス、グリーン、ストークス、オストログラツキーの名前が入ることは知っていたが、 リーマンが入ることを初めて知った。
なお、本書で紹介されているストークスの公式は、次のとおりである。
`x in [a, b]` のとき、曲線が `(X(x), Y(x))` の軌跡として閉曲線をなしているとすると、
その閉曲線による領域の面積は
`int_a^bX(x)Y'(x)dx`
で与えられるというものである。
あまりこのような形でお目にかかることはないと思う。
このページの数式は MathJax で記述している。
p.7 脚注「三芒系」とあるが、正しくは「三芒形」だろう。事実、独立した項目として p.82 以降で述べられている。
なお、上の「ラ・パリース」も参照のこと。
書 名 | 微積分のこころに触れる旅 |
著 者 | ヴァンソン・ボレリ、ジャン-リュック・リュリエール |
発行日 | 2019 年 9 月 15 日(第1版第1刷) |
発行元 | 日本評論社 |
定 価 | 2500 円(本体) |
サイズ | A5版 170 ページ |
ISBN | 978-4-535-78896-1 |
その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
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