基礎解析 I |
作成日:2012-01-17 最終更新日: |
著者曰く、本講では,明確な概念の把握,実感のこもる事実の納得,
さらに信用できる方法の理解を目標として,応用志向の解析概論を展開したつもりである.
第1分冊では 1 変数関数の微分法について、その要点と補足を述べている。 多変数の微分法や積分法は第2分冊で登場する。
理系の大学生は解析の時間になると一部の優秀な学生を除き頭を抱える。 これが `epsilon - delta` 論法である。 この本ではハイフンを抜かして `epsilon delta` 論法としているが、 このハイフンをとった形ではあまりお目にかかったことがない。
イプシロン・デルタ論法とは、たとえば次のものである。 `x = a` の近くで定義された関数 `f(x)` と定数 `beta` について, `lim_(x -> a) f(x) = beta` であるとは, 全称記号 `AA` と特称記号 `EE` を用いて表せば次の通りである。
` AA epsilon > 0, EE delta > 0 ; |x - a| < delta, x != a => |f(x) - beta| < epsilon `
同書 p.85 では、凸関数について述べられている。
区間 `K = [a, b]` において定義された関数 `f(x)` が凸関数 (convex function) であるとは, そのグラフ上の 2 点 `P, Q` を結ぶ線分が, 曲線 `y=f(x)` の `P, Q` 間の弧よりも上方にあることである. `P=(p, f(p)), Q = (q, f(q)) (p lt q)` とおけば, 線分 `PQ` を `t : 1-t` (ただし,`0 lt t lt 1`)に分かつ点の `x` 座標および `y` 座標は, それぞれ
`x_t = (1-t)p + tq, y_t = (1 - t)f(p) + tf(q)`
であたえられるから,`f(x)` が凸であるための条件は
`y_t -= (1-t)f(p) + t f(q) >= f(x_t) -= f((1 - t)p + tq)`
が成り立つことである.
高校のころは、「上に凸」とか「下に凸」とかいっていたが、 同書を読んでいて高等な数学は上下の区別をつけないのだな、と思った次第だ(ここでは下に凸である)。
p.15 の中ごろで、次の基本定理が成り立つ.
と述べている
定理 1.1.2(上限・下限の存在) 上に有界な(下に有界な)実数の集合 `S` は上限(下限)をもつ.
(中略)この定理は,実数の厳密な定義に依存するので,本分冊では証明なしに受け入れる.(後略)
実数の厳密な定義が気になるが、私も証明なしに受け入れることにしよう。
さて、p.19 の上から1行めから6行めからを引用する:
関数 `f` が開区間 `(a, b)` で連続であるというだけでは, `x` が端点に近づいたときのふるまいについて何の制約もない. したがって,開区間で連続な関数については,有界であるかどうかもわからない. これに対して,有界閉区間で連続な関数は必ず有界である. この事情を正確に述べると次の定理の形となる. その証明は本分冊としては高度であるので巻末の補足で略記することとし, しばらくは事実として受け入れることにする.
定理 1.1.3 有界閉区間 `[a, b]` において連続な関数の値域は有界閉区間である.
ところが、本書の末尾には補足がない。 第2分冊には補足があるが、その補足を見ても、 この証明については略記どころか何らの記載もない。どうしたのだろう。 本書の他のページにもこの定理に関する注釈はない。気になってインターネットで調べてみると、 この定理 1.1.3 は、巷では有界性定理と呼ばれているらしい。この定理の証明では、ふつう ボルツァーノ=ワイヤシュトラスの定理を使うので、 そのことが「本分冊としては高度である」という判断に至ったのだろう。
では、このボルツァーノ=ワイヤシュトラスの定理はどういうものだろうか。調べてみると、 同じ定理が Weierstrass の定理として本書の p.58 で次のように紹介されている:
次の定理は,定理 1.1.2 と同じく,実数の深い性質に基づくものであるが, 証明なしに承認しよう.定理の副題の意味はこの段階では説明できないが, 定理の内容は理解できるはずである.
定理 1.3.3 (有界数列のコンパクト性に関する Weierstrass の定理) 有界な実数列は収束する部分列を含む.
この定理 1.3.3 は本書で利用されているのだろうか。本書を追っていくと、この定理を利用して別の定理が証明されている。 私の追跡はここまでとする。
p.59 の本文の下から3行目、「下極限についても同様な特長づけを行なうことができるだろう」とあるが、 正しくは「下極限についても同様な特徴づけを行なうことができるだろう」だろう。 同様に、p.86 の本文の上から5行目、「凸関数の特長づけに関して」とあるが、 正しくは「凸関数の特徴づけに関して」だろう。 特長と特徴の使い分けだが、ここの下極限とか凸関数については、長所というよりは、 性質・印というべきものだから、特徴が正しいと考える。
数式はMathJax を用いている。
書 名 | 基礎解析I |
著 者 | 藤田 宏, 今野 礼二 |
発行日 | 年 月 日 |
発行元 | 岩波書店 |
定 価 | 円 |
サイズ | |
ISBN | |
NDC |