工夫のある初等整数論。平方剰余の相互法則まで説明されている。
さきに「工夫のある」と評したのは記号のことである。 以下、`a, b, q` は整数とする。 `a, b` について `a = bq` となるような `q` が存在することを、 `a` は `b` の倍数、 `b` は `a` の約数、 `a` は `b` で割り切れる、あるいは、`b` は `a` を割り切るといい、`b | a` と書く。 これが成り立たない場合、すなわち `a, b` について `a = bq` となるような `q` が存在しない場合は \( b \not | a \) と書く。 著者はこの記号について、`a` と `b` のどちらが割るほうか、割られるほうかがわかりにくいと考えて、 `b | a` の代わりに `b quad ) quad a` とする表記を提案している。 この理由は、) 記号が筆算での割り算を連想できるからだというのだ。なるほどなあ。 もっとも本書によれば、銀林浩『初等整数論入門』はこの記号を使っているという。
この記事を書いた当初は手元にこの本がなかったが、その後川口市立図書館から本書を借りて確かめた。
次の公式が p.106 に載っていた。
`n` が正の整数とする。また `a` を `n` と互いに素な正の整数としたとき、次の式が成立する。
これを遠山は「オイレルの定理」と表記していた。私が以前、《「久留島-オイレルの公式」 と表記していたような気がする。》と書いたのは間違っていた。 ここで久留島とは、和算家であり詰将棋作家でもあった久留島義太のことである。「久留島-オイレルの公式」 は、p.73 にある別の式であり、次の式のことをいう。ここで `n` は、 `n = p_1^(alpha_1)p_2^(alpha_2)cdotsp_k^(alpha_k)` と素因数分解される自然数である :
この公式はオイレルより前に和算家
久留島義太 ( ? - 1755) によって発見されたといわれる.したがって上の公式は久留島-オイレルの公式とよぶのが正しいだろう.
p.59 でメルセンヌ数について解説している。
本書では、これまでにわかった素数のメルセンヌ数のうち最大のものは
`2^(11213)-1` であり、これは 3375 ケタの数であるという記載がある。
なお、本書の第1版第1刷は 1972 年 2 月 28 日である。
2022 年 1 月 26 日現在 Wikipedia によれば、
最大のメルセンヌ素数は `2^(82589933)-1` であり、2486万2048ケタの数である。
計算機が発達してきたことを痛感する。一方で、本書にある
メルセンヌ数のなかに無限個の素数が含まれているかどうか不明である
という記載は現在でもそのまま通用する。
数式表記には MathJax を使っている。
ii 下から 6 行目 環,休,束など
とあるが、《環,体,束など》だろう。
書名 | 初等整数論 |
著者 | 遠山 啓 |
発行日 | 2012 年 3 月 20 日 第1版第21刷発行 |
発行所 | 日本評論社 |
定価 | 3600円(本体) |
サイズ | |
ISBN | 978-4-535-60109-3 |
その他 | 相模原市立図書館、川口市立図書館で借りて読む |
NDC | 412 |
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