酒井健 : 計算に惑わされない 図形分野を通して学ぶ 線形代数入門

2026-02-18

概要

「はじめに」から引用する。

本書は,線形代数の図形面とくに高校で学ぶ図形分野とのつながりを重視して編集された線形代数の入門書です.

本文中に問があり、問のいくつかには巻末に答、ヒント、略解がある。

感想

用語

本書で使われる数学の用語で、あまりなじみがないのがある。たとえば、本書で p.116 で定義される「ベース」は、他の書籍では「基底」である(基底は初出時にカッコ書きで示されている)。 同じページで「ナチュラルベース」も定義されている。こちらは「自然基底」と呼ぶことが多い。また、p.25 で現れる「特性値」は、通常は「固有値」である。なお、特性値に対応する固有ベクトルは、 本書でも固有ベクトルである。なお、行列の階数は「ランク」という用語を使っているが、こちらはそれほど違和感がない。

線形代数固有ではない、数学全体の用語も、英語表記を使っているものがある。たとえば、集合の要素や元については、「メンバー」をよく使っている。また定理の「補題」は、本書では「レンマ」と呼んでいる。 このように、本書の著者はイギリス語(英語)を意識して使っていると思われる。

行列式の定義と性質

通常、行列式は置換を使って定義する例が他書では圧倒的に多い。そんな中、本書は、n 次正方行列の行列式を n - 1 次正方行列の行列式から定義する、いわゆる帰納的定義を使っている。 帰納的定義の式は、行列式の第1列の展開式(第1列の余因子展開・ラプラス展開)を用いている。 そしてこの定義から、行列式の多重線型性やクラーメルの公式などを導いている。私はこのように、置換を一切出さない方式を望ましいと思っている。

計算問題

本書の題名に計算に惑わされないとある。前半は、計算問題が多めだが、後半は少なめである。たとえば、`n` 次行列におけるクラーメルの公式は p.174-177 にかけて説明されているが、 この公式を用いて逆行列を計算する例題はなく、問もない(ただし、第1章で 2 次行列に関するクラーメルの公式に相当する公式はあり、例題も1題ある)。 なお、グラム-シュミットの直交化法(p.185)は説明があり、具体的な計算問題も1題だけある。この問を引用する。

問3 \( \boldsymbol{b}_1 \) = `[[1],[1]]`, \( \boldsymbol{b}_2 \) = `[[1],[2]]` を,上のやり方で直交化せよ.

誤植

p.90 、上から 5 行目、まず,次のことをが成り立ちます.とあるが、正しくは《まず,次のことが成り立ちます.》だろう。

数式表現

MathJax4の ASCIIMath と LaTeX を併用している。

書誌情報

書名計算に惑わされない 図形分野を通して学ぶ 線形代数入門
著者酒井健
発行日2019 年 3 月 25 日 第1版第1刷発行
発行元日本評論社
定価2300 円(本体)
サイズA5 判 ページ
ISBN978-4-535-78895-4
備考川口市立図書館で借りて読む