江沢 洋:漸近解析

作成日:2011-09-24
最終更新日:

概要

各種の方程式から得られる級数や積分などを、わかりやすい形で近似したいときに役立つのが漸近展開である。 この漸近展開の方法を解説している。

オイラー変換

まず知ったのが、交代級数に対するオイラー変換だった。 これは驚きである。まず、`abs(z) lt rho` で収束する次のベキ級数が与えられたとする。

`f(z) = sum_(k=0)^oo a_k z^k`

この級数の第 `M` 項から先の部分和を `S^M` と表記する。式変形によって(途中は省略)`S^M` は次のようにかける。

`S^M = sum_(k=0)^oo 1/ (1-z)^(k+1) Delta^k a_M z^(M + k)`

これをもとの級数のオイラー変換 (Euler transform) と呼ぶ。 ここで `Delta^k a_n` は第 `k` 階差で次のように定義される。

`Delta^k a_n := Delta (Delta^(k-1) a_n)`
`Delta^1 a_n := a_(n+1) - a_n`
`Delta^0 a_n := a_n`

実際には、SMを k = L で打ち切って次の式を級数の和の近似とする。

`S^(M,L) = sum_(k=0)^L 1 / ((1-z)^(k+1)) Delta^k a_M z^(M + k)`

オイラー変換の実例

オイラー変換を次の級数の和を求めるために使ってみる。

`S = 1 / 1 - 1 / 2 + 1 / 3 - 1 / 4 + cdots + (-1)^(k-1) / k + cdots `

この値を求めてみよう。`S^(M, L)` の式で、 `z = -1, M = 10, L = 3, a_k = 1 // (k + 1)` を適用する。 まず、`M - 1 = 9` 項までの和は次の式のとおり。

`S = 1/1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 + cdots - 1/10`
` = 0.645634921`

次に階差 ΔkaMを計算する。

階差の計算表
M + k + 1 1 / (M + k + 1) Δ Δ2 Δ3
11
12
13
14

上記の階差を用い、次の表でオイラー変換を計算する。

オイラー変換と和(M = 10, L = 3)
k ΔkaM ×(1/2)k+1・(-1)M+K `sum_(j=0)^k`
0
1
2
3

この右下の数、すなわち`sum_(j=0)^3` が階差による近似値だから、全体は

S10,3 = S9 + S10,3 = + =

ちなみに、S の真値は ln 2 である。 また、1 - 1/3 + 1/5 - … の式の厳密解は π / 4 だが、 これもオイラー変換が適用できることがわかる。

おそろしく小さいもの

64ページに、エイチバー(プランク定数 h を2πで割ったもの、ℏ)が出てくる。 著者は、この数を、10-34J・sという値をもつことを示し、『これは,おそろしく小さい』と言っている。 このような述懐が読めることは、うれしい。

数式の表記

数式表現は、ASCIIMathML を、 数式表示は、MathJax を使っている。 以前は MathML (プレーン)を使っていたが書き直した。 当時の表記は MathML のページに移動した。

書誌情報

発行日1995 年 4月 14日
発行元岩波書店
定 価3883円(税別)
サイズ
ISBN4-00-010524-8
備 考3分冊合計の金額
NDC

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MARUYAMA Satosi