概要
「はしがき」から引用する。
(前略)熱力学は,(中略)理工系の学生が大学に入って最初に学ぶ専門科目である. エンタルピーやエントロピーなど初めて耳にする言葉や微積分の数式を見て,抵抗感を感じる学生も多い. しかし,熱力学は,私たちの身近な生活に密着している学問であり,日頃無意識に身の回りで起こる多くの現象を熱力学で理解することができる. 熱力学は,身近な現象に対して“なるほど”と感じることができる大変ゆかいな学問である.(後略)
感想
熱力学を真面目に勉強したいと思って借りたが、借りただけで何も読まずに返却期限を迎えてしまった。 もう一回出直したい。
1章は「ミクロとマクロの世界」である。ミとマの違いだけで天地ほど違うのがこわい。演習問題では単位の変換について計算がなされている。最後の問と答を引用する。
【問 1.4 】ミクロ
ミクロとマクロを長さで区別するとすれば,私たちが目で感知することができる可視光線の波長が一つの区切りとみなすこともできる.可視光線の波長域を示せ.
(解)
おおよそ 400~800 nm.可視光線は,おおよそ短波長側が 360~400nm,長波長側が 760~830 nm の電磁波(JISの定義)なので, 1μm = 1000 nm の接頭語 μ マイクロ(micro,記号:μ)をミクロと発音することに関連する.
この文の意味が取り辛かったので自分なりに考えてみた。まず、ミクロとマクロの区別はさておいて、可視光線の波長域について調べてみる。 JIS Z 8120:2001(光学用語)の01.01.04(可視放射,可視光,可視光線)の定義では確かにそうである(ただし、短波長側、長波長側ということばではなくそれぞれ短波長限界、長波長限界ということばを使っている)。 補足すれば、短波長限界は紫色で、長波長限界は赤色である。短波長限界より短い波長の放射は紫外線で、長波長限界より長い波長の放射は赤外線である。 そういうことから、可視光を有効数字1桁でとらえれば、400~800nm ということになるのだろう。4 × 102~8 × 102 nm と記せば有効数字がわかりやすいかと思う。 さて、マクロとミクロの区別だが、可視光か否かということならば、800nm が一つの境界だろう。ただ、ちょっと覚えにくい。そこでいっそのこと切り上げて 1000 nm という、 切りのいい数字にしてみよう。すると、1000nm は 1μm だから、μ=マイクロ=ミクロとすれば覚えやすい。本書でいいたかったことは、きっとこういうことではないかと思う。
マックスウェル‐ボルツマンの速度分布
4章は「ボルツマン分布と分配関数」である。以下 p.65 から引用する。
【問 4.2 】マックスウェル‐ボルツマンの速度分布
分子の速さ `v` が,マクスウェル-ボルツマンの速度分布に従うとき,分子の速さの二乗 `v^2` の平均値を求めよ. さらに,その計算結果から,分子の平均運動エネルギーを導け.(積分公式 `int_0^oo v^4 e^(-ax^2)dx = 3/(8a^2) sqrt(pi/a)`)
速度分布を表す固有名詞の表記が「マックスウェル」か「マクスウェル」かで揺れているが、
本書 p.51 の上から 1-2 行めでは、マックスウェル‐ボルツマンの速度分布
となっている。また、積分公式が掲げられているが、
被積分関数の `v^4e^(-ax^2)` は誤りで、正しくは` x^4 e^(-ax^2)` である。
さて、解はどうなるのだろうか。同じ p.65 から引用する。
式 (4.44) より
`bar{:v^2:} = int_0^oo v^2 f(v) dv = 4pi (m/(2pikT))^(3/2) int_0^oo v^4 e^-{:(mv^2)/(2kT):} dv`
さて式(4.44) はどのような形なのだろうか。p.53 を見てみよう。
\[ f(E_j) = \frac{N_j}{N}= g_j e^{-\alpha-\beta E_j} \tag{4.44} \]
この(4.44) から `bar{:v^2:}` の式が得られるとは思えない。おそらく、p.52 にある次の (4.41) 式のほうが正しいのではないか。
\[ f(v)dv = \Big(\frac{\beta m}{2\pi} \Big)^{3/2}4 \pi v^2 e^{-\frac{\beta m v^2}{2}} dv = \big(\frac{m}{2\pi kT}\big)^\frac{3}{2}4\pi v^2 e^{-\frac{mv^2}{2kT}}dv \tag{4.41} \]
では計算してみる。以下、見やすさのため、`e^x` を `exp(x)` と表記する。
式 (4.44) より
`bar{:v^2:} = int_0^oo v^2 f(v) dv = 4pi (m/(2pikT))^(3/2) int_0^oo v^4 exp(-(mv^2)/(2kT)) dv`
`a = m/(2kT)` とおき、上記右辺の積分値を `I` とすると積分公式より、
`I = int_0^oo v^4 exp(-av^2) dv = 3/(8a^2) sqrt(pi/a)`
また、`(m/(2pikT))^(3/2) = (a/pi)^(3/2)` であることから、
`bar{:v^2:} = (a/pi)^(3/2) * 4pi * 3/(8a^2)sqrt(pi/a) = (a/pi) * 4pi * 3/(8a^2) = 3/(2a)`
`a` をもとに戻して
`bar{:v^2:} = 3/2 (2kT)/m = (3kT)/m`
きれいな式になった。あとは、`bar E = 1/2 m bar{:v^2:}` を使えばいい。
`bar E = 3/2 kT`
ヘルプホルツ自由エネルギー
7章は「自由エネルギーと化学平衡」である。以下 p.119 から引用する。
(前略)ここで,両方の寄与をまとめて簡単に表現するために,以下の新しい熱力学関数を定義する. \[ A = U - TS \tag{7.5} \] \[ G = H - TS \tag{7.6} \] `A` はヘルムホルツ自由エネルギー(Helmholtz free energy),`G` はギブズ自由エネルギー(Gibbs free energy)と呼ばれる.(後略)
ヘルムホルツ自由エネルギーに `A` を当てるのは珍しい。通常は `F` を使うと思う。
誤植
p.60 の脚注に、分解関数と状態和を `q` で表記する教科書もあるが,
とあるが、
正しくは《分配関数と状態和を `q` で表記する教科書もあるが,》だろう。
ちなみにこの脚注は、本書では,`q` を位置エネルギーの指標に用いたため,分配関数・状態和を `Z` で表記する方式を採用した.
と続いている。
数式記述
このページの数式は MathJax4 で記述している。
書誌情報
| 書名 | 熱力学‐基礎と演習‐ |
| 著者 | 山下弘巳・杉村博之・町田正人・森口勇・田邉秀二・成澤雅紀・齊藤丈靖・古南博・森浩亮・亀川孝 |
| 発行日 | 2010 年 3 月 25 日 初版第1刷 |
| 発行元 | 朝倉書店 |
| 定価 | 2900 円(本体) |
| サイズ | A5 版 ページ |
| ISBN | 978-4-254-24036-7 |
| その他 | 川口市立図書館にて借りて読む |