(前略)とにかく本書によって,記号論理学を多少なりとも身近にしていただけたら,著者にとってこんなに喜ばしいことはない.(後略)
本文には問がある。解答はない。
要再読である。
私の WEB ページの 野矢茂樹:論理学で書いたとおり、私は清水氏の授業を受けたのかもしれないが、全く忘れている。 その罪滅ぼしにこのページを書いている。
p.45 から次の注意を引用する。
注意 「`A` であるときのみ(only if)」,`B` である」は,「`A` であるとき,`B` である」の逆の表現であり,`B sup A` と記号化される.
この注意を、私はもっと早くに認識しておきたかった。というのも、野矢茂樹の「論理トレーニング」では、この注意が認識できていることが前提のトレーニング問題が随所に出てくるからだ。
pp.13-15 にトートロジーの一覧があるので、ASCIIMath や MathJax の練習がてら、 すべて書いてみた。
| 1. | `(A) \supset (A)` | 同一律 | law of identity | |
| 2. | `(A) vv \neg(A)` | 排中律 | law of the excluded middle | |
| 3. | `\neg((A) ^^ \neg(A))` | 矛盾律 | law of contradiction | |
| 4. | `A -= \neg \neg A` | 二重否定の法則 | law of double negation | |
| 5. | i) | `A ^^ A -= A` | 第1巾等律 | idempotent law |
| 5. | ii) | `A vv A -= A` | 第2巾等律 | idempotent law |
| 6. | i) | `A ^^ B -= B ^^ A` | 第1交換律 | commutative law |
| 6. | ii) | `A vv B -= B vv A` | 第2交換律 | |
| 7. | i) | `A ^^ (B ^^ C) -= (A ^^ B) ^^ C` | 第1結合律 | associative law |
| 7. | ii) | `A vv (B vv C) -= (A vv B) vv C` | 第2結合律 | |
| 8. | i) | `A ^^ (B vv C) -= (A ^^ B) vv (A ^^ C)` | 第1分配律 | distribution law |
| 8. | ii) | `A vv (B ^^ C) -= (A vv B) ^^ (A vv C)` | 第2結合律 | |
| 9. | i) | `A ^^ (A vv B) -= A` | 第1吸収律 | absorptive law |
| 9. | ii) | `A vv (A ^^ B) -= A` | 第2吸収律 | |
| 10. | i) | `\neg (A ^^ B) -= \neg A vv \neg B` | 第1ドゥ・モルガンの法則 | De Morgan's law |
| 10. | ii) | `\neg(A vv B) -= \neg A ^^ \neg B` | 第2ドゥ・モルガンの法則 | |
| 11. | `A sup B -= \neg B sup neg A` | 対偶律 | law of contraposition | |
| 12. | `(\neg A ^^ (A vv B)) sup B` | 選言的三段論法 | law of disjunctive syllogism | |
| 13. | `( A ^^ (A sup B)) sup B` | 前件肯定式 | modus ponens | |
| 14. | `((A sup B) ^^ (B sup C) sup (A sup C))` | 推移律 | transitive law | |
| 15. | i) | `(A sup (B sup C)) sup ((A ^^ B) sup C)` | 移入律 | law of importation |
| 15. | ii) | `((A ^^ B) sup C) sup (A sup (B sup C))` | 移出律 | law of exportation |
| 16. | i) | `(A ^^ B) sup A` | 縮小律 | law of simplification |
| 16. | ii) | `(A ^^ B) sup B` | 縮小律 | |
| 17. | i) | `A sup (A vv B)` | 拡大律 | law of addition |
| 17. | ii) | `B sup (A ^^ B)` | 拡大律 | |
| 18. | `((A sup C) ^^ (B sup C)) sup ((A vv B) sup C)` | 構成的両刃論法 | law of constructive dilemma | |
| 19. | i) | `A sup B -= \neg(A ^^ negB)` | ||
| 19. | ii) | `A sup B -= \neg A vv B` | ||
| 20. | `\neg A sup ( A sup B)` | |||
| 21. | i) | `A ^^ 1 -= A` | ||
| 21. | ii) | `A ^^ 0 -= 0` | ||
| 21. | iii) | `A vv 1 -= 1` | ||
| 21. | iv) | `A vv 0 -= A` |
ここで、19, 20, 21 には特に普及した名称はないという。また、21. の各式の `1` はトートロジーを、`0` は恒偽式を表す。さすがに疲れた。
p.54 からは§ 2.3 推論 - その 1 - という節が始まっている。このページにある例を引用する
例2 すべての日本人はアジア人である. ある日本人はノーベル賞受賞者である. ∴ あるアジア人はノーベル賞受賞者である.
この推論を考察するため、記号化を考える。p.55 によれば、上記の例2は
`AAx (Px sup Qx), EEx(Px ^^ Rx) -> EEx (Qx ^^ Rx)`
と記号化される。ただし、`P:` 日本人、`Q:` アジア人、`R:` ノーベル賞受賞者、である。
推論を進めるにあたって、本書では推論の書き方(書式)と5つの推論規則を採用している。5つの推論規則とは、UIのほか、 UG、EI、EG、P*である。
ここで、p.57 から推論規則のうち、EI と呼ばれる存在例化を説明する。EI は、`EEx_iAx_i` から `Aalpha_j` を導き出すことができる、という規則である。 ただし条件がある。`alpha_j` は不確定名であり、しかも当面の推論仮定においては未だ現れてこない新しい不確定名である、という条件である。この条件を EIR と呼ぶ。
不確定名とは何か。p.59 から引用する。
まず EI をとり上げよう.ここでの定式化の要点は,「不確定名」(indefinite name)と呼ばれる限定された任意性を表す新たな個体記号(i.e. 項)の導入である. すなわち `A` で限定されるあるもの(i.e. `A` である限りのもの),という一種の変項を新たに `alpha_j` という記号で表わすのである. そしてこのように `alpha_j` の導入を前提しさえすれば(これが EIR),`A alpha_j` がつねに真となることから,`EEx_iAx_i sup Aalpha_j` もつねに真となり, 結局 `EEx_iAx_i -> Aalpha_j` (i.e. EI) が正しい推論として認められるのである.
直後に続く注意も同じページから引用する。
注意 i) 各々の限定に1対1に不確定名が対応するように `alpha_j (j = 1, 2, 3, cdots)` を用意する. しかし実際には,`alpha_1, alpha_2, alpha_3` と少数で済むときは,その代りに `alpha, beta, gamma` を使うことにする. ii) 念のため,不確定名の具体例を見ておこう.たとえば先の例題2に登場する `Palpha ^^ Ralpha` の場合,その `alpha` によって, 日本人(`P`)でしかもノーベル賞受賞者(`R`)であるようなあるもの(i.e. 湯川,朝永,江崎,川端,佐藤,福井の中のだれか)が指示される.
この注意 ii) を引用したいがために長々と他の引用をしたり説明をしたりしてきた。本書発行日から考えると、不確定名の具体例は6名だったのだ。 現在(2025年10月14日)は、もっと増えている。この、もっと増えているとしかいえないところが情報弱者である。
このような記述を見て思ったのは、時事的な話題を具体例に出すと、時間的な経過に伴って記述内容の真偽が変わってしまうところがある、という当たり前のことだった。
そこで昔のある出来事を思い出した。私は会社員時代、直属の上司として仕えてきた相手はのべ 10 人を超える。 その中で嫌いな上司は何人もいたが、嫌いというだけでなく、使えない上司と思った相手もいる。ある出来事とは、その使えない上司と働いた昔のことである。
上司は「自部の活動を上層部に報告するので資料をまとめるように」と私に命令した。私は上司を信用していなかったので書き直しがないように、「この資料には自分の意見を書くべきですか」 と質問した。「その必要はない」と答えたので自分の意見を抜きで資料をまとめ、3日後に提出した。資料を見た上司は「お前の意見を入れるように」と命令した。 私は耳を疑った。3日前のことを忘れるとはなんというバカな上司だろう。忘れていなければなんという無能なのだろう。今思えば私は反抗すべきだったが、無能でも上司である。 わたしは怒る気持ちを抑え、屈辱を受け入れ、資料に自分の意見を付け足して再度提出した。
その後しばらくして、大上司(上司の上司)と私とが二人で面談する機会があった。なぜそのような機会が設けられたか、わからない。私から申し出たわけではない。大上司は私に、 君の上司に対して思うことがあるか、と尋ねたので私はこの一件を述べた。ひょっとしたら私は「このような上司とは働きたくありません」と言ったかもしれない。 ただ、この件を話したとき、私は涙ぐんでいたと記憶している。私は泣き虫だ。
その後しばらくして、私の上司は更迭され別の上司が来た。そのさらに一年後、私も降格になった。このときの上司から降格人事を告げられた時、「前の上司のせいもあったかもしれないが」 という一言を私は聴き洩らさなかった。
本書の例に戻ろう。本書ではあくまで不確定名の例が時間の経過とともに誤ってしまったということであり、例2の推論は(日本がアジアから離脱するなどの事件がない限り)成り立つ。 ところが私が受けた屈辱はたかが3日間の当人内での矛盾だったのだ。ただ、当人は無能だろうから、「3日たてば考えも変わる」というような言い訳を平気でしていただろう。
p.28 の下から2行目から1行目、トートロジー他ならず
とあるが、正しくは、《トートロジーに他ならず》だろう。
| 書名 | 記号論理学 |
| 著者 | 清水義夫 |
| 発行日 | 1984 年 11 月 30 日(初版) |
| 発行元 | 東京大学出版会 |
| 定価 | 1800 円(本体) |
| サイズ | |
| ISBN | 4-13-012018-2 |
| NDC | 410 |
| 備考 | 川口市立図書館で借りて読む |
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