理科系の実務者や学生がレポートや論文で心掛けるべき点を述べている。 理科系の人が論文を書くときに必ず引き合いに出される本。
理科系と文科系を分けたがるというのは日本独自の思考法ということであるが、 それはともかくとして気になったことを挙げる。
同書が有名になった理由は、わかりにくい文章の典型を「逆茂木型」と称したことにあると私は思う。 私も基本的には「逆茂木型」の文や文章はわかりにくいと思う。しかし、本当のわかりにくさは、 逆茂木型そのものではなく、その文書が逆茂木型であることが最初からわからないことにあるのではないか。 逆茂木型であるということが最初に提示されていれば、文章がわかりやすくなるはずだ。
なぜこのようにいうかというと、合流型の論証ではどうしても逆茂木型になってしまうからだ。
つまり、「A が成り立ち、かつ B も成り立ち、さらに C が成り立つ。よって X が成り立つ。」
という文はどのように文章を変えたところで論理は逆茂木型になってしまう。読みやすい(と感じられるようにする)文書は、
むしろ結論を先に出す、ということだろう。たとえば、
「X は成り立つ。なぜなら、A が成り立ち、かつ B も成り立ち、さらに C が成り立つからである。」
というようにする。ただしこのためには、文の順序を入れ替え、さらに順序の入れかえに応じて接続詞も変更することがあるからだ。
この方法を推し進めて、箇条書きにするという方法もある。たとえば、「X は成り立つ。その理由は次の(1) ~ (3) すべてが成り立つからである。 (1) A が成り立つ。(2) B が成り立つ。(3) C が成り立つ。
ちなみに、最後の書き方は、同書の p.141 で明かされている。また、数学の書籍ではこの最後の方法が徹底されている。
p.172 (b) 添字に添字をつける(`A_(alpha_x)`)ことは原則として許されない
数学の本では、この悪例を踏襲している例が多い。その悪例と回避するための方法を考えたい。
たとえば、解析学で「収束数列の任意の部分列は同じ極限値に収束する」という定理がある。 これに関して、次のリンク先書籍(岩波講座応用数学 基礎解析1) の p.57 にそって説明する。 この定理を証明するためには、収束数列と、その任意の部分列を表記しなければならない。 同書で用いている表記は次のとおりである。なお、収束数列は `{a_n}` と表記している。
`{a_n}` のある部分列を `{b_n}` として、`b_n` のもとの数列での番号を `nu_(n)` で表す。すなわち、
`b_1 = a_(nu(1)), b_2 = a_(nu(2)), quad cdots, quad b_n = a_(nu(n)), quad cdots `
このとき
`nu(1) lt nu(2) lt nu(3) lt cdots lt nu(n) lt cdots`
となっている。
このように書かれていれば添字に添字をつける
ことにはならない。しかし、その先を次のようにすると添字に添字をつける
ことになってしまう。
このとき、`n_k = nu(k)` と書けば、部分列は `{a_(n_k)}` と書ける。
この、添字に添字をつける
ことを「二重添字」という名前でいってよいか、私はためらってしまう。
たとえば、人によっては行列の要素を行と列のそれぞれの添字で表すこと、すなわち `a_(ij)` を二重添字といっているからだ。
こちらは、添字に添字をつける
こととは異なる。
この本を読んだとき、最初「ごく一部内容に同意しない部分もあるが、まずは参考にしている。」と書いた。 同意しない部分とは、上で書いた逆茂木型のことのほかにあったのだが、それがどこだかは忘れてしまった。
書 名 | 理科系の作文技術 |
著 者 | 木下 是雄 |
発行日 | 昭和 61 年 9 月 10日 17版 |
発行元 | 中央公論社 |
定 価 | 560 円(本体) |
サイズ | ページ、 |
NDC | 407 |
ISBN | 4-12-100624-0 |
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