入江家の5人の兄弟姉妹が物語をつなげていく表題作ほかを収める。
本書は柳広司:「二度読んだ本を三度読む」で紹介されていたので読んだ。
印象に残っている作品がいくつかある。
どうも私は文学を味わう感覚に欠けているらしい。5人の兄弟姉妹(上から男、女、男、女、男)の性格が描き分けられているにもかかわらず、 その5人が紡ぐ物語との結びつきがもう一つしっくり来なかった。それでも、一番下の末弟の性格とこの末弟が最初に描く物語との対応だけはよくわかった。 私が気になったのは、この5人が書いた物語の前に語り手が次のように断る場面である。本書 p.14 から引用する。ふりがなは省略する。
(前略)それは、私の之からの叙述の全部は、現在ことしの、入江の家の姿ではなく、 四年前に私がひそかに短篇小説に取りいれたその時の入江の家の雰囲気に他ならないという一事である。いまの入江家は、少し違っている。(中略) 四年以前にくらべて、いささか暗くなっているようである。(中略)つまり、五人の兄妹も、また私も、みんなが少しずつ大人になってしまって、礼儀も正しく、よそよそしく、いわゆる、 あの「社会人」というものになった様子で、お互い、たまに逢っても、ちっとも面白くないのである。はっきり言えば、現在の入江家は、私にとって、あまり興味がないのである。 書くならば、四年前の入江家を書きたいのである。(後略)
そうだ、大人になるとつまらなくなるのだ。ここを読んで無性に私は寂しくなった。
書名 | ろまん燈籠 |
著者 | 太宰治 |
発行日 | 年月日 |
発行元 | 新潮社 |
定価 | 円(本体) |
サイズ | ページ、文庫判 |
ISBN | 4- |
備考 | 新潮文庫、越谷市立図書館で借りて読む |
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