以下の童話を収める。
宮沢賢治の童話は一癖も二癖もあり、素直に童話を読んだという感じがしないのだ。 手放しで賛美もできないが、貶めることもできない。 私が最初に読んだのは、角川文庫版の「セロひきのゴーシュ」であった。 なぜこの本を選んだのかというと、「やまなし」があったからだ。 「やまなし」は、小学校6年生のときの国語の教科書で掲載されていたので、 妙に気になったのだ。
「やまなし」は今でも、わかるような、わからないような物語だった。 他にも印象に残っているのは、表題作のほか「寓話 猫の事務所」や「グスコーブドリの伝記」であり、 中でも圧倒的だったのが、「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」で、 宮沢賢治といえば、こればかり読んでいた。
さて、全館通読して妙なのが「けだもの運動会」だ。 冒頭と結尾が紛失してしまっている、というところからしてよい。 宮沢賢治らしいオチはどういうものだろうか。 他にも、いかにも泣かせる「貝の火」、「よだかの星」が好きだ。
簡単な前置きと、蜘蛛の伝記、なめくぢの伝記、狸の伝記からなる。
蜘蛛の伝記では、
という表記が見られる。たまたま、同時期に読んでいた夏目漱石の「それから」にも
が出てきていた。昔はよく四人のことをよったりと言っていたのだろうか。以下は本書 p.10 右から 6 行めからの引用である。
(前略)そこで
四人 は足のさきからだんだん腐れてべとべとになり(後略)
ネズミ三部作のうちの一つ。主人公のツェねずみの口癖は「
ネズミ三部作のうちの一つ。
ネズミ三部作のうちの一つ。主人公のクンねずみのほかにいろいろなネズミが出てくるが、作者はこういっている。
全体ねずみにはいろいろくしゃくしゃな名前があるのですからいちいちそれをおぼえたらとてももう大へんです。 一生ねずみの名前のことだけで頭が一杯になってしまひますからみなさんはクンといふ名前のほかはどんなのが出て来てもおぼえないでください。
主人公のクンねずみは、やたらとせきばらひ
をやる。読んでいると、相手が難しいことばを使ったときにせきばらいをするのはわかるが、
なぜ難しいことばを聞くとせきばらいをするのか、わからなかった。少し読み進めて、せきばらいをするのはどうしてかがわかった。
鼠会議員のテねずみがもう一匹のねずみと何やら難し気なことばで話している。クンねずみはそれをかげで立ちぎきをして居
る。
(前略)テねずみは
六ヶ敷 い言 をあまり沢山云ったのでもう愉快でたまらないやうでした。 クンねずみはそれが又無暗 にしゃくにさはって「ヱン、ヱン」と聞えないやうにそしてできるだけ高くせきばらひをやってにぎりこぶしをかためました。(後略)
どうやら、しゃくにさわるとせきばらいをするようだ。そういえば、以前の勤務先で、やたらとせきばらいばかりする上司がいたのを思い出した。 その上司がどういうときにせきばらいをするのかはついぞわからないままだった。
そうして、いろいろあってクンねずみは猫の子供に算術
を教えることになった。
子供らが叫びました。
「先生、早く算術を教へてください。先生。早く。」クンねずみはさあ、これはいよいよ教へないといかんと思ひましたので、口早に云ひました。
「一に一をたすと二です。」
「わかってるよ。」子供らが云ひました。
(中略)
ところがクンねずみはあんまり猫の子供らがかしこいのですっかりしゃくにさはりました。さうでせう。クンねずみは一番初めの一に一をたして二をおぼえるのに半年かかったのです。
このあとのクンねずみの運命は本編を読んでもらおう。
書名 | 新修 宮沢賢治全集 第 8 巻 童話I |
著者 | 宮沢賢治 |
発行日 | 1985年12月10日(第1版第9刷) |
発行元 | 筑摩書房 |
定価 | 1800 円(本体) |
サイズ | ?判 p.339 |
ISBN | なし |
まりんきょ学問所 > 読んだ本の記録 > 宮沢賢治:新修 宮沢賢治全集 第 8 巻 童話Ⅰ