「まえがき」から引用する:
(前略)第3に,そしてこれが本書の特色と思うが, 古典的な力学の展開にもできるだけ現代物理学の手法とか,考え方を盛り込むように努めた.(中略) 以上のような事情で,本書は単なる力学の教科書ではなく, あちらこちらに現代物理学への入り口が設けられていると自負している.
岩波では少し前に「物理入門コース」というシリーズがあったが、それとの関係はどうなっているのだろうか。 ひょっとしてこちらの「基礎物理シリーズ」のほうが程度が高いかもしれない。 また、著者はサイエンス社で「力学」という別の本を著している。そちらはきっと解析力学は含んでいないだろうが、 他にどのような点で書き分けているのだろうかという点が気になる。
著者のいう古典的な力学の展開に現代物理学の手法とか考え方を盛り込んだ例を紹介する。 まず、ディラックの `delta` 関数である。この `delta` 関数は、撃力の数学的な表現で用いられ、 p.61 では次のように記述されている:
時刻 `t'` で瞬間的に働く撃力 \( \boldsymbol{F}(t) \) はその力積を \( \boldsymbol{I} \) として,次に与えられる:\( \boldsymbol{F}(t) = \boldsymbol{I} \delta (t-t') \)
この記述を見て、今まで撃力や力積ということばに抱いていた、もやもやした感じが消えた。 高校のときの教科書や参考書に、 撃力とは「ごく短い時間 `Deltat` に加えられる力」 という説明はあったが、それが有限の時間に留まっているのがなぜか不安だったのだ。 これがデルタ関数のことだと分かれば納得がいく。ただ、 デルタ関数を出すなら、`int_(-oo)^oo f(x-a) delta(x) dx = f(a)` まで説明すればいいのにと思った。
次に盛り込
んだ例として、ブラベクトルとケットベクトルがある。p.97 から始まる記述で、
行列演算を行うベクトルのうち、列ベクトルを `|q:)` として、また行ベクトルを `(:q|` として表示している。
これだけならばわざわざブラケットを持ち出すことはないと思うが、面白い試みだと思う。
これは誤植ではないが、p.77 にある第4章の演習問題 3 で、レナード・ジョーンズ・ポテンシャル (Lennard-Jones potential)が紹介されている。私はてっきり、 レナード氏とジョーンズ氏が共同で見つけたのだと思ったが、 たまたま同じ時期に借りていた「化学の原典2」で原著論文を見たら、 レナード=ジョーンズという一人の人物だったことがわかった。西欧ではこのような人は珍しくなく、 音楽家のサン=サーンスが思い浮かぶ。氏名の表記の場合、原綴にハイフンがある場合は、 カタカナ表記にするときに = で結ぶという規則があったように思う。だから、 レナード=ジョーンズ・ポテンシャルとするのがよいように思う。
このページの数式は MathJax で記述している。
書 名 | 力学・解析力学 |
著 者 | 阿部 龍蔵 |
発行日 | 1994 年 4 月 6 日 1 刷 |
発行元 | 岩波書店 |
定 価 | 2330 円(本体) |
サイズ | A5 版 208 ページ |
ISBN | 4-00-007921-2 |
その他 | 岩波基礎物理シリーズ1、 越谷市立図書館にて借りて読む |
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