カバーの文面から引用する:「本書の学習によって, 読者は,ギリシア語文法の要領に通じ、ギリシア古典を直接読むための準備を充分に与えられるであろう.」
まず、この本は現代ギリシア語の本ではなく、古典ギリシア語の本である。 わたしは古典ギリシア語をまじめに学ぼうとしたことは一度もない。ただ、私はある方の厚意で貸してもらえた。 そんなこともあって、少しはギリシア語に親しみたい。
分量は非常に多い。章が I から LXX まであり、節が §1 から §722 まで、 また練習問題が 1 から 137 まである。
本書は独習には向かず、適切な教師がテキストとして用いることを前提としているようだ。 練習問題の解答が掲載されていないことからもわかる。また、本文の説明も簡素だ。 たとえば、古典ギリシア語の本で必ず出てくる「アオリスト」という語については、何の説明もない。 アオリストの初出は§39である。ここでは、次のような説明がある:
§39. 時称は七つあって,現在(present),未来(future), 未完了過去(imperfect),アオリスト(aorist), 現在完了(perfect),過去完了(pluperfect), 未来完了(future perfect)がこれである.(後略)
貸してくださった方は学生時代、この本をテキストにしていた古典ギリシア語の授業に出席していた。 そのため、テキストには書き込みが残っていて、アオリストのところには過去形という書き込みがある。 ではなぜ、過去形ということばを使わずにアオリストということばを使うのか。そのあたりは、 授業があれば聞けるのだろうが、授業がなければ調べるしかない。
さいわい、今はインターネットがある。アオリストで検索すると、 <文法上のアスペクトの一種で(中略)、動作が継続的であったり反復されることを表す未完了相や、 また動作が生じさせた結果に注意を向けさせる完了相とは対照的に、 アオリスト相は動作が単純で列挙的、瞬間的であることを示す>とあり、本書が参考文献に挙げられている。 なんだ。もう一度本書の索引で調べると、p.39 の§130. に次の記述がある。
§130. (前略) [アオリスト](ギリシア語省略)私は戸を閉めた(しかしその後また開いたか否かは問う所ではない). (後略)
相(アスペクト)がからむのでややこしくなる、ということがわかった。
書名 | ギリシア語入門 改訂版 |
著者 | 田中 美知太郎、松平 千秋 |
発行日 | 1986 年 2 月 20 日 第 25 刷 |
発行元 | 岩波書店 |
定価 | 1600 円 |
サイズ | 版 |
ISBN | 4-00-020125-5 |
その他 | 岩波全書 |
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