構成管理とは

作成日:2002-09-09
最終更新日:

1. ISO 9001 に出てくる構成管理

ISO 9001 が 2000 年版になって、新たにいろいろな議論がなされている。 議論の中には、聞き慣れない言葉に対する理解を深めたい、というものがある。 7.5.3 「識別及びトレーサビリティ」で、 参考として述べられている「構成管理」がそのいい例だろう。 ここでは、JIS Q 9001:2000 でどう描かれているか。

参考 ある産業分野では,構成管理(形態管理ともいう) が識別及びトレーサビリティを維持する手段である(4.3 参照)

では JIS Q 9000 の 4.3 に何が書いてあるかというと、「構成管理をやれ」と書いているだけで、 構成管理とは何かは書いていない。

そこで、「構成管理」とは何か、「ある産業分野」とは何か、 「ある産業分野」以外の分野は構成管理(形態管理)を行う必要がないのか、 いろいろ疑念がわいてくる。

ある産業分野と聞いてすぐに思い浮かべるのが、航空宇宙分野である。 そこで、JIS Q 9001 の航空宇宙分野版である JIS Q 9100 を見てみよう。 7.1 の e 項に、 製品に適切な形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)とある。 そして、7.1.3 は次のようになっている。

7.1.3 形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)

組織は、製品に適切な、次の事項を含む形態管理のプロセスを確立し、実施し、維持しなければならない

  1. 形態管理の計画
  2. 形態の識別
  3. 変更管理
  4. 形態状況の変更
  5. 形態監査

構成管理、あるいは携帯管理の定義は、JIS でははっきりしない。私なりに要約すると次のようになる。

最近初めて知ったのだが、航空機の部品は 20 万個を超えるそうだ。なるほど、 これだけの部品数では、 設計から製造、保守に至るまで一貫したプロセスで変更を管理することは大変であると、 よくわかる。

もう少し、はっきりした定義を調べてみよう。ソフトウェアの能力成熟度モデル(SW-CMM)で、 規定されている構成管理はどのようなものか。目的は次の通りである。 「プロジェクトのソフトウェアライフサイクルの全般にわたって、 ソフトウェアプロジェクトの成果物の一貫性を確立し維持することである」 そして、上記の目的を達成するために、 次のような活動が実践されることとしている。

  1. 所定の時間におけるソフトウェア構成を特定すること (ソフトウェア構成とは選択されたソフトウェア作業成果物とそれらの記述)
  2. ソフトウェア構成の変更を系統的に制御すること
  3. 構成の一貫性と追跡可能性を維持すること

ここまで述べてあれば、何をしなければいけないかがわかったような気がする。 しかし、実際にはどの程度まで行えばいいのか、よくわからないだろう。

ソフトウェアでいえば、バージョン管理(版管理)は構成管理の一分野といえるだろう。 たとえば、ファイルの登録(チェックイン)、取出し(チェックアウト)、 各版へのコメントの記録、差分情報の表示、などがある。

先に述べた JIS Q 9100 で、JIS Q 9001 に対して追加された個所をみれば、 航空宇宙業界に対する構成管理(形態管理)がわかるかもしれない。そう思い、 JIS Q 9100 を抜き出してみた。7.5.3 の斜字が、 JIS Q 9100 で追加された部分である。

7.5.3 識別およびトレーサビリティ

必要な場合は、組織は、製品実現の全過程において製品を識別しなければならない。

組織は,実際の形態と合意した形態との違いが確認できるように, 製品形態の識別を維持すること。

組織は、製品実現の全過程において、監視及び測定の事項に関連して、 製品形態の識別を維持しなければならない。

合格表示媒体(例えば,スタンプ,電子署名又はパスワード)を使用する場合, 組織は,その表示媒体の管理を確立しなければならない。

トレーサビリティが要求事項となっている場合には、組織は、製品について一層の識別を管理し、 記録を維持しなければならない。

トレーサビリティの要求事項は、次を含むことができる。

当然のことながら、なかなか厳しい仕組みである

2. 構成管理に関する議論

ISO 9001:2000 はいろいろな産業で適用される仕組みである。構成管理を広い意味で解釈すれば、 部品を組み立てることを生業とする産業は適用されるだろう。 しかし、どこまでまじめな構成管理を適用すべきかは、その産業の種類によるだろう。 航空宇宙産業は、その巨大さと要求される安全性から見て厳しい構成管理を適用されて当然だろう。 同様な意味で、原子力産業も航空宇宙産業と同等の構成管理が要求されるのではないかと思う。

私がわからないのは、建設業、 エンジニアリング業で構成管理、形態管理に相当することばがなかったのは本当なのだろうか、ということである。 形態管理に相当する仕事の領域は、個々のプラント、例えば原子力、薬品、化学、鉄鋼、 その他のプラントエンジニアリングで蓄積され、受け継がれてはいたのだろう。 しかし、エンジニアリング産業に代表されるプロジェクトを総括して体系化するとき、 初めて重要性がわかったのだろう。コンフィギュレーションマネジメントという長いそのままの単語が、 プロジェクトマネジメントで定着する日が来るのだろうか、楽しみだ。

ソフトウェアも、多かれ少なかれ構成管理が必要だ。 もちろん、航空宇宙産業や原子力産業のソフトウェアを開発・保守するときは、 当然厳密な構成管理を行わなければならない。それはわかるが、もっと重要性の低いソフトウェア、 単純なソフトウェアなら必要ないのではないか。そういう意見もある。私もそう思っている。 しかし、いずれは大がかりなソフトウェアを組まなければいけない。そのときに備えて、 少しずつ構成管理をしてみるのもいいのではないかと思う。

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MARUYAMA Satosi