コストはどこから発生するのか

作成日:2000-09-02
最終更新日:

1. コストの把握

私の担当したプロジェクトは、 品質、コスト、納期、生産性すべての意味で失敗だった。 その失敗たる由縁を示す一つの例証がある。 このプロジェクトにいくらかかったかが、概算でもわからないのだ。

そんなことはおかしい、普通の人はいうだろう。わたしもおかしいと思う。 プロジェクトのリーダーになるのだから、金勘定をしっかり行わねばならない、 プロジェクト開始前に、そう自分で銘記すべきだった。 それが、いやなことをやらずにいるうち、 金がどれだけかかったのか、わからなくなってしまった。

プロジェクトが一息ついたとき、当時の私の上司が私をつかまえてこういった。 「おまえのプロジェクトは失敗だ。どれだけ金がかかったかわかるか。 これだけかかったはずだ。積算して俺のところへもってこい。」

上の文中のこれだけ、 のところでは具体的な金額を聞かされた。 それを聞いて私は落ち込んでしまい、 積算する気力も起きなかった。結局、積算を行わないまま、 私は別の部署に異動となった。

2. 対策

では、どうすればよかったのだろうか。

具体的に把握しやすいのは、 期初に立てられた予算と消化した予算である。予算には、 設備とか、消耗品とか、外注加工費とか、旅費・交通費とか、 試験調査費、図書費等がある。 ここまですっと出てくるのは中小企業診断士の勉強をやったおかげであって、 プロジェクトリーダーの時に把握しているものではなかった。 プロジェクトリーダーが把握すべき範囲はどこまでだろうか。

設備については、ハ−ドウェア、ソフトウェアをそれぞれ購入した。 まず、計算機を一台購入した。これは確実である。 他のプロジェクトですでに使ったことがあるマシンだったが、 一点だけ違っていたのが、 高級なグラフィクスカードを利用することだった。 そうして、そのカードの機能を利用することが、 開発するソフトの条件だったのだ。 ソフトについては、確実に二種類使ったのだが、 そのうちの一つを私が購入したのか、別人が購入したのか、もう忘れている。 この点も、怪しい。

外注業者は計6社あった。 最初は5社だと思い込んでいたが、 今数えてみてピンポイントで頼んだ業者があったのを忘れたので6社となった。 なぜ忘れるかといえば記憶力に欠けるから、といえばそれまでなのだが、 熱心に外注管理をしていれば業者の数など忘れるはずがない。 (註:正確には7社だが、 そのうちの1社は私の勤務先と同じ会社のようなものだから省いた。 ここにもまずい例が潜んでいそうだ。)

旅費・交通費、試験調査費、図書費等はマネージャーまかせであり、 こちらでは勘定には入れなかった。

さて、問題なのは人件費である。 労務管理もマネージャーの仕事であり、わたしは蚊屋の外であった。 おまけに私はあまり体力がない。 朝はみなより早く来るけれど、帰りは皆より早く帰った。 そのため、部下がどの程度残業しているかがわからない。 幸いにも健康を害したものはいなかったようだが (私は人の十倍鈍感だから、実は大変だった部下がいたに違いない)、 ともあれ、誰がどの程度働いたのかをきちんと把握することができなかった。 これは、わたしが生来持っている、人への無関心があるのだろう。

人件費は、クラスによる違いはあるけれど、 平均して月これだけ、と社内では聞かされている。 それを使えば、そのソフトにつぎこんだお金がわかる。 しかし、私は人月(人数×時間)の勘定さえ しなかった。

だいたい、私とともに仕事をした人が何人いただろう、 そう思って勘定して、これだけははっきりした数がいえることに気付いた。 人数は少ない。こんなの当たり前だろうっていうでしょう。 しかし、それしかはっきりしたものが出てこない。 私がいかにプロジェクトリーダーとして失格であったかがよくわかると思う。

3. 怖い間接費

この節は後で付け足した項目であることを予めお断りする。

会社で仕事をしていると、把握すべきコストに 「製造間接費」や「販管費」がある。 これらは、直接プロジェクトに投入した工数とは別の費用である。

発生源は、自プロジェクトの場合もあれば、他プロジェクト、 他部署の場合もある。たとえば、 メンバーが使っているパソコンのセットアップに時間がかかったとしよう。 これは、特定のプロジェクトには賦課されないコストである。 さらに、多くのプロジェクトで使っている共用資源、 たとえばコンピュータのサーバーやネットワーク機器のコストがある。 また、総務や経理など、会社の共通部門のために負担すべきコストがある。 これらの費用は、結構大きい。 半年ほど、会社の金の動きを計算する仕事をしていて、 このような共通費の怖さを思い知った (2007-05-06)。

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MARUYAMA Satosi