顧客は誰か

作成日:2000-08-17
最終更新日:

私がプロジェクトリーダーとして働いたプロジェクトでは、 あるソフトウェアの新規バージョンを出荷することが 使命となっていた。新規バージョンというからには、 何か新しい機能がないといけない (ここには落とし穴がある。みなさんで考えてほしい)。 その一つの機能の実現は、ベテラン氏が担当した。 経験は私の4倍以上、知識に到っては10倍以上である。

さて、このソフトウェアは、パッケージである。 すなわち、複数の不特定の顧客に売るソフトである。 とはいえ、業界はものすごく狭い。 使っている人同士が互いに知っている業界だ。 その業界の中で、今度の売りとなる新機能に関しては、 顧客の中でも特に某氏の影響力が非常に強い。 これは、ベテラン氏が下調べした結果わかった。

このベテラン氏は業界に対して顔が利く。 早速某氏と接触し、共同開発の手配をとりつけた。 中身は、某氏の提唱するアルゴリズムを当方が実装する。 その結果を元に改良を積み重ね、 その機能を実現するソフトでNo.1の地位を獲得しよう、こういう戦略だった。

この計画はよさそうに見えた。ところが、その影響力のある某氏は多忙ゆえ、 なかなかベテラン氏と接触する機会が持てない。 それゆえ、実際の共同開発は 某氏のもとで実験をしている某々氏と組むことにした。 こちらが実装したアルゴリズムを使って某々氏が検証する、 というのがスキームであった。 しかし、実際にはうまくいかなかった。 当初の約束では、 打ち合わせの前に済ませた検証結果に基づいて議論をするはずだった。 ところが、某々氏も多忙のため、 当方との打ち合わせの時間が検証の時間にすりかわってしまい、 議論に割くための時間がとれなくなるのが常になってしまった。 スケジュールは遅れ気味になった。 ベテラン氏の嘆きは大きかった。

この場合、どうも顧客は某氏や某々氏ではなかったようである。 今から考えればもっと複数の人たちの意見を聞いたり、 他のルートを当たるなりができただろう。 事実、この機能の実現にあたり頼りになったのは、 某氏でも某々氏でもなく、別のルートから得られた文献であった。

しかし、別ルートを早めに開拓することで、 スケジュールが遅延するというリスクを回避できたろうか。 どうも私には自信がない。実際に、某氏の名前は有名であり、 「某氏と共同開発をしました」というセールストークで何本か売れたのだから。

しかし、スケジュールの遅延の何割かはこの共同開発事業にある。 どれだけの効果をもたらし、どれだけの損失を引き起こしたのか、 その定量性を把握できなかったのは、もっぱら私の責任である。

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MARUYAMA Satosi