人間工学−インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス JIS Z 8530 (ISO 13407)

作成日:2002-12-22
最終更新日:

1. インタラクティブシステムとは

各種標準の項で紹介した通り、人間工学に関しての JIS の規定がある。 わざわざ長い副題「インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス」をつけていることから、 この「インタラクティブシステム」ということばの扱いが難しいことが予想される。

この標準では、第2章の「定義」でインタラクティブシステムについて、定義されている。 重要なものを見てみよう。

インタラクティブシステム

ユーザーの仕事の達成をサポートするために,人間のユーザーからの入力を受信し, 出力を送信する,ハードウェアとソフトウェアの構成要素によって結合されたもの。

備考:“インタラクティブシステム”より“システム”という用語をしばしば使用する場合がある。

プロトタイプ

ある面で限定して作成されているが, 評価に使用できる製品若しくはシステムの一部又は全体を表現しているもの。

ユーザビリティ

ユーザーの仕事の達成をサポートするために,指定された利用の状況下で, 指定された目標を達成するために用いられる際の,有効さ,効率及びユーザーの満足度の度合い。

ちょっと見ただけではとっつきにくいが、 実際には、私たちはふだんの生活でインタラクティブシステムを利用している。 たとえば、切符や酒、たばこの自動販売機でお金を出してものを買う時、 その対象となる自動販売機はインタラクティブシステムである。他にも、 銀行などの自動預金預け払い機(ATM)、エレベータ、コンピュータ、 公衆電話、携帯電話など、 世の中はインタラクティブシステムに満ちている。この定義の備考で、 単にシステムということがある、といっているのは、 それだけ人間が介在するシステムが多い、ということを言っている。

例えば、自動販売機なら、 システムが受信する入力は人間が硬貨を入れて製品選択のボタンを押すことであり、 システムの出力は製品とおつりを出すことである。このようにしてみると、 多くのシステムはとりもなおさずインタラクティブシステムであることは明らかだろう。

そうして、システムを使ったことのあるユーザーであれば誰でも、 システムの融通のなさに憤ったことがあるに違いない。また、憤りまでいかなくとも、 不便を感じたり、利用時の違和感を覚えたりすることは何度もあるはずだ。

私も当然、システムの使いづらさに辟易したり、血が上ったりしたことが何度もある。 悲しいことに、そのような場面でそのシステムの何が悪かったか、 どのように改善したらよかったかなど、思い出すことが全然できない。 だから、システムの人間中心設計について解説するというのはおこがましいことだ。 といってしまっては続かないので、珍しく私が覚えていて、 疑問に思っていることを一つだけ述べる。鉄道(JR)の切符自動販売機の話である。

2. 実例:切符自動販売機

東日本旅客鉄道会社(JR東日本)の販売機は、 金を入れる前には金額を表すボタンの金額が点灯していない。 金を入れた後で初めて、入れた金で買える切符のボタンだけが点灯する。

ところが、東海旅客鉄道会社(JR東海)や西日本旅客鉄道会社(JR西日本)にある駅の販売機では、 金を入れる前からすべての金額のボタンが点灯している。 これには驚いて、金を入れていない状態で思わずボタンを押した。全く切符が出ないのを確認して、 この販売機は故障しているのではないかと駅係員に声を掛けようと思ったほどだ。

このように、販売機一つとっても、その表示の仕方だけで利用者を混乱させる余地がある。 ましてや、もっと複雑なシステムは山ほどある。この規格は、 複雑なシステムを使いやすくするためにどのような手順を踏めばよいだろうかを考えるヒントになる。

3. 人間中心設計活動

この規格によれば、 人間中心設計活動はシステム開発プロジェクトを通じて実施されることが望ましいとされる。 そのときの流れは、図1の通りである。

利用の状況の把握と明示
	→ユーザーと組織の要求事項の明示
	→設計による解決策の作成
	→要求事項に対する設計の評価

四角枠内が活動を示している。 図で分かる通り、活動は絶えずくり返して行われることが要請されている。 事実、規格でもそのような一文がある。 そして、活動の開始は、人間中心設計の必要性の特定から始まる。 切符の自動販売機であれば、 たとえば、「自動販売機で切符を速く、正確に買いたい」ということである。

4. 実際の活動

さて、実際の活動はどのようになるか。この規格は、 人間中心アプローチは次の4つの特徴を備えることとする、と規定している。

  1. ユーザーの積極的な参加,及びユーザー並びに仕事の要求の明確な理解
  2. ユーザーと技術に対する適切な機能配分
  3. 設計による解決の繰返し
  4. 多様な職種に基づいた設計

上記の4つの特徴を適用するときは、 対象のシステムに応じていかようにも変わるだろう。ここで、 私自身が実例を示すことができればいいのだが、 上記の原則に基づいてシステムを設計したことがあるかというとまだない。 しかし、経験的にごく一部のことがらは実践している。 それらのことがらがうまくいくこともあれば、いかないこともある。 また、この人間中心設計プロセスを実践していないこともあり、 それを実践することでうまくいくこともある。

そして、人間中心プロセスを適用することによって、経済的、社会的便益がもたらされる、 ともこの規格で触れられている(参考)。具体的には次の通りであり、 経営者に対しては特に有効だろう。

  1. 理解及び使用を容易にし、訓練及びサポート費用を削減する
  2. ユーザーの満足度を向上させ、不満及びストレスを解消する
  3. ユーザーの生産性及び組織の運用効率を改善する
  4. 製品の品質を改善し、ユーザーにアピールし、商品の競争力を有利にすることができる

さて、実例を出して考えてみよう。 システムの対象は、この「まりんきょ学問所」のホームページである。実際の考察は、 次回とする。

まりんきょ学問所 >> ISO 9000>> 人間工学−インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス JIS Z 8530 (ISO 13407)
MARUYAMA Satosi