§90 It の特別用法

作成日:2010-05-30
最終更新日:

1. 非人称の It

以下を述べる文の主語となる。

  1. 時間
  2. 距離
  3. 天候・寒暖
  4. 明暗・季節

2. It seems that ... などの構文

it と that の間には、 seem / appear のような感覚を表すことば、happen / chance のように偶然を表すことば、 occur / strike / flash ; dawn ; transpire のように知覚を表すことばが使われる。

3. 状況の it

ばくぜんとした状況を表す。主語、目的語、補語に使われる。

4. 先行の it

すわりをよくするために形式的に先に置く。具体例は後になる。予備の it 、導入の it とも呼ばれる。

5. It is 〜 that ... の強調構文

It is 〜 that ... という、英語固有の強調構文で使われることもある。 ほかの言語では語順を入れ替えたりすることで強調部分を表す(語順の入れ替えによる強調は英語にもある)。

6. 感想

英語で教育されてきた時間が長かったので、 「雨が降る」が "It rains." に、「今日は晴れだ」が "It is fine today." になることがごく自然だった。 考えてみれば、これが怪しかったのだ。 エスペラントを知って、英語の上記の文がそれぞれ Pluvas. や Hodiaŭ estas bela. といえることが最初は不思議だった。それがだんだんだんエスペラントに慣れてきて、 今では非人称の It があることが不思議に思えるようになった。

「雨が降る」をいろいろな言語というとどうなるか。第二外国語として学んだドイツ語では、Es regnet. だし、 フォーレつながりで少しかじったフランス語でも Il pleut. だから、 形式主語をおきたくなる気持ちはわかる。

一方で、フランス語を除くロマンス語、つまりイタリア語、スペイン語、ポルトガル語、 ルーマニア語などで「雨が降る」というときは It に相当するものは置かず動詞だけで賄う。 これは、動詞の活用で3人称であることがわかるから略しているだけで、 雨という自然現象だから、という理由ではない。

なお、天候の中には湿度も入る。 It is humid. (ジメジメする)が英語、Estas malseka. がエスペラントである。 エスペラントの無人称構文で使われる動詞は、雨かんむりのことばがほとんどだ。 以下は、実用エスペラント小辞典からの抜粋である。

grajli (霰が降る)
hajli (雹が降る)
nebuli(霧が立ち込めている)
neĝi(雪が降る)
pluvi(雨が降る)
plujni(霜が降りる)
rosi(露が降りる)
tondri(雷が鳴る)
venti(風が吹く)
fulmi(稲妻が光る)

日照に関する無主語動詞には次がある

mateni朝である
vesperiĝi日がくれる
noktiĝi 夜になる
krepuskiたそがれる

Thelonious Monk に Crepuscule With Nellie という曲がある。

ばくぜんとした状況の it で思い出すのは、マイケル・ジャクソンの Beat It ならびに、 この曲のパロディーであるウィアード・アル・ヤンコビックの Eat It だ。

なお It については、It を主語とする転換という節も参照されたい。


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MARUYAMA Satosi