極私的関数解析:ノルム

作成日:2013-01-23
最終更新日:

ノルムの考え方

ノルム(normo, norm)とは、(平面を含む)空間におけるベクトルの長さを一般化した(抽象化した)概念である。 ノルムを用いて、ベクトル空間に距離の概念を与えることができる。 ノルムが定義されたベクトル空間を、線形ノルム空間あるいはノルム空間と呼ぶ。

ノルムの語源はラテン語の norma であり、これはものさし、あるいは曲尺(かねじゃく)を指す。 ノルムに語感が似たことばにノルマがある。この語源はロシア語の Норма であり、 労働者に割り当てられた時間当たりの労働基準量のことをいう。 このとき、時間も、基準量も強制的な意味が込められている。こちらの語源がラテン語にあるかは不明である。

ノルムの定義

`K` を実数 `RR` または複素数 `CC` とし、`K` 上のベクトル空間 `X` を考える。 このとき、任意の係数 `alpha in K` と任意の `u, v in X` に対して、次の3つの性質が成り立つとき、 関数 `norm(*)`をノルムという。

  1. `norm(u) = 0 <=> u = 0`
  2. `norm(u + v) <= norm(u) + norm(v)`
  3. `norm(alpha u) = abs(alpha) norm(u)`

1. は独立性、2. は三角不等式(あるいは劣加法性)、3. は同次性(あるいは斉次性)と呼ばれる。 なお、1. に `norm(u) >= 0` (正定値性)を付け加えることがあるが、これは劣加法性から導くことができる。 `v = -u` として2. を適用して、左辺は
`norm(u - u) = norm(0) = 0` 、
右辺は
`norm(u) + norm(-u) = norm(u) + abs(-1)norm(u) = norm(u) + 1 norm(u) = norm(u) + norm(u) = 2 norm(u)` 。
すなわち、`0 <= 2 norm(u) ` だから `0 <= norm(u)` よって正定値性がいえる。

ひとたびノルムを決めれば、これら3つの性質はノルムの公理となる。

逆三角不等式

三角不等式から次の不等式が得られる。

`abs(norm(u) - norm(v)) le norm(u - v)`

この式は逆向きの三角不等式または逆三角不等式と呼ばれる。では、逆三角不等式を証明する。

三角不等式
`norm(u + v) le norm(u) + norm(v)`
で `v = w - u` とおいて
`norm(w) le norm(u) + norm(w - u)`
あらためて `w = v` として移項すると次の式が得られる。
`norm(v) - norm(u) le norm(v - u)`
`norm(u) - norm(v) ge - norm(u - v) cdots ①`
ここで、`norm(v-u) = norm(u-v)` を使った。
また、三角不等式で
`u = w - v`
とおくと、 `norm(w) le norm(w - v) + norm(v)`
あらためて `w = u` として移項すると次の式が得られる。
`norm(u) le norm(u - v) + norm(v)`
`norm(u) - norm(v) le norm(u - v) cdots ②`
①と②から次が成り立つ。 `abs(norm(u) - norm(v)) le norm(u-v)`
以上で証明できた。

ノルムの連続性

定理:ノルム `norm(*)` は連続である。すなわち、ノルム空間 `X` の点列 `u_n in X (n = 1, 2, cdots)` が極限 `u_0` に収束するならば、 数列 `norm(u_n)` は極限値 `norm(u_0)` に収束する。

ノルムの性質の緩和

ノルムの性質のうち、1. の独立性を除いたものを半ノルムまたはセミノルムという(エスペラント duonnormo, 英語 seminorm)。

いろいろなノルム

2 次元ベクトルのノルムは、ユークリッドノルム `norm(u)_2 = sqrt(abs(u_1)^2 + abs(u_2)^2)` 、 最大値ノルム`norm(u)_oo = max(abs(u_1), abs(u_2))` などの例がある。 ここで、座標平面 `(u_1, u_2)` 上で、ノルム `p` を固定したときにノルム `norm(u)_p` が同じとなる点の集合は閉曲線になる。これを下記に掲げる。 なお、`norm(u)_(2/3)` は三角不等式を満たさないためノルムではないが、参考のため掲示する。

`p = 2/3`

`p = 1`

`p = 3/2`

`p = 2`

`p = 4`

`p = oo`

数式とグラフの記述

このページの数式は MathML で記述している。

まりんきょ学問所極私的関数解析 > ノルム


MARUYAMA Satosi