フォーレ:夜想曲第11番嬰ヘ短調 Op.104-1

作成日:2020-08-18
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夜想曲の中で最もとっつきにくい曲である。開始部、表情は穏やかでいながら、 後打で続く持続音が一見さんお断りという雰囲気を作ってしまう。 それからの展開における転調がついていけない。大変な曲である。

さて、掲示板でこの曲が話題にのぼっていたので、つい弾いてみたくなった。 そうすると、いきなりいろいろ悩む。まず嬰ヘ短調という調性をなぜ選んだのか、 フォーレに尋ねてみたくなる。 この嬰ヘ短調という調性をもつフォーレのピアノ独奏曲は、 他には舟歌第 5 番と即興曲第 5 番しかない。 舟歌第 5 番の力強い動きや即興曲第 5 番の軽やかな動きと比べると、 こちらの夜想曲は静かもいいところだ。 調性が曲の性質を決定しているのではないことがわかる。

曲の構成は、A - B - A' - B' のように聞こえる。B も A の変形と捉えられるから、 一種の変奏曲とみてもいい。A の部分は次のように静かに始まる。

構成Aの部分は、左手の属音 Cis の持続に特徴がある。 一方右手のメロディーは、拍の頭の A と 2 拍め裏拍の Gis がある構成であり、 最初の3小節とも同型である。4小節めの2拍め裏拍で、E の音が導入される。 この音がその後の和声の流れを決めている。というのは、 嬰ヘ短調の和声的音階、あるいは旋律的上行音階では E の音は使われないからだ。 そのため、伝統的和声法からみると、 E の音が導入されたことで非常に緊張感(テンション)が高まるようだ。

さて、この4小節めでE の音がわずかに投げ込まれてFisに続き、 5小節の1拍めと2拍めと合わせられて E - Fis - G - Fis の音型が提示される。 この小さなターンも以降頻繁に登場し、組み合わされる。

構成 B の部分では、左手は A とは対照的に動きが見られる。 この左手の動きでは小節の頭の音はほとんど叩かれているので、 A に見られる不安感は少ない。 一方右手は 構成 A と同様に、拍の頭の A と 2 拍め裏拍の Gis がある構成が最初の4小節のうち、 3小節を占めている。

構成 B' では、 「主題と変奏」の第11変奏のリフレインが聞こえる。

楽譜をにらみながら演奏を聞いてみる。ドワイヤンは、音の質は好ましい。 しかし、少し間延びしているように聞こえる。それに、65 小節第1拍、 Cis であるべき右と左をどちらも C (natural)に誤って弾いている。 しかし、私も最初 C で弾いていた。自分が誤っていたからいうのではないが、 第1拍で Cis を弾くのは勇気がいる。なぜだろうか。C は Aug だからしゃれて聞こえるからか。

ユボーは、ドワイヤンに比べると少しキンキンする。 彼の過ちは、15小節の第3拍めの右手のリズムにある。ここは、楽譜には、 8分音符+16音符+16音符である。しかし彼は4分音符を3等分した三連符として弾いている。 それでは、次の16小節のこの曲中唯一の三連符が出てくる下降音型が生きない。 なお、この16小節の右手は、上が三連符を、下が二連符をひかなければならない。 高い指の独立性が求められる。この究極の姿が、ラヴェルの「クープランの墓」にある 「フーガ」であろう。

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MARUYAMA Satosi