サービスイノベーションに関する論考が特集として複数掲載されている。 なお、表題をサービス革新、としたのは英語がきらいなだけで他意はない。 英語が嫌いならサービスも役務と訳せばいいではないか、という声もあろうが、 そこはサービスということばが定着しているのでそのまま使うと決めた。
さてサービスと言われると、どんなものがサービスかことばに詰まる。 少なくとも、無料でつけられるものだけがサービスではないことは確かだ。 ある論考では、著者が次のようにサービスを定義していたので、これをもとに進めよう。
人や構造物が発揮する機能で、ユーザの事前期待に適合するもの
「事前期待」は重要なことばである。この著者によれば、事前期待は次の 5 つのタイプに整理できるという。
著者はビジネスホテルに宿泊するときの例を出している。少し例を変えて、 私なりにまとめてみよう。つれあいと私の二人が、旅行先で某温泉旅館で一泊すると決めた。 その某旅館のサービスで期待されることは何か。
まず、共通的な事前期待は、ホテルの部屋が清潔である、食事がおいしい、などである。 個別的な事前期待は、つれあいが部屋付きの内風呂が広くて寛げる場所であってほしい、 ということである。温泉旅館なら普通は内風呂ではなく温泉に行くと思うが、 つれあいは温泉が嫌いで、内風呂でないと入らないのだ。 動的な事前期待は、この日は夏で暑いから、部屋に冷たいものも用意してもらえるかというものである。 潜在的な事前期待は、こちらが全く期待していなかったサービスで、 たとえば冷蔵庫の飲み物が飲み放題、というものであろう。 間違った事前期待とは、たとえばマッサージが無料でつく、というものだろう。 なお、共通的な事前期待と個別的な事前期待は、両者を合わせて静的な事前期待とまとめることもできる。
ここからが私の意見になるが、このような分類は整理のためには有用でも、 実際の行動において行かそうとすると下手をすると無用に陥るのではないかと恐れる。
共通的な事前期待は、まず間違いないだろう。 不潔な部屋よりは清潔な部屋、まずい食事よりはうまい食事、などだろう。 品質の世界でいう「当たり前品質」である。 そこから先の個別的な事前期待がどうか、という問題がある。 十人十色、ということばがある通り、期待はさまざまだ。温泉旅館にもかかわらず、 温泉が嫌いな人を迎えることを誰が想像するだろうか。 余談だが、日本には温泉が多すぎるのも考えものである。観光地イコール温泉になってしまい、 ほかのサービスに目が向けられないのだ。 食事にしても、うまい食事であることはいいのだが、量が多すぎると困る、ということも個別事情である。 ではバイキングにすればよいかというと、バイキングでは自分で取り分けないといけないから面倒、 という人もいるのだ。
それが動的な事前期待となるとますます混迷の度が深まる。 これらは、潜在的な事前期待と間違った事前期待と紙一重という気がする。 今度はビジネスホテルの例になるが、無料でパソコンを貸出というサービスがある。 これはインターネットが接続できる環境と一緒になって提供されるという前提である。 おそらく、私にとっては潜在的な事前期待である。 ビジネスホテルで仕事をしたくはないからだ(なら期待ではないだろうというツッコミはなし)。 しかし、よく働く人にとっては動的な事前期待だろう。 潜在的な事前期待として例にあげた「冷蔵庫の飲料飲み放題」だが、 これは間違った事前期待と思った人が多いだろう。しかし、椎名誠氏の随筆によれば、 日本でも、外国でも、そのようなホテルがあったということだ。 そういうわけだから、間違った事前期待として私が想像した「無料マッサージ」も、 実施しているところがあるかもしれない(サービスとして明示してあるところはさておき)。
昔、中小企業診断士の勉強で学んだサービスの特性を思い出しつつ、 サービスは難しい、というのが結論である。
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