M’s Short Story

 このページでは自作のショート・ショートを公開します。月1くらいでUPする予定です。
Vol.162   そして誰かがいなくなった

 いつもの休日の朝食だった。でも何か違和感があった。
 都内の一軒家。都内で生まれたので実家である。大企業でもない会社勤めのしがないサラリーマンでは都内にマイホームなど夢でしかない。東京都23区内で生まれて幸いだった。
 休日の朝は家族が揃って食事をする。ご飯と味噌汁に目玉焼きとか納豆とか、昔ながらの米食だ。娘は中学1年生だから、高校受験、高校に入れば学校行事、家族より友人を優先する生活にもなっていくだろう。こうやって家族が揃うのもあと数年のことかもしれない。決して裕福とはいえないが、平凡で幸せな一家だろうと思う。
 でも今朝は何か違和感というか、何か・・・、誰かが足りないという変な感覚があった。
 娘の他に小学4年生の息子がいる。女房と母親。父親は3年前に亡くなっていた。他には誰もいない。間違いなく全員が揃っているはずだ。それでも誰かが足りないという感覚が消えない。
 モヤモヤするので、ちょっと外に出て歩いてみることにする。コンビニは家から1分のところにあるし、駅までも5分だ。通勤も1時間弱で恵まれていると思う。
 駅の売店でスポーツ新聞でも買おうかと思ったが、新聞も馬鹿みたいに値上がりして、あまり買わなくなった。しかも昨日はジャイアンツが負けた。やぱりやめておこう。
 駅前には喫煙所がある。タバコを吸う場所がどんどん無くなり、なんとも馬鹿げた話しだが、喫煙所があるというだけ恵まれているという時代だ。我が家ですら堂々とタバコが吸えない。喫煙者には肩身が狭い世の中になったものだ。
 しかし、タバコを持って来なかったことに気づく。財布も持って来なかった。携帯も持って来なかった。買うこともできない。どのみち新聞も買えなかったのだ。
 仕方がない。家に戻ることにする。ふと町内会の掲示板が目に入った。
 「大野家式場」の告知。うちである。
 どういうことだ。やはり家の誰かが亡くなったのか。変な感覚は正しかったのか。でもいつもと変わらない朝食の風景だった。
 慌てて家に戻った。母親、女房、娘、息子、やはり全員揃っている。
 式場は近所の葬儀屋のはずだ。そこに向かう。
 既に式場は準備が整っていた。設置された遺影を見る。そこにいたのは自分だった。
「なんだ。いなくなったのは俺だったか」

                       了


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