M’s Short Story

 このページでは自作のショート・ショートを公開します。月1くらいでUPする予定です。
Vol.161   カウントダウン

「あと1週間です」
 携帯電話にそんなメッセージが届いた。ただこの一文のみしかない。知らない番号からだった。
 そう言えば、確か、やはりあった。
「あと1カ月です」
 そんなメッセージが届いていたことを思い出し、履歴を探した。やはりその一文だけ。今回とは違う知らない番号からだった。3週間ほど前、当時から1カ月後は、今日から1週間後で同じ日にちを指している。
 あの時はあまり気にせず、忘れてしまっていた。もう一度来たとなると、かなり不気味ではあったが、忙しさに紛れて放置した。
「あと1日です」
 そして6日後にまたもメッセージが来た。一文のみ、また違う番号からだった。今は昼の12時、過去のメッセージも12時に来ていた。今度はかなり気になったが、どうすれば良いのかも分からず、とりあえず昼食を取るため会社を出た。戻って午後も普通に仕事をして、家に帰った。
 ずっと引っかかってはいたが、いつも通り仕事をして、残業もして、帰りにいつもの定食屋で夕食を取り、帰って、風呂に入って、缶ビールを一本飲んで、テレビを見て、いつものように過ごしているうちに
「あと12時間です」
 0時丁度にメッセージが来た。これはもう本当にやばい。かと言ってどうすることもできない。ネットを検索してみたが、何も見つからなかった。
 仕方がない。明日も会社なので、ベットに入ったがとても眠れなかった。
「あと10時間です」
 午前2時にメッセージが来た。
「あと9時間あるです」
「あと8時間です」
 1時間おきにカウントダウンが始まった。
「あと5時間です」
 午前7時、まったく眠れなかったが、眠気などなかった。朝食を食べる気にもなれない。とにかく家を出て会社に向かった。
「あと1時間です」
 打ち合わせなどもあり、その間は気が紛れたが、今は一人でデスクワークである。ついにあと1時間だ。
「あと30分です」
「あと10分です」
「あと5分です」
カウントダウンが続く。
「あと3分です」
「あと1分です」
 どこにいるべきか、外に出た方がいいのか、建物の中にいた方がいいのか。とにかく電話で会話する時のように、席を立って、階段の踊り場に行った。
「あと30秒です」
「あと10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
 そして、携帯電話の画面がプツッと真っ暗になった。電源を入れ直してみても、全く反応しなかった。
 周囲を見渡しても何も変わった気配はなかった。携帯電話が壊れるまでのカウントダウンだったのか。
 その後、ショップに行ったが、携帯電話は電池が切れたわけでもなく、新しくしてまだ1年も経っていないのだったが、完全に壊れているとのことだった。原因は不明だった。カウントダウンのことは話さなかった。他にも多数こんなケースがあれば、店員も何か言うだろうが、何も言わなかった。
 携帯電話を新しくして、バックアップはしていたので、多少データが消えてしまって困ったことはあったが、一体何だったのだろう。疑問は残ったものの。いつもの日常が戻った。
「あと1カ月です」
 そんなある日、何気なくテレビを観ていると、今度はテレビ画面に文字が出た。ニュース速報のテロップではない。ニュース番組で生放送だったが、アナウンサーもテロップには全く触れない。 「おい、今度はテレビが壊れるのかよ」
 慣れとは恐ろしいもので、怖さはなく、うんざりした気分だった。

「あと1カ月です」
 別の家のテレビにもテロップが表示されていた。この家の人は表示に気づかなかった。

「あと1カ月です」
 また別の家のテレビでもテロップが表示されていた。この家の人は気づいたが、不審に思ったものの、あまり気にすることなく、忘れてしまう。

「Last one month」
 アメリカのとある家庭でもテレビにテロップが表示された。そしてまた別の国でも。今度は彼一人の現象ではないようだった。1カ月後、一体何が起こるのだろうか?この時はまだ誰も知る由もなかった。

                       了


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