7. 西武是政線

 

         8. パルコ・ブックセンター大泉学園

              (2002.1.31.

     
 

 吉祥寺は大好きな街で、大学生の時からしょっちゅう来ていた。

 そもそもは幼少の頃、父親につれられて井の頭公園に来たことが始まりだ。父は明治大学出身だから、今思うと沿線だった。きっと若い頃来たのだろう。ぼくと妹、幼い二人の子供をつれて動物園にやって来た。今は地元でサラリーマンをしている。母親はもともと東京のひとで、ぼくは東京で生まれた。もっとも生まれただけで、育ったのは緑なす山々に囲まれた乾いた大地だ。

 何度も来た所とはいえ、今日はここを抜け出し、次の電車の街まで結ぶのだ。中央線の上を平行して走る西武線だ。アーケードから真っすぐに行くと、15分くらいで練馬区関町に入った。以前部屋探しをしていた時、「吉祥寺から徒歩15分練馬区」ということで魅力的な価格のアパートがあったが、その時は吉祥寺と練馬区が結びつかなかった。しかし本当に近かったのだ。

 向こうに木々が見えるので行ってみると、善福寺公園だった。この辺は杉並区になる。広く落ち着いた公園で、心なし訪れている人たちにも余裕が感じられた。今まで歩いてきた郊外にはない、東京人のいいところと嫌なところだ。

 向こうでトリックの練習をしている人がいた。しかしよく見ると、拳法の練習のようだった。眼鏡をかけた太めの男だ。あの拳法使いが己を強くしようというのなら、ぼくだってこの東京で強く生きていけるはずだ。

 少し歩くと青梅街道に出た。駅の入口と書いてある道を進むがなかなか現れない。駅近くとも思えない雰囲気だ。だいぶ行ってやっと上石神井駅に出た。西武新宿線のイメージそのままの垢抜けない駅だった。駅前の雰囲気はとても都内とは思えない。いやしかし、これこそ東京の原風景かもしれない、と思い直す。少なくとも嫌みは感じない。運賃もけっこう安かった。

 新青梅街道に出た。両側の木々の背も高く、堂々としていて、雰囲気が良かった。自分にとっては新青梅街道というと東久留米や小平のイメージだ。学生時代バイクでよく走った多摩郊外が大好きなのだが、ここはその近代化と懐かしさを併せ持ち、雰囲気そのままに、少し都会化した感じだった。

 旧早稲田通りを進む。段々どこを歩いているのか分らなくなり、さっき見た大泉行きの看板はどっちの方向のことを言っていたんだろうと思い始める。徐々に普通の住宅地になっていき、さっき雰囲気がいいからと道をそれたことが問題だったのかと思うが、それが散策のいいところ。仕方のないところだ。

 お寺があったので、お参りがてら中に入った。三宝寺といって、この辺の重要な場所に思われた。説明書きを見ると確かに歴史がある。少し落ち着いて外に出て、裏方に回ってみた。石神井公園だった。突然目的地が現れた。

 西武池袋線は新宿線とは一転、いいイメージがあった。演劇の卵や売れない漫画家、将来有望な音楽家、そんな芸術崩れがたくさんいそうな街を走る気がした。もちろん他の沿線も同じなのだが、やはり江古田のイメージが強いからだろうか。武蔵野音大には中学と高校それぞれの友人が行っていた。トキワ荘も沿線だ。あの、日芸もある。それに、後輩のMちゃんは大泉出身だ。

 そのイメージの象徴が石神井公園だった。きっと洒落たところに違いないと思っていた。しかし、そこに広がる池は、池というより沼だった。映画のネバーエンディング・ストーリーに出てきた沼という感じで、うら寂しく、これなら確かにワニがいそうだった。でも、そこがまた良かった。子洒落た池なんて、金持ちが自分の家の庭にでも作っていればいいのだ。

 一周し、歩いていくとバス通りに出た。細い道なのにバスがたくさん走っていた。郊外はこんな感じが多い。昔なら広かった街道は車の行き来する現在では狭く、しかし車の需要は多い。

 しばらく行くと、ついに大泉学園駅に着いた。Mちゃんの街。駅前の本屋にて、偶然見つけた安藤優子の本を読み、思いのほか良く感心してしまった。誰でも、初めて外の世界に出るときの興奮や不安や痛みや喜びは、ある種の切なさをもっていつまでも存在し、たまにぼくらの間を突き抜けていく。

 そういえばと思い、パルコ・ブックセンターを探して、発見した。都内のパルコ・ブックセンターはすべて制覇しようと思っていたのだ。目標まであと少し、やったぞ。

 駅前は再開発中で、いずれさらに大きく変貌するようだった。人は前を見ようとして振り返らない、たぶん。そこには大切なものがあるかもしれない。変わっていくものと変わらないもの。その先でぼくらを待つものとは、いったい何なんだろう。

 西武バスに乗って吉祥寺へ戻った。席が高く窓の外がよく見えた。25分位で着き、井の頭線に乗って帰った。

 ついに池袋線まで行った。だいぶ歩いてきた。

 

09. 新百合ラプソディ