BMW K シリーズ (新・横置きタイプ)


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このところ、新型バイクに驚くことなど、ついぞなかったが、新しいKには驚いた。BMWが横置きマルチエンジンのリッターバイクを出すぞ、という噂は随分前から聞いていたが。まさか、ガーターフォークを出して来るとは・・・(笑)。

なんて言うとBMWの信者に怒られそうだが。(実際、構造的には別物で、テレレバーの発展形。)フォークと車体の接続(入力ポイント)の位置的な低さは印象的だった。

もう一つ驚いたのは、エンジンの搭載位置が猛烈に低いことだ。シリンダーの前傾角は、55°に及ぶ。(え?ジェネシス?古いねキミ。)クランクは、ほぼ車軸を結ぶ線上に位置する程低く、前後方向でも、前後輪の中心に近い。(これだけシリンダー寝てれば、前には寄せられないんだが。)

低重心の車体と、前輪からの入力ポイント(フォークとフレームの接合点)が低い車体の組み合わせ。これは、Tesi で感じた可能性の、再現に近かった。

面白そうだ。興味は湧いた。


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雑誌に試乗記が出たのは、しばらく後だった。
たまたま手に取った雑誌の試乗記のライターは、山田純さんだった。
この人は、BMWに乗り慣れている。

コーナリングの写真を見て、また驚いた。

深めのバンク角、リーンウイズからアウトに寄ったライダーの姿勢、タイヤのエッジに体重を乗せたような、そこでバランスする車体の特性。

それは、旧Kシリーズのバランス特性、そのままだった。

「・・・野郎、帰って来やがった。」


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これまでBMWは、ニューフラットでシリーズを展開する一方、Kシリーズの方は縮小していた。

私は、ニューフラットは 好きではない。

システムとしては良くまとまっていて、誰でも気兼ねなく高性能に触れることができる、その点は評価するが、あの重心の高さはBMWとしては気味が悪い。低重心に由来する素性の良さが、BMWの立脚点だったはずだ。重心が高くては、ジェントルにならない。ニューフラットをジェントルに感じさせているのは、テレレバーを初めとする技術力の高さだが、物理的な弱点を、そういった周辺技術で丸め込んだような無気味さがにじみ出ていて、どうにも納得し難かった。さらに、旧OHVフラットで、良いと感じさせていた点のほとんどを、ニューフラットは受け継いでいなかった。

これでは、フラットツインにする必要など、無かったのではないか?。
BMWは一度、自分の良さを忘れたように、私には見えていた。

そして、新Kだ。
これは見事だった。
低重心を標榜するBMWのポリシーを、鮮やかに再現していた。

少し、嫉妬した。
帰る場所があるというのは、羨ましくもある。

日本車に、帰る場所などあるのだろうか。


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ほどなく、日本でも試乗車が用意された。

別に狙って行った訳でもなかったのだが、ひやかしでディーラーに立ち寄った時、既に試乗車があったのだ。すぐに乗らせてもらった。

またがってみると、人間の居場所がえぐってあり、また、旧Kのローシートのデキの悪さを忘れさせてくれるくらいはシートの造りも良く、車体の大きさに威圧感を感じることはない。すんなりと違和感なく、触れることができる。重心が低いので、左右に振った時も軽い。取り回しで、おっとー、となりそうな怖さが少ない。しかし車重はあるので、押し引きは軽くない。(昔のBMWは、みなこうだった。)

またがったままハンドルを揺すって、フロントを上下させてみる。ステアリングヘッドは、テレスコの「平行移動」とは違う動きをする。要するに四本リンクなので、どちらかというと「弧」に近い軌跡を描く。

エンジンをかける。アイドリングは、「グワラワラ・・」と多少ばらついた感じの、不機嫌そうな回り方。これも旧Kにそっくりだ。

走り出す。

低速でも、ステアバランスに不安は無い。軽くロールを切ると、相当な低重心であることを感じるが、車体が低く長いので、以前のKように、すごく高い位置から下の方を伺う感じの、「人馬の分離感」はない。緩やかに変化するバランスの遷移を、ちゃんと身近に感じていられる。

レバー、グリップの操作系は軽い。軽いのでナメてかかり、アクセルを不用意にひねったりすると、エンジンは物凄いパワーを出してくる。燃焼感や臨場感なしに力いっぱい吹け上がる、インジェクション車そのものの感覚だ。しかしマネージメントは良くできている。扱い辛さなど、微塵も無い。

しかし、このパワーは凄かった。意識していないと、もう首が後ろに反ってしまうくらいの加速なのだ。私のような、VMキャブに加速ポンプのレシプロライダーは、この、半導体チップがアクセル開度をパワーに変換するプロセスがかもす、無表情で暴力的な感覚に、少し時間をかけて慣れる必要があった。

コーナリング特性は穏やかだ。昨今のスーパースポーツのように「強烈に曲がる」感覚はないが、この長んがいホイールベースが信じられないくらいに、自然に良く曲がってくれる。前後輪が、あうんの呼吸で仕事を分担している感じ。多分これは、デュオレバー云々よりも、重量配分・動バランスが作り出す感覚なのだろう。

重心は低くて、ホイールベースの真ん中近くに位置している。車体全体が低くて、サスと車体の接合位置も低い。全てが低くまとまっているので、前後輪のトラクションが車体をひねる「ねじり感」が少ない。結果、力が車体に真っすぐ入力して来るような、自然な感触をもたらしている。これは新しい。スライド特性も、悪くないのではないだろうか。(ただの予想だが。)

デュオレバーの恩恵は、ブレーキの時に感じられる。ブレーキをタッチし、サスペンションを介して、タイヤの面圧とトラクションを操作する、その辺りの感触は悪くない。ジェントルにじんわり強烈に効かせることができる。ただし、剛性が強いタイプのサスではない。最新スポーツモデルで一般の、極太倒立にツインチューブフレームの組み合わせ方が、暴力的に止まれる。

スポーツ性と言う意味では、従来のBMWより遥かにあると思う。しかし、それはどちらかというと、エンジン、タイヤ、車体などの進歩による「余剰」がもたらす恩恵といったニュアンスに感じる。だから、スポーツライディングを挑んだ時の感覚は、「応えてはくれるが、受け流されている」に思えなくもない。

こいつの基本は、「肩肘張らずにぶっ飛んで行ける」意味での、余裕度の高さだと思う。その上で、挑めばそれなりに面白く、やりがいもある。この設定は悪くない。やっと安心して、オジさんたちに勧められるビーエムが帰って来た、そうも思う。

しかも、このパワーと新機構のてんこ盛りで、この値段は安い。

しかし実際問題、私には、この大盛りは食い切れない。

それに、この大盛りを支える器は、果たして、もつんだろうか。
(寿命はどうですかね、という話。)


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私のお気に入りは、ノンカウルのK1200Rである。タイヤが細くて軽いんだから、いいこどずくめだ。(うそ。メカっぽいデザインが好みなだけ。)最近流行りの、無目的ストリートネイキッド「大人の玩具系」に見えなくもないが、そこはBMWなので大丈夫なんだろうきっと。

しかしこれ、BMWとは思えないくらい、ワルっぽいデザインが決まっている。MI6に採用されれば、今度こそ売れるぞ間違いなく!。(笑)

   全然見かけないボンドバイ ク!
トラは売れたのにねー。(笑)


もし私が乗るとしたら、そう、数年程度は、待つつもりでいる。BMWのことだから、 またゆったりと熟成作業をされた日にゃあ、悔しい思いをする からである。

BMWには、有料のレンタルシステムがある。そのうちに、カネ払って一日借りて、じっくり乗ってみたいと思う。

雨なら、なお良い。



ombra 2005年 12月

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