BMW K シリーズ (旧・縦置きタイプ)


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 当時の広告より

1983年、それは強烈なデビューを飾った。
エンジンは並列4気筒、しかしクランクは縦置きで、シリンダーが横に寝そべっている特異なレイアウトだ。エンジンヘッドが左、クランクが右。ドライブはシャフト。

デザインがまた凄い。大きな角目一灯を包む、先鋭的なカウル。スクリーン上部には、ウインドプロテクションを増すというウイングが付いている。カウルから横に生えるのは、ウインカー埋め込み式のミラーであって、手に当たる風を防ぐ、カウルの一部でもある。(転んだ時には、折れずにもげる。はめればまた使える。)

それまでの、他の何ものにも似ていない。
車体は大きい。圧倒的な存在感がある。

縦置きクランクにシャフトドライブ、低重心を伺わせるレイアウト。旧来のフラットツインの延長とも見えるアーキテクチャーだが、しかし、インジェクションなどの電子化を始め、最新技術で艤装している。

あの、フラットと共に古びていくだけのように見えていたBMWは、K100RSで、これからもアウトバーンの王者であり続けることを、高らかに宣言していた。


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BMWは全てを刷新した、ように見えた。
しかし、乗ってみると、はっきりする。
BMWは、旧来の枠を、踏み出してはいなかった。

エンジンから後輪をドライブユニットとして作り込み、その上にフレーム〜ステアリングヘッドを乗せる、という設計思想も、旧OHVフラットと良く似ていた。
というか、OHVフラットとの共通項が、BMWという組織が、何を目的にバイクを作りたがっているのか、より鮮明に見せていた。

コンセプトやアーキテクチャーは似通っていた。
しかし、これは乗りにくかった。

エンジンは、R100よりパワーはあるが、もっさりした感じ。
4気筒といっても、バイクというより、クルマのエンジンに近いフィーリング。

大きく重い車体は、少なくないパワーを何とか受け止めてくれる程度には強い。手荒に扱っても、めったなことでは表情を変えない。猛烈な仕事を真顔でこなすタイプで、ペースを上げても臨場感も何も無い。例えて言うと、「何を考えているのかわからないタイプ」。

重いエンジンが下の方に寝そべっている巨大な車体であって、積極的に操作すると猛烈に動くが、コーナーはキャンバー依存で、さほどスポーティではないバイク。

どう乗ればいいのだろうか?。
当時、(BMWの信者以外の)試乗者は、そう感じたのではなかろうか。

何もしなくていいのだ。ただ目的地に行くため「だけ」の、バイクというより、電車に近い乗り物だ。

値段は安くなかった。
でも、完成度は低かった。

ここから、Kシリーズの長い熟成が始まる。


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当初は、細かいトラブルも結構出ていた。
サイドスタンドで停めておくと、エンジンヘッドが下に来るので、ケースから燃焼室にオイルが染み入るらしい。エンジンをかけると、しばらく白煙をもうもうと吐いた。

電装も妙にトラブった。電気仕掛けのメーターはよく止まった。針がピクピク振動したかと思うと、ダメっ、て感じで死ぬ。原因は、中のICの接触不良らしい。ひっぱたくと直る。(昔の家電は、調子が悪い時、ひっぱたくと直るもんだったのである。)ひっぱたく角度にコツがあるんですよ、下の方から平手でこう、なんて店のメカに教えてもらってる姿は、「アウトバーンの王者」からは、ひどく、ほど遠かった。また、こんなのは対処療法に過ぎないから、あまりたたき続けていると、しまいには本当に壊れた。(うそ。実はアタマに来て正拳突きした。)

灯火器も結構キていた。例えば、ウインカーのつきっ放し。キーをOFFしてもダメよ。どっかがラッチアップでもしてるのかしら?FUSEを抜かないと止まらないの。(笑)

コネクタの端子サイズに対してハーネス線径が小さいらしく、ハーネスが抜ける、というトラブルも出ていたようだ。

このあたりの小咄は、当時のオーナーに聞くと、もう際限なく出て来る。

斬新なアーキテクチャーは、熟成に時間がかかる。しかも、Kシリーズは、BMWが、いや、バイクが、初めて電子化に真面目に取り組んだ例ではなかろうか。トラブルが枯れるまでに、相当な時間を要したように思う。

この時の、BMWの対応がふるっていた。

何を直したか、一切言わないのである。

改善は、隠れてこそこそ、しかし確実に進行させる。
だから、次のイヤーモデルに乗ってみると、まるで違う!
外見は同じなのに!!、なんてことは普通だった。

今のように、製造責任コンプライアンス云々が、うるさくない時代の話である。

それにしても、だ。

BMWはユーザーを実験台に、製品を熟成するのだ。

このやり方は、今も変わっていない。

(カネを払って置いてけぼりにされた、ユーザー達の怒りやトラウマは、簡単には癒えないのである。)


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当時の広告より(ローシート 仕様)

BMWは、Rシリーズでは、650cc程度の、下のレンジまでラインナップしていた。今回も、それに倣う。というか、値段を下げたモデルでもって、顧客の裾野を広げておかないと、いくらBMWでも厳しい。

それは理解できるが、なんぼなんでもK75は凄かった。

基本的に、K100の前一気筒を取っ払った「だけ」。だから、排気量は、3/4で750cc。クランクは新造の120°だ。しかし、吸・排気音は「ひゅーほほほ」と、かなり間抜けだった。

乗ってみると、エンジンが軽いK100、そのものだった。だって、ホイールベースからカムプロフィールから、全て同じなのである。

外装デザインの差別化は効いていて、K100より小さく軽そうには見える。しかし、またがると、タンクがちょっと小ぶりかな?てな程度で、車格はきっちりK100のまま。でかいのだ。気楽な感じは、あまりなかったと思う。

エンジンパーツのほとんどは、新たに起こさざるを得なかったと思うが、その割には、値段設定は安かった。その意味で、バーゲンだったか、とも思う。

しかし、苦労した(?)割には、目的が不明瞭なモデルだった。

そのせいだろうか、パラレバーも付かないうちに、カタログから姿を消した。


750ccだが1000ccのモトグッチより大きいの図


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さて。
時代は止まらない。ラジアルタイヤがやってきた。

車重が重くてキャンバー依存なK100は、ぜひともこれを使いたい。

あの放漫なK1(カー・アインと読もう)を経て、K100(こっちはケーヒャク)も、あちこち見直された。

 当時の広告より

エンジンは4バルブになった。回り方も、だいぶスムーズになった。パラレバーが付いた。トラクションのマナーが、かなりよくなった。車体も随分、見直した。でも、デザインコンセプトは同じに保ち、統一性を持たせた。

本当に乗り易くなった。
もう一息だ。

さて、そのころ。日本はバブルだ。
ムダガネ使うのが、流行っていた時期である。

思い出すと、この頃は、小金を握ったオヤジ達に、BMWのバイクは、ステータスとして光っていた。

もともと車格は大きくて、風格十分である。
「これで流したら、気分最高だろう。」
ベンツと同じ、ドイツ製だ。ハーレーのように、修理代で苦労することもなかろう。

しかし、おじさん達は、ドイツ人より、かなり小ぶりだ。足が着かない。これは不安だ。(おまけの)免許はあるけれど、今までバイクなんて、ろくすっぽ乗ったこと無いしなあ。

そんな貴方に!。
ローシートである。
 当時の広告より

こんなロクでもないもん、誰が考えたんだろうか。

足の曲率がキツイと長距離乗れないから、BMWはシートを高くするんだい!という主張は、セールスの数字の前にぶっ飛んだ、らしい。
しかもこのローシート、高さは減っても幅が広がるので、足着きはほとんど向上しない。シート地が薄いので、座り心地も良くない。

この時代、ローシートBMWにガニ股のオジさんが大量に発生し、そこここで、つるみ走りを展開していた。

しかし、バブル崩壊と共に、ほとんどが退場してしまった。

BMWのKは、おじさん達をバイクの楽しみに目覚めさせ、ずっと乗り続けよう、と思わせるほど、魅力的ではなかったらしい。


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足元に前後方向に長々と横たわった重い構成物:エンジン。
これは、Kの特徴でもあり、元凶でもあったと思う。

こいつのせいで、スライド特性は悪かった。雨の日に滑り出すと止まらない。アクセルを開けても閉めてもダメ。車体を立てるに必要な、とっかかりのグリップが残ってるかも怪しかった。もう、お祈り位しかすることがない。(というようなことを先日話したら、そりゃキミ75の感覚だ、100はそんなにひどくない、と突っ込まれた。そうかも知れない。)

また、この構成では、小型軽量化は無理である。
これが、モデルの運命を決めていたように思う。

結局Kは、その後も「熟成」を続けて、フルカバーの、それはそれは巨大な代物に成り果てて終わった。(え?まだ終わっていない?。)

 模型でも迫力十分。でっかい・・。

K100は、巨大化でユーティリティを増すしか、生きる道がなかったのかと思う。

昔、Rが持っていた、余裕とテンションの低さが共存しているような独特な感覚は、Kでは再現しなかった。また、それに代わる、Kならではの優れた特徴といったものも、結局は残せずに終わった。

その証拠に、旧Rにこだわる人は相当数残っていて走り続けているが、Kにこだわり乗り続けている人というのは、大変少ないように見える。

今振り返ると、BMWは、随分長い実験をしていたようにも思える。



ombra 2005年 12月

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