YAMAHA MT-07



179kg 73ps


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歳のせいか、筋力の衰えと共に、「もっと軽いのに乗りたい」という欲求が募るもので。幸い、排気量にくらべて車重が軽いスポーツバイクは、たくさん出ているご時勢だ。

「でも、リッターレプリカは、さすがに気が引けるし。(苦笑)」
そんな私にも、アピールしてくれるモデルもちゃんと出ているという、剣呑な・・・もとい、人に優しい(?)ご時勢でもある。

とはいえ、バイク雑誌はもう見なくなって久しいし(見てもどうせアテにならないし)、結局は現物を見ないとわからないしで、手近な大きめのバイク屋に、試しに行ってみた。


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「あの、私のような小柄なオッサンでも乗れるくらい軽くて、それなりに速くて面白いバイクってないですか?」

この、禅問答のような私の問いに対し、優しい店員さんが勧めてくれたのが、このバイクだった。

イマドキの、タンクが上に盛り上がった、良く言うと「筋肉質」、悪く言うと「せむし型」のシルエット。

跨ってみる。

既視感があった。
何年か前に、他のバイク屋で試乗させてもらったドカティのM696が、よく似た感じだった。

シートはさほど高くないし、車体は細身でタンクもえぐってあるから、足つきはすごく良くて、片足なら踵までベッタリと付く。さらに車重も軽いから、素人さんにも安心感が高そうだ。しかし、前後が結構短いから、相対的に、妙に上の方に座わらされている印象になる。視界の中の、タンクとデジタルメーターの向こう側にあるはずの前輪は、直接は見えないが、えらく手前にあるように感じられる。(696はもっとすごくて「前輪をニーグリップしてる」くらいに近く感じた。)

薄いシートは微妙に前下がりで、意識しないと滑って落ちそうだ。ハンドルは広くて、グリップはちょっと遠いから、ずり落ちた先の前寄りのシットポジションで、ちょうどいい感じ。腰を引くとハンドルは遠くなって、ヨイショと腰を折って、手を伸ばしてつかむ感じになる。(でも握りの位置が高いので、カッコ悪くて変な感じになる。オバケ〜っておどかしてるみたいな。わかる?) シートはかなり薄いので、リアに向かって体重をかけるにはダイレクトで良さげだが、長距離ランはちょっと辛そうだ。


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試乗車があるとのことで、早速貸してもらった。

クラッチは油圧ではなくワイヤー引きだが(たぶんコストダウンのため)、かなり軽くてラクチンだ。でも、ハンクラのエリアが狭くて、ペタッとつながっちゃう印象。(普段乗ってるルマンなんかの半クラ域が、今の基準からするとユルすぎるんだが。) 初めの発進が、少しぎこちなくなってダサかった。何だろう、クラッチの容量をそれなりに確保しながら安く作ろうとすると、こんな感じになっちゃうんかな、などと人のせいにしながら、でもすぐに慣れた。

エンジンは、アイドリング付近からよく粘り、かつ上まで一気に回ろうとする元気者だ。クランクが軽いイマドキのツインのくせに、低回転での粘りの良さは特筆もので、ひと昔前に乗った Aprilia KTM みたいに、下がスカスカで、ややもするとカッスーン!と簡単にエンストしそうな感じとはえらい違いだ。全回転域で、出力は車重に対して十分で、この軽い機体を縦横に動かすに十分なパワーを、お気楽に出してくれる。

ただ、右手へのツキというか、人間の入力に対する出力のマナーは「インジェクション」そのもので、キャブ車に慣れた身としては、よそよそしいと言うか、気が効きすぎると言うか。こちらの細かい入力は適当に丸めくさって、勝手に「美味しい所は体現しておきましたよ」てな感じで。細部のフィーリングは、イマイチがさつだったり、「無かったり」する。ラフな扱いで済むから、フールプルーフでラクっちゃラクなのだが。やり甲斐がない。

乗り心地は、あまり良くない。私の住んでいる地域は、前回の大地震からこっち、路面の凹凸がえらく増えたのだが、サスペンションは、ビギニングでそれを受け流そうと努力はしている雰囲気があるものの、効果としては不十分で、車体の上屋は、路面の凸凹そのままに揺れ続ける。サスのストロークは、ロードスポーツとしては普通か、少し長めのようなので、この特性は主にダンパー設計のせいかと思う(新品で当たりがついていないだけならいいんだが、こればっかりはわからない)。当然、奥へ行くほど踏ん張りはするし、設計サイドとしては「一応、何とかしようとした」雰囲気はあるのだが、実質は、全域で頑張りが足りない感じで、イマイチというかイマサンだ。部材の強度にしても、ダンパーの特性(品質)にしても、もう少し盛って欲しかった所だ。

さて、コーナーだが。
交差点に毛が生えた程度の、低速コーナーしか試せなかったが、基本、前後方向のホイールベースが短くて、それに比べて、重心(乗っている私の体重)が高い「アライメント」と、荷重容量たっぷりの、太めの「タイヤ」の2つが作る、静的なバランスが柱になっている。ドカのM696は極端な前輪依存に感じられたが、そこまで偏ったバランスではなくて、基本、両輪バランスだ。エンジン位置が低くてシリンダーは前傾しているから、前輪荷重を自然に稼げていて、(696ほどは)車体自体のバランスが大きくは偏っていないような印象だった。

ただ、アクセルを開けて、リアにトラクションをかけても、荷重は後ろに移るものの、それで曲がりをどうこうできる余地はあまりない。基本、曲率はそのまま、加速を強めるだけ。静的な重量アライメントが作るバランスと、タイヤの容量が作る基本的な性格を、大きくは崩さない印象だ。加えて、車体のリア周りの質感も、あまりアグレッシブに扱われるのは嫌がる感じで、荷重をコレデモカとかけて曲がりを引き出すスポーツライドは、気が引ける雰囲気を伝えてくる。

その傾向はブレーキングも同じで、グッと荷重をかけてサスが踏ん張る所まで行っても、タイヤはまだまだ余裕しゃくしゃくで、もっと行けるじゃん!とは思うんだが、フォークからフレームにかけての剛性感がこれまたナンダロウ君で、その余裕をブッこいているタイヤをいじめる所までは行く気がしない。(696は行けそうな感じだった。実際に行ってはいないので真実は知らないが。)

まあ、そこまで行かなくても、公道レベルでは十分速い。何しろ軽くて、加減速は自由奔放、ルマンなんかよりよっぽど速い。そもそも、この辺りのラジアルタイヤの限界って、かなり寝かせた「エッジグリップ」の荷重域だと思うので、公道では非現実的なレベルなのだ。

総じて、MOTO2だか何だかの今流行の先進的な車体アライメントに近いイメージで、軽い車体に扱いやすいエンジンでもって、誰でもタイヤ様々でラクチンに大排気量車の走りを楽しむことができる。

それが、この値段で手に入る。
その意味では、本当に「よくできたバイク」として評価できると思う。


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ただ私は、軽さに関する矛盾の方を、強く感じた。

まず、あの乗り心地。
確かに「軽い」とはいえ、真っすぐ走っている時の、あのがさつな乗り味は、ちょっといただけない。今まで軽量車もさんざ乗ったが、それに比べても「コレかよ」なレベル。正直、長距離ツーリングには、出る気がしない。

もう一つは、コーナー特性だ。
タイヤはまだまだ行けるし、ショートホイールベースで人間を高く置く今時のアライメントは、そもそもはそのタイヤ容量を生かすための方法論なはずなのに、足周りを初め、いろいろ残念だったりちぐはぐだったりで、「行く気にならない」レベルに留まっていた。(「行く気にさせない」方便なのかも知れない。)

そして、それらをもたらしているのが、商品性として最も重要なフィーチャーの一つである「安価」(裏返すと「コストダウン」)である、という皮肉だった。

結果として、できた代物は、
 「コーナーが来たら、曲率に合わせて寝かせてください。以上。」
と、それだけの乗り物になってしまっていた。

確かに私は、軽いバイクが欲しいと思った。
それは、車重から来る肉体への負荷を減らし、かつ自由奔放に操れる余地を増やせると思ったからだ。

しかし結果は、「取り回しが軽い」くらいが唯一のメリットで、それ以外の粗方の期待は、むしろ逆方向の効果となって現れていた。

どうして、こんなことになるのだろうか。


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もう古すぎる感性なのだと思うのだが、何べんでも書いておく。

私のメイン機のルマンがいい例だが、乗り手がバランスを作ってやる必要があって、その良し悪しが如実にわかる機体なら、どうしたらよいのかは自然に分かるし、自力で上達もできる。いい先生であり、教材でもある。

しかし、「機体なりに」乗るしかないこういうバイクは、普通の人が乗った日には、どこが限界なのかも分かりづらいし、たとえ転んだり事故をしても、何が原因なのか、はっきりしない場合も少なくない。

ボサッと乗ってて、路面の砂なんかに気付かずに突然足をすくわれて「ドカーン」→何があったかわからない。でも、スピードは結構出てるから、機体や人間のダメージは小さくない。そんな実例も散見される。

最新の設計技術を使って、かつ、値段と一緒に敷居を下げようとすると、こうならざるを得ないというのは分からんでもないのだが。やはり、バイクを作る方向性としては、間違っていると思わざるをえない。

しかし、周りを見回せば、こういったフールプルーフな設計の方向性というのは、バイクではなく4輪の方では、流行っているを通り越して、もう「専らこればっかり」だ。4輪は遊びではなく実用メインで使われるものなので、省力化で敷居を下げ続ける方法論は、間違ってはいないのだろう。しかし、スポーツ性を担保すべきバイクが、同じでいいわけは無い。

もう少し、見回す範囲を増やしてみる。

店で対応してくれた優しい店員さんいわく、最近は、お客の方も格差社会で、
 @ 最高のものが欲しい → R1 \200万over
   だけど今年モデルの割当ては、もう残り1台。(売れている)
 A 便利で安いのが一番だよ → MT-07のあたり (★)
   (私はケチで貧乏なので、こっち側)

「オススメは、他にNC750ってのもあるんですが、これはもっと性格が穏やかで、エンジンは燃費重視で回らないし、どちらかというと通勤向けです。」
これより、もっと穏やかな性格って・・・スーパーカブ並みってことかな・・・。(★)

上の二つの★の共通点を考えると、要は、「実用車」としての利便性と、「初心者向け」の大人しさを兼ねる方法論として、フールプルーフを用いている、ということのように思える。(@も実質的には程度問題で同じだし、類例の多さを思うと、そういう設計手法しか能がない・・・のかもしれない。)

世間的には、今、こんなのに乗りたがるのは、若い世代はそんなに多くなくて、どちらかというと、私より年かさの皆様だったりするのだろうから、「自分で何とかする/したい」という意識は既に低下したユーザー層を想定しているのだとすれば、これはこれで正しいマーケティングの成果なのかもしれない。

しかしその結果、これを「スポーツバイク」だと思いこみ、無闇に上達しようとして「ドカーン」が多発という状況が、期せずして保持される事態になっているとしたら、不幸だなと。

ABSの有無が選べるというのは、メーカーの親切心ではなくて、貧乏人への落とし穴と、そういうことなってしまうのではないかな。(笑)


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話をMT-07に戻して、結果だけざっくりまとめると、

考えないでラクに乗れて、適当な刺激があって、しかも安いという便利な乗り物としては良くできているが、やり甲斐が無いからバイクとしては乗っていてつまらないし、ハードの度量が狭いから上達もしにくそう、よしんばその敷居を乗り越えるにしても、ブレーキングとバンク角の度胸の勝負になってしまいがち、という「新型の瑕疵」はかえって強化されたようだったし、それが「安いんだから仕方ねえだろ」と言い放たれているように感じると来れば、あまりいい気分はしないし、私の切ない物欲も、ほとんど刺激されませんでした、とそんな所だ。

きっと、私がこれに乗ったら、トサカに来て「オフ車乗り」をし出す。
前寄りに座って、リーンアウトでバイクを深く倒し、内足を斜め前方に出しつつ、アクセル開け開けで、タイヤのエッジを攻め立てる、という走り方だ。
で、仲間たちに、うわキモ!あっち行け!と非難され忌避される、という。(笑)

とはいえ、私がコレに手を出す状況というのは、乗るものが何もなくて、でも何でもいいからどおしても欲しくて、「素人向け」を承知で、目をつぶって「えいっ!」とか、そんな状況しかありえないような。
あ、いえ、まだそこまでは困ってませんよ、とも。(笑)

親切な店員さん、どうもお世話様でした。
お手間だけで、ごめんなさいね。



ombra 2015年 7月

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