Aprilia TUONO


###

Aprilia Mille RSVという高性能スポーツ車のカウルを外した(だけ?)というネイキッドコンセプトのモデル。特異な3灯ライトなどが目を引く。エンジンは、昨今は珍しくなくなった横置きVツインだが、シリンダーアングルは60°と独特である。


###

またがってすぐ、ポジションに面食らった。下半身は、スーパースポーツのそれである。バックステップに、スポーツ然とした前下がりのシート。これに、アップハンなのである。昔、漫画で、国産アメリカンにバックステップをかまし「ポジションがきつい」なんていう場面があったのを思い出した。(「はっぴいアクちゃん」知らないか誰も。)

ISBN4-575-93102-0

さて、このポジションで何が怖いかと言えば、ブレーキングである。いつものように、前輪に向かって、ぎゅーっと体重をかけて行く、あのプロセスがふめない。エンジン特性は、回転域に関わらず燃えるだけ吹いてパワーを出すという、今どきのインジェクションそのものの特性なので、馬力はあるのに、盛り上がり感に欠ける。だから、普通に乗っているだけで、結構なスピードが出てしまう。で、いざ止まる段になって、おっとー、となる。しかも、ホイールベース短く着座位置は高く、前のめり感が強いアライメントなので、余計怖く感じる。

しかし、曲がってみると面白い。アップハンは、さほど構える気を誘わないから、リラックスしてアプローチできる。視界も広く肉体的に楽なので、曲がりながらの補正にも余裕が出てくる。エンジンはどこからでも、すぐさま必要十分なパワーを出してくれるし、足周りは高過重にしっかりと耐える。気楽にガンガン遊べて、しかも結構なアベレージで行けてしまう。

動特性を、もう少し注意深く見てみよう。シートは前下がりだが、漫然と前寄りに座り込んでいないで、腰を引いて荷重バランスを変えてみると、ハンドリングが激変するのがわかる。その最中、エンジンの重量が及ぼす影響に感覚を凝らすと、これが絶妙な位置にある。アプリリアのエンジニアが、エンジンの搭載位置を、注意深く選んだような印象だ。60°Vは、他によくある90°Vより搭載の自由度が高そうではある。排気系の処理も、他のように苦しんだような跡もなく、ごくあっさりと処理してあったように思う。この辺りが効いているのかもしれない。

気負わず遊べて面白い、思ったよりも良く出来ている。値段も手ごろだ。
向こうで売れる訳である。

 ← TUONO
RSV →


###

これはワインディングを遊ぶ道具であり、そのために取捨選択をはっきり行った、淡白な性格だ。その意味で破たんは無く、これはこれで完成している。
しかしそれだけに、イメージを間違うと損をする。街中の特性は、まあハンドルが高いから見晴しがいいかな、といった程度で、実はあまり向いてはいない。荒天や路面の荒れなどの、外乱にも強くはないだろう。そういう汎用性を目指したモデルではないので、一般のネイキッドや、オンオフモデルたちと混同すべきではないだろう。
また、ストイックにコーナーを追い求める人にも向いていない。私は乗ってみていないので確かではないが、そういう人には、元モデルのRSVの方が、まだ向いているのではないか。

話がずれるが、昔、ライダースクラブ誌のビデオで、中排気量オフ車の片山敬済氏と、VFRの根元健氏がワインディングを走る映像があった。つづら折れの峠では、オフ車の方が断然ラクそうで速かった。

TUONOは多分、あのオフ車の自由度と、VFRの青天井を兼ねた上に、イタ車の刺激性を盛り付けたバイクである。

峠を駆け抜けたあと、頂上の店で飲むコーヒーはうまかろう。
しかし、それ以外のことを求めてはいけないバイクのように思える。

峠の頂上の茶店は通常、ごった返しているうえに、コーヒーはさほど、うまくない。理想というのは、しっかりした現実の上に据えて初めて、光ってくるものなのである。

その自信がある人には、お勧めだ。

RUDERS CLUB誌 1987-1No.103より


###


TUONO、RSV、FALCOは当時の広告より

余談ですが・・。
こんなのもあったんだよね。FALCO。
乗ったことないんだけど、実直そうな外見にちょっと惹かれる。
でも気付いた時には生産中止。くそぉ。



ombra 2005年 12月

→ サイトのTOPに戻る

© 2005 Public Road Motorcycle Laboratory