KTM Super Duke



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「最近、真新しいものがないよねー」なんかウソぶく私に、友人が教えてくれた機種である。黒とオレンジのツートンで覆われた、グラマラスな機体。獰猛な蜂の類を連想させる。

KTMかあ・・・トシニシヤマ?。(←古い!)

Duke といえば、以前、モタードっぽい車種があったのは知っていた。小径キャストのラジアルと、オフ車アライメントの車体の組み合わせは、当時はまだ珍しかった。エンジンは600cc前後の単気筒だったと思う。高速性(サーキット性能)はなさそうだが、とにかく軽々と操れそうなアピアランスが印象的だった。

Super Duke は、これとは全く別物のようだ。

Vツインを積んだリッターバイクであって、「オフ車」と言い切るには微妙なシルエットを持つ。

これは真新しい・・・かもしれない。(笑)


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もう少し、資料をよく見てみよう。

見た目はとにかく斬新だ。直線を基調に、バルクから削り出したような造形のタンクが大きく見える。シートカウルが小さく、ライト周りの造形物はもっと小さいので、余計そう見える。全体的に、Moto GPチックな「今風」のイメージと、余分な構成物がない軽快感、内包するエネルギーの大きさを予感させる野太さ、そういった部分部分が微妙なバランスで共存しつつ、うずくまり、構えながら、放たれるのを待っている。そんな印象だ。大雑把には、Buell やモタードなどのシティスポーツ系(曲芸バイク?)の一種に見えなくもないが、それに収まり切らない、何かを感じさせる。

機械的な構成に目を移す。

フレームはトラスで、ステアリングヘッドは高め。エンジンはえらく小さくて、フレームの低い位置に、ちんまりと収まっている。スイングアームは対地角が小さく(寝ている)、スイングアームピポッドも低い。要するに、リアタイヤ〜エンジンの駆動系は低く、前輪〜ステアリングピポッドは高い。それを、頑丈そうなトラスフレームが結んでいる。その位置関係は、一部ツアラー系のように「諦めた」というほどの分離感はないが、最新スポーツのように「テンパった」感じもない。その微妙さは、実に意味ありげで、そそられる。(笑)

多分これは、実際に触れてみないと、わからない。


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てなわけで、実車を見に行って来ました。(笑)

タンクの大きさと、その他のスリムさのコントラストが印象を強調し合う、エッジの効いたシルエットは、写真で見たのと同じである。しかし、高いシートからタンクへ連なる、下半身のフィッティングエリアはスリムで、タンクの大きさが大股開きを強いる四気筒とは、さすがに一線を画している。

ナンバーのマウントなど、走るにどうでもよい部分は実にちょろい造りだが、足回り、特にフォーク周りの剛胆さは目を引く。

全体に、造りの感じは悪くない。工作は、現代レベルの精度に見える。この「見た目の工作レベル」は、もうどのメーカーでも一緒のようだ。まるで、みんな一斉に同じ工作機械を入れたような感じ。(案外、日本のコマツの辺りだったりして?、と誰かが言ってた。)


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試乗が可能とのことで、早速、乗らせてもらった。見た目からの想像と、大体同じ印象だった。

跨がると、座面高く、ハンドル広く、下半身の収まりが良い。車体は前後に短く、フロントは剛胆で、ブレーキは前転するまで握り込める。リアは、トラクションのベクトルが低いアライメントなので、タイヤが滑っても車体が少し振れるだけで発散し難い。ハイサイド側のリスクが少ないので、安心して振り回せる。

エンジンは、低回転での粘りがない代わりに、吹け上がりは野方図だ。レスポンスは凄まじい。右手首の微動にも、カクカクとレスポンスして見せる。路面のちょっとした凸凹を踏んで、意識しない程度に右手が動いただけで、エンジンがシャクる。その位、敏感である。

開けた時のパワーも出ていて、使い切れない量を出してくれる。が、トルクカーブはリニアだし、ハーフスロットルのコントロールも効く方なので、安心して開けられる。インジェクションは、容赦なくガスを吹く感じで、エンジン周りは相当、熱を持つ。(燃費は悪そうだ。)

とにかく軽い車体は、リッターバイクを感じさせない。車体の剛性は、最新ラジアルの荷重にもよく耐える。サスのストロークは長めで、姿勢の変化は大きい方なのだが、サスのセッティングを適当に締め上げておけば大丈夫だろう。路面の状態が良ければ、余程のバカをやらない限り、転倒の心配はほとんどないと思う。ドライバビリティは、実に高い。

実際、試乗車にはかなりいいタイヤが入っていたこともあり、私レベルが、その辺の公道環境でいくら頑張った所で、車体は平然とした表情を少しも崩さず、「何も起きない」という感じだった。

最新のタイヤの容量と、とてつもないエンジンパワーに乗っかって、不安なくブチ遊べる。全く「最新型」そのものの味付けだ。しかも濃い。

反面、従来の大型車然とした所は、全くない。例えば、速度を増しても、重さが安定・安心に変わって行く、あの感覚は微塵もないし、背の高いポジションはライダーを風圧にさらし続け、短いホイールベースと過激なスロットルレスポンスは、ライダーをひとときも休ませない。

中長距離のツーリングは、不可能ではないだろうが、全く向いていない。潔くスプリンターと割り切って、ライディングに集中する方が相応しいキャラクターだろう。


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乗っていて、思い出したことがある。

2stだ。

パワーバンドでアクセルを開けると、盛り上がるトルクが軽い車体を猛然と蹴り飛ばす。あの感覚は、昔の2stスポーツに近かった。

面白いもので、身体が勝手に、昔、2stに乗っていた頃の感覚を思い出すのだ。つい、スロットルの戻し側をラフに扱ってしまい、カッツーンとエンブレを盛大に食らい、ヘコむ。そんなことを、何回かやった。(笑)

そんな私が感じていたもの。
「解放」である。

ご近所でも、楽しく遊べる、ハイパワー軽量のバイク。

コイツは実際、前後に荷重を揺らしながら、破綻間際で遊ぶ「ロッシごっこ」なら最右翼だし(しくじって前転しても知らんすよ)、雨でも降れば、リアを滑らせフリフリしながら立ち上がる「おサカナ走法」なんかも、お茶の子で遊べるだろう(しくって握りゴケしても知らんすよ)。

バイクに乗って「清々する」というのも久しぶりで、軽いノスタルジーと共に、一種、新鮮な感覚だった。

しかし現実問題、それだけでは「解放」にならない。
そのことは、既に2stを乗り越えて来た、シニアライダーならよく知っているだろう。

例えば、ご近所で遊べる反面、足を伸ばすのは辛くなる。要するに、乗り手の様々な要求を、高次元で解決してくれるものではない。それは「いつも通りの一長一短」であり、乗り手に要求の取捨選択を迫る。結局、「どこにフォーカスしたか」が違うだけであって、解決のレベルが上がる訳ではない。

もし、これを選んだとしても、きっと、またそうなるのだろうなあと、そんな予感が、私を微妙に押し留めている。

しかしだ。

Super Duke は、妙に後味が残る。

反芻してみると、それは、ライディングをダイレクトかつ猛烈に楽しむ道具として、Super Duke が持つ素質の印象のようにも思う。
そして、それは多分、妙にお行儀良く丸まった「逃げ」がない分、最新のドカなどよりも、純粋だ。

KTMが、日本では今ひとつマイナーなこともあり、維持やリセールには不利も予想される。それを踏まえて、なお惹かれるなら、キャンディデートになりうるだろうと思う。



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Super Duke のアプローチは面白いと思う。

何度か述べた私見だが、これまで、ラジアルを履いたスーパースポーツは、限界は高くて高速性に優れる反面、それに至る方法論は意外と狭い一本道で、とっさの事態や路面の変化の適応といった「柔軟性」の意味で、配慮に欠けるイメージがある。公道への応用という意味で、未熟さを感じさせるものが少なくなかったように思う。

乗り手が工夫して美しいバランスポイントを体現する「芸」に頼るのではなくて、ハイグリップタイヤ、短いホイールベース、高い着座位置による高効率のスラストを生かした走り(深く寝かす)がタイムアップの近道だ、というのはわからなくもない。しかし、機械に頼っている以上、勝負という意味では常に最新型でないとお話にならないし、人間側にしても、まずは度胸と反射神経、という状況が延々と続くなら、そう長くもつものでもない。「最新型」を手に入れた嬉しさは、時を経るに従い薄らいで、いずれ「型変わり」にとどめを刺される運命だ。いざ乗ってみても、刺激に慣れ、新鮮さが無くなるに従い、興味も尽きていく。そうするうち、怖い思いや痛い思いでもした日には、もうユーザーは戻って来ない。

この「一過性のローテーション」に、ラジアルに代表される「高性能化」は、何の効果も持たなかったのだ。

バイクを思いっ切り乗りたい、というピュアなスポーツマインドを、公道で解放するためには、どんな「高性能」がいいのか?。

Super Duke は、少しだが、公道でラジアルを使うための、方向性を示せていたように思う。まだ具体的な方法論には至っておらず、「解」というより「ヒント」に近いレベルだが、その意味で確かに斬新だったし、解放への予感は感じられた。

もし、KTMという小メーカーが、その独特な生い立ちと、会社としての小回り性を生かして、そういった昨今のスポーツバイクの閉塞感に対し、意図的にこのアプローチを展開しているとしたら、これは注目に値する。逆に、モタードを強化して、デカいエンジンを積んだだけ、というお気楽な方法論が生んだ「偶然」だとしたら、これは一瞬の光明で消え去るのだろう。(現に何年か熟成した結果だから、狙っているとしか思えないが。)

KTMの次期モデルとして控えている、モトGPだかSBKだかの「カウル付き本命」が、ここからどちらへ向かうのか、注視したい。



ombra 2008年 1月

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