古いバイクを自分で維持するということ 〜 外車編


「古いバイクを、自分で仕上げて乗りたい」
その2である。

 

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お話の背景は、 同「国産編」 と同じなので。そちらの冒頭部分をご参照いただきたく。

しかし、モノが外車となると、パーツもノウハウも、自己調達は難しくなる。大排気量車や多気筒車には手は出し難い。設備も経験もろくにない、素人同然のワタクシでもこなせそうな簡単な構造、かつ、その手間をかけるにふさわしい、面白そうな素材を探すことになる。

詳細は省いて。
結果としては、よくある話で。

今回、教材として取り上げるのは、Vespaである。


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出会いからして、微妙だった。

この業界では古株の、とある老舗。
既に閉店が決まり、片付けも進み、妙にがらんとした、寂しい店内。
そこに残された、数少ない売り物件の1台。
旧い機体だ。ラージ系のマニュアル。

ぱっと見は、とてもきれいな個体だった。
聞けば、委託とのこと。

ボディはペイント済み、サビや欠品は見当たらない。他店でレストアしてあり、オドメーターは「100kmちょい」で、レストア後ほどない、ということらしい。赤いスプリングのスポーツサスなんかも入っている。

レストア自体は他店の仕事で、例えばエンジンはどの程度やったのか、詳細は不明。しかし当然、納車までにはこの店で一通り整備して、問題ないレベルに仕上げてくれるとのことだった。価格は十分リーズナブル。

しかしだ。程なく、この店はなくなる。以後のトラブル対応は、私が独力で当たらねばならない。結構なリスクだ。

それに、何となく、ワナっぽい臭いも、感じてはいた。
(安くて質のいい出物なんて、そうそうあるわけがない。)

だが、Vespaには前から乗ってみたかったし、チャンスはいい方に生かそうと前向きに考えて、また凝りもせず、ルビコンを渡った。

しかして、その結果は?
「残り物には福がある」?

いえいえ。
ご想像通りの裏ドラを、ツモったのでありました・・・


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納車直後の、初めの印象は悪くなかった。
始動性もバッチリで、店が一通り手を入れたのは確かなようだった。

一応、私はVespa初心者ではなかった。友人が同じような型を所有していて、何度も借用して乗らせてもらっていた。Vespa特有のハンドチェンジも扱えたし、調子のよいVespaというのがどんな感触かも、何となくだが知ってはいた。

しかし、こいつの手ごたえは、その記憶とは、だいぶ違っていた。

エンジンがピーキーで、回さないと走らない。これは、型が違うせいかも知れない。
操作系が重めで、乗り心地が悪い(硬い)。
ワイヤ類や足回りの動きが硬く、整備が行き届いていないような。
心なしか、ボディも緩い気がする。

とはいえ、事故車とか、そういうことではなさそうだ。Vespaは元から乗り味は緩いし、重心が横に偏る設計だから、多少の歪みは「気の持ちよう」で済んでしまう。そもそも、この年式の実用車に、無転倒・無傷なんて期待できない。

そんな感じで、当初は、何かヘンだな〜と思いながら、走ってはいたのだが。
来るべきものは、やはり来る。

初めに出た症状は、これまた妙なものだった。
イグニッションキーをoffにしても、エンジンが止まらないのだ。


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別に、ギヤを入れてクラッチポンでエンジンは止まるから、実用上は問題ない。ただ、キーがオフでもキックすればエンジンはかかってしまうので、出先には置いておけない。(駐車中のVespaのキックを試しに踏んでみるアホも居ないだろうから、大丈夫とは思うけど。気分は悪いやね。)

普通、エンジンのトラブルといえば、「かからない」方が普通だと思うが。また変わった壊れ方をするもんだ、一応これも外車なんだな〜なんて、妙な感心をしつつ。インスペクトをしようと、メーター〜ハンドル周りを開けてみた。

配線のカプラーが外れていた。
さらに、ハーネス自体がこすれて、切れかかっていた。(多分、ショートもしている。)
配線自体も劣化していて、被覆のゴムがボロボロと崩れてくる。(熱劣化っぽい。)
といった状況は、ずいぶん前からだったようで。応急処置のつもりなのか、ほぼ「ビニテの権化」にされていて。それが劣化して、剥がれて絡まって。エラいことになっていた。

Vespaのインタフェイスは、ほとんどの操作を手元で行うので、ワイヤーやハーネスのほぼ全部、しかも往復分が、あの白鳥の首のように細いステアヘッドを通って、ハンドル周りに接続されている。さらに、ハンドルが回るだけでなく、グリップは両方ともぐるぐる回り、そうした動きの度に経路の長さが変わるから、ハーネスは、あの白鳥の首の中を、行ったり来たりの摺動もしている。国産のように、タイラップで固定されて動かない人から見れば、えらく不幸な環境なのだ。Vespaでは、ワイヤーだけでなく、ハーネスも消耗品なのである。

ハンドル回転軸の周りも、また凄かった。
製造後数十年の間に、何度も塗り重ねられた質の違うグリスが、埃と混ざり、層になって固まっていた。

この状況を見るにつけ。
私はこれまで、よく走れていたものだなと。

ついでに、何が「レストア済み」だバカヤロウ、とモノローグを一言。

以後の作業は、国産とほぼ同じだ。
「便所掃除」である・・・


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初めの軽いトラブルからして、筋を通すとこの文章量になる。
全てのトラブルを詳述すると、やっぱり吐き気モノなので。
以降は、経緯のみにする。

まず、上記の配線のトラブルだが、答え合わせの目的で、専門店(その1)に持ち込んだ。私の見立てや直し方にプロの意見を聞こうと思ったのだが。別件のトラブルがメインになってしまい、お題がそっちにすげ変ってしまった。

トラブルの場所は、クラッチである。もともとタッチがあまり良くなかったのだが。店いわく、組み付け違っていて、摺動部品がすり減っている。修理としては、プレートなど要所の部品交換となった。無論、ミッションオイルも交換だ。(★)

結果、クラッチのタッチは、さして好転しなかったのだが。結構な出費となった。

次に来たのは、足回りだ。

買った時についていた、赤いスプリングのカッコいいサスは、当初から妙に硬くてお動きが渋かったが。あっという間にオイルを吹いて、ご臨終となった。キレイなのは見かけだけで、実は相当古かったらしい。

次のサスは、やっぱりノーマルがいいなあと、ネットでノーマル相当品(つまり安物)を仕入れ、自分で組んでみた。しかし、もう組み付けから、あちこち当たるわ合わないわで苦労した。挙句、乗ってみるとやっぱり硬くて。変化がなくてガッカリした。

そんな、走るより直す生活が続いて、一向に走行距離は伸びなかったのだが。1000kmを超えた辺りで、2stオイルの補給と同時に、ミッションオイルの交換をした。この廃油が妙に少なくて、上記★でケチられたかな?などと勘ぐったのだが。それが全くの誤解であり、かつ、次の大物の前兆であったことが、すぐ後に判明する。


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相変らず、何か変だな〜とか言いながら、ちょぼちょぼ乗り回していた、そんなある日。

路上で、突然パワーダウンした。

焼きついたような感じではなく、エンジンは回ってはいたので、騙しだまし帰り着いた。
しかし、家の前でインスペクトの最中、ついに、エンジンは完全に止まった。

キックが下りなくなった。
押し引きしてみると、焼きついて固着してガッチリ動かない感じではなく、一定の幅で微妙に動く。
何となく、ギヤに何かが噛み込んだような手応えだ。

ついに、エンジンが壊れてしまった。
とうとう来たか・・・

どうしよう。

このポンコツが!と怒ることもできたし、ハズレを引いたあ・・と嘆くこともできた。
しかし、この固着が、走行の最中に来たらと思うと、ゾッとした。

考えようによっては、この個体が、辛いのを何とかがんばって、オーナーを自宅まで送り届け、その刹那に力尽きたと、そんな解釈もできた。

捨てようか、直そうか・・・。
買う時よりも、よほど厳しいルビコンだ。

「コレ捨てちゃって」と、近所のバイク屋に持ち込む。
「ボディはきれいだから引き取らない?タダであげるよ」と、専門店(1)に持ち込む。
「中まで全部やり直すと、いくらかかります?」と、別の店に訊く。

無論、自分で全バラして直すのも、選択肢だ。


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事象を時系列に並べて、考えてみる。

いや、わかっていた。

全体に、程度はよくなかった。
時間の問題だったのだ。

クランクのシールである。

Vespaとて、2サイクルでエンジンが回る仕組みは同じだ。クランクケースの負圧で混合気を吸入するから、クランクケースはシールしてある。当然、クランクの軸受けにもシールはあるのだが、Vespaの場合、これが消耗品なのである。定期交換が必要なのだが、クラッチ側(左側)はクランクケースの内側にあって、ケースを割らないとアクセスできない。

いにしえの2st Vespaは、定期的に割ることを運命付けられたエンジンなのだ。

今回のパワーダウンは、多分、これが抜けたのだ。
そう考えると、粗方の症状につじつまが合う。

きっと以前から、ずっと抜けかかっていて。シールから、ミッションオイルを吸い込んで、燃やしていた。だから、上記の★でミッションオイルが減っていたのだ。もともと2stで、排気には煙を吹くから、この内部リークも量が多くないと気付かない。

路上でのパワーダウンは、シールが抜けて、外気を吸い込んだ結果だ。

少し考えれば、分かったはずだ。
なのに、最悪の事態を見たくないのか、半ば無意識に、考えるのを避けていた。
私は、こいつの叫びに、真面目に向き合わなかった。

自業自得だ。
壊れたのではない。壊したのだ。

エンジンを、割らねばならない。
SSTもいろいろ要る。
作業は長期間になる。私のような野良メンテ環境では無理だ。

しかたなく、また専門店に持ち込んだ。
前回と違い、今回は「自分でできないからプロにお願いする」ことがハッキリしている。

つまり、この時点で、「自分で維持するコンセプト」は、完全に敗北した。


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専門店(1)の仕事を再評価してみる。
・クラッチのトラブルは対処が悪く、解決できなかった。
・クランクのシールが半ば抜けているのは、見つけられなかった。
・その他、作業の失敗や粗さが随所に見られた。ネジがない、傷がついてる・・・。
また頼む気にはなれなかったので、違う店に出すことにした。

以下は、専門店(その2)での作業の結果である。

エンジンを開けると、クランクのシールは「抜けていた」だけではなく「外れていた」。シールそのものが一部脱落し、エンジンの中で踊っていて、挙句、噛み込んだと。
「珍しい症状ですね」と、店も驚いていた。(← Guzzi時代からよく聞くセリフ だ。)

 

こんな状態で、私が帰り着くまで、エンジンは回っていた・・・というのがまず凄い。
てか、ただのラッキーか。(もっかい反省。)

次に、クラッチは確かに変で、でも原因は専門店(1)の見立てとは違って、スプリングが不ぞろいにヘタっていて、プレートが片当たりしていたとのこと。さらに、組みつけもおかしくて、本来の動きをしていなかったと。

 

専門店(1)のクラッチの対応は、全くなっていなかった。原因が解消していないのだから、乗った感じが変わらなかったのは当り前だ。

一応の意味で、ベアリング類は全交換。十字架を初めとしたミッション周りや、キックのリターンスプリング(これも折れるとクランクケースご開帳となるのでキモの一つ)などの勘所も、特に問題なし。シリンダー、ピストン、シリンダーヘッドも問題はなく、そのまま組んだとのこと。

結果、クラッチのタッチはよくなった。エンジンもパリッとしたのだが、これは、新しいベアリングやシールの効果ではなく、一度バラして点検したキャブを、ちゃんと組み直してリセッティングしたのが効いたようだ。(つまり、キャブもズレていたと。)

副作用もあった。エンジンに元気が出たせいか、「せかされる」感じになったのと、ちょいと振動が大きくなった。(振動に「角が立つ」感じ。)

ちなみに、懸案のハーネスも見てもらったが、そもそも「通す場所が違っていた」と。上述のように、Vespaのハーネスは、影で酷使されている可哀想な人で、通す経路を間違えれば、当然のこと負荷は増える。専門店(1)の修理は、切れかけた配線をつないだだけだったようだが、知らなかったのか、気づかなかったのか。作業量の削減(手抜きとも言うが)の結果なのか。今となってはわからない。

ただ、今回も、気が抜けるほど、費用はかかった。
この業界、ルビコンの次は清水の舞台と、相場が決まっているのである・・・






 ベスパは、クランクケースと
 スイングアームが一体構造。
 エンジン本体は、リアタイヤと
 一緒にガタガタ動いています。
 変ってますね。
 バネ下、超・重いです。(笑)



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その後も、トラブルはいろいろと続いた。

タイヤを替えた。
もともと付いていたのは、チューブレスのゴツいタイヤだった。もう今は売っていない銘柄で、剛性が高くて安心感はあったものの、ちょっと重い感じはしていた。いかんせんエージングで古びてしまい、ひび割れが目立ってきたので換えたのだ。後輪は、排気の2stオイルを浴びるせいか、劣化が早いような気がしたのだが。製造年月を見たところ、前後共に、私が買った時点で既にかなり古かったようだ。こんなにも長い間ご苦労様!という感じで交換した。

昔ながらのチューブタイヤ(つまり安物)に換えたのだが、思わぬ副次効果があった。 エンジンをOHしてこっち、振動が大きくなったように感じていたのだが、これが改善して、乗り心地がよくなった。どうも、振動の角が、足元にユルユルと逃げて行く感じなのだ。当然、踏み心地としてはヤワくて頼りないのだが、そもそもコーナーで頑張りたいバイクではないし、踏み心地がしっとりと、よく言えばエレガントになったのは、予想外の収穫だった。一般に、タイヤは最新型よりも、車体の製造年に近い古い設計の方が、マッチングがよかったりするのだが。今回も、そのパターンかもしれない。実測でもタイヤは軽くなっていたので、バネ下の軽減もあったろう。

ただ、「開けてびっくり」はやっぱりあって、Vespa特有の分割式ホイルの内側が、見たことを後悔するほど、見事にサビていた。今回は、可能な限りサビを落としてそのまま組んだが。次回はホイルを交換したい所だ。(「買っとくパーツ表」に記入・・・)

足回りも換えた。
サス本体の調達は、専門店(2)にお願いした。
乗り手が私のようなオジサンなので、普通のノーマルっぽい見た目のが良かったんだが。店の好みで、またもや赤いスプリングの、カッコイイやつになってしまった。
これまた、納期がエライくかった上に(大きな声では言えないが、ほぼ1年)、涙腺がしとどと緩むほど高かった・・・。
お動きの方はすごく良くて、そこは満足している。
てか、まともに動く足回りって、これが初めてなんだけど。


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以上のように、調子を崩し、逡巡し、対応にまた時間がかかる、その連続で。
直しているばっかりで、乗れる時間が全然少ない。

「買い値より整備・修理費がかかる」のは、Guzziの店で、何度も横目に見た風景だ。
なのに、不本意ながら、自分も同じ道をなぞるとは!
まあ、かかるものはかかってしまった後の祭りで、嘆いてみても仕方ない。

確かにこれ、外見は良かったが、見えない所は、とことん手を抜いてあった。
(前のオーナーも、買った店も、知っていたのかもしれない。だから安かった。)
しかし、見えない所がわからないのはどんな中古車でも同じだし、この個体は、少なくとも外装が良かった分、ボディに関するトラブル(結構かかる)には見舞われていない。

これを、「外見しか良くなかった」と後悔するか、「外見だけは良かった」と喜ぶか。
皆さんなら、どうお考えになるだろうか。

私は、総じて「相場の範囲」だろうと考えている。
「古いVespaに手を出した」例として、私の経験は特別ではない。
たぶん皆様でも、同じような辺りに落ち着くだろう。

無論、反省点は多い。

機体の程度については、初めの時点で覚悟を決めるべきだった。
レストアしたばかりの機体を、オーナーが格安で手放すわけなんかないのだ。
何らかの理由が隠れていると見切り、手を打っておくべきだった。

それ以前に、「自分で維持する」が目的なのに、「定期的にエンジンを割る宿命にある」機種に手を出すというのは、根本的かつ致命的な判断ミスだ。

せっかくの「楽しい夢」なのだから、もっと冷静に、リアルに描かねばならない。
何度でも肝に銘ずるべきである。


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国産は、エンジンの中身まで関わるようなトラブルは少ないし、ゴム類(パッキン、シール、Oリングなど)の寿命は驚異的で、オイル漏れなどは無論、大きなトラブルが突然露呈することも少ない。

輸入車は、そうは行かない。
自分でできる範囲が限られる分、店の影響は大きくなる。

ことVespaに関しては、昔から、店の浮き沈み(開店と閉店)は結構あったし、巷には、いろんな評判が飛び交うものだった。

昔々、まだ景気が良かった頃、チェーン展開していた大型店は、数は売っていたようだが、フォローの方が粗かったらしく、すこぶる評判が悪かった。(「被害者の会」を見かけたことすらある。)

上記の専門店(1)は、個人経営の小さな店で、今でも健在だ。ネットを見る限り、評判も悪くない。来客も続いているようだ。私の時の仕事は、誉められた内容ではなかったが、たまたまだったのか。あの時を思い出すと、貧相な客だと舐められたような気もしている。この店が続いているのは、古いVespaを受けてくれる店が近場にないというのが大きそうだが、それだけに、お客が浮気をせずに、他の店との比較をしないから、店共々、欠陥に気付いていない、ということもあるかも知れない。

専門店(2)は、腕のレベルでは雲泥の差があったが、では仕事が完璧かというと、そうでもない。やはり基本、言った所しか見ないし、見たくない所、見なくて済む所は、なるべく避けて済まそうとする。それはある意味、親切なのだが(安く済む)、実際はただの先送りで、解決からは遠ざかっているのは、オーナー側は明確に認識すべきだろう。現に私の機体も、まだまだ気になる所が残っている。

最初に私が買った店は、老舗の有名店だったが、基本、エンジンを割るような大きな作業はせず、もっぱら、裏のヤードからパーツをもいで付ける型の作業をしていた。Piaggioは、毎年・粛々とコストダウンを進めるのが社是のようで、今でも新車の故障率を高止まりさせている一因だったりもするのだが(←笑うとこ)、パーツの品質は昔の方が良い場合もあるから、この店のヤード方式は「新しくつけた古いパーツがこれまたいい、しかも安い」結果になることも少なくなく、昔からの好事家にはウケていた。とはいえ、その作業も年式次第で、さすがに古過ぎるパーツは使えないし、単価を低く抑えれば店の儲けは少ないから、結局は商売としては回らなかったようだ。終盤は、爺さん一人でやっていて、若い客とそりが合わなかったのか、閉店間際の評判は「誤魔化しばかりの不良店」と「良心的な老舗」に二分していた。

左様かように、Vespaは、商売としては難しい。単価が安くて儲けが少ないが、数を売れば手間がかかって、動かせる手が少ない個人店では追いつかない。乗り手の方も、お金持ちはBMWやハーレーなんかに行ってしまい、Vespaに来るのは、イメージで入ってきた若者や、あまり裕福でないベテランなんかがほとんどだ。いずれにしても、外車ユーザーとしてはボトムレンジで、カネ払いは良くないから、いきなり大きな修理を見積もったりすると「ぼられる店」として一気に敬遠されたりする。仕方なく(?)、店の方でも知恵を使って、適当に整備箇所を間引きして、残りは次の飯の種にと残している場合すらあるようで、結果、「何か変だな〜」や「次はアレやらなきゃ〜」状態が、延々と続く羽目になったりする。機械モノの修理や整備は、個人の経験や腕で勝負できる今や貴重なフィールドで、定期メンテが必要なVespaは、それに好適なはずではあるのだが。経営との両立は難しく、ビジネスが厳しいこのご時勢、その傾向は強まっている。総じて、客と店の関係構築は、難しさを増している。

ハードの方も、使われ方はほぼ実用車で、大事にメンテされることは少ないから、中古車の程度は一概に良くなく、バラツキも大きい。基本的に機械モノで、構造も簡単、パーツの供給もされているから、よほど深刻なトラブルがなければ修理は可能なはずなのだ。
しかしそれは、
 「やれる手があれば」+「払える金があれば」=「その価値があると判断されれば」
が成り立つときだけに限られるのは、他のバイクと同じである。むしろ、巷のVespaの程度が良くないという事実は、この公式がめったに成り立たない、レアケースに限られることを、端的に示している。

今回は、実際に乗った際の乗り味については言及をしなかったが。
Vespa自体は、良くできたイタリアのレジャー車で、今でもその用途に十分使える。
乗って楽しい機種であることには間違いない、と私は思う。

しかし、安くて気軽な外車とて、渡世の波間は広くない。
私のように甘い夢を描いていると、予想より遥かに長い、回り道を強いられかねない。
自分にも厳しくないと、甘い夢は成就しないのだ。

皆様が行かれる道が、私ほどは険しくないことを祈っている。


 あっ、取られた・・・



ombra April 2017

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