古いバイクを自分で維持するということ 〜 国産編


 


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「古いバイクを、自分で仕上げて乗りたい」
よくある話だ。

ヤフオク辺りで、ゴミのようなのを安く仕入れて、自分で直して乗るとか。
「とにかく安く」が狙いなら、自分でやった分の工賃くらいは浮くだろう。

理屈抜きに「メカいじりが好き」という場合もあるだろうし。
自分でこなせる「デキる男」のイメージが、また魅力だったりもしそうだ。

まあ実際は、メカの腕や経験、設備もなしの、単なる夢物語だったりで。
本当に手を出すうつけ者は、そうはいないとは思うのだが。

反面、そうせざるを得ない状況になりつつあるようにも感じている。

長年乗ってきた愛車だが、買った店が閉店してしまい、次を受けてくれる店が無い。
「ウチで買ったんじゃないバイクは受けない」という店は、結構多い。
(新しい店ほど、その傾向が強いようにも。)

慢性的に右肩下がりの業界ゆえ、スキマを狙ったのか、微妙な旧車を扱う中古車店も少なくない。なのに「店が直せない」ケースも散見される。

「ノークレーム・ノーリターン」で落札した場合も、同じ帰結を辿る確率が高いだろう。

一口に旧車と言ってもいろいろだが、英車など旧来のビンテージや、WやZなどの定番も、(質はともあれ)コンスタントに出物はあるようだ。CBX400Fなんかの旧車檜系も、人気は存外に長続きしていて、噴飯ものの高値を未だに見かける。以前は潰していたような高走行車も、安価に売りに出ていたりもする。総じて、古めのバイクに接する機会は、以前より増えているように感じる。

他方、ネット通販が普及してこっち、SSTを含む工具類はムチャクチャ安くなったし、ケミカル類も微に入り細に入り、あらゆるものが一般向けにも売られている。純正部品を扱ってくれるサイトもあって、細かいパーツは発注の翌日に届いたりする。サービスマニュアルやパーツリストは、オークションにコンスタントに出品があるし、自分の整備情報をネットに曝している人も多いから、情報ソースにも事欠かない。ユーザーが自分でバイクを維持できる環境は、以前より遥かに整っている。

しかしながら、業界(メーカーと直系店)にしてみれば、やはり、新しい方を買ってもらうのが正道であるからして、こっち方面のニーズを積極的にサポートしてくれる様子は、ほとんど見られない。こと旧車に関しては、メーカーとユーザーは、溝を深めている。

つまり、ちょっと古いのに乗らんとした場合、
・自力で何とかせざるを得ないし
・やろうと思えば何とかなりそう
と、そういう状況になりつつある。

しかしこれ、実際にやっちまったら、どうなるのか。


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今回、私が教材に求めた条件は、次の2つだ。
・生産期間が長いこと。(パーツの入手がし易い。)
・センタースタンド付き。(ミニマム設備の野良メンテには必須。)

中古車は、常につらつらと探してはいるのだが、少々遠方のバイク屋で、80年代の大型国産車を見つけて。値段が手ごろで、ちょっと面白そうではあり。いや、ホントは、そんなに欲しくはなかったんだけど、田舎バイク屋のオヤジの、やたらに強い押しに負けて。フラフラと買ってしまったのであった。(いやはや拙者、まだまだ未熟者である…。)

何ででしょうね。中古屋で、良さげなのを見つけて、話を聞いて、とりあえず名前だけ書いて帰ってくると、程なく「次の希望者が来店して、売れちゃいそうなんですけど?」って電話が、必ずかかってくる。あんなに売れずに置いてあった長期在庫車なのに、いつも必ず、私が見に行った途端にライバルが現れるのだ。

ひょっとして、私は秘密結社に監視でもされているのだろうか?
(いや、バイク屋のオヤジが架空の候補者をでっち上げて、煽っているだけ。)


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このバイク屋、古めや希少車を扱うことでは有名らしく、巷の評判も悪くなかった。
実際、納車整備は、いろいろやってくれたらしかった。
いわく、キャブOH、FフォークのシールとRタイヤ、エンジンオイル交換、など等。

遠方のバイク屋である。納車には、ずいぶん電車を乗り継いで行った。(最後は単車両の気動車だった!)なのに、バイクの方は、その帰途からもう調子がよろしくなかった。下の回転で力がなく、ガタガタ振動するだけで進みが悪い。何となくガス臭かったりも。

その後しばらく、様子を見ながら乗っていたのだが。たまに片肺になったりと、不調が続いた。全く、国産車ってのは妙に動作が安定していて、片肺でも普通にアイドリングしたりする。調子の悪さがハッキリ表に出ないのだ。

使いながらあちこちチェックして、エンジンオイルが入り過ぎなのを見つけて少し抜いたりとか、細かい作業を続けていたのだが。結局、この症状の原因は、キャブのオーバーフローだった。負圧コックだから、エンジンを止めると漏れも止まるので、気づくのに手間取ったのだ。たまたまコックをResにした時に、キャブからガスが滲んできたので見つけられた。

店に電話して、様子を聞いた。
・キャブは一通りバラして調整した。シール類も交換している。
・フロート内は古びたガスの残渣なんかが汚かったので掃除した。
 (しばらく乗ってなかったらしかった)。
・オーバーフローはよくあること。キャブを叩けば直ったりするのでやってみて。


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またあの遠くの店まで行くのも面倒なので。やれる所は、やってみることにした。

・キャブのドレンに燃料パイプの切れ端をつなぎ、空き瓶を受けとして当てがう。
・燃料コックはONのまま(エンジン停止につきoff状態)キャブのドレンを緩める。
・キャブのフローとチャンバー内のガスが排出され、出切ると止まる。
 → フロートが下がり、フロートバルブは全開になる。
・コックをResにする。ガスが流入し、フロートバルブを通してドレンに排出する。
・この際に、キャブの本体を、ドライバーの柄なんかで軽くコンコン叩いてやる。
 (店が言っていたのはこのことかな。)

要は、ガスでフロートバルブを洗うような応急処置だ。店はここまで詳細には教えてくれないから、整備書などとにらめっこしながら、考え考え作業をした。その甲斐はあって、これでオーバーフローは沈静化した。(キャブをバラさずに済んだ。)

瓶に溜まったガソリンをよくよく見たが、異物のようなものは確認できなかったが。店の作業で混入した何かが、フロートバルブに噛み込んだのは明らかだ。事後の動作確認(試走など)も、ろくにしていなかったらしい。

以上から教訓を引き出すと、
・私は、店の雑な作業のお尻拭きを行った。
・あの店にまた預けても、私が尻を拭く程度の結果しか期待できない。

私が手ずからメンテをしても、結果は同じ(保証がなければ金額も)ということだ。


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キャブをコンコン位で済んでいればよかったのだが。
次から次へと、不調は現れた。

実は、その逐一を詳述しようと、文章を書きかけたのだが。自分でも辟易して、止めてしまった。皆様にお読み頂いても、吐き気をもよおすだけなので。以下は、項目だけ挙げるに留める。

・ご臨終または欠損していたキャブ周りのホース類を新調
・キャブを整備、ノーマルスペックにリセッティング
・プラグ、プラグコード、プラグキャップ交換
・冷却水漏れ修理、冷却系フラッシング洗浄
・Fサス修理、オイル交換、レベル調整
・Rサスオイル交換、レベル調整
・Fマスタシリンダー調整
・ニュートラルランプの配線修理
・外装パーツ修理・作製、欠品パーツを補充
・ウインカーのステーが劣化して折れたので交換
・シートが寿命で張替え
・微妙に曲がっていたシフトペダルを交換
・点火系の修理
・etc.

無論、油脂類やバッテリーなど消耗品の交換といった基本整備も、別途行っている。

このリストだけを眺める分には、識者の皆様におかれましては、通常通りの内容で、大したことないと思われるかも知れないが。それぞれ、不具合が出て、原因を探して、自分で対処を考えて、手を動かして試行錯誤するという、一連の作業が付随するわけで。時間、カネ、手間は結構かかった。

幸いなことに、エンジン本体を開けるには至らなかったが。(というか、さすがにそれは野良メンテではムリなので、避けていたのだが。)夏場に限ってたまに出るミスファイアだけは、ついに直せず終いだった。


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整備の詳細については、情報をネットに上げている人も結構いるので(動画まである)。ここでは、エッセンスというか、ニュアンスのようなものを一般化して、お伝えすることにしたい。

結論から言ってしまうと、古い中古車を自分で維持するというのは、「便所掃除」みたいな作業だった。

もともと、整備なんて半分くらいは掃除みたいなものなのだ。こびりついた汚れを落とし、必要に応じて交換・調整して、本来の姿を取り戻していく。

しかし、こと古い国産車に関して、私が「便所」扱いするのは、言ってしまうとこれ、ウンコの次はゲロを拭いて・・・と、そんな感じに近かったからだ。

まず、一番鼻につく臭いから、処理をする。
それが終わると、また別の臭いが鼻につくから、それをやる。
そして、一番厄介なのは、恐らくは、かなり最初の方についた、年季が入った汚れだ。

実際に自分でもバイクを使いながらの進行なので、私も汚れはつけている。
自分の汚れなら掃除もするが。そんなのは、大した量ではない。

手ごわいのは、ずいぶん昔についた、固着して取れない、他人のウンコだ。
知らない他人が、掃除(メンテ)をサボったからこそ、こびりついて、残った汚れ。
文字通り、その「お尻拭き」。

それを延々、かつ淡々と、処理するのだ。
果てしない根気と、広大な度量が要る。

国産車は普通、乗りっぱなしで、メンテもろくにされていない個体が多い。だから、この「便所掃除に対する根気と度量」は、国産の古いのを自分で維持する際には、避けて通れない。

無論、国産ならではのメリットはある。
今回、私が、この作業を続けられたのは、課題が、できる範囲に留まっていたからだ。

エンジンを下ろすような作業や、腰下まで開けるような大物は、リフトやジャッキなどの設備や、SSTを持たない素人にはできないし、そもそも作業の難易度が高いから、ある程度の経験がないと失敗する可能性が高い。幸い、国産車はそこまでの大物はそうはないから、こまめな便所掃除程度で、何とかなる確率は(輸入車に比べて)高い。

他に、認識すべきリスクといえば、やはり最右翼は「パーツ」だ。
どんなに小さなパーツでも、バイクを丸ごと走れなくするリスクは、常にある。

特にリスクが高いのは、
・他の車種と共有していない専用品
・磨耗ではなく、経時劣化するもの(中古パーツが使えない)
こういったものは、メーカーの側でも管理費がかさむせいか、早々に供給を止めてしまう傾向にあるので注意が要る。

意外と盲点なのは、タイヤと、電装だ。
この二つは、オーナーレベルでは、どうしようもない。

特殊なサイズのタイヤの供給が止まっているケースは、結構ある。
足周りを全取っ替えすれば対応は可能だろうが、金額はかなり痛い。

電装では、80〜90年あたりの年式では特にだが、CDI・イグナイタの故障でとどめを刺されるケースが散見される。そういう意味では、ICチップの供給が止まって頓死する、最近のデジタルバイクと状況は同じのようだ。ネットでは、思い余ってCDIの自作をトライする方までいらっしゃるようだが。なかなか厳しそうだ。

こういった、要所要所のパーツの調達が可能かどうかは、初めに車種を選ぶ際に、しっかり吟味しておいた方が良かろうと思う。


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私のその後について、少々続ける。

実は、今回の作業で、最後の最後に私をがっかりさせたのは、全く別のこと、具体的には、
「この作業の結果に得られたのが、ただの古い国産車だった」という現実だった。

まともに走るようになったこのバイクは、納車当初の印象とは全くの別物になった。
「本当はこんなバイクだったのか・・・」 (← 前にも同じセリフを言った覚え が。)

しかし、ちゃんと乗り込んで、特性をつかんで、乗りこなそうと努力すればするほど、これは、80年代に一瞬だけ光った、でも今となれば古臭い、安楽だけが取りえの、ただの国産車であることを、露呈した。

バイクが、便所掃除の見返りをくれるわけもない。
当たり前だ。

さして欲しくもないバイクを、バイク屋のオヤジの押しに負けて買ってしまった時点で、負けは決まっていた。

話が少しずれるのだが。
どこぞで見かけた、旧車檜系の方のコメントだが。ン百万の大金を払ったそのバイクは「オレの青春の象徴で、これがあるから、また頑張れる」と、そんなことを仰っていた。

まあ、傍から見る分には、その天照らすカウルのアナクロなバイクに、そんな効用があるとは想像できないのだが。ご本人が納得ずくの所に、他人が口を挟むいわれはない。

ただ、精神的な納得、得心や信心、勘違いでもいいのかな、そういうイメージ(メンタル? スピリチュアル?)による裏打ちがないと、成立しえない世界なのかなと。そう感じた。

しかし私は、残念ながら、信心が薄い。
神様も世間も、信用しない。
実際に乗って、自分が楽しくないと、納得しない。

だから、この世界には不向きなのだろう。


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この国産大型バイクは、後日、放逐した。
(トータルでは、結構な授業料となった・・・号泣。)

大きくて重い車体に難渋していたので、軽く小さく、シンプルなのに入れ替えたのだ。
年式も、10年近く若返った。(って、まだ十分、旧車の域だけど。)

また違う店で買ったのだが。
結構高いパーツまで新品にするなど、よくしてくれた。

なのに、だ。
納車後すぐに、
・リアブレーキの引きずりが強く、しばらく走ると熱膨張でロックして動けなくなる。
・満タン入れたら、コックの根元からガスが滲み出して止まらない。
・アクセルワイヤ(下の方にあってよく見えない、戻し側の)がほつれていて切れそう。
・ワイヤ、レバー、ペダルなどに給油した痕跡が全くない。カッピカピに乾いている。
・etc. etc. ・・・

うーん。
何ででしょうねー。

安い出物ばかり狙っているからかなあ。
でも、「自分で仕上げて安く乗る」がお題だから、そこは譲れないんだけど。

いや、ということはつまり、
そもそも、このコンセプト自体が成り立たちえないと、そういうことなのかな?
(巷で、地道な整備やレストアが、商売として成り立っていない時点で、もう明らかではあるんだけどね・・・)


 



ombra April 2017

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