眠れる卵 vol.10



 銀を纏うのは、「月詠(つくよみ)」の証し──。

 拡散する白銀の光。

 周囲の様子を視覚で捉えるのはとても辛かった。
風は狂うように吹き荒れ、岩をも飛ばし、血を割って吹き出した炎の柱は、天高く咆哮をあげて伸びていく。

『生命に代えても守らねば』

 意識は常にそこにあった。
界の狭間にあった身体は、一瞬の浮遊を受けて、射干玉(ぬばたま)の月詠の界へと入る──。

 黄金の光が幾筋も反射するこちらの界は、水渋きが渦を巻いて蛇のように地を這い、土砂を含んでは飛び散らしていた。
全身に走る痛みは、緊張と危機感によって今は失われている。

 常に視線は、あの方へとむけられていた。

(──あれ? あの方って誰のこと?)

 暴風の壁が何度も打ち付けるように襲い、その度に口にくわえた黄石に心を砕いた。

(黄石……? 口にくわえてる?)

 やっとの思いで月詠の宮殿に辿り着くと、じれる気持ちが四肢に、「もっと早く走れ!」と、追い討ちをかけた。

「スィヴィル!」

 思ったとおりだった。あの方は最期まで、この瞬間を待っていらした。

「ごめんなさい。あなただけを残してゆかねばならないなんて」
「それよりも白石を。黄石はすでに陽主より、ここに」

 月詠の女神セレネは愛しいひとを重ねるように、床に置かれた黄石を白い手のひらで包み、頬を濡らして口付けた。

「背の君、どうか御急ぎを。もうすぐに位相が同調を迎えます。あとは私にお任せを」

「ごめんなさい……ごめんなさい……。
陽の属性だけのままでいたなら、あなたも彼の君と共に異界へと行けたのに……。
私が月の属性をも与えてしまったばかりに……、あなたはひとり取り残されてしまう──」
「泣き顔は似合いませんよ。さあ、いつもの如く微笑みを。それだけで私は……」

「いいえ……、あなたは私と彼の君の見方になってくれた大切な恩人だわ。
その大切なあなただけを、私たちはこの世界において行くのよ……。
私たちはあなたに裁かれなければならないわ」

 陽と月の位相の異なるふたつの「界」で成り立つ神々の世界。
ふたつの界はそれぞれの属性を持ち、神族の民ですら、異なる属性の界で息衝くことは不可能だった。

 陽(ひ)の属性を抱く「茜さす照る陽の民」。月の属性を纏う「射干玉の月詠の民」。
二族の神々の交流は、定期的に訪れる「蝕」のみ。ふたつの界が接する「蝕」の時だけ、属性は無効化された。

 事態は、神々の安定の界にどの属性にも属さず、どちらの属性にも順応するモノが現れた時より始まった。

 人の子の出現である。

 神々の予想に反した人の子の、増えよ増やせよの凄まじい繁殖力による急激な生命の増加は、世界のエネルギーバランスに歪みを生じ──。
ふたつの神々の界は蝕を迎えるたびに位相を近付け、人の子の存在は「神々の存続こそ世界によって危ういもの」と世界の主観までも変えてしまった。

「背の君、私は孤独ではありません。
妖精たちのような多くの下級の眷属も、私と同様、この世界に残ります。
陽の属性の火精や地精、月の属性の水精や風精──そのほか、それぞれの属性の多くの眷属たちが、今までの位相による属性に縛られた界とはまったく異なる世界で、これからは属性と無関係に同じひとつの世界で共存できるのです。
私たち、使徒のように神族に近しい存在ほど、本来、属性の束縛が強く、新たな世界では存在が許されないことはご存知でしょう。
私は陽の民に仕える使徒でありながら月の属性を抱くからこそ、射干玉(ぬばたま)の月詠の界を訪れ、あなた様にお会いすることができたのですよ」

「背の君」と呼ばれる月の女神セレネは、スィヴィルの銀色のたてがみを両腕で抱きしめて、この先の彼の行く末を想いながら、真珠の涙を幾粒も落とした。

「見事な黄金色であったのに、私が勝手をしたために──」

 スィヴィルのたてがみは月の属性をも帯びた時から月の女神セレネの髪と同じ銀の色彩に変わっている。
本来、使徒とは陽神の使役聖獣をさし、「金の使徒」と呼ばれ親しまれていた。
だが、スィヴィルは、陽の属性の茜さす照る陽の民の一位の眷属を誇る同胞の使徒たちの中で、唯一、陽神と月神のふたつの界を行き来できた「銀の使徒」だった。

 銀を纏う以上、未来、陽主ダイタルドと共に歩むことは二度とない。
純粋な陽の属性でない身では、「茜さす照る陽の民」が行くべき道には行けなかった。

 今、この瞬間にも、故郷の陽の界と通い慣れた月詠の界のふたつ界が消え失せようとしていた。

 暖かい抱擁の感触のすべてを一身に刻みながら、銀の使徒スィヴィルは、
「このお方とも、再びお会いすることも叶わない」
惜別の覚悟を必要とした。

「我が陽主の背の君、最期にひとつだけ、お伺いすることへのお許しを。
人の子の闊歩(かっぽ)たるさまは、世界の崩壊を憂い、異界への旅立ちを決意せざるをえなくなった神々の瞳に、いったいどのように映ったのでしょう。
背の君、あなたさまは人の子を恨んでおいでですか?」

 神々が迎える最後の蝕。それは、まさに崩壊の時。

 ふたつの界はこの日以後、位相は重なり、ひとつとなり、ふたつの属性が共に存在する新しい世界が誕生する。
となれば、属性に強く縛られる神やその眷属に生はない。

「陽主と二度とまみえることままならぬ異界への旅立ち。その根源たる人の子を恨みませんか?」

 蝕が始まった時、茜さす照る陽の民の若き指導者ダイタルドは、忠臣であり友でもある銀の使徒に苦渋の選択を語った。
同胞の存続と、愛しき異族の女神への恋。それらを天秤にかけてもなお、どちらも捨てきれずにいたのだ。

 もとより、ダイタルドとセレネが新しい世界に残れば、神族の二柱は恋を得たと同時にその存在は一瞬で霧散する。

『──蝕の逢瀬さえも絶たれ、別れを余儀なくされた我が、最後に望むのは、未来。
我が想いを黄石に、女神の想いを白石にこめ、そなたに託したい……。
すまぬ、スィヴィル。そなたの犠牲の上に、我らは希望へと変え、この想いを繋げようとしておる……』

 銀の使徒は、世界が、神ではなく人の子を選んだのだと理解した時、二柱の恋人たちのためにひとつの決意をした。

──再び、あいまみえるようあらかじめ仕組んで、人の子の血脈の波に『想い』を埋め込もう……。

 それが最良の策である、と。

 だから、あえて月詠の女神セレネに尋ねたかった。

「人の子を恨みませぬか──?」

「いいえ……。いいえ、スィヴィル。我らは人の子に願いを託すのですもの。
彼らの行く先が幸せであるよう心から祈ります──」



 ぼくは、銀の使徒スィヴィルとして、魅了してやまない月詠の女神の声を聞いていた……。

 それから、位相の崩壊と属性の統一を迎えた世界に身を沈め、スィヴィルは安定した世情を見確かめたのち、黄石と白石に込められた想いをとある人の子たちに埋め込んで、時の流れを静かに待った。

 何百年も何千年も時をかけて──。

 そうして、待ちに待ったその時が訪れた……。

 今からおよそ千三百年前、イクシミライルの国で、陽神ダイタルドの「想い」は、王太子セレディナッドに強く出現したのだった。

「光輝く黄金の髪、金に緑の斑の双眸──。陽主よ、彼は貴方の身体的特徴に類似しておりますよ」

 予定通りの進行に、彼は長い年月を経て初めて、肩の力が抜ける感覚に襲われた。
しばらくして、それが「安堵感」なるものだと知った。

 ときを同じくして、月の女神セレネの「想い」は、銀髪と銀の瞳を持つ娘シルヴァンに現れた。

 だが、これには銀の使徒も訝しがった。戸惑いさえ、あった。

「なぜ黒ではなく、銀の瞳なのだろうか──?」

 銀は「月詠」の証し。射干玉の月詠の民はみな銀糸の髪を棚引かせていた。
ただし、月詠の神の瞳は、射干玉の世界と同じ漆黒である。

「シルヴァンは月に属しているものの、『月詠』そのものではないと言うことか」

 それでも、神々の恋人たちの想いは適えられたと言えようか──?

 銀の使徒の自問をよそに、世間の人の子たちはふたりの間に授かった黒髪の子供たちを、「神の愛し子」と呼び貴んだ。

 特に、のちに国王となったセレディナッドと同じ金に緑の斑の瞳と、月詠の眷属にしばしば現れる青灰色の瞳の、ふたつの稀有なオッドアイを持つ第二王子カンギールを、民衆は「聖なる者」と崇拝し、聖なる者こそが、陽神と月詠の女神の「真の望み」であるかのようにカンギールの一挙一動に歓喜した。

「かの御方々の想いは、一応の希望を得られたようだ」

 カンギールが成長し、多くの縁談が申し込まれるようになると、銀の使徒は行く末の安寧を見出し、心安らかに眠りにつこうとした。
だが、突如、思惑を外れた事態が起き、眠るどころではなくなってしまった。

 多くの人の子が羨むほどの幸福な未来を担った聖なる者カンギールがおのれの「半身」と選んだのは、まだ幼き盲目の少年だったからだ。

 このままではカンギールに子は望めない。
銀の使徒は憂いだ。

 その少年こそ、のちに稀代の先読みとして知られる聖職者ショルナ・ウル・ゲル、その人であり、結果的に、聖なる者カンギールは、生涯、報われることのない恋を貫き通したことになるのだが……。

 その若き盲目の先読みが唱えた予言がここにある。

「ひとつ、性の枠に囚われない、新しき人の子の誕生──」

 そして、その先読みに付け加えられるようにして語られた、可能性を秘めたる言葉。

「射干玉の月詠の民の瞳を持つ者こそ、『月詠』の出現の指標──」

 生前のウル・ゲルは、突如姿を現した銀の使徒を目前にしてもまったく驚くことなく、「貴方を待っていました」と微笑み、そして、その唯一の銀の使徒に、その時、こう伝えたのだった。

──いずれ、貴方の恋も報われましょう、と。

 ショルナ・ウル・ゲルという少年は、その類を見ない能力で視(み)たのだろうか、銀の使徒の長い孤独、陽神への忠義心……、それらすべてを理解していた。

 少年は銀の使徒の恋さえも知っていた。

「これは、かの神々からの……、世界にひとり取り残され孤独となってしまう、そんな大切な友である貴方への償いなのです。
貴方に白石に込められた真実の言葉を伝えましょう」

──聖なる者の子孫に、金に緑の斑と漆黒の瞳を持つ者が現れた時、銀の使徒の半身、『月詠』への道が開かれる──

 ウル・ゲルは光を感じないその乳白色の瞳で、唯一この世界に存在する使徒をまっすぐ射ながら語った。

「漆黒の瞳を持つ左右異色の人の子が生まれなかったら、『月詠』も生れ出てきません」

 それは可能性を語っていたに過ぎなかったが、銀の使徒スィヴィルの心を充分揺るがした。
はかない一縷の希望の糸でも、無に比べれば何よりもの光だったからだ。

 すでにこの時、「生きがい」と呼ばれるものを、長い月日の中で、スィヴィルは欲していたのかもしれない。

 そしてスィヴィルはそんなウル・ゲルの先読みが、射干玉の月詠の民だけに与えられた神力だと気付いていた。
彼も「想い」を繋ぐ者のひとりだったのである。

(あの最期の蝕の日、スィヴィルが不安定な世界を駆け抜けた際、黄石は無事だったけど白石には確か、ひびが入ってしまっていた。
あの時、きっとかけらがこぼれ落ちてたんだ。
先読みの特殊な力を持つウル・ゲルは、多分、かけらの「想い」を取り込んだ、もうひとつの血脈の末裔──。
シルヴァンが漆黒の瞳じゃなく生まれたのは、白石の「想い」が、幾分、途中で漏れたためかもしれない……)

 せめて。

(せめて、ウル・ゲルに女性の身体が与えられていたなら──。
白石のかけらを持つ者が聖なる者と結ばれれば、完全に神々の恋人たちの想いは遂げられただろうに)



 銀の聖獣スィヴィルの記憶が、ぼくの記憶となって重なる。

 同時に、スィヴィルの想いさえも流れ込む──。

『あの御方の微笑みこそが、私の願い……』

 銀の聖獣は、月詠の女神セレネを慕っていた。

(かの神々の恋人たちはその使徒の想いに気付いていながら、恋の成就に銀の使徒を利用したんだ……)

 その償いが「月詠」──。

(「月詠」とは月詠の女神セレネの化身を示す、銀の使徒の孤独を癒す存在なんだ……)





 そして再び、視界ががらりと揺れた。

 冷たい石床に横たわる小柄な少年を包むように、黒髪の青年が抱き留めている。

 乳白色の髪と瞳の少年は、ショルナ・ウル・ゲル。

 そして、黒髪に、金に緑の斑、青灰の左右異色の瞳を持つ青年こそが──。

(聖なる者、カンギール王子だ……)

「まだ二十歳の声をも聞かないその若さで、おまえは西の果てへと逝くつもりかっ」

 刻々と近付く別れの時。

 病魔に侵されたウル・ゲルの微かな息遣いを耳にしながらも、カンギールは死に逝く少年の現実を受け止められずいた。

 その彼の左右異色の瞳が強い意志の輝きを放つ。
決意が、左の手首に短剣の刃を走らせた。

 切り傷から滴り落ちる、妙に鮮やかな赤色……。
心の臓に一番近い血である左手首の鮮血。

 彼はそれを口に含むと、血の気を失い紫色に変色した愛しい少年の唇に迷いもなく重ね、無理やり嚥下(えんか)させた。

 それは、「鮮血の誓い」と呼ばれる儀式だった──。

「ショルナの生命の炎が燃え尽きた時、おのれの生命も消え失せよ」

 生命を掛けた最強の束縛契約である「鮮血の誓い」は、生命の絆を綱ぐ神聖魔法の一種である。

 だが、乳白色の少年も暴挙に出た。
力なく震える手で聖なる赤血が滴る剣を掴み、一気に自分の左手首を割いたのだ。
溢れた血がウル・ゲルの口に入り、カンギールの血と混ざり合う。

 ウル・ゲルの真摯な瞳の誘いに、聖なる王子は頬を涙で濡らしながら何度もかぶりを振った。

 それでも愛しい少年の最後の望みを拒みきれなくて。

 彼らの別れを飾る愛の仕草は、互いの血を口移しで飲ませる壮絶な抱擁となった。

「私に殉じるのは許さないよ」

 ウル・ゲルの最後の言葉に、カンギールが泣き崩れる。

「鮮血の誓い」は束縛契約であり、互いの生命を縛ることはない。
最強の束縛契約を無効化する唯一の手段は、その特性を知り尽くした者だけがなせる行為だった。

 ウル・ゲルはカンギールの生命を縛ることを拒み、残してゆく想い人をいつまでもその光映らぬ瞳に映しながら、最後まで微笑みを崩さないまま、カンギールの腕の中で眠るように静かに息絶えた。

「決して……、我が涙は乾くことはない──」

 カンギールの喉の奥から絞りだした声が広い寺院の一室に反響して、冷たい石床に落ちては消える。

「子は、成す……。子は……」

 その掠れた声は、その一部始終を見ていた銀の使徒の耳に、これ以上ない慟哭に聞こえた。

 拭うことさえ放棄した絶え間なく流れる涙は、唇についた少年の赤い血と混じり、カンギールの頬を朱に染めて、血の気の引いた容貌を一層青白く引き立たせた。

 その泣き腫れて赤く染まった目尻は雨に打たれたように濡れていた。
その赤い目をきつく細めて、カンギールは銀の使徒を睨みつける。

「おまえのためではない。ショルナのためだ。我はショルナのために子を成す!」

 そう断言すると、「聖なる者」と人民に称えられた青年は、震えた背中で銀の使徒からウル・ゲルの亡骸を隠して、徐々に冷たく固くなり始めた少年の身体をいつまでも腕に抱いて離さずにいたのだった──。



 ぼくの脳裏に鮮やかに残る、とても哀しく、ひとりを寂しく思わせる場面。

 ぼくは銀の使徒の瞳を通じて、今、それに立ち会っていた。

(聖なる王子が子を成さなければ、先読みは脆い夢となって消えてゆく。
だから、ウル・ゲルは逝く時さえも未来に心砕いて、道を開かねばならなかった……?)

 カンギールの苦しみ、哀しみさえも受けとめて、銀の使徒のために先読みを優先した偉大なる予言者。

 かの、世に知られた予言者ウル・ゲルとは、先に逝くことを嘆き悲しむよりもまず、あとに残される者に心を砕く、慈悲深くも気丈な少年だったのだと知れた──。




 そして、銀の使徒の表層意識に刻まれた記憶は、川の流れのように休むことなく、ぼくに新たな情報を与え続けた。

 ウル・ゲルの死後、カンギール王子は約束通り、「聖なる者」という甘く響く名に惹かれ群がる多くの雌蟻を逆手に利用しながら、両手両足では数えたりないほどの多くの子を儲けた。
そうして生まれた子供たちは、摩訶不思議なことに男とも女とも言えない子供たちだった。

 生まれつき性を持ち合わせていない子供が初めて生まれた時こそ、人の子たちはおののいたが、さすがに聖なる者の子と敬うようになった。
のちに、「眠れる卵」と呼ばれるその子供たちすべてが、ウル・ゲルと同じ乳白色の髪をしていたことも、これまた不可解な予兆ともてはやす原因となった。

 早世したウル・ゲルとは血縁関係などあるわけがなく、まったくの無関係であったはずなのに、同じ乳白色の髪を持って生まれてくる「眠れる卵」の子供たち。

「障壁となるものはすべて拒もう。性が壁となるなら、その枠さえも取り外そう。
心のまま、想いを遂げてほしい。そのための力も与えよう……」

 それは、カンギールの身の内に宿る、久遠の恋人たちの黄石と白石の想いが紡ぎ出した二柱の神々の力が起こした軌跡なのかもしれない。

 だが、カンギールの神力をもってしても、彼自身の幸せを紡ぐ糸にはならなかった。

(哀しみにくれながら、かの神々のように願わないでいられないほど、残された聖なる王子はウル・ゲルを求めに求めたんだ……。
そう、オッドアイの神力を使う時、ウル・ゲルの瞳と同じ乳白色に染めるほどに──)



 そして、カンギール王子が生きた時代よりおよそ千三百年経った今でも、ウル・ゲルの先読みに出た「月詠」出現の可能性である漆黒の瞳を持つオッドアイの存在はいまだ生まれてはいない。

 今や、銀の使徒スィヴィルは希望を捨てられぬまま待ちくたびれ、すでにその身体をまどろみの中に沈めてしまっていた。

 この世界でもっとも神に近い銀の使徒は、今も孤独の中にいる。

(数多くの恋を見届けてきた銀の使徒は、この先もたったひとりで生きていなくてはならないのだろうか……。
ウル・ゲルの先読みの可能性がもしも得られなかったら、スィヴィルの落胆はどれほどのものだろう……)


 想いは巡る──。





この作品の著作権は、文・moroにあります。
当サイトのあらゆる内容及び画像を無断転載・転用・引用することは固く禁じます。