「それではみなさま、たいへんお待たせいたしました。我らが
音楽堂の設立を祝う今宵の音楽会『ツイン・スター』を、どうぞ
心よりお楽しみください」
司会者の声が朗々と響き渡ると、ろうそくの灯をすずなりに
つけたシャンデリアが引き上げられ、ホールは真っ暗になり
ました。
明かりはただ、はめ殺しの窓から入る青白い月明かりだけ
です。
そしてその窓の向こう、広がる街の明かりと瑞々しい星月夜
にくるまるようにして、屋上にはたくさんの猫たちが働いてい
ました。
サムラが中央の大きな銅の玉の前で、さっと前足をあげます。
それを合図にすぐ隣にいたカカラドが、長い柄のレバーを力
をこめて引き上げました。
ぎしぎしぎしっ、みしっ、ぎしぎしっ、がっがっががががががっ
ビックプディングの名のもとになった音楽堂の盛り上がった
屋根のふちが、花のように天にむかって開きはじめました。
筒を半分に切ったような花びらは、そのすべての内側に、
朝つゆのようなつややかな白銀の輝きを宿していました。
鏡には、月が映っているのです。
こうして半円の鏡に反射されたいくすじもの月明かりは、音楽
堂の屋上の中心へとその輝きを放ちます。
ソルティムガランから来た職人の長老が、銅の大きな玉を左
右に開きました。
その中のひときわ大きな鏡は、はめ殺しの窓からじっと舞台
をのぞきこむよう、ななめにかしげてあるのです。
銅の玉の鏡に集められた月の光は、光の道すじとなり、音
楽堂のステージのたった一点に降り注いでいます。
「プログラム1番、
バイオリンソロ『S34−1 カレイドスコープ・流水』シニファン・
エリクナルド」
丸い「せり」にのって舞台の下から上がってきたシニファンを、
刃物のように研ぎ澄まされた強い月の光が、こうこうとてらし
ていました。