7フィートハーシェル鏡の複製(6)



写真1 二度吹き

写真2 温度計による温度管理

写真3 鋳型への注入

写真4 鋳型から取り出した鏡材

写真5 熱処理炉

写真6 ハンドルをつけた鏡材


 ニューズレター第128号の「7フィートハーシェル金属鏡の複製(5)」でご紹介しました金属鏡の試作品は、2004年3月20日イギリス・バース市で開かれた英国ハーシェル協会年会の席上で、とりあえずハーシェル博物館へ寄贈いたしました。

写真7 金谷氏(左)と野寺氏(右)
 帰国後、富山県高岡市の銅合金地金の専門家の野寺勝弘氏へ次の金属鏡の鋳造の御願いをいたしました。野寺氏は、'03年度の瑞宝単光章受賞者の金谷清氏をはじめとした3人の優秀な技術者集団へ依頼をして3月30日に主鏡用2面と平面鏡用5面の材料を鋳造してくださいました(写真7参照)。錫30%のように錫が多い銅合金の鋳造は初めてということでしたが、鋳造当日は、銅鋳物の産地高岡市の誇りにかけてという意気込みで鋳造所内は緊張感が張りつめていました。

 今回作られた鋳型は双(惣・燥)型と呼ばれる技法によるものが使われました。双型は銅矛や銅鐸のほかその後の日本の金属鏡にも使われた方法だそうです。鋳物用の砂に粘土も混ぜて、焼き上げてあるのでよく乾燥しています。また、鋳造直前にもバーナーで加熱しますので溶融金属が急冷されるのをかなり防止できます。

 銅の融点は1,083°Cですが、錫は232°Cとかなり低い融点です。溶融した銅に錫を溶かしこむと錫の一部が蒸発して微細な気泡となり、そのまま冷却すると製品にピンホールが現れます。そこで二度吹きといって、いったん冷却した合金を再び溶融する方法がとられます。この時の溶融温度を低くおさえるのがポイントとなっているようです。今回は野寺氏の計算によって830°Cにおさえることになり、温度計で確認しながら溶融がされました。また、上下2枚重ねの鋳型の接合部は年度でしっかり塞がれていますが、溶融金属を流し込むときに上部の鋳型が浮き上がらないようにしっかりと上から押さえつけながらの鋳込みが行われました(写真1〜3参照)。その後は翌日までゆっくり自然冷却がなされ、翌朝鋳型を割って鋳物をとりだします(写真4参照)。翌日取り出したた鏡材は表面が黒く汚れていて、ピンホールや鬆の有無などを伺い知ることができませんが、そのまま東京まで宅配便で送っていただくことになりました。

 次は焼き鈍しですが、昨年熱処理を行っていただいた三鷹熱処理研究所は経営者のご都合で廃業されたため一時途方に暮れましたが、インターネットで検索した東京都武蔵村山市にある多摩冶金株式会社が引き受けてくれることになりました。同社は熱処理の業界ではかなり大規模な会社ですが、今回のような少量の熱処理にも気持ちよく対応してくださいました。600°Cで約3時間半保温した後2時間後に約500°C、その後さらに4時間で500°C、さらにその7時間後には400°Cというように、まる1日以上をかけて常温まで徐令していただきました(写真5参照)。

写真8 西野主任による旋盤加工
 4月中旬になって、前回と同様に国立天文台の天文機器開発実験センターに「7ftハーシェル望遠鏡の金属鏡の複製」というプロジェクトを立ち上げ、同センターのマシンショップへ鏡材の加工を御願いいたしました。はじめワイヤー放電加工機で円形に切りとり、続いて旋盤加工に入ります。材料が大変硬く脆いため旋盤加工のときにでる切削屑が細粉となり、加工後の工作機械の清掃が極めて大変だということでしたが、今回は特に最後の仕上げにCNC旋盤という機械で、材料の表面に焦点距離相当(曲率半径440cm)の凹面の曲率をつけていただきました(写真8参照)。さらに鏡と同じ直径で凸面の鉄製円盤(鉄皿)2枚も製作していただき、これと鏡材を擂り合わせることにいたしました。主鏡の材料は直径16cm、面取り後の有効口径は158mmとし、オリジナル鏡の口径と一致させました。オリジナル鏡の厚さが不明のため、18mmと16mmとしました。前回研磨の経験から外力による変形がガラス鏡ほど大きくはないらしいという感触から、ガラス鏡としては薄過ぎると思える程度の厚さです。他に斜鏡用の鏡材として直径56mm、厚さ5mmを2面と厚さ6mmのものを3面も仕上げていただきました。

 私事ですが、この作業期間の5月下旬に観光目的でエジンバラを旅行中にアキレス腱の完全断裂に見舞われ、2ヶ月ほどは全く作業に入れなくなりました。7月下旬になって鏡材の裏面に取りつけるハンドルを彫刻用の桂の木の角材から削りだしたり、室内で研磨を行うための研磨台を作成する等の研磨作業の準備を可能な範囲で行いました(写真6参照)。

 8月になってようやく研磨作業に入ることになるわけですが、CNC旋盤で予定焦点距離に相当する曲率がつけられているため、前回あれほど大変だった荒擂りの作業が完全に省略できて、#500のアランダムによる中擂りから研磨を開始できました。しかも、中擂り・仕上げ擂りともガラス鏡より短い時間で仕上げることができたので大変楽に砂擂りを終えることができました。

 次にピッチ研磨に入るわけですが、今年の猛暑のためピッチの硬さの調合に困窮いたしました。ピッチの硬さは温度にかなり敏感に反応しますので、研磨作業を行う気温に適合した硬さに調合する必要があります。異常高温がいつまでも続くこともないであろうということと室内での冷房を考慮して、気温20°Cに適合すると思われる硬さに設定しました。ところが、記録破りの猛暑が長引き8月中は遂にピッチ盤作成も行えない状況となりました。

日本ハーシェル協会ニューズレター第133号より転載


7フィートハーシェル鏡の複製(7)

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