<8>311号室 ――9月10日AM8:30

 松永零太郎の耳にそのニュースが届いたのは、ルームサービスの朝食を頬張っていた時のことだった。
「お父さん、大変よ。また遺体が発見されたんですって。レストランで一緒になった二宮さんから聞いたんだけど。ルームサービスで朝食を持っていった従業員が見つけたらしいわよ。620号室ですって。
 それにね、このホテルには、指名手配犯が逃げ込んでるかもしれないそうなのよ。それも、職場で殺人を犯した人だって……。お父さん、なんか気持ち悪くない?」
 サチコがテーブルを挟んで向かい側に座りながら、零太郎の顔を覗き込む。
「指名手配犯か。――もしかして、その620号室の被害者は……」
 零太郎の言葉に、サチコが神妙な面持ちで頷く。
「ええ。何か固いもので殴られていたらしいわよ。死亡推定時刻は昨日の午後9時10分から10時の間くらいですって。お父さん、どう思う?」
「どう思うも何も……。きちんと話を聞く必要があるな」
 零太郎がハーネスを手にすると、呼応するようにメリアが起き上がった。
「サチコ、私はこれから美津島先生の部屋に行ってくるよ。たしか306号室だったな」



<9>3階廊下 ――9月10日AM8:45

「おお、これは松永さん。実は今、警察の方が来られていましてね」
 306号室のドアを開けて出てきた美津島は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「警察の方ですか。やはり、事件のことで?」
 零太郎の言葉に、美津島が頷く。
「ゲームにご招待したルポライターの浅利さんが、お渡ししていた問題編の内容を警察に話されたそうでしてね。彼のお兄さんは警察庁の幹部ですから、黙っているわけにはいかなかったのでしょう」
「実は私も、同じ件でお邪魔したのですよ」
 零太郎の言葉に、部屋の奥にいた刑事が口を挟んだ。
「もしかして、以前警視庁におられた松永さんではありませんか?」
「ええ。そうですが」
 零太郎は、声を聞き取ろうと耳を澄ます。
「私、京佐久署捜査一課の谷原と申します。以前、交番で勤務していた時に、お世話になったことがありまして。と言っても、私は新米でしたから、資料を作ってお渡しした程度なんですが」
「そうでしたか。記憶に無くて……申し訳ない」
 頭を下げる零太郎に、谷原は慌てたように両手を差し出す。
「いえ、お気になさらないで下さい。――松永さんも、このゲームに参加されているんですね」
「ええ、そうなんです」
 零太郎が頷くと、美津島が大きくドアを開けた。
「中にお入り下さい。こんなところで立ち話も何ですからね。部屋は狭いんですが……。おい、有藤君、ちょっとルームサービスを頼んでくれないか」
 美津島が部屋の奥に向かって声をかける。
「いえ、お構いなく」
 零太郎はそう言うと、メリアと共に部屋の中へと歩を進めた。



<10>306号室 ――9月10日AM9:00

 促されるまま一人掛けのソファに座ると、零太郎は美津島に向かって話し始めた。
「美津島さん、どうか正直に答えてください。一体、どのような意図でこの催しを企画されたのですか」
「それが……」
 美津島は困惑した様子で口を開いた。
「実は、私が昔からお世話になっている『近江宇野グループ』の宇野会長と助手の有藤君の3人で食事をしに行ったことがあったんですが、その時にちょっとした議論になりましてね」
「議論、ですか?」
 零太郎が尋ねると、美津島の後ろに所在無げに立っていた有藤大作が口を開いた。彼は今、28歳。札幌弁護士会に席を置く新米弁護士だ。
「現在、日本で名探偵と呼ばれる人のうち、誰が一番優れているのか、なんてバカバカしいことで言い合いになってしまったんです。実は、宇野会長が大のミステリ好きでしてね。それぞれの探偵さんたちが活躍した事件などを話し合ううちに、それなら実際に試してみようなどと……。いや、本当に申し訳ないお話です」
「宇野会長の酔狂と言ってしまえばそれまでなんですが、それに乗せられてしまった我々も我々です。皆さんをこんなことに巻き込んでしまって、面目ない」
 美津島も頭を下げる。
「なるほど。では、私もその名探偵の1人に数えていただけたというわけですね。光栄な話だ」
 零太郎は微笑んだが、すぐに真顔に戻った。
「初めは酔狂だったとしても、実際にこうして事件が起こってしまっている。それも、あなたから渡された問題編に沿ってです。舞台は、殺人を犯した指名手配犯が逃げ込んだホテル。そして、同じように撲殺された方が出ている。しかも、同じ部屋で」
「たしか、資料の中では、北側の庭に人は落ちませんでしたよね。盆栽が壊されたというだけで」
 谷原が確認する。
「ええ。そうです。でも、逆に言えばその点は一致しているわけですからね。ただの偶然で済まされるものではありません。この問題編は、一体どなたが考えられたものなのですか」
 零太郎の追及に、美津島は小さくため息を吐いて答えた。
「実は、あの問題編と後ほど配布予定の模範解答は、私のホームページで募集したものでしてね。最も優れたものを採用するということで。私も忙しい身の上ですし、選んでくれたのは助手の有藤君なんです。今回の原稿作りから何から、すべて有藤君にお願いしていましてね」
 美津島の視線を受け、有藤が説明する。
「私もまさかこんなことになるなんて……。正直、困惑しているんです。問題編はともかく、模範解答として示されたトリックが大変面白かったもので、採用したのですが」
「手は加えられましたか?」
 零太郎が尋ねる。
「もちろん、何度か読み返して矛盾点や誤脱が無いか確認はしましたけどね。それぐらいのことで」
「差出人は?」
「それが、『S.O』というイニシャルだけで住所も何も書かれていなかったんですよ。でも、ホームぺージ上でそのイニシャルを発表しましたからね。本人は自分の作品が採用されたことはわかっていたと思います」
 有藤は微笑んだ。
「この内容について、誰かに話をしたことはありますか?」
 零太郎の質問に、有藤は首を横に振って答える。
「ありません。参加者の方々に漏れてしまってはいけませんし……」
 すると、谷原が有藤に向かって話しかけた。
「有藤さん、失礼ですが、昨夜の午後9時10分から10時までの間、あなたはどちらにいらっしゃいましたか? これは、皆さんにお伺いしていることなので」
「620号室の伊東さんとおっしゃる方が殺された時のアリバイ、というわけですね。その時間でしたら、私は他のゲーム参加者の方々と、2階の宴会場にいましたよ」
 有藤が答えると、美津島が補足する。
「このゲームの主旨を説明し、お互いの顔合わせをしていました。午後9時に始まり、終わったのは午後11時頃だったと思います」
「その間、一度も会場を出られませんでしたか?」
 谷原に尋ねられ、有藤は頭をかいた。
「そりゃあ、トイレには行きましたよ。あと、タバコを吸いにも行ったかな。いずれしよ、ほんの5分か10分程度のことです」
「参加者の方は皆さん、そのような状況でしたか?」
 谷原に言われ、美津島が頷いた。
「ええ。私は主催者ですからね。皆さんの様子に気を配っていましたが、私と有藤君を含めて11名、長時間退席した人は1名もいませんでした。断言できます」
「そうですか」
 谷原は頷いた。
「あの、ひとつお聞きしてもいいですか」
 谷原に向かい、零太郎が口を開いた。
「死亡推定時刻の午後9時10分というのは、どこから出てきた時刻なのですか? あまりに細かいように思えるのですが」
「実は午後9時ちょうどに、620号室から『浴衣にお茶をこぼしてしまったので、交換してほしい』というコールがフロントにありましてね。その後、ハウスキーパーの如月真美という従業員が到着して、浴衣を交換しているんです。彼女が部屋を出たのが午後9時10分だったことから割り出された時刻です」
 谷原が答える。
「つまり、その時には、伊東さんは生きていたと?」
「ええ。如月さんはそう証言していますね。フロントへのコールも男性の声だったようですし、その時間までは伊東さんは生存していたと考えていいでしょう」
「なるほど。それから先、怪しい人物は見かけなかったんですか? 各階に防犯カメラがあるでしょう? 録画は?」
 零太郎が尋ねると、谷原が頭をかいた。
「それが、ここのカメラは録画できないタイプのものでして。
 実は今、1階から9階までの各階と12階のエレベーターホールに変装した刑事を張り込ませているんです。例の指名手配犯を探し出すためなのですが。
 刑事の証言と防犯カメラを見ていた警備員の話では、午後8時半頃、サングラスをかけた水商売風の女性が620号室を訪れているようですね。しかし、帰るところを見た者はいません」
「8時半頃……だったら、如月さんが部屋を訪れた時、その女性は一緒にいたのですか?」
 零太郎が尋ねると、谷原は首を横に振った。
「部屋には伊東さんが1人だけだったそうです。ただ、バスルームの方に人の気配を感じたような気がするとは言っています」
「つまり、如月さんが部屋を出た後、その女性が伊東さんを殺害したと?」
 零太郎が確認する。
「ええ。帰りは業務用のエレベーターを使ったのかもしれません。西側の業務用エレベーターの乗り口は、防犯カメラの死角になっていて見えないもので」
「業務用のエレベーターは従業員以外も使えるんですか?」
 有藤が驚いたように尋ねる。
「いえ、従業員の持っているキーを差し込まなければ、動かない仕組みになっています」
 谷原の言葉に、有藤が小さく「内部犯行?」とつぶやいた。
「それで、凶器は何なのですか? ゲームの問題編では部屋に置いてあった灰皿ということになっているのですが」
 美津島が少し不安げに尋ねる。
「はっきりわかっているわけではありませんが、伊東さんの頭部の傷から見て、大きめの灰皿のようなものなのではないかと考えられます」
 谷原の答えに、零太郎が首を傾げた。
「多分ということは、凶器は部屋には残されていなかったんですか?」
「ええ。少なくとも、室内の備品ではないようです。犯人が持ち込んだ可能性が高そうですね」
「大きめの灰皿と言えば、2階のレストランのテーブルに立派な京佐久焼のものが置かれていましたが」
 有藤の言葉に、谷原が顔を上げる。
「ええ。このホテルのために、裏の植木鉢と共に特別に焼かれたものだそうです。市販されていない珍しい柄や形ということもあって、コレクターには垂涎もののようですが」
 谷原は続けた。
「実は、被害者の頭部に残されている曲線と、レストランで使われている灰皿の曲線が一致したんです。事実、これまでにも何度か盗まれたことがあるようですし、そのうちのひとつが使われた可能性が高いと思われるのですが……」
「でも、灰皿とはいえ、かなり重いでしょう? それをわざわざ盗むなんてねえ」
 有藤が呆れたように言う。
「ええ。優に15キロはあるそうですよ。まあ、直径は20センチくらいなものですからね。少し大きめのバッグになら、おさまるといえばおさまりますね」
「そんなものを盗み出して、バレないものなのですか?」
 零太郎が尋ねる。
「特に忙しい時間帯などは、従業員が気付かない場合もあるようですね。気をつけるようにはしているみたいですが」
「なるほど、それは大変ですね」
 零太郎が頷くのを見て、谷原が言った。
「その水商売風の女性も大きなバッグを提げていたそうなんです。中にその灰皿が入っていたのかもしれません」
「それは本当に女性だったんですか? 例えば、その指名手配されている男が女装していたという可能性は……?」
 有藤が口を挟む。
「その女性はそんなに背が高くはなかったようです。指名手配されている岩下という男は、175cmくらいありますからね。明らかに違うでしょう」
「でも、女性が男性を殴り殺すことなんて出来るのでしょうかねえ」
 有藤はまだ納得できないらしく、しきりに首をかしげている。
「最初の一撃は後ろからだったようですね。その後、抵抗した後はあるのですが、結局、何度も何度も殴られて殺されてしまったみたいです」
「後ろからか……。女は怖いなあ。でも、それだけ何度も殴りつけているとなると、殺害までには相当時間がかかったんでしょうね」
 有藤が谷原の顔を見る。
「ええ。おそらくは」
 谷原が頷いた。
「それで、屋上から人が落ちた事故の方は、何か進展がありましたか?」
 零太郎が話題をかえる。
「それが、どうやら事故ではないみたいなんですよ」
「事故ではない?」
 零太郎が聞き返す。
「ええ。彼が落ちたとされる浄水槽から、指紋が発見されなかったんです。もし自分で上がって行ったとすれば、指紋が付くはずですからね」
「つまり、自分の意思で飛び降りたわけではないと?」
「そういうことです。おそらく殺人ではないかと」
 谷原が頷く。黙って話を聞いていた美津島が、口を開いた。
「12階のエレベーターホールにも刑事が張っていたんでしょう? 何か見ていないのですか?」
「ええ。折原彰が午後9時過ぎに男性更衣室に入って以来、客の出入りはなかったようですね。ただ、午後9時20分頃、従業員が露天風呂用の控え室でタオルの交換と清掃を行っています。これは日課だそうですが」
「その従業員というのは?」
「ハウスキーパーの如月さんです」
 美津島の質問に谷原が答える。すると、有藤が身を乗り出した。
「その如月さんっていう人、620号室にも現れていましたよね。どちらの現場にも関わっているなんて……。なんか怪しくないですか、その人」
「もちろん、彼女の行動はきちんと確認しましたよ」
 谷原はそう言うと、上着の内ポケットから手帳を取り出して、ぱらぱらとめくった。
「ええっと、午後8時40分頃から2階の更衣室のタオルを取替え、清掃をしています。丁度それが終わる頃にフロントから620号室に向かうように言われ、東側の業務用エレベーターを使って6階に上がった。これが午後9時ちょっと過ぎ。新しい浴衣を用意するため、カートを押して6階のリネン室に入る如月さんの姿は、エレベーターホールにいた刑事にも確認されています。
 620号室で浴衣を渡して床を拭いた後、彼女は12階の露天風呂用の更衣室に向かいました。午後9時10分頃のことです。西側の業務用エレベーターを使うと12階でラウンジを横切らなければならなくなるため、6階の廊下を通って東側のエレベーターに向かったそうです。この姿も刑事が見ています」
「カートを押したままですか?」
 零太郎が尋ねると、谷原は答えた。
「ええ。カートの一番下に置かれたボックスの中に、2階で回収したタオルや伊東さんの濡れた浴衣などが入っていたそうですし、他の棚には12階の更衣室用のタオルや掃除道具も載せられていたようですね」
「なるほど。2階と12階の風呂掃除の間に、偶然620号室から呼び出されたという状況だったわけですね」
 有藤が納得したように頷く。
「彼女はそのまま12階に上がり、まず男性の更衣室に入った。彼女が一旦表に出て『清掃中』のプレートを出す姿を刑事に見られたのが、午後9時15分頃のことです」
 谷原は続けた。
「そこには誰もおらず、ロッカーはひとつだけ利用されている状況だったそうです。彼女は使用済みのタオルを回収すると、新しいタオルを補充し、洗面台などを拭いて女性の更衣室に移った。すべての作業が終わったのが午後9時35分頃。彼女は『清掃中』のプレートを片付けた後、そこから再び業務用エレベーターに乗り、8階で降りて806号室へ向かいました。9時40分頃、やはりエレベーターホールにいた刑事が806号室に入る彼女の姿を確認しています」
「806号室へ? なぜですか?」
 零太郎が尋ねる。
「なんでも、806号室が翌日アーリーチェックインの予定だったそうで、清掃と備品の確認に入ったとのことです。そして、ここも10分ほどで出ていますね。ちょうどエレベーターホールの前なので、張り込んでいた刑事が見ていました。
 その後、台車を1階まで運び、汚れた浴衣や回収したタオルなどをクリーニング用の回収ボックスに移したようです。その姿は、巡回の警備員に見られています」
「巡回の警備員?」
 零太郎が聞き返した。
「ええ。午後9時から10時の間、地下駐車場や庭などを巡回しているそうなんです」
「えっと、折原さんが転落したのが午後10時でしたよね。つまり、如月さんのアリバイは完璧だというわけか」
 有藤が腕を組むのを見て、谷原が頷く。
「今日の夜勤のハウスキーパーは如月さんだけですからね。それで、偶然にも、どちらとも関わることになってしまったのでしょう」
「なるほど」
 零太郎は顎を触りながら、谷原を見た。
「それで、警察では一連の事件の犯人について、どうお考えなのですか? やはり、指名手配されている岩下という男の犯行だと?」
「実は、これまでの被害者3人には、ひとつ共通点があったんです」
「共通点? 何ですか?」
 有藤が身を乗り出す。
「地域活性化プロジェクトです」
 その言葉に、美津島の顔色が変わる。
「まさか。そんなことが……」
「そうです。そこも、あなたがたが採用された作品と一致しています」
「というと?」
 零太郎が詳細を促す。
「指名手配犯が職場で殺害した氷川さんは、地域活性化プロジェクトの推進のためにホテルとの交渉役になっていた。それから、ホテルで撲殺された伊東さんは、プロジェクトのために内部調査を行っていた。そして、プロジェクトで作られる温泉ランドの電気機器関係はすべて、折原彰の会社から調達されることになっていたんですよ」
「何と言うことだ。そんなところまであの作品と一致するなんて」
 美津島が頭を抱え込む。
「先生、ゲーム参加者の松永さんがおられるのですから、あまり……」
 有藤が美津島の腕をつかむ。
「もうゲームなんて言っている場合じゃないでしょう。実際に殺人が起こっているんだ」
 零太郎が厳しい口調で言うと、美津島は顔を上げた。
「松永さんのおっしゃるとおりです。ゲームは中止せざるを得ない。後ほど皆さんを集めて……」
 その時、谷原の携帯が鳴った。彼は美津島の方に軽く頭を下げると、背中を向けて携帯を取る。
「――わかった。すぐに行く」
 彼は一通り話を聞いた後、電話を切って振り返った。
「折原莉未の遺体が1002号室で見つかりました。部屋にあったコーヒーの中から青酸カリが見つかっています。今朝方、ルームサービスで彼女自身が頼んだもののようですが……。状況から見て、自殺の可能性が高そうですね」
「自殺ですか? たしか、明日挙式だってお話でしたよね。ご主人が亡くなられて、よほどショックだったんでしょうねえ」
 有藤が小さくため息を吐く。
 短い沈黙の後、零太郎は眉間に皺を寄せて口を開いた。
「そう言えば、問題編の中では、他にも亡くなる人がいましたよね。元コンシェルジュと支配人母子ですが」
「ええ。実は、昨日の夜からその3人と連絡が取れない状態になっているのです。今、捜索させているところでして」
 谷原が髪の毛をかき上げた。
「何ということだ……」
 美津島ががっくり肩を落とす。部屋は重苦しい雰囲気に包まれた。
 
 今井啓太と支配人・本条信行、彼の母親でオーナーの本条絹代の3人を乗せた乗用車が見つかったのは、それから1時間後のことだった。それは渡会山の中腹で横転していた。ブレーキに細工が施されており、カーブを曲がり切れずに転落したと思われる。3人とも首の骨を折るなどして、即死の状態だった。壊れていた今井の腕時計が指している時刻から、転落したのは9月9日午後6時頃と断定された。


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