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Michael Pit舞台とは別の旅 前のページへ 次のページへ

 心臓音のアーカイブ

2014年のお正月は高齢の両親のいる岡山に戻っていました。ごはんを食べておしゃべりしてお風呂に入って寝る。ただそれだけが過ぎる時間に感謝した日々でした。

せっかくなので空いた時間を利用して、一日かけて、宇野港からフェリーに乗り、豊島(てしま)という島に行ってきました。小豆島の西にあって、周囲約20キロメートル、人口は1,000人余りの小さな島です。

この島で私は自分の心臓音を録音してきました。

豊島もすぐ隣にある直島(なおしま)同様にアートで有名になってきているようで、昔ながらの農漁村の脇にアートスポットが顔を出しています。そのなかの一つに「心臓音のアーカイブ」というのがあります。人々が生きた証としての心臓音を恒久的に保存するところで、もちろん聴くこともできます。

心臓音のアーカイブ

「ハートルーム」と名づけられた窓のない空間で、明滅するランプの明かりとともにたくさんの人の心臓音が次々と大音量で鳴り響きます。聞いているうちに「自分の心臓音も聞いてみたい」と思うようになりました。ここでは録音もでき、作品の一部に加えることもできるのです。録音結果はすぐに聞けるとのことなので、さっそくハートルームで再生してもらいました。

感動しました。実にゆったりと太鼓をたたくように私の心臓音は鳴っていました。

受付の若い人に「なんだか自分のお墓を作った気分になりますね」と言ったら、「そうなのです」としんみり・・・。なんでも以前にここを訪れて心臓音を録音した青年が若くして亡くなり、録音CDを遺品にみつけたご両親が遠くから訪ねて来られたそうです。響き渡る心臓音を耳にしたお二人は言われたそうです。「また息子に会えたようでうれしい」。

「ぼくもこの小さな美術館の意味を考え直しました」と静かに話されました。

自分自身の心臓音のCD

外に出てみると、瀬戸内海が目の前に穏やかに広がっていました。瀬戸内海の小さな島で聞いた自分の心臓音、「生きている」ことの尊さを語り合った時間、なつかしい島の景色・・・島の織りなす静かな時間に癒され元気をもらった私です。

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