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Michael Pit旅公演日記 前のページへ 次のページへ
青森県弘前市民劇場での出会い

(1996.夏)
6月26日の鶴岡市民劇場からスタートした初夏の旅公演は、仙台・福島とまわって公演日程もちょうど半ばになる頃には青森県弘前市民劇場の公演を迎えようとしていました。私は青森県に行くのは初めてです。バスの窓から見える山はみるみるうちに高くそびえ立つという感じに変わっていき、遠いところに来たんだなぁ〜と、なんだか少しさみしくなったりしたものでした。

その時ふと頭の中に一人の友達の姿が浮かびました。彼女は私が東京に出てきて俳優の勉強のために入ったミュージカル俳優の養成所の同期でした。そういえば彼女の故郷は弘前の近くの黒石市というところだったな、もしかすると弘前の市民劇場の人達の中に彼女の演劇好きなお父さんがいらっしゃるかもしれないなぁ(会ったことはないけれど)。

弘前に着いて芝居の仕込みが終わり、市民劇場の人達との開演前の対面式が始まりました。にこにこと笑顔で迎えてくれる市民劇場の人達の中に、面立ちがバスの中で思い出した友達にそっくりな初老の男性がいます。ぴーんと直感。対面式の後、「あの、○○さんのお父さんではないでしょうか」と思い切って尋ねてみたら、「そうです」とのご返事。初めて来た遠隔の地で初対面の方にお会いできるとは本気にはしてなかったものですから、正直言って驚きました。

同行した劇団員から教えてもらったのですが、この方は以前は高校教師をしておられた方で、青年劇場の劇団員が学校公演の普及活動などで弘前に出かけた折りにはお宅に泊めて下さったりするなど、劇団が昔からお世話になっている方なのでした。

この方の娘である私の友達は今では芝居の世界から離れ、二児の母親として東京で暮らしています。お父さんは娘に青年劇場に入ってほしかったらしく、今回の弘前公演では本当のところ自分の娘が故郷で舞台に立つ姿を見たかったのではないか、その舞台には養成所で同期だった自分が立つのだ、そう思うと感慨深いものがありました。



「日曜日に娘に電話してみます。大嶋さんでしたね」とやさしく微笑んでくれたその方の顔が今でも懐かしく浮かんできます。芝居を続けていると思いがけないところで思いがけない人と出会うことがあるとつくづく感じた出来事でした。旅とはやはりいいものですね。

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