準が自分の部屋にいると、突然窓から水が入ってきました。
大洪水です。ここは二階なのに、とか思う暇もなく、たちまち準の背の高さにまで水が達しました。
「あっぷあっぷ。おぼれちゃうよー」
「はっ」
気がついたら、準はふとんの上に寝てるみたいです。
…よかった、助かったみたい。ん…。
「ああーっ」
ふとんをはねのけると、部屋中水浸しだったはずなのに、濡れてるのは一部分だけ。ふとん、パジャマ、パンツがぐっしょり…。
「あーあ、全然助かってないよー」
大洪水の夢を見た準は、自分のふとんをおねしょで大洪水にしてしまったのです。
準は立ち上がると、窓を開けました。梅雨に入ってから、雨続きです。今日も、どんよりとした曇り空から落ちる雨は、ちょっとやみそうにありません。以前吊したてるてる坊主が、申し訳なさそうに準を見ています。
気持ち悪いので、パジャマのズボンとパンツを一緒に脱ぐと、ふとんにぺたんと座って、濡れたところを手で押してみました。ぐちゅっと音がして、じわーっとおしっこが滲んできます。準は悲しい気持ちになって、ゆうべのことを想い出しました…。
「ふーっ。おふろ上がりの一杯は最高」
準が腰に手を当てて牛乳を飲んでると、お母さんが言いました。
「ちょっと準ちゃん、そんなに飲んで大丈夫なの?」
「へ、平気だよ」
「おふとん濡らしても知らないわよ」
「大丈夫だもん。ふとん乾燥機があるし」
「あれ、壊れたから修理に出してるのよ。明日も雨だから、寝るところがなくなるわよ」
「えーっ」
準はちょっと心配になりました。ところが、結局牛乳で余計にのどが渇いてしまった準は、誘惑に勝てず、こっそり寝る前にお茶まで飲んでしまったのでした…。
窓の外も、ふとんも、身体も、こころのなかもぐしょ濡れの朝。反省しても、もう遅いのです。準の目から、涙が出てきました。
「準ちゃん、朝よ。起きなさい」
お母さんが準の部屋に入ってきました。一目で、我が息子が何をやらかしたかわかったみたいです。
「だから言ったでしょ。しょうがないわねえ」
「ごめんなさい。うっうっ」
「おねしょしたぐらいで泣いてるんじゃないの。早く着替えないと学校遅れるでしょ」
「…うん」
「その前に、身体をちゃんと拭くのよ。シャツも着替えなさい、おなかのへんまでぐっしょりでしょ」
「はぁい」
準は力なく返事をすると、部屋を出ました。
階段を下りたところで、お父さんと顔を合わせました。
「お、おはよう」
「なんだおまえ、またやったのか。しょうがないおちんちんだな」
パンツをはいてない準を見て、お父さんが言いました。
「だって…」
「ちゃんと洗っとかないと、カビが生えるぞ」
「えっ」
お父さんは服にカビが生える話をしたのですが、それを聞いて、適当に拭いてパンツをはこうと思っていた準は、念入りに身体を濡れたタオルで拭いたのでした。
今日は本当に一日雨でした。準は時々外を見ながら、今朝のおねしょぶとんを思い出したりしていました。
…乾かなかったらどうしよう。お母さん、ふとんの中に入れてくれるかな。
今夜の寝るところを考えてるのはぼくだけだろうなと思いながら、準は教室を見渡しました。
「ただいまー」
準は学校から帰ってきました。
…ふとん、乾いたかなあ。
準がリビングにはいると、準のふとんが広げて置いてあります。
「あら、おかえり。おふとん、だいたい乾いたわよ」
「ほんと。よかった」
準が触ってみると、まだ少し湿っぽい気がします。
「あとでアイロンかけておくから、大丈夫よ」
「ありがとう」
準は、にっこりとほほえみました。
「ただいま」
夕方、お父さんが帰ってきました。
「なんだか、変なにおいがするぞ」
「今日、ずっと準のおふとん乾かしてたのよ」
お母さんが答えました。
「なんだ、準のにおいだったのか」
「えーっ。ぼくこんなにおいじゃないよ」
「なんだかうちじゅう準のなわばりになったみたいだな」
「犬じゃないのに…」
「そうそう、会社の人の快気祝いに、これもらってきたよ。ジュースの詰め合わせセット」
お父さんは、準に箱を渡しました。
「わーい、やったやったー。今から冷やして、おふろ上がりに飲もうっと」
「ちょっと準ちゃん」
「えっ、えへへへ」
お母さんに言われて、準は頭をかきました。
「準、外で寝たらいいぞ。はじめから濡れてるから、寝小便しても目立たないぞ」
「そんなあ」
「あはははは」
口をとがらせて赤くなってる準を見て、お父さんとお母さんは笑いました。
さすがに今日の風呂上がりのジュースは自粛しましたが、いつかまたほとぼりが冷めた頃、この子は飲んでしまうことでしょう。そして、おねしょをしてしまって、ちょっとだけ反省して…これからも、そんな準くんです。 |