おねしょして身も心もぐっしょりの準
第73話:梅雨のおねしょ
 準が自分の部屋にいると、突然窓から水が入ってきました。
 大洪水です。ここは二階なのに、とか思う暇もなく、たちまち準の背の高さにまで水が達しました。
 「あっぷあっぷ。おぼれちゃうよー」

 「はっ」
 気がついたら、準はふとんの上に寝てるみたいです。
 …よかった、助かったみたい。ん…。
 「ああーっ」
 ふとんをはねのけると、部屋中水浸しだったはずなのに、濡れてるのは一部分だけ。ふとん、パジャマ、パンツがぐっしょり…。
 「あーあ、全然助かってないよー」
 大洪水の夢を見た準は、自分のふとんをおねしょで大洪水にしてしまったのです。

 準は立ち上がると、窓を開けました。梅雨に入ってから、雨続きです。今日も、どんよりとした曇り空から落ちる雨は、ちょっとやみそうにありません。以前吊したてるてる坊主が、申し訳なさそうに準を見ています。
 気持ち悪いので、パジャマのズボンとパンツを一緒に脱ぐと、ふとんにぺたんと座って、濡れたところを手で押してみました。ぐちゅっと音がして、じわーっとおしっこが滲んできます。準は悲しい気持ちになって、ゆうべのことを想い出しました…。


 「ふーっ。おふろ上がりの一杯は最高」
 準が腰に手を当てて牛乳を飲んでると、お母さんが言いました。
 「ちょっと準ちゃん、そんなに飲んで大丈夫なの?」
 「へ、平気だよ」
 「おふとん濡らしても知らないわよ」
 「大丈夫だもん。ふとん乾燥機があるし」
 「あれ、壊れたから修理に出してるのよ。明日も雨だから、寝るところがなくなるわよ」
 「えーっ」
 準はちょっと心配になりました。ところが、結局牛乳で余計にのどが渇いてしまった準は、誘惑に勝てず、こっそり寝る前にお茶まで飲んでしまったのでした…。


 窓の外も、ふとんも、身体も、こころのなかもぐしょ濡れの朝。反省しても、もう遅いのです。準の目から、涙が出てきました。
 「準ちゃん、朝よ。起きなさい」
 お母さんが準の部屋に入ってきました。一目で、我が息子が何をやらかしたかわかったみたいです。
 「だから言ったでしょ。しょうがないわねえ」
 「ごめんなさい。うっうっ」
 「おねしょしたぐらいで泣いてるんじゃないの。早く着替えないと学校遅れるでしょ」
 「…うん」
 「その前に、身体をちゃんと拭くのよ。シャツも着替えなさい、おなかのへんまでぐっしょりでしょ」
 「はぁい」
 準は力なく返事をすると、部屋を出ました。

 階段を下りたところで、お父さんと顔を合わせました。
 「お、おはよう」
 「なんだおまえ、またやったのか。しょうがないおちんちんだな」
 パンツをはいてない準を見て、お父さんが言いました。
 「だって…」
 「ちゃんと洗っとかないと、カビが生えるぞ」
 「えっ」
 お父さんは服にカビが生える話をしたのですが、それを聞いて、適当に拭いてパンツをはこうと思っていた準は、念入りに身体を濡れたタオルで拭いたのでした。


 今日は本当に一日雨でした。準は時々外を見ながら、今朝のおねしょぶとんを思い出したりしていました。
 …乾かなかったらどうしよう。お母さん、ふとんの中に入れてくれるかな。
 今夜の寝るところを考えてるのはぼくだけだろうなと思いながら、準は教室を見渡しました。


 「ただいまー」
 準は学校から帰ってきました。
 …ふとん、乾いたかなあ。
 準がリビングにはいると、準のふとんが広げて置いてあります。
 「あら、おかえり。おふとん、だいたい乾いたわよ」
 「ほんと。よかった」
 準が触ってみると、まだ少し湿っぽい気がします。
 「あとでアイロンかけておくから、大丈夫よ」
 「ありがとう」
 準は、にっこりとほほえみました。


 「ただいま」
 夕方、お父さんが帰ってきました。
 「なんだか、変なにおいがするぞ」
 「今日、ずっと準のおふとん乾かしてたのよ」
 お母さんが答えました。
 「なんだ、準のにおいだったのか」
 「えーっ。ぼくこんなにおいじゃないよ」
 「なんだかうちじゅう準のなわばりになったみたいだな」
 「犬じゃないのに…」
 「そうそう、会社の人の快気祝いに、これもらってきたよ。ジュースの詰め合わせセット」
 お父さんは、準に箱を渡しました。
 「わーい、やったやったー。今から冷やして、おふろ上がりに飲もうっと」
 「ちょっと準ちゃん」
 「えっ、えへへへ」
 お母さんに言われて、準は頭をかきました。
 「準、外で寝たらいいぞ。はじめから濡れてるから、寝小便しても目立たないぞ」
 「そんなあ」
 「あはははは」
 口をとがらせて赤くなってる準を見て、お父さんとお母さんは笑いました。

 さすがに今日の風呂上がりのジュースは自粛しましたが、いつかまたほとぼりが冷めた頃、この子は飲んでしまうことでしょう。そして、おねしょをしてしまって、ちょっとだけ反省して…これからも、そんな準くんです。 

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