「準ちゃん」
日曜日、準が自分の部屋にいると、お母さんが呼びました。
「なぁに」
「おじさんがね、潮干狩りに連れてってくれるって」
「えーっ。潮干狩りって貝掘りでしょ。ぼく、貝嫌いなのに…」
「どうせ暇なんでしょ。遊びに行くと思って行って来たら?」
「お母さんたちは?」
「町内会の行事があるの。それに、車にそんなに乗れないでしょ」
「うーん」
おじさんとは、いとこのみゆきお姉ちゃんのお父さんです。準のことをからかったりするので、ちょっと苦手だったりします。もちろんみゆきお姉ちゃんも来るだろうし、準はちょっと憂鬱です。
「こんにちはー」
ほどなく、おじさん一行が準の家に来ました。
「こ、こんにちは」
「おや、公園で裸になるのが好きな準くんじゃないか、元気か」
ど、どうしてそれを…って、みゆきお姉ちゃんがしゃべったに違いありません。
…誰にも言わないって約束だったのに。
準はみゆきお姉ちゃんを睨みましたが、お姉ちゃんは知らん顔をしています。
「さあ、早く行きましょう」
おばさんに促されて、準はおじさんの車に乗り込みました。
「準ちゃん、あんたのろまだから、貝にも逃げられたりして」
「えーっ。そんなことないもん」
道みち、みゆきお姉ちゃんにからかわれたりしていると、ほどなく、海岸に着きました。
入漁料を払って砂浜に陣取ると、4人は思い思いに砂を掘り始めました。今日は大潮で、引き潮の今は大きな干潟ができています。やってみると、案外面白いほど採れるので、準も夢中になって貝を掘りました。
…ふう、つかれたなあ。
さすがに飽きてきて、準はため息をつきました。それに、しゃがみ姿勢というのはとても疲れるのです。準は座り直そうと、中腰になってから腰を落としました。
”ぺちょ”
…あっ。
おしりに、冷たい感触が走りました。勢い余って水たまりに座ってしまったのです。あわてて立ち上がっておしりをなでると、ズボンがぐっしょり濡れています。
それを見て、みゆきお姉ちゃんが言いました。
「ちょっと準ちゃん、またやったの。ねえ、お母さーん」
「ち、ちがうよー」
…まるでおもらししたみたいじゃないか。それに、”また”って一体。
「あらあら大変。早く脱ぎなさい」
「えーっ。でも、着替え持ってないし、このままで…」
「風邪引くわよ。車に行けばみゆきの服があったかしら。スカートだけど…」
「いい!。絶対いいです…このままで」
いやな過去が準の頭をよぎって、あわてて言いました。
「おーい準くん、帰るぞ」
おじさんに呼ばれるまで、貝掘りに飽きたので、かにやヤドカリを棒で突っついたり、漂着物を拾ったりして過ごしました。
「あんた、ズボン乾いたの?。うちの車濡らさないでよ」
「乾いたもん」
準はみゆきお姉ちゃんに、おしりを向けました。
「今日のこと、内緒にしておいてあげるわ」
「だから、違うんだってば!」
…なんかまだ誤解されてるし。
ムキになってる準を見て、おじさんもおばさんも笑いました。
「はい、こっちが準ちゃんちのよ」
おばさんは、二つに分けた一方のバケツを準に差し出しました。
「でも、ぼく貝嫌いだし」
「嫌いなの?、おいしいのに」
「前に食べたとき、砂が入っててじゃりじゃりしたの」
「ちゃんと砂出ししたら大丈夫よ。お母さんは好きだから持って帰りなさい」
「はあい。ありがとう」
貝は、貝汁とバター炒めにしました。準もちょっとだけ食べたけど、案外おいしいかもと思いました。みゆきお姉ちゃんが変なこと言いふらさないといいけどと思いながらも、楽しい日曜日でした。 |