初日の出を見る準
第53話:未来・21
 「ほら、準、起きろ」
 お父さんが寝ている準の体を揺すっています。
 「ええーっ、まだ暗いじゃん」
 準が眠そうな声で応えました。夕べは遅くまで起きていたので、さっき寝たという感じなのです。
 「初日の出が見たいって言っただろ。明るくなってからじゃもう遅いよ」
 「う、うーん」
 準は半分ねぼけまなこのまま、渋々ふとんから起きあがりました。

 「あれっ、ここどこ?」
 準が、お父さんの車の後部座席から、お父さんに声をかけました。
 「静かだと思ったら、寝てたのか。…さっき起きて自分で着替えたろ。トイレも行ったし」
 「…そうだっけ?」
 「なんだ、憶えてないのか」
 「…そういえば、初日の出を見に行くんだっけ。はははは」
 ようやく頭がはっきりしてきた準くんです。

 「もう21世紀か。遠い未来だと思っていたのになあ…」
 お父さんがしみじみ言いました。
 「もう未来なの?。未来って、もっと便利な機械とか発明されてるのかと思った」
 「準は、どんな機械が発明されたらいいのか?」
 「そうだねえ。寝ながらおしっこできる機械とか」
 「ハハハ、準らしいなあ。でも、おまえ、いつもしてるじゃないか」
 「そうだね、えへへへ…って、そうじゃなくて!」
 「アハハハハ」
 準が照れてるのをルームミラー越しに見て、お父さんは笑いました。

 そうこうするうちに、とある山の展望台に到着しました。ここは、いつかしし座流星群を見に来た想い出の場所です。東の方が開けているので、たくさんの人が初日の出を見ようと詰めかけています。お父さんはちょっと離れたところに、ようやく車を置くことができました。 

 二人は、車を降りると、展望台に歩いていきました。あまりいい場所とは言えませんが、人混みのなかで日の出を待ちました。
 やがて、東の山の稜線が明るくなると、21世紀はじめての太陽が顔を覗かせました。あたりから歓声が上がっています。バンザイをしている人もいます。
 「えっ、どこどこ?」
 人混みのなかなので、背伸びをしても子どもの準には見えません。お父さんは準の腋を抱えて、持ち上げてやりました。
 「うわぁ、きれい」
 準も、ようやく初日の出を拝むことができました。

 帰りの車中で、お父さんが言いました。
 「昔読んだ漫画に、こんなのがあったなあ。偶然見つけたタイムトンネルを通って、20世紀と100年後の21世紀の男の子が出会うんだ。二人は、顔がそっくりだったから、服を取っかえっこして、時々入れ替わってそれぞれの時代の生活を楽しむ、というお話なんだ」
 「ふうん」
 「でね、最終回で、20世紀の子が、21世紀のエジプトに、初日の出を見に行く場面で終わるんだよ。そのとき、彼が『おんなじだ!。百年前の日の出とちっともかわりない』って叫ぶんだ」
 「そうだよね、日の出は変わらないよねえ」
 「うん。人間だって、21世紀になったからって、急に変われるわけじゃないよね。そのままでいい、そして、少しずつ自分らしく成長していったらいいんじゃないかな。21世紀が、みんながそう思える時代になったらいいなあ」
 「ほんとだねえ」
 「21世紀は、お父さんより準の方が長く生きるんだから、しっかり頼むよ」
 「うん」
 準はこくりとうなづきました。

 「あーあ、眠くなってきちゃったなあ。帰ったら寝ようっと」
 準があくびをしながら言いました。
 「何言ってるんだ。これからお雑煮を食べたら初詣。それからおじさんの家に行くんじゃないか」
 「ええーっ」
 準は情けない悲鳴を上げました。
 …21世紀になっても、準くんは準くん。ずっとこのままの準でいてほしいと、思うお父さんでした。


(注)蛇足とは思いますが、お父さんが言っている漫画は、藤子・F・不二雄先生の『みきおとミキオ』です。もし手元にお持ちなら、ちょっと見てくださいね(^^)。

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