川で泥遊びする準
第43話:泥遊び
 準は、小さなスコップとバケツを持って、ひとりで川に遊びに来ました。
 ここはいつも準が道草のときに寄る大きな川の支流にあたります。両側がコンクリートで護岸されていますが、土が堆積している場所があって泥遊びに最適なのです。浅いので水の事故の心配もありません。

 準は水辺にしゃがむと、スコップで土を掘り始めました。
 「えーっと、こういうふうに道路をつくって、この辺に家を建てて…」
 準はなにやらひとりごとを言っています。何をしているのかというと、ここにミニチュアの街をつくろうとしているのです。
 準はよく、紙に鉛筆で架空の街の地図を描いたりします。そうやってひとりで空想しながら遊ぶのが好きな子なのです。

 「わっ、冷たいっ」
 川の中でしゃがもうとしたとき、準はズボンのおしりを濡らしてしまいました。
 「あーあ」
 せっかく汚れないように遊んでいたのに…と思ってよく見ると、夢中になっていたので手や足、服まで泥だらけです。
 「ま、いっか」
 準は泥のついた手で顔の汗を拭うと、また遊びに没頭しました。

 「あっ、魚だ」
 こんな川にも魚がいます。準はそっと近づくとバケツをかぶせようとしましたが、準に捕まるような魚はいません。気配を感じて、さっと逃げてしまいます。
 「…逃げちゃった」
 準がふたたび遊びにかかろうとすると、上の道路から呼ぶ声がしました。
 「準、何してるんだ?」
 見ると、お父さんです。今日は休みなので、散歩にでも来たのでしょう。
 「あっ、お父さん」
 準は靴下と靴をはくと、スコップとバケツを持って護岸をよじ登りました。

 準は、お父さんと家に帰ることにしました。
 「おまえ、泥だらけだな。ま、元気でいいぞ」
 「エヘヘ…」
 「ズボンも濡れてるぞ」
 「こ、これは水だからね!」
 「まだ何も言ってないだろ」
 「そ、そうだね、ハハハ」

 「おまえ、川好きだな」
 「うん。だって、ここぼくの川だもん。ほら」
 準が指さした白い看板に、”準用河川”と書いてあります。
 「ハハハ、『準用河川』か、なるほど。でもあれは、市長が管理してる川っていう意味だ(注)」
 「なあんだ。でも、市長さんって川まで管理しているの?、大変だねえ。じゃあぼく、ここのところだけ管理してあげようかな」
 「それがいいかもな」

 「準、おまえ、友だちいないのか?」
 お父さんが訊きました。
 「いるよ。どうして?」
 「いや、ひとりで遊んでるから」
 「だって、いっしょに泥遊びする子なんていないもん」
 「そうかもな、もう4年生だから」
 お父さんは納得しました。 

 「ねえ、さっき魚がいたよ」
 「へえ。どんな魚?」
 「…名前知らないけど、ちっちゃいの」
 準は指で大きさを示しました。
 「この川もまだまだ捨てたものじゃないな。それだけきれいだってことなんだな」
 「そうだねえ。ゴミなんか捨てる人はぼくが許さないよ」
 「さすが『管理者』だな」
 「エヘヘ」
 準は笑いました。4年生にしては幼いですが、そこがまた準らしいとお父さんは思っています。いつまでも、準みたいな子が遊べる川であってほしいと願うお父さんなのでした。



 (注)河川のうち、建設大臣が管理するものを一級河川、都道府県知事が管理するものを二級河川、市町村長が管理し河川法の一部を準用するものを準用河川と言います。詳しくは、建設省河川局治水課のHPのうちこちらをご覧ください。

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