「どうしようかなあ」
準は自分の部屋の床の上に寝転がって、考え事をしています。日曜日、外は五月晴れのいいお天気です。
「何がいいかなあ」
さっきから準は、同じことを言っています。 実は今日は5月の第2日曜日、母の日なのです。
去年の父の日や、親友の蛍くんの誕生日のプレゼントのときもさんざん悩んでいましたが、優柔不断な性格なので、なかなか決まらないのです。しかも、ぎりぎりにならないとやらないので、当日になってもまだ考えているという訳なのです。
準は、よくお母さんっ子だと言われます。だから、お母さんの喜ぶ顔が見たいのです。でも、いつもその反対のことをしているような気がします。
昨日も、こんなことがありました。
「準ちゃん、ちょっとこれ着てみて」
準はお母さんに呼ばれました。準が見てみると、どうも女の子っぽいデザインです。
「えーっ、それ女物じゃないの?」
「そうよ。またみゆきお姉ちゃんのおさがりをもらってきたの。でも、男の子でも着れるように手直ししたのよ。いいでしょ?」
「いやだよ。ぼく、そんなの着ないよ」
「そう言わないで、ねえ、ちょっと袖に手を通してみて」
「いやだって言ったらイヤだもん!」
そう言い残すと、準は自分の部屋に行きました。あとであんなこと言わなければよかったと思いましたが、まだ謝っていないのです。
もう夜になりました。お母さんは昨日のことなんか気にしていないようです。準もいつも通りご飯を食べておふろに入って、あとは寝るだけになりました。でも、まだ大事なことが残っています。もう今更プレゼントを買いに行けません。準は、あることを思いつくと、それを実行に移すことにしました。
「お母さん」
お母さんが和室にいると、準が入ってきました。
「もう寝たんじゃないの…。あら、どうしたの、その格好」
準はなぜか裸にパンツ1枚です。朝なら準がこんな姿でうろうろしていたら、お母さんにも思い当たることがあるのですが、まだ寝る前です。
「パジャマあったでしょう?」
準はそれには返事をせずに、お母さんの前に正座をしました。
「母の日おめでとう」
お母さんは、思わず吹き出しそうになりました。誕生日ならともかく、母の日「おめでとう」は変です。でも、準はいたってまじめな顔をしているので、お母さんは黙っていました。
「だから、プレゼント…」
「……?」
準は何も持っていません。お母さんが不思議そうな顔をすると、準は続けて言いました。
「その、ぼくがプレゼントなの…。お母さん、ぼくに変わった服着せるのが好きだから、今日はつきあってあげようかと思って」
「えーっ、それじゃ私がいつも準ちゃんに変な格好させて喜んでるみたいじゃないの」
「えっ、違うの?」
「バカねえ、あなたがかわいく見える服を着せてるだけよ」
「そうなの?」
準がきょとんとしているので、お母さんは笑いました。
「ありがとう。気持ちだけでうれしいわ。さあ、もう遅いから、早く寝なさい」
「はーい」
準は部屋から出るときに、振り返って言いました。
「…昨日はごめんね。そして、いつもありがとう」
「いいわよ。今日はすてきなプレゼントをありがとう」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「準ちゃん」
準が戸を閉めて廊下に出ると、お母さんがもう一度呼びました。
「なぁに?」
準が部屋にはいると、お母さんが赤いリボンを持っています。
「せっかくのプレゼントだから、リボンでもかけたらいいかなあと思って…」
「お、お母さん?!」
「それと、ちょっとパンツ脱いで。かわいいのがあるのよ、花柄の…」
「だ、だめっ、パンツはプレゼントに入ってないの!。さっき、気持ちだけでいいって言ったじゃない」
「やっぱりせっかくの好意だから悪いかなと思って。ねえ、スカートはピンクと赤とどっちがいい?」
「ぼ、ぼくは着せ替え人形じゃないよー。おやすみ」
「ちゃんとパジャマ着て、おしっこして寝るのよ」
「はーい」
あわてて階段を駆け上がる準を、お母さんはにこにこしながら見ています。半分本気ではありましたが、もちろんちょっとからかってみたのです。お母さんの術中にまんまとはまってくれる、そんな素直な準でいてほしいと、お母さんは思いました。
準は全然気づいていないけど、お母さんにとってやっぱり一番のプレゼントは、準自身のようですね。 |