第37話:しりに火がつく話 「お、お母さん、ぼく大変なことしちゃった」
お母さんが夕食の後かたづけをしていると、準が蒼い顔でやってきました。
「どうしたの?」
「ストーブの前でおならしたの。ガス爆発したらどうしよう・・・」
「何言ってるのよ、大丈夫よそんなことぐらい」
「ほんと?」
「バカなこと言ってないで、宿題やりなさい。・・・そういえば、『4年生を振り返って』って作文、書いたの?」(注)
「まだだけど・・・」
「あさってまでに出さないといけないんでしょ。さあ、早く早く」
お母さんは、準のおしりをたたきました。
「お父さん、作文ってどう書いたらいいの?」
準は、居間でテレビを見ているお父さんに相談に来ました。
「準は作文苦手なのか?」
「うん・・・。真っ白な原稿用紙を見ていると、頭のなかが真っ白になるんだ」
「ハハハ。そういやお父さんも作文大嫌いだったな。あれって上手に書こうとするからいけないんだよ。思ったままを文章にしていけばいいんだ」
「そうなんだけど。でも、いつもあれを書こうかな、こんなこと書いちゃいけないなとか、考えてるうちに時間が経っちゃうんだ」
「おまえは何でもぎりぎりにならないとやらないからなあ。そんなことしてると、しりに火がつくぞ」
「えっ」
準はあわてておしりに手をやりました。
「ハハハハ。さあ、早くやりなさい」
「・・・うん」
準は仕方なく自分の部屋に戻りました。
準は、学習机に向かっています。机の上には原稿用紙を広げていますが、まだタイトルと名前しか書いていません。準は鉛筆の削ってない方を歯で噛みながら考えています。
・・・だいたい、4年生を振り返るなんておおざっぱな題で何を書けばいいんだろ。
準はあれこれ想い出していますが、それを上手く頭でまとめることができません。腕を頭のうしろに組んで、背もたれに寄りかかりました。
・・・そういやお父さん、おしりに火がつくって言ってたけど、ほんとかなあ。やっぱストーブの前でおならしたから。
ついよけいなことを考えてしまうのが準の悪い癖ですが、そうなると気になって作文どころではありません。でも、今度は頬杖をついてぼーっとしていると、だんだん眠くなってきました。
・・・まだ明日もあるし、ちょっとだけふとんに横になろうかな。うん、少しだけなら大丈夫。
準は作文よりも自分のおしりを心配しながら、つい眠ってしまいました。
朝です。準はお母さんといっしょにふとんを干しています。
「おや、朝からお手伝いか、偉いな」
会社へ出かけるお父さんが、準に言いました。
「・・・・・・」
「・・・あ、なんだ、おまえまたやったのか」
ふとんを見たお父さんが言いました。そこにはでっかいせかいちずが・・・。そう、準は夕べトイレに行かずに寝たので、おねしょをしてしまったのでした。
「・・・だって、おしりに火がつく夢を見ちゃったの。それで、おしっこで消そうと思ったんだもん」
「アハハハ。それで、上手く消せたのか?」
「それがその・・・。前は濡れるんだけど、おしりまでとどかなかった」
準は恥ずかしそうに、頭をかきかき言いました。
「そりゃ確かに無理だな。でも、面白い夢だな」
「面白くないよ。お父さんがおしりに火がつくって言うんだもの」
「それは事態がさし迫っていることのたとえ話だよ」
「そ、そうなの?」
「おまえ、知らなかったのか」
「・・・うん。ぼく心配で心配で」
「なんだ、だったら早く言えばいいのに」
「うん」
準はようやく安心しました。
「でもほんと、今夜はちゃんとやるのよ、作文」
お母さんが言いました。
「うーん」
「じゃあ、お父さんが書いてやるぞ」
「ほんと!」
「タイトルは、『今年一年のおねしょを振り返って』だ」
「ええーっ、そんなの恥ずかしくて学校に持っていけないよ」
準があわてて言いました。
「ハハハ。だったら自分でやりなさい」
「はあい」
準が渋々返事をすると、お父さんもお母さんも笑いました。準もえへへと笑います。ほんとにおしりに火がつかないように、今日こそはがんばるぞと、おしりをなでながら思う準くんでした。
注:以前から言っていますが、4月になっても準は4年生という設定は変えませんのでご心配なく。