スカートをはいた準(いいのか、こんな絵で(^^;)
初めて来られた方へ:この子は男の子ですので、念のため(^^;。

第36話:ひなまつり
 「準ちゃん、電話。みゆきお姉ちゃんからよ」
 準が学校から帰ってくると、お母さんが呼びました。
 ・・・なんだろ。
 「もしもし?」
 「あ、準ちゃん。いまからすぐにうちに来てね。どうせ暇なんでしょ」
 お姉ちゃんは用件だけ言うと、がちゃっと電話を切りました。
 ・・・もう、人の都合も訊かないで。
 でも、ほんとに暇だったので、準は出かけることにしました。

 「こんにちは」
 「あら、いらっしゃい」
 おばさんが笑顔で迎えてくれました。よかった、おじさんじゃなくてと思いましたが、よく考えたら平日だからいるはずがありません。
 居間に通されると、りっぱなひな人形が飾ってあります。男の子の準には関係ないので忘れていましたが、今日は3月3日、桃の節句です。お姉ちゃんは、準を見るなり言いました。
 「あ、来たのね。今日は友達が来てひな祭りパーティーをするのよ。人数が足りないから呼んであげたわ。まあ、枯れ木も山のにぎわいってやつね」
 「いいけど・・・ぼく、男の子だよ」
 「そういえばそうね。・・・そうだわ」
 お姉ちゃんは部屋を出ると、あるものを持って帰ってきました。
 「さあ、これに着替えて」
 見ると、ブラウスにピンクのセーター、それに赤いスカートです。
 「な、ななな・・・」
 準がうろたえると、お姉ちゃんはこともなげに言いました。
 「やっぱり男の子が参加するのはおかしいわ。これを着てればあんたでも女の子に見えるわよ。さあ、脱いで」
 ・・・だったら呼ばなくても。
 「ほら、ひなあられいっぱい食べれるわよ」
 「・・・・・・」
 「ノンアルコールだけど、白酒も飲み放題よ」
 「・・・うん」
 準はうっかりうなづいてしまいました。服を脱ぐと、ブラウスの袖に手を通しました。ボタンを留めるのにとまどっていると、お姉ちゃんが手伝ってくれました。ついでに、ズボンも脱がされました。
 「あんた、パンツの前が黄色いわよ」
 「へんなとこ見ないでよ・・・」
 とうとう準はスカートをはかされ、ピンクのセーターを着て、髪にリボンを結ばれました。
 「よかった、なんとか女の子に見えるわ。友達が来る前に、あんたの服は隠しておきましょう」
 お姉ちゃんは、準がいままで着ていた服を、どこかへ持っていきました。

 「ごめんください」
 「いらっしゃーい」
 みゆきお姉ちゃんの友達が2人来ました。おねえちゃんは、準に接するときとは全然違うやさしい声で、友達を出迎えました。お姉ちゃんは準の肩に手をやると、こう紹介しました。
 「ねえ、これが従妹の準子よ」
 ・・・じゅ、準子?!。
 「あら、かわいいー」
 そう言われたら、準も自己紹介しないわけにはいきません。
 「あの、ぼく・・・いてっ」
 準が自分のことを「ぼく」って言ったので、お姉ちゃんにおしりを思いっきりつねられました。
 「いえ、私が準・・・子よ。おほほほほ」

 居間にもどって、座卓のまわりに座るとき、準があぐらをかこうとするとお姉ちゃんのけりが入りました。
 「バカねえ、パンツ見えるでしょ」
 お姉ちゃんに耳打ちされて、準はあわてて正座に座り直しました。
 ・・・面倒だなあ、女の子なんて。
 そう思っても、もうやめるわけにはいきません。お姉ちゃんと友達は、楽しそうにおしゃべりしていますが、女の子の話題にはついていけません。準は曖昧な笑いを浮かべて、3人のにぎやかな話を聞いているしかありませんでした。

 「じゃあ、準子がみんなに踊りを見せたいって言ってるから」
 ・・・えっ、聞いてないよー、と言おうとしましたが、お姉ちゃんを見たらにらまれたのでやめました。
 「ぼく、踊りなんて知らないよ」
 そっと、お姉ちゃんにだけ聞こえるように言いました。
 「ほら、バナナンダンスがあったじゃない。あれを雛祭りの歌でやりなさい」
 「・・・・・・」
 友達の拍手喝采を浴びて、準は仕方なく立ち上がりました。
  ♪明かりをつけましょ 雪洞に お花をあげましょ 桃の花
    五人囃子の 笛太鼓 今日は楽しい 雛祭り
 「わーっ、準子ちゃんお上手」
 「かわいいー」
 「そ、そう?」
 誉められると、ついその気になってしまう準です。頼まれもしないのに、2番も歌って踊りました。

 「たのしかったー。またねー」
 「来てくれてありがとう」
 パーティーが終わり、友達が帰っていきました。結局準は、緊張していたのでひなあられも白酒も、ほとんど手をつけることができませんでした。
 「ねえ、お姉ちゃん、ぼくの服出してよ」
 準に言われて、お姉ちゃんは部屋を出ていきました。
 「お母さん、ここに置いておいた準ちゃんの洋服、知らない?」
 「えっ。あなた、洗濯物を入れるかごの上に置いたの?」
 「そうよ」
 おばさんは、あわてて洗濯機のなかをかき回しました。すると、びしょびしょになった準のシャツとズボンが出てきました。
 「あらあら、大変。間違えていっしょに洗っちゃったわ」
 「ええーっ」
 準は悲鳴を上げました。
 「仕方ないわね。・・・その服もう着れないから、あんたにあげるわ」
 「そうね、準ちゃんにぴったりね。かわいいわよ」
 「そ、そういう問題じゃなくて・・・」
 準は、さっきよりももっとうろたえました。
 「こんな格好じゃ、うち帰れないよ」
 準が半べそで言うと、おねえちゃんはあっさりと言いました。
 「大丈夫よ、夕方だから顔なんか見えやしないわ。私が送ってあげるから、陰に隠れて歩けばだれも気づかないわよ」
 「・・・・・・・」
 もううちに帰らないといけない時間は迫っています。準は仕方なく、お姉ちゃんと外に出ました。

 「何やってるの、早く歩きなさい」
 ・・・よく平気で歩けるなあ。
 外は木枯らしが吹いています。スカートがめくれるし、足にまとわりついて歩きにくいのです。準はよたよたと、お姉ちゃんのあとをついていきました。

 ようやくうちの前に来てほっとしたときです。お姉ちゃんが大きい声で言いました。
 「ほら、準ちゃん、誰にも見つからなかったでしょ」
 すると、ちょうど通りがかった隣のおばさんが言いました。
 「あら、どうしたの、かわいい格好して」
 「お、おねえちゃんのばかー」
 準は顔を真っ赤にして、お姉ちゃんをそこに残したまま、家に駆け込んだのでした。 

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