2月14日はバレンタインデーです。
準のクラスでも、一部のおませな女の子たちが、前から準備をしたり、ひそひそとうわさをしたりしていました。何にしても、女の子はずっと早熟なのです。
準は、別に好きな子なんていません。それはこれからずっと女の子に興味ないというのではなく、異性を意識するにはまだ幼すぎるというだけです。成長の遅い男の子のなかでも、準はおくての方に入るみたいです。
それでも、まわりが騒がしいと、やはり気になってしまいます。ルックスがかっこいい子、スポーツ万能な子、それに、昔は敬遠された勉強ができる子なんかも、女の子に人気があります。そういう男の子は、何人かの女の子から、チョコレートをもらっています。しかし、残念ながら準はどれにも当てはまりません。一応机についてまわりをうかがってみますが、誰も準のところに来る気配はありません。とうとう、放課後まで、準はひとつもチョコレートをもらえませんでした。
帰り際、準はそっと自分の下駄箱を覗いてみました。でも、入っているのは準の靴だけです。ちょっとドキドキしていた自分が情けなくて、準はため息をつきました。
うちに帰ると、お母さんはいませんでした。準は考えた末、あるところに電話をかけました。
「・・・もしもし、ぼく、準です」
「あら、準くんどうしたの?」
「みゆきお姉ちゃんいますか?」
「いるわよ、ちょっと待ってね。・・・みゆき、準くんから電話よーっ」
あのお正月に遊ばれた・・・いや、遊んでもらったみゆきお姉ちゃんに電話をかけたのです。
「何?」
「あの・・・。今日はバレンタインデーだよねえ」
「そうよ」
「女の子が男の子にチョコレートくれる日だよねえ」
「あんた男の子だったの?」
「・・・うっ」
「バカねえ、バレンタインって好きな男の子にチョコレートをあげる日なのよ。あんたはどうせチョコレートが食べたいだけなんでしょ」
「・・・ぎくっ」
「あんたが私の理想の男の子になったらチョコレートあげるわ。じゃあね」
そう言うと、お姉ちゃんは電話を切りました。さすが準の魂胆はすべてお見通しです。やっぱり電話しなきゃよかったと、準は後悔しました。
「ただいま」
「おかえりなさい」
夜です。お父さんが帰ってきたので、準は玄関にお出迎えです。
「ほら、チョコレートいっぱいもらったぞ」
お父さんは、準にリボンのかかった箱をいくつか見せました。
「へえっ、いいなあ」
「まあ、全部義理チョコだけどな」
「義理チョコって?」
「日頃お世話になっていますって、まあ挨拶みたいなものだ」
「ふうん」
「でも、はっきり『義理』なんて言われたら興ざめだよな。そりゃそうかもしれないけど、失礼だよな、『義理』なんて言い方。ウソでも、『愛してます』って言って欲しいなあ・・・あ、今のはお母さんには内緒だぞ」
「うん」
「で、準ももらったのか?」
「・・・ううん」
「まあ、まだ4年生だもんな」
「でも、いっぱいもらった子もいるんだ。ぼくはひとつももらえなかったけど。ぼく、やっぱり人気ないんだなあ・・・」
「そうか・・・。そりゃあ確かに、チョコレートいっぱいもらう子は人気者かもしれないけど、準には準のいいところがいっぱいあるぞ」
「ほんと?」
「ああ。だから、そのままの準でいたら、いつかきっと準のことをわかってくれる人が現れると思うけどな」
「・・・うん」
「よし。じゃあお父さんのチョコレート、半分分けてやろう」
「わあい。やったやったーっ」
準って、意外と自意識過剰だったりするのです。だから、お父さんに言われて安心したみたいです。
・・・でも、みゆきお姉ちゃんが指摘したように、ただ単にチョコレートが欲しかったというのもあるみたいではありますが。結局、この日はもう遅いからと、チョコレートはお母さんにお預けとなり、やっぱりチョコレートを口にすることのないバレンタインデーになってしまったのでした。
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