雪うさぎ
第30話:雪うさぎ
 ・・・明日はこの低気圧が発達しながら東の海上に抜け、西高東低の冬型の気圧配置になるでしょう。そのため、日本海側は大雪の警戒が必要です・・・

 「うーん、明日はこっちの方も雪かな」
 天気予報を見ながら、お父さんが言いました。
 「積もるの?」
 準が身を乗り出して、お父さんに訊きました。
 「そうかもな」
 「やったーっ。ぼく、かまくらと雪だるまつくって、うちで『札幌雪祭り』やるんだ」
 「いっぱい降るといいな」
 「うん!」
 準の住む地方は、あまり雪が降りません。積もっても、年に1、2回くらいなのです。だから、雪が積もると聞くととてもうれしくなってしまいます。準は、ワクワクしながら眠りにつきました。

 翌朝、準は起きるとすぐ、カーテンを開けて外を見ました。
 「・・・なんだ、これっぽっちか」
 確かに雪は降ってますが、およそ「積もってる」とは言い難いくらいの、なんか粉砂糖をまぶした程度に地面が白くなっています。これではかまくらはおろか、雪だるまさえできそうもありません。
 「つまんないの・・・」
 そう言いながらも、準は着替えると庭に出ました。庭木に積もってる雪をかき集めてうちに入り、お皿に盛って砂糖をかけました。
 「えへへ。かき氷、いっただっきまーす」
 「もう・・・。そんなの食べてると、おなかこわすわよ」
 お母さんが、ちょっとあきれて言いました。

 「そうだ」
 食べ終わると、準はもう一度庭に出て雪を集めはじめました。小さなお盆に雪を盛り、形を整えます。そして赤い万両の実を入れ、細長い葉っぱを立てました。
 「できた」
 準は早速お母さんに見せました。
 「ほら、雪うさぎだよ」
 「あら、上手にできたわねえ」
 「うん!」
 なかなかの力作で、生きていて今にも動き出しそうに見えます。
 「うふふ。かわいいなあ」
 準は飽きもせずに、いつまでも雪うさぎを見ていました。


 「準くん。準くん」
 その晩、準が寝ていると、誰かが呼ぶ声がします。
 「・・・だれ?」
 準はおそるおそる眼を開けると、電気をつけました。見ると、大きくなった雪うさぎが部屋にいました。
 「準くん、ぼくをつくってくれてありがとう」
 雪うさぎは言いました。
 「わあ、遊びに来てくれたの。・・・ねえ、背中に乗ってみてもいいでしょ?」
 「あっ、だめだよ。ぼくに乗ったら、おしりがびしょびしょになっちゃうよ。そうしたら・・・」
 「そ、そうだよね」
 準はあわててやめました。
 「ぼくは、もう溶けかけてるんだ」
 「えっ、溶けちゃうの?」
 「うん」
 「せっかく友達になれると思ってたのに・・・」
 「しょうがないよ。ぼくは冷たい世界に住んでるんだ。準くんは、ほら、温かいでしょ」
 準は、自分の右手で、自分の左手を握りしめました。そして、自分の温もりを感じて、こくりとうなづきました。
 「だから、いつまでもいっしょにいることはできないんだ。でも、かわいがってくれてとてもうれしかったよ。さようなら」
 そう言うと、雪うさぎの姿は見えなくなりました。

 「・・・ん、うーん」
 朝です。準は目を覚ましました。頭がはっきりしてくるにしたがって、夕べのことを想い出しました。
 「なんだ、夢だったのか・・・。あっ、そうだ」
 準はあわてて飛び起きると、床の間に置いておいた雪うさぎを見に行きました。雪うさぎは溶けてしまっていて、葉っぱが二枚と、赤い万両の実が二つ、水に浮かんでいました。
 「・・・溶けちゃったのね」
 お母さんが、後ろから準に言いました。
 「・・・うん」
 準は涙を拭くと、振り返ってお母さんに言いました。
 ・・・また、雪が降ったら遊ぼうね。
 準は、雪うさぎの姿を想い出しながら、そっと心のなかでつぶやきました。

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