・・・明日はこの低気圧が発達しながら東の海上に抜け、西高東低の冬型の気圧配置になるでしょう。そのため、日本海側は大雪の警戒が必要です・・・
「うーん、明日はこっちの方も雪かな」
天気予報を見ながら、お父さんが言いました。
「積もるの?」
準が身を乗り出して、お父さんに訊きました。
「そうかもな」
「やったーっ。ぼく、かまくらと雪だるまつくって、うちで『札幌雪祭り』やるんだ」
「いっぱい降るといいな」
「うん!」
準の住む地方は、あまり雪が降りません。積もっても、年に1、2回くらいなのです。だから、雪が積もると聞くととてもうれしくなってしまいます。準は、ワクワクしながら眠りにつきました。
翌朝、準は起きるとすぐ、カーテンを開けて外を見ました。
「・・・なんだ、これっぽっちか」
確かに雪は降ってますが、およそ「積もってる」とは言い難いくらいの、なんか粉砂糖をまぶした程度に地面が白くなっています。これではかまくらはおろか、雪だるまさえできそうもありません。
「つまんないの・・・」
そう言いながらも、準は着替えると庭に出ました。庭木に積もってる雪をかき集めてうちに入り、お皿に盛って砂糖をかけました。
「えへへ。かき氷、いっただっきまーす」
「もう・・・。そんなの食べてると、おなかこわすわよ」
お母さんが、ちょっとあきれて言いました。
「そうだ」
食べ終わると、準はもう一度庭に出て雪を集めはじめました。小さなお盆に雪を盛り、形を整えます。そして赤い万両の実を入れ、細長い葉っぱを立てました。
「できた」
準は早速お母さんに見せました。
「ほら、雪うさぎだよ」
「あら、上手にできたわねえ」
「うん!」
なかなかの力作で、生きていて今にも動き出しそうに見えます。
「うふふ。かわいいなあ」
準は飽きもせずに、いつまでも雪うさぎを見ていました。
「準くん。準くん」
その晩、準が寝ていると、誰かが呼ぶ声がします。
「・・・だれ?」
準はおそるおそる眼を開けると、電気をつけました。見ると、大きくなった雪うさぎが部屋にいました。
「準くん、ぼくをつくってくれてありがとう」
雪うさぎは言いました。
「わあ、遊びに来てくれたの。・・・ねえ、背中に乗ってみてもいいでしょ?」
「あっ、だめだよ。ぼくに乗ったら、おしりがびしょびしょになっちゃうよ。そうしたら・・・」
「そ、そうだよね」
準はあわててやめました。
「ぼくは、もう溶けかけてるんだ」
「えっ、溶けちゃうの?」
「うん」
「せっかく友達になれると思ってたのに・・・」
「しょうがないよ。ぼくは冷たい世界に住んでるんだ。準くんは、ほら、温かいでしょ」
準は、自分の右手で、自分の左手を握りしめました。そして、自分の温もりを感じて、こくりとうなづきました。
「だから、いつまでもいっしょにいることはできないんだ。でも、かわいがってくれてとてもうれしかったよ。さようなら」
そう言うと、雪うさぎの姿は見えなくなりました。
「・・・ん、うーん」
朝です。準は目を覚ましました。頭がはっきりしてくるにしたがって、夕べのことを想い出しました。
「なんだ、夢だったのか・・・。あっ、そうだ」
準はあわてて飛び起きると、床の間に置いておいた雪うさぎを見に行きました。雪うさぎは溶けてしまっていて、葉っぱが二枚と、赤い万両の実が二つ、水に浮かんでいました。
「・・・溶けちゃったのね」
お母さんが、後ろから準に言いました。
「・・・うん」
準は涙を拭くと、振り返ってお母さんに言いました。
・・・また、雪が降ったら遊ぼうね。
準は、雪うさぎの姿を想い出しながら、そっと心のなかでつぶやきました。 |