「準ちゃん」
準がこたつに入っていると、お母さんが呼びました。今年ももう今日限り、つまり、大晦日です。
「なあに」
「みかんにマジックで顔描いたのはあなたでしょ」
「どうしてわかったの?」
「そんなことするの、あなたしかいないでしょ。暇だったら、お掃除手伝ってよ」
「別に暇じゃないけど。ほら、これもやらないといけないし」
準は、エアキャップ(壊れ物を保護するための空気を封じ込めたビニールシート。指先でつぶして暇つぶしするもの)を見せて言いました。
「年末の忙しいときに、何やってるのよ。さあ、自分の部屋くらい掃除しなさい」
「ええーっ。でも、どうせまた散らかるし・・・」
「ちゃんと掃除しないと、お正月は来ないわよ」
「うそだあ」
「そうだぞ、準」
お父さんが口を挟みました。
「それに、親の言うことを聞かないと、夜『なまはげ』が来るぞ」
「それって北の方の話でしょ。うちの方までは来ないもん」
「バカだなあ。最近じゃ秋田新幹線が開通したから、全国に出張するようになったんだぞ」
「・・・そ、そうなの?」
「怖くて、夜ひとりでトイレに行けなくなっても知らないぞ」
「・・・ぼ、ぼく掃除してこようっと」
準はあわててこたつを出ると、自分の部屋に行きました。
「掃除終わったよ」
15分ほどして、準はお母さんに報告に来ました。
「早いわね。・・・ちょっと見せてごらんなさい」
お母さんが準の部屋に行くと、きれいに片づいています。でも、押入れの戸を開けると、なかに教科書やおもちゃが乱雑に放り込んでありました。
「エヘヘヘ、ばれた?」
「あなたのやることくらい、すぐわかるわよ。まあ、いいわ。そのかわり、窓を拭いてちょうだい」
「うん、いいよ」
準はお母さんからボロぎれをもらうと、ガラスにはーっ、と息を吹きかけて窓を拭きました。でも、それよりも曇ったところに絵を描くのが面白く、つい夢中になってると、後ろからお母さんが言いました。
「だめよ、そんなのじゃ。ほら、これで拭きなさい」
お母さんは、ガラスクリーナーを渡しました。準は、しゅっ、しゅっとスプレーを吹くのが水鉄砲みたいで面白く、2階の外側以外は全部ひとりで拭きました。
「終わったよ」
「じゃあ、次はお風呂。終わったらトイレね」
「えーっ」
「掃除しておかないと、お正月が来なくて『なまはげ』が来るわよ」
「・・・はあい」
準はしぶしぶ承知しましたが、やってみると結構面白く、はりきって掃除を済ませました。
「ご苦労さん、これで正月を迎えられるわ」
「うん!」
「ねえ、今晩ずっと起きてていい?」
夕食のとき、準が言いました。
「ぼく、年が変わる瞬間って見てみたいんだ。どんなことが起きるのかなあと思って」
「ハハハ、別に普通通りなんだけどな。でも、何も起きないことを自分の目で確認するのもいいかもな」
お父さんが言いました。
「そうね。準ももう大きいし、今晩くらいは夜更かししてもいいわよ」
「わあい。やったーっ」
お母さんの許可も出たので、準は大喜びです。
大晦日の夜は、多くの家がそうであるように、準の家でもテレビを見て過ごします。準はいつもは寝る時間になっても、やや興奮気味に、笑ったりしゃべったりしていました。
「おや、準のやつ静かになったな」
お父さんが言いました。もうテレビで「行く年来る年」が始まった頃です。
「それが、寝ちゃったみたい」
お母さんが言いました。準はこたつに横になって、いつの間にか眠ってしまったのです。
「起こさないと、明日の朝『どうして起こしてくれなかったの』って文句言うぞ」
「そうねえ。・・・準、ほら、起きなさい」
「うーん・・・」
「・・・だめみたい」
「昼間、はりきりすぎたんだな」
「あとで、トイレに行かせて寝せるわ」
お母さんはそう言って、準に毛布を掛けてやりました。
こうして、準はすやすやと眠ったまま年を越しました。みなさんはどのように新しい年を迎えますか?。
今年一年、ぼくのことをかわいがってくれてありがとう。来年もどうかもどうかよろしくおねがいします。
それではよいお年を 準
3月21日に開設して以来、のべ七千数百人のみなさんがお越しになりました。ほんとに地味なHPにこんなにも来ていただいたことに、深く感謝します。そして、伝言板にたくさん書き込んでいただいてありがとうございました。いただいた感想が、次の作品をつくろうという原動力になったのは言うまでもありません。これからも、拙い絵と文章ですが、準の気持ちになって、ふと子どものころのことを想い出していただけるような作品をつくっていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。
2000年がみなさんにとってすばらしい年でありますよう、心からお祈り申し上げます。
遊来星図書室 作者兼図書係 Meteor ☆/
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