レオニズよ永遠なれ
第26話:レオニズよ永遠なれ
 準は目覚まし時計のベルの音で目を覚ましました。
 時間は午前3時過ぎです。今日、去年と同じようにしし座流星群の活動が活発になり、たくさんの流れ星が見えるかもしれないというので、準は期待して待っていたのです。去年は曇っていて少ししか見えなかったので、今年こそはと楽しみにしていたのですが・・・。
 去年の今頃は、準はお父さんの車の後部座席で、ほうき星に乗る夢を見ていたはずです。しかし、今年は自分のふとんのなかで目を覚ましました。実は天気が非常に悪く、夕べ寝る前から空一面雲に覆われている状態でした。もし少しでも希望があればどこか流れ星が見やすいところへ移動するつもりだったのですが、天気の回復が見込めないので、家で待つことにしたのです。

 「どう、見えそう?」
 準は一応お父さんに訊きました。
 「おや、起きたのか。・・・やっぱりだめだ、雨が降ってる」
 「ええっ、そんな」
 準は窓を開けて外を見ました。アスファルトが濡れて街灯の光を反射しています。空は雲の切れ間すらなく、流れ星のかわりに静かに雨を降らせています。
 「あーあ、楽しみにしていたのに・・・」
 去年は今年があるからと希望が持てたのですが、あとがない今回はそれだけに落胆も大きく、なかなかあきらめがつきません。準は涙を浮かべて星一つ見えない夜空をいつまでも見ています。
 「しょうがないよ。人間どんなにがんばっても、どうしようもないことの方が多いんだから」
 「・・・うん」
 準は、何となくわかるような気がしました。

 「そういえば準、この日に備えててるてる坊主つくるって言ってたじゃないか。どうしてつくらなかったの?」
 お父さんが準に訊きました。
 「だって、もう天気予報で雨だって言ってたでしょ。それなのに無理な期待をしたら、てるてる坊主に悪いじゃない。自分の責任で雨降らしちゃったと思ったらかわいそうだもん。誰だって失敗したくないし」
 「へえ、準は優しいんだな」
 「・・・そうでもないけど」
 準はまだまだ幼いところが多いけど、時々ふと大人びたことを言うことがあります。お父さんはまた息子の成長を確認することができました。

 「今日は学校だろ、もう少し寝てた方がいいぞ」
 いつまでも起きている準に、お父さんが声をかけました。
 「うん・・・でも、もし晴れたらすぐに起こしてね」
 「もちろんだよ。だから安心してお休み」
 「ねえ、次は33年後だよねえ」
 ふとんに横になると、準はお父さんに訊きました。去年知らないおじさんから聞いた話を思い出したのです。
 「そうだなあ」
 実は、もしかしたら軌道が変わって、次は期待薄じゃないかという予測もあるのですが、お父さんは黙っていました。
 「今度こそ見たいな、流星雨。そのときもまた一緒に見ようね、お父さん」
 「ああ、そうだな」
 そのときは準、おまえがおまえの息子を連れていってやるといいよと、お父さんは言いかけてやめました。33年後、準が、お父さんが、いやすべてのものがどうなっているか誰にもわかりません。テンペル=タットル彗星がまた還ってくるころ、昔想い描いた幸せな未来が、準たちに待っていて欲しいと願うお父さんでした。

  注:レオニズ(Leonids)=しし座流星群のこと

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