押入れに隠そうとする準

第25話:隠蔽工作

 彼は苦悩していた。
 「大変なことをしてしまった。もしこの事実が白日の下に晒されたら、私の名誉は傷ついてしまう。何とか証拠物件を隠滅したいが、時間がなさ過ぎる・・・」

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 準はふとんのなかにいます。時間は朝の6時45分、7時になったら起きなければいけません。いつもはぎりぎりまで寝てるのに、今朝はちょっと早く目が覚めたのです。そのわけは・・・。
 ・・・パンツはおろか、パジャマもぐっしょりだ。ふとんもだいぶ濡れてるなあ。あと15分、どうしよう。
 そうです、準はまたおねしょをしてしまったのです。いつもというわけではないのですが、水を飲みすぎたときやトイレに行けなかったとき、疲れてぐっすり眠ったときにやってしまうことがたまにあるのです。
 ところが、実は昨日も蛍くんとおねしょをする夢を見てしてしまってるので、珍しくなぜか2連発になったのです。
 ・・・おかしいな、夕べはちゃんとおしっこして寝たのに。ジュースも寝る前は飲んでないよ。
 いぶかしがる準ですが、逆に緊張してやってしまうということもあるのです。
 ・・・お母さんに言おうかな。でも、2日続けてって恥ずかしいな。
 別におねしょで叱られたりはしないのですが、準にも4年生としてのプライドがあります。知られずにすむのならそれに越したことはありません。
 「っくしょん!」
 準はくしゃみをしました。もうとっくに冷え切っているし、濡れてるのって気持ち悪いし、何よりも時間がありません。準は思い切ってふとんから出ました。
 ・・・とりあえず押入れに隠そう。
 準はパジャマのズボンとパンツを脱ぐと、ふとんをたたみました。そして、押すように押入れに持っていくと下段に押し込みました。そのとき、お母さんが呼ぶ声が・・・。
 「準ちゃん、朝ですよ起きなさい。早くしないと学校遅れるわよ」
 ・・・や、やばい。
 準はパジャマやパンツも押入れに放り込むと、あわてて制服に着替えました。

 「お、おはよう」
 「あら、今朝は先に着替えたの」
 以前ここで白状してしまったので、準は努めて平静を装って言いました。
 「きょ、今日は先に支度しようと思って。いつもぎりぎりだから・・・」
 「そう、偉いのねえ」
 「い、いやそれほどでも」
 いつもはお母さんにほめられると素直にうれしいのですが、いまだけはかえって困ってしまいます。自己嫌悪を覚えますが、こうなったら隠し通すしかありません。
 準は朝ご飯もそこそこに、押入れに隠したおねしょぶとんを気にしながら学校に出発しました。

 学校に着いても、準は気が気ではありません。
 ・・・今頃、お母さんに見つかってたりして。帰ったらうんと叱られるかなあ。
 そんな状態なので、授業は上の空です。社会の時間、先生が黒板に地図を書いたのですが、それがあまりにも不格好なので誰かが言いました。
 「まるでおねしょのシミみたい」
 ・・・どきっ。
 おねしょという言葉とまわりが笑ってるので、準は一瞬自分のことを言われたのかとびっくりしました。そうじゃないとわかっても、みんなと一緒に笑うことはできません。
 ・・・クラスのなかで、今朝おねしょしちゃったのぼくだけなのかなあ。
 とても憂鬱な準くんです。

 ようやく学校が終わって、準は家路につきました。でも、今日はとても帰りにくいのです。家が見えてきて、準は表の方に自分のふとんが干されてないのを確認してちょっとほっとしました。でも、と言うことは、いまから自分で後始末しないといけません。ふとんを気づかれずに乾かす方法なんて、準は知りません。
 「・・・ただいま」
 「おかえりー」
 ・・・よかった、怒ってないみたい。
 いつもと変わらないお母さんの声に、準は少し安心しました。
 「おやつはケーキをいただいたからそれを食べて」
 いつもはやったやったーっ、って喜ぶところですが、今日は優しくされるとつらいのです。準がケーキにフォークを入れたとき、お母さんが言いました。
 「ねえ準、おね・・・」
 ・・・ぎくっ。
 「・・・お願いがあるんだけど」
 ・・・なんだ「おね」がいか。びっくりしたなあ。
 「今日牛乳買い忘れちゃったの、あとでお使いに行ってくれない?」
 「・・・う、うん」
 「それからねえ、おね・・・」
 ・・・うっ
 「・・・お姉ちゃんがまたおさがりくれるって」
 「そ、そうなの。は、はは、ははは」
 せっかくのケーキだったのに、食べた気がしないうちに終わってしまいました。準が2階の自分の部屋に行こうとしたとき、お母さんが呼び止めました。
 「準、なにか言うことがあるんじゃないの?」
 「え?、いや、あの、その・・・」
 「おねしょしたらちゃんと言わないとだめでしょう。今晩どこで寝るつもりだったの」
 「・・・どうしてわかったの?」
 「朝あなたの様子がおかしかったので、すぐピンときたわ。それであれからすぐに押入れを開けてみたのよ」
 「・・・・・・」
 「あれじゃあ『ぼくはおねしょしました』って言ってるようなものよ。準もまだまだおしりが青いわねえ。隠すのはお母さんの目がごまかせるようになってからにしなさい」
 「・・・・・・」
 「それよりも、あんた気が小さいから、今日一日見つからないかドキドキしてたんでしょ?。素直に言えばいいのに。準の汚れ物なら、何でも洗濯してあげるわ。バカねえ、ほんと」
 お母さんはそう言うと、準のおでこをぽんとたたきました。お母さんにとって準のやることくらい、まだまだすべてお見通しなのです。
 「・・・ごめんなさい」
 「でも、今度隠してたら洗濯しないからね。パンツ足りなくなったら女の子の買ってきてはかせようかな」
 「そ、それはかんべんして」
 「ふふふ、冗談よ。じゃあ今日の罰としてふとん取りこんどいてね。見えないように裏の方に干したけど、もう乾いたでしょう」
 「はーい」
 準はようやく胸のつっかえが取れて気持ちが楽になりました。準はつっかけをはくと、ふかふかに乾いた自分のふとんを入れに、庭にかけ出していきました。

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